許されない罪、救われる心
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176部分:第十六話 向かうものその七
第十六話 向かうものその七
それに気付いて内心恐怖を覚えもした。しかしだった。
弥生は引かずにだ。また岩清水に言うのだった。
「また言うけれど友達だからよ」
「友達って。友達だったら」
「だったら?」
「過去にしてきたことを責めるべきじゃない」
これが岩清水の理屈だった。
「悪いことをしてきたらちゃんと。それが友達なんじゃないの?」
「ええ、そうね」
弥生は岩清水のその言葉は認めた。こくりと頷きさえする。
「それはその通りね」
「じゃあどうしてそれをしないのかな」
「もう充分だからよ」
「充分?」
「この娘達は充分過ぎる程報いを受けたわ」
こう岩清水に対して言う。
「もう。これ以上は」
「違うね、いじめは最低の行為じゃない」
いじめをだ。絶対の悪と定義したうえでの言葉だった。
「だったらそれをした人間はね」
「絶対に許さないっていうのね」
「許したらまた同じことをするよ」
己の正義をだ。弥生に対して言ってみせるのだった。その奥に弥生が見たものを見せながら。
「だから。徹底的に、何時までもやるんだよ」
「そうしろっていうのね」
「そうだよ。いじめは絶対に許したら駄目なんだよ」
「だから如月達を」
「やるよ。何時までも何処までも」
岩清水の言葉に誰も持ち得ないどす黒さが宿った。それは最早人のものではなかった。
「そんな最低な人間には何をしてもいいじゃない。最低なんだから」
「確かにね」
弥生はだ。岩清水の言葉に一旦は頷いてみせた。そのうえでこう言うのだった。
「いじめは最低の行為よ」
「そうだね」
「それをしたら責められるべきよ」
「わかってるじゃない。それじゃあ」
「けれど」
しかし、なのだった。弥生はここで言った。
「限度があるわ」
「限度?」
「この娘達はもう充分過ぎる程報いを受けたわ。心も身体も傷つけられて大切なものを壊されて」
「当然じゃない。最低の行いをした人間は何をされても文句は言えないんだよ」
「それじゃあ同じじゃない」
「同じ?」
「そう、同じよ」
岩清水の邪悪さに引き下がりそうにもなる。だが如月達を後ろにしてだ。弥生は一歩も引かずに言うのだった。
「この娘達がしてきたのと同じじゃない。いえ、もっと酷いじゃない」
「酷いって。何処がかな」
「責めるとか裁くとかで。死んでも責め抜いてって」
「だからそれでも当然なんだよ」
岩清水の正義は変わらない。彼にとってそれは最早絶対のものだった。
その絶対の正義をだ。彼は言うのだった。
「悪いことをしたらね」
「だからそれには限度があるわ。この娘達はもう充分過ぎるだけ報いを受けたわ」
「限度なんてないんだよ。悪は絶対に許されないんだよ」
「違うわ、絶対なんてないわ」
弥生の声がだ。さらに毅然としたものになった。
「そんなの。絶対にないわ」
「絶対にって」
「如月達はもう傷つけさせない」
弥生は言った。その毅然とした声で。
「これ以上は。友達だから」
「あくまでそう言うんだね」
「絶対に。ここはどかないわ」
如月達の前に立ってだ。言い切った。
「何があっても」
「言うね。まあ僕はいじめをしていない人には何もしないけれど」
弥生には構わないというのだ。しかしだった。
「それでもね」
「まだ如月達に何かするのね」
「勿論だよ。絶対に許されない娘達だからね」
罪をだ。そのまま人に重ね合わせていた。
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