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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第193話「足踏みする者達」

 
前書き
未だにサーラについて秘密にしている帝。
……本人も作者も暴露するタイミングを完全に逃しています(´・ω・`)
 

 






       =out side=





「震源地は!?」

「分かりません!」

「ならば被害は!?」

「ッ……!?建物の倒壊、及び津波の心配ありません!」

「馬鹿な!?あれほどの衝撃だぞ!?」

 まさに阿鼻叫喚、と言った様子だった。
 魔法文化が発展していなかった事もあり、地球のどの機関でも、二度起こった揺れに関する情報を探る事が出来ずにいた。
 いくら魔法や霊術の存在が判明しても、時空間の異常など知る術などないからだ。
 ……尤も、優輝達すらも“揺れ”自体が何なのかはわかっていないのだが。







「……これでもない。これも……違う」

 所変わって、時空管理局本局の無限書庫。
 その中で、クロノと同行していたユーノは情報を探っていた。
 二度の揺れがあったため、ユーノだけ本局に残ったのだ。
 次元航行部隊の本部とされる本局でも、二度の揺れは観測されている。
 既にその事は知れ渡り、次元震とはまた違う空間の揺れとして、警戒されていた。

「やっぱり、今までのどの事例とも一致しない……」

 持ち前の調査能力で、ユーノは情報を集める。
 しかし、揺れと一致する情報はなかなか見つからなかった。

「……これは、一朝一夕じゃ終わらないぞ……」

 ユーノの調査能力を以ってしても、情報が掠りもしない。
 その事から、長丁場になりそうだと、ユーノは気を引き締めた。


「(……出来れば、応援を呼びたいかな)」

 なお、さすがに一人で調べるには膨大な情報量なため、助力が欲しいユーノだった。









「どどど、どうしよう!?さっきの揺れで、大門が!」

「開きかけているのか!?閂のあんたでも何とかならないのか!?」

「なってたらどうにかしてるよ!何とかしたい……でも、出来ないの!」

 そして、幽世でも。
 二度目の揺れにより、異常事態は佳境に入っていた。

「ちっ……せめて瘴気は現世に出さないように!」

「分かってる。もう術式は設置してあるよ!緋雪ちゃん!」

「は、はい!」

「皆の避難と、一時的な瘴気の破壊、頼んだよ」

「分かりました!」

 “幽世の大門が再び開きかけている”。そんな事態が幽世で確認された。
 幸い、現世では確認が出来る者達は大門近くにいないため、まだ気づかれていない。
 否、気づいていた方が協力し合えたかもしれない。
 だが、今はそれよりも幽世で何とか出来ないものかと、とこよ達は奔走していた。

「紫陽ちゃん、均衡とかはどうなってるの?」

「……一切、崩れる様子はないね。不気味なぐらい安定している。あれ程の揺れと、大門が開きそうな事態だと言うのに」

 とこよは大門に掛かり切りとなり、紫陽が幽世全体をなるべく把握する。
 その中で、現世との均衡も調べたが、一切異常が見られなかった。
 ……尤も、それ自体が何よりも異常なのだが。

「……ただの揺れじゃない。……でも、ただ空間に干渉したのなら、これぐらいでは済まないはず……だとしたら……」

 とこよが瘴気を抑える術式を行使しながら思考を巡らす。

「……時間?いや、さすがに……」

 ふと、時間に干渉したのではないのかと、とこよは考える。
 すぐに違うだろうと思って否定しようとするが、一度浮かんだその考えは、なかなか頭から離れる事はなかった。

「『……緋雪ちゃん。魔法で時間に干渉する事って、出来る?』」

『魔法で……ですか?』

 伝心を使って、とこよは緋雪に尋ねる。

『……私の知る限り、魔法では無理です。ただ、別の方法なら出来ると思います』

「『そうなの?』」

『はい。……実際、私も巻き添えとはいえ未来から過去へ行きましたから』

 それは、緋雪の生前の時。
 優輝達は一年前の時間にタイムスリップしていた。
 そのことから、時間干渉をする方法はあると、緋雪は言った。

「『時間干渉が可能……もしかして、さっきの揺れって……』」

『とこよさん?もしかして……』

 とこよの伝心から伝わる呟きに、緋雪は不安になる。

「『ううん、例え時間干渉でも、境界が薄れた影響は出るはず。そもそも、境界は空間干渉でないと意味がない。じゃあ、あの揺れって……?』」

『とこよさん!』

「『っ、ご、ごめん。考え事が漏れてた……』」

 緋雪の一喝により、とこよは一旦思考を中断する。

「『瘴気と妖を抑えるのは任せて。避難先は式姫の皆が集まってる場所でお願い』」

『わかりました!』

 式姫がいれば、瘴気も妖も大丈夫だろうと、とこよは考える。
 現世と違い、幽世にいる式姫達は皆全盛期の力ままで、数も段違いだ。
 流れ着いた者たち程度の数なら、普通に守り通せるだろう。
 また、管理局員もいるため、流れ着いた者たちもまったくの無力ではない。

「(……揺れが原因で境界がさらに薄れたのは事実。でも、境界が薄くなっていたのは揺れが起きる前から……。大門を無理矢理開いた……ロストロギアだっけ?それが原因だと思うけど……)」

 瘴気を抑える術式を行使しながら、とこよは思考を続ける。

「(……ううん、この際、そっちはいい。今重要なのは、揺れの影響で何が起きたか、揺れが一体何なのか、と言う事)」

 何かが引っかかるような感覚で、とこよは揺れに関して考察する。

「(例え、時間でも空間でも、干渉したらその影響はもっと広い。表裏一体の世界の均衡を保ったまま、境界を薄くするなんて……どちらでも不可能なはず)」

 そもそも、世界の境界に干渉しておきながら、それ以外には影響を出さない事自体が、今回の現象の異常さを際立たせている。
 それに関しては、とこよ達だけじゃなく、優輝達やジェイルも気づいていた。
 そんな異常さだからこそ、とこよは無視する事が出来なかった。

「……ッ―――!ぁ……もしかし、て……」

 その時、ふと、一つの考えがとこよの脳裏を過った。
 それは、あまりにも規模が大きい事。
 幽世と現世だけじゃなく、全世界をも巻き込むような、突拍子もない考えだった。

「……空間どころか、“世界そのもの”に干渉、した……?」

 すなわち、干渉したのは時間や空間どころではなく、世界そのものだと。
 物理的な揺れでも、空間的な揺れでもなく、世界そのものが揺れたのだと。
 ……確証はないものの、とこよはそう考えた。……考えてしまった。

「―――ッ―――!?」

 もし、そうなら。
 そうだとするのなら。
 ……思考は、深みへと陥る。より、最悪な方向へと。

「(根拠なんてない。でも、もし、本当にそうだとするなら……!)」

 浮かぶその考えを、とこよは頭を振って必死に振り払う。
 まだそうだと決まった訳じゃないと、ただの憶測でしかないと、自分に言い聞かせて。

「(でも、辻褄が合う。むしろ、それ以外に思いつかないだけだけど……)」

 世界そのものに干渉しているのであれば、本来の法則から外れてもおかしくはない。
 むしろ、法則を外す事含めて干渉と言えるだろう。
 実際、とこよからすれば、幽世と現世の均衡を崩さずに境界を薄くする方法など、世界そのものへ干渉する以外に方法がない。

「(……正直、信じられないし、信じたくない。……でも、もしそうだとするのなら、私達だけじゃ手に負えないかもしれない)」

 根拠がないため、信じたくない気持ちが強いとこよ。
 だが、辻褄は合うため、“もしかすると”と考えて警戒する事にする。
 そして、その推測が当たっていた場合、自分達では対処しきれない考えた。

「(……推測の段階で、現世の人達に知らせる?……ううん、それだと無用な混乱も招いてしまう。いや、むしろ伝えていない方が右往左往して対処できるものも対処できないかもしれない。……どうすれば……)」

 あれでもない、これでもないと、とこよは思考を巡らせる。
 曖昧な情報を伝えるべきかと、彼女は悩み続けた。





「………」

 一方で、緋雪も悩んでいた。
 何かが起きている。だというのに、自分に出来る事がほとんどないからだ。
 強くなって、自身の体とも向かい合えるようになった。しかし、今はそんな強さだけではどうしようもない事態が起きている。
 その事が悔しくて、何か出来ないのか悩んでいたのだ。

「(……どうしよう、かな)」

 既に、とこよに言われた皆の避難は終わっている。
 他の式姫達が手伝ってくれたため、あっさりと終わったのだ。

「(現世との境界をどうにかする術を私は持ち合わせていない。だから、手伝える事なんてたかが知れている。……でも、何かしたい)」

 何も出来ないままでいられない。
 そんな我儘にも似た想いで、何か出来ないかと悩んでいた。

「……どうしたんだ?」

「……ティーダさん?」

 そこへ、ティーダが話しかけてくる。
 大門を閉じた後に流れ着いた者で、緋雪が初めて見つけた事もあって、彼と緋雪は他の流れ着いた者よりも交流が多かった。
 ティーダにとっても、緋雪は優輝の妹だという事もあって、接しやすかった。
 ちなみに、流れ着いた管理局員に、緋雪の知り合いはいなかった。
 その事に関して、緋雪は知り合いがいなかった事に寂しく思いつつも、知り合いが死んだ訳ではない事に安堵していた。

「……私に出来る事が、あまりなくて……」

「……流れ着いて、促されるままになっている俺達よりはマシだと思うが……」

「あー、えっと、そうなんですけどね……」

 それとこれとは別ではあるが、そんな回答をされて、緋雪は気まずくなる。

「大方、二度起きた揺れに対する事だろう。俺も管理局員として働いてきて、初めての経験だ。次元震でもないし、対処法も思いつかん。そもそも正体が分からないしな」

「……はい。何とかしようにも、私は基本的に破壊しか出来ないので……」

「君ほどの強さがあるなら、十分だと思うんだけどな……」

 ティーダにとって、緋雪の強さは羨むぐらいだった。
 その事に僅かながらの嫉妬を覚えつつも、真摯に緋雪の悩みを聞く。

「とこよさんも、紫陽さんもどうにかしようと頑張ってるのに、私は言われた事を手伝うぐらいしか出来ませんし……」

「何も出来ない俺達よりはマシだって」

「う……」

 緋雪は皮肉を言われた気分になって言葉を詰まらせた。
 なお、ティーダにそのつもりはない。

「まぁ、“自分も何かしたい”と思うのは悪い事じゃない。気持ちも分からない訳でもないしな。……と言うより、俺も同じだからな」

「ティーダさんも……?」

 自分も同じだと言われて、緋雪はどういう事なのかと聞き返す。

「君はここに慣れたから大丈夫だろうけどな、俺達は死んだと思ったら知らない場所に流れ着いたんだ。その事に不安もあるし、何もしないままでいいのかとも思っている」

「それは……まぁ」

 知らない場所に流れ着き、そこにいる者に促されるままになっている。
 そんな状態のままではいられないと思うのは、不安の事も合わせればむしろ当然だと、緋雪も思った。

「そして、俺は管理局員だ。公務員としても、施されたままではいられない」

 それは、世話されてばかりではいられないという、意地を張るかのような言葉だった。

「……ふふ……」

 そんな言葉に、緋雪は思わず笑う。

「……あー、おかしな事言ったか?」

「いえ……私と同じだなって、なんだか安心しました」

 少し気持ちが楽になったと、緋雪は微笑む。

「まぁ……安心してくれたなら、いいが……」

 少し照れ臭そうにしながら、ティーダはそう呟いた。

「……よしっ、気を取り直して、やれることはやろう!」

 手を叩き、緋雪を気を切り替えて立ち上がる。

「どこに行くんだ?」

「瘴気が集まっている所。本来、私は瘴気を祓うのは得意じゃないんですけど、破壊するのは得意なので」

 そう言って、緋雪は歩き出す。
 ティーダはその言葉について少し気になりつつも、それについて行く。

「……ついて来るんですか?」

「どの道、死んだ身としては帰れそうにないからな。それなら、ここに慣れるためにもと思ったが……ダメなら皆がいる所へ戻るが……?」

 郷に入っては郷に従え。
 そんな精神で、ティーダは幽世に慣れようと、緋雪の行動について行こうとしていた。

「危険が伴いますけど……まぁ、自衛も出来るようなので、構いませんよ」

「悪いな、手間を掛けさせて」

 実際の所、慣れるため以外でも、優輝の妹と言う事でティーダは緋雪を気に掛けていた。
 もう会えないティアナと重ねている節もあるのだろう。





「えい」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

 軽い一声と共に、瘴気が爆発する。

「………」

 シュールと言うか、気の抜けそうな緋雪の様子に、ティーダは言葉を失っていた。
 なんというか、思っていたものと違ったのだ。

「レアスキル……なのか?」

「え?あ、まぁそんな感じです。……後天的ですけどね」

 思っていた以上に作業感が強かったため、ティーダは邪魔にならないと思って気になった事を問いかけた。

「後天的?」

「……もう、気にしてない事ですけど……私、吸血鬼なんです」

「……は?」

 唐突なカミングアウトに、ティーダは間の抜けた声を漏らす。
 吸血鬼と言うのは、ミッドチルダにも架空の存在として知られてはいる。
 だが、いきなりその存在だと言われても、戸惑うのは当然だった。

「正しくは、吸血鬼に似た生物兵器……ですけどね。この“破壊の瞳”という力は、その時に発現したものなんです」

「ま、待ってくれ……吸血鬼?生物兵器?……どういう事なんだ?」

 説明を求めるティーダ。
 さすがに起承転結の結の部分しか言われなかったら聞き返さずにはいられない。

「えっと、少し長くなるんですけど―――」

 そこで、緋雪は過去の事を話し始める。
 もう気にしていないのもあってか、前々世や転生の事も話した。





「……魂に刻まれた事で、今世にも影響……か」

「今では、とこよさんや紫陽さんのおかげで、何とかなっていますけどね」

 話し終わり、ティーダが呆然とした様子で感想を漏らす。

「今でこそ、魂の欠陥をとこよさんと紫陽さんに補修してもらって軽い吸血衝動にまでに治っていますが……血を吸わなければ自壊し、吸い続ければ自我を失う。……私は、そんな生物兵器だったんです」

「………」

 困ったような笑みを浮かべてそう語った緋雪に、ティーダは掛ける言葉がなかった。

「……君は……君は、そんな人生を……だから優輝君は……」



   ―――「どうしてなのかは……まぁ、僕の力不足とだけ言っておきましょう」

 

「っ………」

 憂うような表情でそう言っていた優輝を、ティーダはふと思い出した。

「詳しく語る事はなかったが……そうか……」

「……言いふらすような事でもありませんからね」

 そもそも、故人となった妹の事は他人に話す事ではない。

「……せめて人として、死ぬ……か」

「お兄ちゃんには、大きな責任を背負わせてしまいました。その後悔はあります。でも、そうしなければ、私もお兄ちゃんももっと後悔していましたから」

「……強いな。君達兄妹は」

 話を聞いて、ティーダは優輝が緋雪を殺したくなかったのは分かっていた。
 その上で、殺すと決断したのだと、理解していた。
 そして、自分が同じ立場になった時、妹を、ティアナを手に掛けられるか決断を強いられた時を考えて……思わず、そう呟いた。

「弱かったから、強くなる事を強いられたんです。……私がもっと強かったら、生物兵器としての狂気に呑まれる事は、なかったでしょうから」

 力なく、緋雪は笑う。
 なお、そんなしんみりした空気の中、瘴気を破壊する行為は続いていた。
 そんなシュールな状況が、ティーダを暗い雰囲気に落とさずに済んでいた。

「それに、ティーダさんも凄いと思いますよ」

「俺が?」

「とこよさん……大門の守護者相手に、死ぬのを前提としたとはいえ、致命傷に繋がる一撃を与えたんですから」

 本来であれば、決して成しえない事。
 それをやってのけた事を、緋雪は素直に称賛した。

「正直、俺にもあそこまで出来たのは驚きなんだけどな……」

「地球の日本には、“火事場の馬鹿力”と言う言葉がありますから。緊急時に振り絞られる力と言うのは、凄まじいものですよ」

 そう言いながら、緋雪は霊術を行使して霧散した瘴気を集める。

「そういえば、魔法とは違う……なんて言ったか?」

「霊術の事ですか?」

「そう、それだ」

 話がキリの良い所で途切れたため、ティーダは目の前の事について話す。

「優輝君に御守りを渡されていたんだが、もしかしてそれも……」

「あー、多分、そうですね」

 今はもう手元にない御守りに使われていた技術が霊術だとティーダは知る。

「まだ表面上の事しか聞かされていないから分からないんだが……魔力とどう違うんだ?」

「そうですね……言い分けるとすれば、魔力は血液で、霊力は生命力そのものですね。魔力はリンカーコアがないとダメですが、霊力は生命であれば誰でも持っています」

「誰でも……俺も、か?」

「はい」

 ティーダも持っていると、緋雪は断言する。
 実際、誰もが生きるために霊力は持っている。

「それに、“死”を身近に感じれば感じる程、霊力の保有量は増えていきますから、ティーダさんも現世にいる普通の退魔師ぐらいにはなれますよ」

「実感がないな……それに、“死”を身近に、って……」

「瀕死の重傷を負って、そこから回復したり、臨死体験をしたり……が普通ですね。実際に死んでも増えるみたいです。私やティーダさんもその例ですね」

 何てことのないように説明する緋雪だが、ティーダからすればその説明は軽く流せるようなものではなかった。
 ……第一に、実際に死んだのだから、反応に困る。

「他には、その人に集束している因果などでも、保有量が決まるみたいです。とこよさんがいい例ですね。あの人は大門を閉じる役目と、守護者、閂と言った役目も背負いましたから、霊力の質も量も跳ね上がったみたいです」

「因果……運命みたいなものか」

 ティーダは概念や形のない力に詳しくないため、漠然とだけ理解する。

「概念的な要素以外では、やはり遺伝ですね」

「なるほどな……」

 魔力と明確な違いもあれば、似た部分もある。
 そう、ティーダは理解する。

「他に特徴的なのは……霊力は生命力を使いますから、魔力よりも質が高いという事ですね。普通の防御魔法だと、一定以上の霊術相手では紙のように破られてしまいます」

「俺が死ぬ時、バリアジャケットが役に立たなかったのも、それか……?」

「あー、大門の守護者だと、ほとんど関係ないかもしれませんが、多分……」

 そもそも並とはかけ離れた実力なため、相性は関係ないかもしれない。
 ただ、実力差を縮めた場合はその通りだろうと、緋雪は肯定した。

「それと、リンカーコアも同じようなものですけど、霊力を酷使しすぎると寿命を縮めます。リンカーコアが大きく破損するような事を霊力で行えば、ほぼ確実に死にますね」

「寿命を……生命力そのものを扱うなら、妥当か……」

 リンカーコアも、全損するような事があれば、死ぬこともある。
 その点においては、大した違いではなかった。

「まぁ、簡単な違いはこれぐらいですね。……あ、これは余談ですけど、地球にも魔法はあったみたいです。尤も、その魔法はリンカーコアを使わず、大気中のマナを扱うみたいで、どちらかと言えば霊術に近い扱いですけど」

「そうなのか……」

 管理外世界として扱われていた地球に、独自の魔法文化もあった事に、ティーダは若干ながら驚いていた。……尤も、散々驚愕する出来事に遭遇しているため、驚きとしてはそこまで大きなものでもなかったが。

「霊力に関しては何となくわかったが……瘴気と言うのは?」

「簡単に言えば有毒ガスみたいなものです。ただ、その性質が霊力などに似ている部分があって、負の性質を持っているので、浄化の類の術じゃないとあまり打ち消せません」

「……それじゃあ、さっきからやっているのは……」

 会話の間も、緋雪は瘴気を破壊の瞳で爆破し続けている。
 偶に妖が生成されて襲い掛かってくるが、緋雪どころかティーダにも軽く倒されている程、その状況が自然だった。

「私のレアスキル“破壊の瞳”は、概念的な破壊も可能なんです。さすがに浄化系の術には劣りますけど……手っ取り早いので」

 わざわざ術式を用意するよりも、ただ瞳を握り潰す方が手間がない。
 概念的な破壊をするための集中が必要とはいえ、術よりはマシだった。
 何より、緋雪は浄化系の術が得意ではないため、こっちの方が効果的だった。

「概念的か……俺にはまだ理解が及ばない領域だな」

「幽世で暮らしていれば、その内理解できますよ。私も生前はもっと大雑把な力の使い方をしていましたから」

 生前の緋雪及びシュネーは、力任せな魔法行使が多かった。
 だが、幽世に来てからは、とこよや紫陽に鍛えられ、人並み以上に精密操作が出来るようになっていた。
 なお、それでも優輝や鍛えてもらったとこよ達には及ばなかったりするが。

「ただ、今はそれよりも……」

「現在起きている異常事態をどうにかしないといけない……か」

「……はい」

 一通り瘴気を破壊し終え、軽い話から重い話へとシフトする。
 内容は、やはり世界中に起きている異変。

「現状表立って起きている事は幽世と現世の境界が薄れ、二つの世界が混ざり合おうとしている事。二度、原因不明の揺れが起きた事。そして、その影響でさらに境界が薄くなった事……ですね。他の次元世界にも、もしかしたら影響が出ているかもしれません」

「世界の境界云々もそうだが、揺れの原因が不明……ってのも危険だな。どういうものか分からない以上、対策のしようがない」

 現世幽世管理局共通して、何よりも揺れの原因や詳細が分からない事が問題だ。
 解明しようにも手が進まず、手掛かりとなりそうな情報も少ない。
 ごく一部だけが、影響を把握している程度でしかなかった。

「前例や、似た出来事がないのも痛いです。全てが手探りになりますから……。おまけに、幽世側からだと出来る事が限られます」

「組織として存在している訳ではないものな。自由に身動きが取れないのは痛い」

 緋雪すら、自由に身動きが出来ない。
 そもそも情報収集などに向いた能力ではないのも関わっているが……。

「いえ、式姫がいるので、いざとなれば情報収集においては少なくとも現世の日本より上を行けます。……出来る事が限られるのは、幽世が閉鎖的な世界だからです」

「そっちか……。所謂、死後の世界みたいなものだからな……」

 現世とは表裏一体の世界とはいえ、その範囲も日本だけだ。
 故に閉鎖的な世界となっており、世界の出入り口も日本だけだった。

「……結局の所、私達はここで足踏みしているしかありません」

「……そうか……」

 諦めたように溜息を吐く緋雪。
 ……実際、今緋雪やティーダに出来る事などなかった。













 
 

 
後書き
無限書庫について、wikiを調べた限りアカシックレコード扱いしてもそこまでおかしくはなさそうだったので、この作品ではアカシックレコード擬きとして扱います。
日々書物が増えて、どんな情報もちゃんと調べたら見つかるって……もうロストロギアだと思うんですがそれは……。(どこかの二次小説ではロストロギア扱いでした。公式設定?)

なんだか緋雪とティーダが良い感じに一緒にいますが、恋愛的な要素はありません。
地の文にもある通り、ティアナと若干重ねているだけです。
また、生物兵器だと語った緋雪に対してティーダは特に負の方面の感情は持っていません。歩んだ人生に対する憐れみはあれど、今の緋雪の雰囲気と実際に狂気等の状態を見ていないため、そう言った感情がないのです。尤も、話を聞いた後ならば、実際にその様子を見ても、覚悟して受け止めます(一度怯えの感情を見せますが)。 
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