許されない罪、救われる心
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177部分:第十六話 向かうものその八
第十六話 向かうものその八
「それじゃあね」
「絶対にさせないから」
弥生は踏み止まろうとした。だが周りはその彼女の後ろにいる如月達に迫ろうとする。ここで、だった。
葉月が出て来てだ。言うのだった。
「あれ、室生?」
「何だよ」
「何かあるの?」
「皆、もういいんじゃないかな」
葉月はいぶかしむクラスメイト達にこう告げるのだった。
「もうね。いいんじゃないかな」
「いいって」
「まさか御前も」
「止めるの?」
「そうだよ。皆ずっと城崎さん達責めてきたじゃない」
「それが悪いのかよ」
「そうだ、何処が悪いんだよ」
クラスメイト達はその彼の言葉に反論する。
「こんな奴等に何やってもな」
「当然のことじゃない」
「俺もそう思ってたよ」
葉月は彼等の言葉をこう受け止めもした。
「確かにね。一時期はね」
「じゃあ何で今そんなこと言うんだよ」
「それじゃあおかしいじゃない」
「いや、おかしくないよ」
そしてだ。毅然として告げたのだった。
「気付いたんだよ」
「気付いたって何がだよ」
「何になのよ」
「間違ってる。もう城崎さん達は充分過ぎるだけ、いや酷過ぎる報いを受けたよ」
これまでの四人が受けてきたことをだ。この様に表現したのだった。
「それに」
「それに?」
「それに。何なのよ」
「もう反省してるよ」
このことも話したのだった。
「じゃあもういいじゃない。それで」
「それは違うよ」
岩清水がまた出て来た。そのうえで葉月に話すのだった。
「反省していようがしていなかろうが罪は罪だよ」
「裁かれるべきだっていうんだね」
「永遠にね。何度生まれ変わってもね」
そうだと。岩清水は己の主張を口にしてみせた。
「そうあるべきなんだよ」
「それも間違ってるよ」
「そう言うと思ったよ、報いを受けたからだね」
「そうだよ。だからもういいじゃないか」
葉月は岩清水に対しても同じだった。こう話したのだった。
「これでね」
「いや、何があろうと許したらいけない」
岩清水もだ。全く引かない。
「いじめは最低の行為だからね。それをやった人はね」
「それを口実に自分の正義を振りかざすことはどうなのかな」
「何だって?」
「だから。自分の正義を振りかざして相手をどこまでも責め苛むのはどうなのかな」
葉月は岩清水の目を見ながら話す。彼もまた弥生が見たものと同じものを彼の目の中に見たのだった。そのどす黒いものをだ。
「それはね。どうなのかな」
「何が言いたいのかな、今度は」
「言ったままだよ。それはいじめ以上に間違ってる」
指差しはしない。だが言葉でそうしていた。
「俺はそう思うよ」
「この世に正義があるから成り立ってるんだよ」
「正義がね」
「いじめは悪じゃないか。それを糾弾することこそ」
「正義だっていうんだね」
「そう、僕達は今正義を行ってるんだ」
岩清水は自分と同志達を正義と定義していた。そして同時に悪もだった。
「だからだよ。それの何処がね」
「正義を行う人間が常に正しいとは限らないよ」
「今度はそう言うんだね」
「うん。間違ってる」
また言う葉月だった。
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