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永遠の謎

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411部分:第二十六話 このうえもない信頼その四


第二十六話 このうえもない信頼その四

「誰もがな」
「はい。だからですか」
「あの方は信じられている」
「信じようとされている」
「ワーグナー氏もわかっている」
 そのだ。王の心境はだというのだ。
 しかしそれでもだとだ。ビスマルクはここでまた言うのだった。
「だが、それでもだ」
「それでもですか」
「あの御仁は」
「ビューロー氏にしてもビューロー夫人にしても同じだ」
 三人はここでは同じだった。共犯関係にあるというのだ。
「彼等は自分達を守る為にだ」
「王をたばからなくてはならない」
「そうなのですね」
「彼等もあの方は嫌いではない」
 ビスマルクは彼等のこともわかっていた。王だけを見ているのではないのだ。
「むしろ愛している」
「あの方が彼等を守っていて認めている」
「だからですね」
「そうだ。だからこそだ」 
 それでだというのだ。
「そうした方を愛さない者はいない」
「しかしそれでもですか」
「彼等は王を裏切る」
「たばかるというのですね」
「決して認められないことだ」
 コジマの腹の中の子の父親がワーグナーであること、このことはだというのだ。彼等にしてみれば決して認められないことであるのだ。
 ビスマルクはこのこともわかっていた。そのうえでの言葉なのだ。
「何があってもな」
「だから王の信頼を裏切りますか」
「何があっても」
「その通りだ。そうするのだ」
 彼は語った。
「彼等の為にな」
「御世辞にもいいことではありませんが」
「気持ちはわかるにしても」
 彼等とて愚かでも人の心に通じていない訳でもない。それならばだった。
 こうだ。釈然としない顔で言うのである。
 だがそのうえでだ。こうも言うのだった。
「しかし。良心の問題ですね」
「それをあえてするのは」
「天秤だ」
 ビスマルクはここでそれを出した。
「損得と良心を天秤にかけだ」
「彼等は損得を選んだ」
「それをですね」
「そういうことだ。彼等が選んだのはそちらだ」
 そのだ。損得をだというのだ。
「彼等の為にだ」
「そしてバイエルン王はそれを全て御存知のうえで」
「彼等に騙される」
「彼等への愛情故に」
「彼等を護る為に」
「あの方は必ずそうされる」
 そうだとだ。ビスマルクは遠いバイエルンを見ながら話した。
「迷われることなくだ。だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「あの方はそのことにより深く傷つかれる」
 そうなることもだった。ビスマルクは読んでいるのだった。
 その読んでいることをだ。このベルリンで話す。そのことについてもだ。
 ビスマルクは憂いの顔でだ。それで述べた。
「騙される、裏切られること。そして周囲の言葉に」
「あの方はそれだけ繊細なのですか」
「そこまでなのですか」
「そうだ。若しも」
 ここでだ。ビスマルクは王を想いながら話した。
 
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