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さばさば

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第四章

「お母さん、今度の日曜厳島に行っていい?」
「またなのね」
「今度は丸さんのことでね」
 真剣な顔での言葉だった。
「残留をお願いしにね」
「厳島の神様のところに行くのね」
「そうしていい?」
「別にいいけれど」
 それでもとだ、母は娘に行った。
「今回もね、一人じゃ駄目よ」
「そうよね、やっぱり」
「姉さんに言っておくから」
 母の姉、千佳にとっては叔母だ。結婚して灘に住んでいるのだ。
「時間があったらね」
「叔母さんに広島までなのね」
「一緒に行ってもらうわ」
「悪いわね、いつも」
「女の子を一人で遠くまで行かせられないわよ」
 そこは強く言う母だった。
「だからよ」
「それでなのね」
「そう、あんたもね」
 まさにと言うのだった。
「一人で行かせないから」
「それじゃあ」
「ええ、叔母さんとね」
 母は千佳に合わせて姉をこう呼んだ。
「行ってきなさい、姉さん広島好きだしね」
「関西生まれで阪神ファンでもよね」
「広島焼きが好きだから」
 こうした話もしてだった、千佳はその叔母と一緒に日曜の朝早くに厳島に向かうことにした。そうしてだった。
 厳島で心からお願いをして日帰りで神戸まで帰ってくると兄の寿に言われた。
「僕もお願いしてきたからな」
「丸さんのこと?」
「ああ、残留かロッテにな」
「巨人にはなのね」
「僕も嫌だからな」
 寿は怒った感じで言った。
「そんなことは」
「丸さんが巨人に行くことは」
「巨人のいいことなんてな」
 それこそというのだ。
「世界にとって不幸だろ」
「その通りよね」
「だからな」
「丸さんには残留かなの」
「ロッテ、大穴でな」
 こうも言う兄だった。
「阪神にな」
「いや、阪神獲得競争に入ってないじゃない」
「それでもだよ」
「阪神もなの」
「そうも思ってるんだよ」
「全く、競争に参加していないのに」
「思う位はいいだろ、とにかくな」
 兄も兄で言うのだった。
「丸さんは巨人にはな」
「お兄ちゃんも行って欲しくないのね」
「何が巨人優勝だ」
 寿もその目が真っ赤になった、そして全身を漆黒の魔闘気で覆った。
「そんなものなっていいことがあるか」
「全然ないわよね」
「出ているの見るだけでチャンネル替えるタレント連中がにやけてな」
 これは千佳も全く同じだ、巨人贔屓のタレントがテレビに出ていると脊髄反射でチャンネルを替えるか切ってしまうのだ。
「あの老害が誇らしげに言うか」
「もう最近出ないわね、あの元オーナー」
「それでも生きているからな」
「だから言うのね」
「ああ、それで何処かバーゲンになるか」
 巨人が優勝してだ。
「いいことがないだろ」
「本当に何一つね」
「だからだよ」
 それ故にというのだ。
「巨人は優勝どころかな」
「最下位であって欲しいわね」
「巨人が存在する限りな」
「全く以てそうよね」
「だから僕も西宮大社に行ってきたんだ」
 甲子園球場のあるその場所にある大社だ、寿にとっては阪神の氏神である。
「丸さんを残らせるかロッテにってな」
「有り難うね」
「当たり前だろ、僕は阪神ファンでな」
「アンチ巨人よね」
「だからな」
 それ故にというのだ。 
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