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Fate/BBB ー血界戦線・英霊混交都市ー

作者:海戦型
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HLはすげーよ、確かにすげー。でも無敵か最強かと言われればそれはまたちょっと違う話なんだよなー、という短編集

 
 某月某日、とある建築物前にて。

「いいか、潜入班がブツを確保したら突入だ。射撃班は出入り口を押さえ、遊撃班は正面から突入して暴れまわれ」
『スッ、スティーブンさん!!緊急事態っす!!』
「どうした少年……まさかザップが先走ったか!?」
『いえ、ザップさんに着いてきてたアストルフォさんが勝手にノリノリで突入を!ザップさんも便乗して突っ込んじゃいました!!ああっ、ケルトの皆さんが後を追って!!』
「………あのアンポンタンを現場に連れてきたのは誰だぁぁぁぁーーーーッ!!!」


「てめーのせいで番頭に死ぬほど絞られたじゃねえかこの脳みそ空っぽ野郎が!」
「ええー?僕が前に出たのとザップが前に出たのはほぼ同時だったっていうか、途中で追い抜かれた気がするんだけどな~」
「つーか、くっつくな!ついてくんな!俺は女は好きだが女みてーな男を抱く趣味はねえんだよ!!」


 -本能沸騰&理性蒸発-
 


 某月某日、とあるオタク部屋にて。

「でぇ、ここをこうすれば……ほら、コウモリ」
「成程、ここをこうして……出来ました!」
「はぁ……ねーもういい?何で私が声だけイケメン半魚人に折り紙教える為の時間なんか割かなきゃいけないのよ……」
「何を言っているんです、お金を払って教えてもらっているのですから貴方と僕は教師と生徒。これは正当な労働です。まったく、刑部さん程の折り紙の腕の持ち主はHL内にはいないというのに引きこもりとは、不健全かつ怠慢極まりない。別にライブラに所属しないのは問題ないですよ?ですが、その理由が自分が働かずに怠惰な生活を送りたいが為だけというのは、人間としても英霊としても恥ずかしくないのですか?」
「ふぐぅ!?あ、相変わらずイケメンボイスで容赦がない!?あ、でもこれ目を瞑ってれば新たな境地に旅立てるんじゃ……」
(刑部さんに教えてもらった折り紙は大道芸で子供たちに大評判なんですが……全く、この町でも指折りにどうしようもない人ですね)


 -半魚(人と)姫-



 某月某日、とある道すがら。

「キキッ」
「おお、ソニックではないか。やれ、どうした?レオに構ってもらえず余のもとに来たか?」
「キッ」
「ふむ、単に腹が減っただけか?まぁよい、せっかくだから共に昼飯でもどうだ」
「キキッ!」
「ふふふ……まさか猿の呪いに苦しめられていた余が猿と食卓を囲むことになるとはな。プロスフェアー勝負に勝つために他の王たちと勝負を続け、方法を知った後もHLの内外を果てしなく彷徨った日々が嘘のようだ……」

「ただいま、シータ!!」


 -おかえりを言ってくれる人-
 


 = =



 その男は、本来どうしようもなく悪に属する存在だった。
 しかし、幸か不幸か悪とは違う生き方の面白さを知ってしまった男は、どちらでもある存在になった。そしてカルデアという枷がないこのHLでは、ありていに言うと血が疼いていた。

 ここはかつて彼のいた亜種特異点、新宿に似た空気がある。それでいて、これという定石がない。善を為そうが悪を為そうが大丈夫なときは大丈夫だし、無理なときは無理だ。そしてどうしようもないくらいに悪と呼べる力が強すぎるのに、正義は当然のごとく存在し続けている。すべてが混沌、すべてが出鱈目。上限を吹き飛ばして無限のレイズが続く終わりのないエスカレーターだ。

 ――最高だ。回顧至上主義の神秘法則がアテにならないというのが実にいい。

 そもそも彼は剣だ槍だではなく、こういった人があっさり死ぬ現代でこそ輝く存在だ。
 彼の行動は早かった。表向きライブラの協力者としてしたり顔でデータを仕入れて事件解決に協力しながら、過去のあらゆる事件や技術をその知能にて吸い上げていった。彼が持つ元来の胡散臭さが直感スキルの類を惑わしたし、彼としてもHLという「最高の遊び場」が無くなってしまうのは忍びないから真面目に動くことも多かった。

 残念ながら悪行についてはホームズや警察、個人レベルで止められることも多かったが、足はつかなかった。逆に悪と悪の戦いとなると、それはそれはスリリングだった。相手に困らないしあらゆる状況を作れる代わりに、失敗すれば自分は消し飛ぶ。そんなスリルを楽しむ自分が悪性の存在であると自覚させた。

 そんな折、彼はとあるモノを見つける。それは、このHLにおいて恐らく殆どの人が意味を見いだせない些細な事だったが、彼の嗅覚はそれが極めて重要な意味を持つことを悟った。
 とある病院の敷地内にある墓地の、その近くの小さな丘を舞う幻想的な蝶。
 彼はそれにゆっくりと手を伸ばし――。

「ゲームをしよう」

 声に、止められる。

「おっさん、俺が何だか当ててみな。お前は――俺の名前を知ってるだろ?」
「ヤレヤレ、実に難しい質問だネ……『絶望王』クン?」
「ちぇっ、正解ってことにしといてやるよ」

 別段、顔を合わせる機会があった訳でもなければよく知りもない相手を、彼は振り返りもせずにそう呼んだ。判断理由はサーヴァントだからこそ感じられる魂の異質さ、この場所に好んで来るだけの理由がある人物、その他諸々の要素を組み合わせて浮かび上がった名だ。厳密には、名とは言えないかもしれないが。

「なんの理由があるかまでは知らねえが、ソイツにちょっかいかけるのはやめてくんねぇかな」
「蝶が蝶に惹かれてはおかしいかな?」
「アンタ毒蝶だろ、ジェームズ・モリアーティ?」

 一体いつから見ていたのか、彼――モリアーティの背後には男が立っていた。
 年齢は20~30代。特徴の薄い顔で、青いコートを羽織った、ごく普通の人間だった。
 『少なくとも肉体に限定していえば』、だが。

「フム、私も名前が売れてきたな。一目見ただけで名前を言い当てられるのは、悪人冥利に尽きるといった所かな?」
「ま、そのヒラヒラしたモルフォ蝶みてーな装飾は覚えやすいからな。悪人云々に関しちゃ知らねぇ。で、いい年して蝶の標本作るエーミール少年でもあるまいし、ファーブル博士でもない教授がその蝶に何の用だ?」
「そういう君は、コレが何だか知っているのかい?」
「まーな」

 どこかうんざりしたように肩をすくめた男は、不貞腐れたような顔をする。

「今更紳士気取る訳でもねえが、そいつは俺に『勝った』。少なくとも俺はそう思ってる。ガラじゃないが矜持ってヤツだな。自分に課した一種の義務、みたいな?」
「では、私の想像通りの存在だな。これは第二次大崩落危機の際に再構成された結界、その術式から零れる残留思念だ。本来なら何の害もない、ただ存在するだけの美しい蝶――悪意ある者には別の存在に見える幻の蝶だ」
「はっ――そこに思い至る人間はそういねぇ。俺の知る限り、気付くのは極悪人だけだ」
「誉め言葉として受け取っておくヨ」

 互いにそのことには気づいている。

 この蝶はメアリ・マクベスの残留思念、いやもしかすれば彼女そのものとも言える存在だ。

 メアリ・マクベス――この少女は第一次大崩落の最中に命を落とし、数奇な運命を辿った結果、自らの心臓がHLを支える結界と化した。そして第二次大崩落危機に際し、首謀者によって心臓を破壊されて霧散。存在そのものが肉眼に見えないレベルで消失した。
 大崩落は無限に広がる大地の崩落、或いは異界の侵入。そして結界がなければその大災厄を抑え込むことは出来ない。ところが、とある二人の少年が皆無に等しかった勝ちの目を人類側に引き戻し、大崩落は未然に防がれた。

「再構成された結界は完璧に近い。外からの干渉など正規の術士でもないと無理だろう。こんな胡散臭いアラフィフでは殊更にね。ところがこの蝶は、結界の再構築後にも動き回って目に見えて存在する。周囲から何かを吸収するでもなくひとりでに。すなわちこの蝶は結界とバイパスが繋がっている。結界の機能はなく子機とも呼べるが、そこに一筋のラインがある。そう、結界に触れうるラインが」
「俺のネタのパクリじゃねえか。二番煎じはウケねーぞ?」
「だろうネ。私自身、自分以外の誰かが思いつくようなトリックは願い下げだ」

 だから、モリアーティがやりに来たのは、第二次大崩落の危機につながる可能性の排除。
 この空を揺蕩う蝶を、巨大なセキュリティシステムと繋がる小さな端末を、断つ。

「ふぅん。そりゃあ、俺の妨害が入ることも織り込み済みの計画なのか?」
「可能性としてはね。少ないながらライブラには君とクラウス君、そしてレオ君との会話記録が残っていた。双子のマクベスのことも。可能性として君が来ることは予想できていたとも。まぁ、勝てるかと言われれば無理だろうネ。このHLで『13王』に連なる君と腰に限界を感じるアラフィフなんて勝負と呼べるほどの規模にもならない」
「じゃあ、どう断つんだ?俺としちゃあ、ソイツがいずれ眠るのを待つんでいいと思うがね」
「ところがどっこい、私はもっと騒がしいのが好きなんだ。よって――こんなものを用意した」
「そいつは――へぇ。フェムトから話だけは聞いてるが、実物を拝んだのは初めてだな」
「あの大天才博士には不評だったが、あるものは使わせてもらうのが私の流儀でね。ま、見ていたまえ」

 絶望王は、面白そうに見物に回る。
 モリアーティはそれを同意と受け取り、手にしたそれを蝶に掲げた。
 そして――。



 = =



 レオナルド・ウォッチは相も変わらず物騒な生活を送っていた。

「はぁ……俺、一年のうちに何回入院すれば気が済むんだろ」
「キキッ」

 別にレオに限らずライブラはみなそうだが、荒事で怪我をしてよく入院する。今回はアストルフォとザップが敵の基地に突入したせいでやけっぱちになった相手がミサイルをぶっ放してきて舞い散った破片にやられたのだが、突入組が無傷で待機組が主に被害を受けたのが非常に納得いかない。ギリギリ軽傷で済んでいるので、もう今日には退院だ。
 そんなことを考えながらソニックを肩に乗せてふらふらと歩いていると、いつの間にか見覚えのある場所に足が向かっていた。

 病院に立ち並ぶ墓地。なんとなく、不釣り合いなのに今は懐かしくさえ感じる場所。
 ここで出会い、そして別れた。ほんの短い付き合いだったそれは、今になって思えば初恋だったのかもしれない。一生忘れられそうにないし、忘れる気もないあの子がいるのではないかと、ここに来るといつも同じ場所を見てしまう。

「ま、こんな縁起の悪いところ、わざわざ来るのは世界に二人くらいしかいないか」
「ふふっ、うふふふふふふっ……そうね、私たちくらいしか来ないわね?」

 そこに――見覚えのある人が、いた。
 思わず目を見開き、神々の義眼で凝視する。
 でも、やはりそこに確かに存在した。

「……でも、死に怯えて生きていくなんて虚しいと思わない?どうせみんないつか死ぬのに、今だけ見ないふりしたところで、意味なんかあるのかしら?」

 白い肌、長い金髪、翡翠のような美しい瞳。

「なーんて、達観したフリして言ってたっけ、私。今になって思えば、真面目に生きられてなかった私こそ、見ないふりしてたんだなって思う。レオがアイツに連れていかれて、死ぬより怖いことってあるんだ、ってさ」
「君、は――」

 誰かなんて自分が一番よく知っているはずなのに、確信をもって言えなかった。
 そんな一歩踏み出せないレオを見て、彼女はいつか見た笑顔とはちょっと違った意地悪な笑顔で微笑んだ。

「――私、ホワイト!幽霊なの!今度こそ本当に……友達になりましょ、レオ!」



 聖杯は人の願いを叶える器。
 意識体として残留しているメアリ・マクベスを『結界から独立した存在として確立させる』くらいのことは、造作もない。こればかりはHLの理屈的な技術では叶えられない『奇跡』だった。
   
 

 
後書き
せっかく聖杯なんて便利アイテムがあるってのにホワイトを復活させる発想が出てこないなんて、お前ら人間じゃねえ!!とか阿呆なこと思いながら書きました。


「ちなみにあの聖杯とやら、どっからチョロまかしたんだ?」
「作ったのさ、HLの技術で聖杯の構造を再現してネ。仕組みそのものはあちら側って所がミソなんだ。ただ、どうにも完成体には至らず一度使ったら壊れてしまう。やはり完成品だけ見て機能を再現するのは難しいものだヨ」
「……で、これのどこが悪党の仕事なんだ?」
「フッフッフッ……レオ君はこのあと退院するわけだが、病院の外には退院祝いに何人かのサーヴァントが待っている。マタ・ハリ、巴御前、ニトクリスなどもいる。さも親しげにレオくんに近づいていくだろう。そしてふと後ろに知らない女がいることに気づいて彼女たちは「どなた?」と聞く。自分が知らないうちにレオ君に美人女性の知り合いがたくさん出来たことを知ったホワイトくん。後は……わかるだろ?」
「ちっちぇー悪事もあったもんだな……」 
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