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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第190話「打てる手」

 
前書き
描写の都合上、この先政府機関等との会談的な展開はないです。
というより、キンクリしています。(許しておくれ……)
さらに、優輝の女体化も戻っています(描写なし)。
 

 








       =out side=







「……会談自体は結果的に穏便に済んだが……」

 地球に停留しているアースラに戻ってきたクロノ。
 会談に関しては、管理局が様々な支援をするという形で落ち着いた。
 日本における法を犯した優輝達に関しても、監視がつくだけに終わった。
 厳密に言えば細かい取り決めがいくつもあるのだが、今は関係ない。

「『……思っていた以上に、軽く済んだわね』」

「『確かに。もっと深刻になると思ってたよ』」

 結果の内容に、アリサとアリシアは伝心で意外だと会話していた。

「『……多分、色んな人が理解してくれたからだと思うけど……』」

「『アニメやゲームが浸透してきた現代だからこそ、なのかもね。少し昔じゃ、多分こんなに穏便に進まなかったわよ。今回でさえ結構危なかったし』」

 アリシア達が考えていたよりも、順応性が高かった。
 そのため、大体の人は、アリシア達を受け入れていた。
 助けてくれた且つ、アリシア達の容姿がよかったのも関係しているが、余談である。

「『それもあるだろうけど……』」

「……問題は、幽世の神が言っていた事だ」

「『……こっちの問題が、優先されたからだろうね』」

 知ってか知らずか、アリシアの伝心にクロノの言葉が挟まる。
 そう。会談が穏便な結果に収まったのは、こちらの問題があったからだ。

「現状、この場で僕らに打てる手はない。管理局としても、一度上層部に掛け合う必要がある。よって、地球在住の君達と、何人かの局員を置いて、一度本局に戻る事になった」

「私達はともかく、何人かの局員……?」

 クロノの言葉に、フェイトが首を傾げる。
 地球に住んでいる訳でもないのに、置いていく理由が理解出来なかった。

「……人質か」

「ええっ!?」

 意味を理解した優輝が呟く。
 その言葉に、なのはが驚く。

「身も蓋もない言い方をするな優輝。……まぁ、意味合いとしては、間違っていないが。正しくは、僕らが勝手をしないための足枷だ」

「ミッドチルダの方は地球の人達は関与出来ないからね。勝手な事をされないように、事前に決めていたんだよ」

 クロノの言葉にエイミィが補足する。

「でも、別にクロノ君達は……」

「こういうのは信用の問題だ。別に、何かおかしいことをする訳でもないから安心してくれ。正直、監視で済んでるだけ御の字だ」

 真摯に対応しているためか、クロノ達アースラへの印象はそこまで悪くない。
 一部の局員の態度が悪かったり、一部の人が納得していないため、全員が全員、悪い印象ではないとは言えないが、非常にマシな扱いとなっている。

「まぁ、僕らの事は気にするな。監視があるとはいえ、しばらくは平穏に暮らせるだろう。……君達が住む海鳴市は、一番被害が少ないからな」

 海鳴市は、優輝達が元々いたため、妖の対処が一番早かった。
 さらに司の結界や、士郎達のような強い住人が多いため、むしろ返り討ちにしていた。
 そのため、他の地域に比べて圧倒的に被害が少なかった。
 それでも、道路や家などが少しばかり壊れていたりはするが。

「だが、忘れないでくれ。地球は今、見えない脅威に晒されている。いつ、どこで何が起こるかわからない。それだけは、心に留めておいてほしい」

 クロノはそう言って、話を締め括った。
 連絡事項としての話は終わり、やる事があったり用がない者は退室していく。

「……ふと思ったのだけど、殉職した局員の葬儀はどうするのかしら?」

「その事か。……少しばかり先になるが、纏めて行うはずだ。ただ、どの道一度アースラも補給のために本局に戻らないといけないからな」

「なるほどね……」

 椿が気になった事を聞き、クロノが答える。
 アースラの動力源も無尽蔵ではない。そのために、補給も必要だったのだ。
 地球組の誰もが気にしていなかったが、結構ギリギリだったりする。

「……その時になったら、出来れば呼んでくれないかしら?そこまで関わりが深かった訳ではないけれど、それでも知り合った仲だから……」

「特に、ティーダ・ランスター……だっけ?彼がいなかったら、守護者との戦いでさらに犠牲が出ていたかもしれないしね」

「分かった。確実ではないが、一応言っておこう」

 ティーダとは、それなりの付き合いがあった。
 さらに、ティーダのおかげで守護者を追い詰めるに至ったのだ。
 実際はそこからさらに守護者は切り札を使って来たが……。
 ともかく、優輝から経緯を聞いていた椿と葵は、丁重に弔おうと考えていた。
 優輝も表情や口には出していないが、異論はなかった。

「それじゃあ、私達も行くわ。久しぶりにゆっくり出来そうだし」

「監視の目があるけど、だからと言って気を張る必要はないからね」

 優輝達も退室する。
 残ったクロノは、溜息を吐いて座っている椅子の背もたれにもたれかかった。

「……もうひと頑張り、だな」

 まだまだ山積みな問題に、クロノは疲れたように呟いた。















「―――本当に、すまなかった!!」

 部屋に響く、大きな謝罪の声。
 場所はトレーニングルーム。謝ったのは神夜だ。
 相手は、その場に集まっていた、かつて魅了を受けていた者達。

 そう。神夜は、少し状況が落ち着いたのを見計らって、謝罪に回っていた。
 他にも魅了を受けていた者もいるが、神夜は順に謝っていくようにしていた。

「―――」

「ストップや、皆。ここは私に任せといて」

 面と向かっての謝罪に、何人かが感情のままに動こうとする。
 それを、はやてが手で制して止め、代わりに前に出た。

「……一つ聞くで?それで本当に許してくれると思っとるんか?」

「そんな楽観視なんてできない。……でも、だからと言って言葉にしない訳にはいかない」

「……及第点、やな」

 許してくれるとは思えない。
 だが、それでも謝罪の言葉は伝えるべきだと、神夜は考えた。
 それは、自分に対するケジメだと思ったからではない。
 誠意を込めて謝罪をする。それが、最低限の“真摯な態度”だと考えたからだ。

「“私は”、これ以上は言わんよ。どうするかはあんた次第や。謝ってはい終わり、なんて訳がないしな。誰に、どんな対応を、とかは私の知った事やない。皆が納得するまで、しっかりやり遂げるんやで」

「……ああ……!」

 はやては、それを見抜いていた。
 自分自身もそこまで憎んでいないのもあり、はやてはそれで許した。
 だが、他の皆も許すまで、その態度は変えないように釘を刺していた。

「無自覚だったから、なんて言い訳はしない。俺に出来る事なら、なんだってする。……俺に、償いをさせてほしい……」

「………」

 罪の意識が消える訳じゃない。
 憎しみがすぐに消える訳でもない。
 それでも、神夜は責任を取ろうと、その言葉を発した。

「ッ……あぁっ、くそっ!悩んでも仕方ねぇ!」

 少しばかりの沈黙の後、ヴィータが我慢できずにそう叫んだ。

「てめぇがそう言ったってあたし達の苛立ちは消えねぇ!……だから、てめぇはあたし達のこれからの模擬戦の相手をしろ。無理な時間にとは言わねぇし、ボロボロになったのを引きずって、とまでも言わねぇ」

 ヴィータ達は収まりが着かず、神夜も償いたがっている。
 それを解消するために、ヴィータはそう提案する。

「しばらくはアースラが使えねぇから……まぁ、結界内でもいいだろ。とにかく!その模擬戦であたし達は今までの怒りをてめぇにぶつける!で、てめぇはそれをちゃんと受け止めろ!それでいいな?」

「……分かった」

 今、トレーニングルームに集まっている者達にとって、確かに神夜は怒りの対象だ。
 しかし同時に、大切な人を助けてもらった恩人にも変わりないのだ。
 だからこその複雑な想いを、模擬戦で吐き出す。
 ヴォルケンリッターの中で一番感情豊かなヴィータが、葛藤して出した結論だった。

「てめぇは確かにあたし達を惑わした。……でもな、それでも助けられたのには違いねーんだよ……。その事実に、変わりはねーんだ……」

「っ……」

 神夜はヴィータのその言葉を聞き、心を打たれたように言葉を失う。

「………ありがとう………!」

 今までの全てが間違っていた。
 そんな罪の意識の中だった神夜にとって、その言葉は救いだった。
 間違いを犯し、それに気づいていなかった中でも、正しい事はあったのだと。
 助けようとした事自体に、間違いはないのだと、再認識させてくれた。
 ……それが、神夜にとって、嬉しくて堪らなかったのだ。

















「うん!見事に食料が半分壊滅だよ!」

 その夕方、優輝達は久しぶりに家に帰って来た。
 優香と光輝も、今回は共に帰ってきていた。
 なお、それなりの日にちが経っていたため、日持ちの良くないものは全滅していた。

「電気は止まっていないのね……」

「幸い、発電施設は無事だったみたいね」

 海鳴市とその周辺は被害が少なかった事もあり、電気設備も無事だった。
 尤も、だからと言って無駄遣い出来る訳でもないが。

「唐突な事件だったのに、しっかり後片付けしてるのね……」

「普段から優輝がしっかりこなしているし、私達も家事くらいは出来るもの」

「洗濯物は……うん、仕方ないね」

 家の中が散らかっていない事に、優香は感心する。
 家事や後片付けは、三人でしっかり分担していたからだ。
 ちなみに、洗濯物は干しっぱなしで酷い事になってしまっていた。

「しばらくの間、食事の内容が寂しくなるわね……」

「まだ店も再開していない所が多いものね」

 椿と優香がそんな会話をする。
 海鳴市が無事な分、他の地域の支援のしわ寄せが来ている。
 そのため、結局全国ほぼ全ての地域の機能が一部麻痺していた。
 学校なども、まだ休校になったままだ。

「仕方ない。山菜とかを採ってくるわ。優香と光輝、貴方達には家の事を任せるわよ」

「わかったわ。任せて頂戴」

「すまないな。プリエールの山菜なら分かるんだが……」

「普段から山や植物に関わっていないと分からないもの。仕方ないわ」

 家の事を二人に任せ、椿は優輝と葵を連れて八束神社がある国守山に向かった。







「一難去ってまた一難……ね」

「そうだねー……」

 八束神社に歩いていく最中、椿が漏らした言葉に葵が溜息を吐きながら同意する。

「優輝はどう見ているかしら?これからの事」

「……そうだな」

 優輝に少し尋ねる椿。そこでようやく、優輝は喋った。
 現在の優輝は、感情を失っている事もあって最低限の会話しかしていない。
 椿と葵は、それを寂しくも思っていた。

「僕らが取れる行動はそう多くない。諦観以外で取れる行動は大きく分けて三つ。一つ目は異常の解明。幽世と現世の境界を薄めている原因を解明する事。二つ目は今回の状況に誘導した存在に備え、力を磨く事。三つ目は個人でも組織でも構わないから、協力を求める事だな」

「……やはり、それしかないわよね」

 解析するか、力を磨くか、助けを求めるか。
 現状、情報が少ない今はそれしかできないと、優輝は言った。

「並行して行えるのは、多くて二つ。手分けすればその限りではないが……」

「私達の伝手はそこまで多くないわね。いくつかはあるけど……」

「使える伝手だけ使って、後は前者二つを頑張ればいいかな」

「それが妥当だな」

 一応、優輝達にはジェイルと言う強力な伝手がある。
 しかし、彼は次元犯罪者なため、おいそれと助力を求める事は出来ない。
 特に、監視がついている今は、絶対に無理だった。

「……と、言っても、その使える伝手のほとんどが今回の当事者なんだけどね」

「……そういえば、そうね……」

 管理局は元より、土御門も他の式姫も。
 全て、今回の幽世の大門の当事者となっている。
 伝わっていないのは、以前リインの誕生に立ち会うためにベルカに言った時に知り合った、教会の者達ぐらいだ。

「なら、しばらくは力を磨くだけだな」

「そうなるねー」

「私達も再召喚されたばかり。力を再確認するためにも、近い内に体を動かさないと」

 そんな会話をしている内に、三人は八束神社に着いた。

「……って、あれは……鈴?」

「あ、ホントだ。那美もいるね」

 すると、そこには鈴と那美がいた。

「あ、優輝君達だ。どうしたの?」

「ちょっと山菜を取りにね。そっちこそ、どうしたの……って、霊脈ね」

 那美が優輝達に気付き、椿も鈴が何をしているのか察する。

「うん。霊脈で何かできないか探ってるみたい」

「そう言えば、何気にあまり活用していなかったわね」

「治療と再召喚ぐらいだな」

 そこで、霊脈を調べるのに集中していた鈴が、優輝達に気付く。

「あら、貴方達、どうしてここに?」

「三人共近所に住んでて。山菜を取りに来たんだって」

「そういう事。確かに国守山は霊脈の影響で山菜が豊富だものね」

 霊脈はそこにあるだけで土地を豊かにする効果もある。
 そのために、国守山には山菜が多く存在しているのだ。

「それで、何か活用出来そうかしら?」

「そうね……式姫の召喚以外は、今の所思いついていないわ。でも、この霊脈は普通よりも大きいわ。何かに使えるのは間違いないわ」

「それは重畳。御札を渡しておくから、用途が見つかったら連絡して頂戴」

「ええ」

 会話はそこで切り上げ、優輝達は山へと入っていく。





「式姫の召喚かー」

 山菜を探して採取しながら、葵はふと呟く。

「あら、誰か会いたい式姫でもいるのかしら?」

「んー、そういう訳じゃないんだけどね」

 式姫同士でもそこまで関わりが深い訳ではない。
 全員と知り合いではあるが、葵にとってはどうしても会いたいと言う程ではなかった。

「……でも、これからの事を考えると式姫ももう何人かいて欲しいよね」

「まぁ、それもそうね。打てる手は多い方がいいもの」

 欲を言えば、江戸時代に最後まで前線に立っていた式姫がいて欲しい。
 椿と葵は、頭の片隅でそんな事も考えていた。

「………」

「……優ちゃん?」

「どうしたのかしら?」

 そんな二人を、優輝はじっと見ていた。
 その視線に気づき、椿と葵はどうしたのか尋ねる。

「一つ、式姫召喚について聞いていいか?」

「ええ、いいわよ」

「式姫の根幹となる性質は妖と同じで、幽世にいる存在を“式姫”と言う器に入れて召喚する。……その認識で間違いないな?」

「そうだね」

 式姫も妖も、元々は幽世に生息する存在だ。
 それが式姫と言う器に収まるか、妖と言う存在として現れるかの違いでしかない。

「条件さえ整えば、妖も式姫として召喚する事が出来るわ。前例もあるしね」

 優輝は知らない事だが、過去には妖だった存在が式姫になった事があった。
 妖と言う中身を浄化するなど、様々な条件が必要だったが。
 尤も、今は関係ない余談である。

「……なら、緋雪も可能か?」

「ッ……!」

 その問いに、椿と葵は目を見開いた。

「……可能かどうかで聞かれれば……可能よ」

「幽世にいて、それに別側面とはいえ守護者にもなれる程。……元々妖だった訳でもないから、面倒な条件を満たす必要もないね」

 元々妖であれば、“妖浄の水”が必要になる。
 しかし、緋雪は元々人間なため、必要なかった。

「後は型紙と……そうね、可能性を上げるために、緋雪に縁あるものがあればいいわ」

「……そうか」

 つまり、条件自体は揃っている。
 それが分かったのか、優輝は深く頷くように返事した。

「優輝、今……!」

「……なんだ?」

「……いえ、気のせいだったわ」

 その様子を見ていた椿が、何かに気付いたように声を上げる。
 葵も同じく気付いていたようで、声を上げずとも驚いていた。

「『かやちゃん、今……』」

「『ええ。今の優輝は感情を失っているはず。なのに、今のは……』」

「『うん。明らかに、感情が戻っていたよね』」

 そう。緋雪の事に関して、僅かにとは言え、優輝から感情が出ていたのだ。

「『……やっぱり、優輝の中では緋雪は大きな存在なのね……』」

「『なんだか、羨ましいなぁ……』」

 感情を失ったはずなのに、それが感じられる。
 つまり、それだけ影響を及ぼす程、優輝の心の割合を占めているという事だ。

「『……でも、光明が見えたね』」

「『……そうね。もしかしたら、優輝の感情が戻るかもしれない』」

 具体的な方法は分からない。
 しかし、それでも感情の兆しが見えたなら、感情が戻る可能性があるという事になる。
 
「『方法としては……やはり、揺さぶりを掛ける事が要かしら?』」

「『出来れば正の感情で揺さぶりを掛けたいね。負の感情だと、司ちゃんみたいに囚われてしまうかもしれないから』」

「『同感ね。それに、下手に揺さぶりを掛けて悪影響が出ても嫌だしね。出来る事なら、特大の正の感情で揺さぶるべきね』」

 椿と葵は知らない事だが、優輝と緋雪が再会した時も感情が僅かに戻っていた。
 その事から、椿と葵の推測は大まか合っていた。

「『……となれば……』」

「『今取れる手の中で、最善と言えるのは……』」

 結論をわざわざ口に出さずとも、二人共考える事は同じだった。
 優輝の感情を戻せる要因として、最も可能性が高い存在。
 その存在と優輝を会わせれば、感情が戻るかもしれないと。



   ―――すなわち、緋雪を式姫として召喚するべきだと、考えた。

















「そっちはどうだい?」

「何とか観測出来ています。しかし、目的のものは……」

「ふむ……波長が合わない、と言うべきかな?」

 とある研究所。そこで、一人の男性と少女が会話していた。
 なお、この場には二人だけでなく、何人かが機材の持ち運びなどで奔走していた。

「波長ですか?しかし、以前と同じように……」

「変動している、と言う事だよ。これだけの異常事態だ。影響が出てもおかしくない」

「なるほど……」

 機材に示される数値は、以前と同じように調べたものと、結果が違っていた。
 調べ方が同じなのに違うという事は、その調べるものが変質しているという事だった。

「少し、アクセスの仕方を変えよう。ユーリ君、頼めるかい?」

「はい。お任せください。シュテル、レヴィ、ディアーチェ!」

 方法を変えるために、少女……紫天の盟主ユーリは、紫天の書のマテリアルである三人を呼び、あるものが書かれた端末を人数分投げ渡した。

「それに書かれた機材を手分けして持ってきてください」

「分かりました」

「まっかせてー!」

「うむ、任せよ」

 必要な機材は三人に任せ、ユーリは手元にある端末を使う。
 画面には目まぐるしく数字が高速で表示されていく。

「……見つけました……!」

「本当かい?」

「ここです……!この時間座標からこちらの時間座標までの数値が、乱れています……!」

「なるほど、これが時間の境界を……」

 一見解読不可の文字が羅列しているようにしか見えない画面。
 その文字の羅列は、時空間の異常を指し示していた。

「……いや、待ってくれ。範囲を広げてほしい」

「え?あ、はい……!」

 端末に入力をし、表示する範囲を広げる。

「ッ……!これは……!」

「不味い……!広がっている……!」

 男性……グランツ博士と同じように、ユーリも異常に気付く。

「速度は速くない。しかし、確実に……」

「時空間の境界が、どんどん……その影響も、広がって……」

 二人が見つけた異常は、徐々に範囲を広げていた。

「中心点は……君達がいた時代と、ここのちょうど中間……」

「と言う事は、私達がこちらに来たのが……?」

「いや、それにしては影響が出るのが遅い。関係しているのは合っているかもしれないけど、原因ではないだろう」

 ユーリの脳裏に、自分達のせいかもしれないという考えが過る。
 だが、それはすぐにグランツによって否定される。

「……それにしても、これは僕らの手には負えないかもしれないぞ……」

「それほど……なんですか?」

「単純な魔法や力でどうにかなる代物じゃないからね。ましてや、時空間の乱れを正す方法なんて、具体的に確立されていない。突貫で手段を作り出しても、検証もなしに試す訳にも……」

「……手詰まり、ですか……」

 自分達ではどうしようもない。
 その事実にユーリは不安になる。





   ―――さらに、そこに追い打ちが掛けられた。





     ズンッ……!!



「きゃあっ!?」

「な、なんだい!?」

 地震のような揺れが、二人を襲う。

「地震……ではないね。揺れが継続する訳でもなく、まるで籠を下から突き上げられたかのような衝撃だった……」

「次元震でしょうか……?」

「……いや、その類の数値が検出されていない。その代わりに……」

 グランツは傍らに置いておいたタブレットのような端末をユーリに見せる。

「これは……空間が……」

「歪みが起きている。……キリエとアミタが外に出ていたはずだが……」

 空間を表す数値に、大きな乱れが出ていた。
 幸い、ユーリ達がいる研究所は無事だが、アミタとキリエは外出していたのだ。
 そんな二人の心配を、グランツはしていた。

『―――士!博士!!聞こえていますか!?』

「っと、良かった、二人共無事かい!?」

 だが、その心配は杞憂に終わった。
 アミタが通信を繋げてきたからだ。

『一応は!それよりも博士!外……いえ、他の次元世界を確認しましたか!?』

「次元世界?それが一体……なっ!?」

 アミタに言われるままに、他の次元世界に転送する機械にアクセスし、確認する。
 だが、そこに表示された“エラー”と言う言葉に、グランツは困惑する。

「どういう事だ……さっきの揺れでか?」

『こちらでもキリエがずっと探ってるんですが、一つも次元世界が観測できなくなってるんです……!まるで、エルトリアが隔離されたみたいに……!』

「なんだって!?」

 アミタの言葉に、グランツは驚きの声を上げる。
 同時に、ユーリが次元世界を観測できないのか確かめる。

「……博士、本当に確認できなくなっています。空間位相を調べた所、アミタさんの言う通りにまるで隔離されたように、エルトリアの外が観測できません……!」

「ッ……二人共、こっちに戻って調べるのを手伝ってくれ」

『了解!』

「すぐに現状を把握する!」

「はい!」

 先程まで調べていた事を無視して、現状把握を急ぐ。
 空間の異常から、すぐに原因を探り当てたが……。





「……これ、は……」

「一体、どうすれば……」

 寸前まで時空間の調査をしていたため、すぐに原因は分かった。
 だが、それで分かった事は、現状打てる手がほとんどないという事だった。

「……時空間を漂流……か」

「個人や物ならば、時間移動は可能ですけど、次元世界まるまる一つとなると……」

「時空間に乱れがある今、その移動すら難しいかもしれない……」

 八方塞がりだった。
 世界は切り離され、既存の手段は使えなくなった。
 解決するには、未知の領域を手探りで調べるしかなかった。

「……やるしかない、か」

「博士……?」

「手探りで、危険が伴うかもしれない。でも、何もしなければそれこそどうなるか分からない。……ならば、足掻くしかないだろう?」

「……はい。しかし、一体どうやって……」

 現状出来る行動は、世界が切り離された影響の調査と、世界の周りの時空間の調査だ。
 前者はともかく、後者は手詰まりだった。
 そのために、ユーリにはどうするのか見当がつかなかった。

「世界が漂流している。……ならば、“目印”があればそこに向かえるかもしれない。あわよくば、船のアンカーのように、そこに世界を停留させられるかもしれない。……仮定ばかりだが、これしか手段はないだろう」

 グランツが言っている事は、簡単に言えば世界を漂流する船に見立て、島か何かを目印にしてそこに辿り着こうという事だった。

「……世界を移動させる手段と、何より目印になるのは……?」

「前者は今から見つけるか作るしかあるまい。むしろこれが本題だろうね。だけど、後者なら既に見当がついている。ユーリ君、君達のおかげでね」

「私達の……まさか……!」

 グランツ達と、ユーリ達紫天の書の関係者。
 二つの大きな違いは、ユーリ達は元々別の世界……時間にいたという事だ。
 グランツは、それを指摘した。

「そう。君達のいた世界を目的地とする……打つ手は、これしかない……!」

 取れる手段は限られている。これは、その中でも最善だった。
 だからこそ成功させようと、グランツは力強く言った。











 
 

 
後書き
妖浄の水…ひねもす式姫に登場。妖を式姫に変える効果を持つ。登場予定はない。


ちゃっかり神夜の謝罪も入れていくスタイル。
元々根は良い奴(Fateで言う“混沌・善”)と言う設定なので……反省する時はしっかりします。
今後は、蟠りは残りつつも日常では普通に接していく関係になります。

式姫になった妖は、ひねもす式姫に結構出てきます。
かくりよの門では、切り札と言う所謂サポートキャラとしてしか出ていませんが。
元々の妖と名前が変わっている式姫もいますが、そちらはまた違う設定みたいです。(例:悪路王とあくろひめ)

最後のエルトリア勢は、サブタイトル要素を増やすためにもおまけで付けました。
一応、文面から分かる通り、後々関わってきますけど。 
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