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永遠の謎

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410部分:第二十六話 このうえもない信頼その三


第二十六話 このうえもない信頼その三

「全てな」
「ではワーグナー氏とビューロー夫人のことを」
「そしてビューロー夫人の三人目の子の父親は誰なのか」
「そのこともですか」
「全て御存知なのですか」
「そしてそのうえでだ」
 どうかというのだ。ビスマルクはさらに話す。
「あの方はあえてだ」
「あえて?」
「あえてといいますと」
「騙されるのだ」
 騙されるとわかっていてだ。それで騙されるというのだ。
 そしてそれはどうしてかもだ。彼は話した。
「恋をする相手は信じたいな」
「そうですね。それについてはですね」
「わかります」
「私もです」
 彼等もだ。それはわかるというのだ。
「ではですか」
「あの方は恋をされているのですか」
「だからこそ騙されるのですか」
「そうなのですか」
「しかし」
 ここでだ。彼等がわからないことがあった。それは。
「ではあの方はどなたを愛されているのでしょうか」
「既にゾフィー様と婚約されていますが」
「その他に愛されているとは」
「では誰なのでしょうか」
「美だ」
 ビスマルクは赤ワインを一口飲んでから述べた。今はシャンパンではなかった。
「美を愛されているのだ」
「美をですか」
「それを愛されているというのですか」
「左様ですか」
「そうだ。美、それは即ち」
 何かというとだ。その美は。
「ワーグナー氏の美なのだ」
「その渦中の人物のですか」
「その本人の美を愛されているのですか」
「そうだというのですか」
「では」
「そうだ。あの方は美に裏切られることを恐れておられるのだ」
 美とワーグナーはここでは一致していた。王の中では。
 ビスマルクはこのこともわかっていた。それも全てだった。
 そしてだ。それを話してだった。
 ビスマルクは食事の中でだ。顔を曇らせた。厳しい顔がだ。そうなったのだ。
 そしてその曇った顔でだ。彼はさらに話した。
「あの方は今受難の中にあられる」
「その愛が裏切られる」
「それを恐れておられますか」
「だからこそですか」
「あの方はあえて騙される」
「そうされますか」
「既に騙されている」
 それはもう決まっていた。既にだ。
「だが。それを認められるか」
「それは」
「そう言われますと」
「愛する相手に騙されること」
 このことはどうなのかというのだ。そのことは。
「それはこの世で最も辛いことの一つなのだ」
「愛が裏切られる」
「そうですね。それ程辛いものはそうはありませんね」
「あの痛さは。味わうと」
「信じていたものが壊れるということは」
「それは味わいたくないものだ」
 決してだというのだ。ビスマルクもまた。
 
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