ノーゲーム・ノーライフ・ディファレンシア
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第11話 次に続く『愚志』を
「なあ、空……なんで俺は着衣で風呂に入れられてるんですかね」
「旅は道連れだ。桃源郷に目を背ける同志が欲しかったんだよ」
────そんな声が無駄に反響する、ステフの邸宅の風呂場。
そこには、空と白、ステフにジブリール────そして、グシがいた。プラムとフィールの姿はそこにはない────シグの所有物だった彼女らはしかし、今はもう自由の身となっていた。それが、引き分けた『 』とグシの間で交わされた双方の要求を通すやり方だった。
グシは最初、自身の全権を賭けた。『 』は、シグの要求通りにいつでもゲームをする権利を賭けた。だが引き分けた故に、互いに折衷案として『エルキア連邦の所有物だった土地、技術、人材の一切合切は『 』に返還。『 』はグシとのゲームにおいて賭ける物の決定権をグシに譲渡する』という落とし所で納得したのだ。そして『 』は手中に収めたフィールとプラムの権限を即座に放棄した。
結果的には、グシが『 』とゲームする際アドバンテージを得られるようになっただけという結果になった────だが、シグにとってこのゲームはそれ以上の価値があった。
グシとして、虚像を振り払う────それが出来なかったら。シグは遠くないうちに────否、ゲームが終わった直後にでも自害していただろう。プラムにフィールの血液を啜らせなかったのも、シグが自害した後自由になるフィールに後遺症を遺す事を拒んだからに他ならない。
────そう考えれば、『 』はグシの心ばかりか命さえ救ったという事になる。グシからすれば、『 』はライバルであると同時に────感謝してもし足りない、恩人にもなったのだ。
────なったのだが。
「なあグシ、俺達同じゲーマーだろ?同志だろ?つまり桃源郷を間近に感じたい同志でもあるだろ?な?」
その恩人に対する恩を忘れたくなるくらいには────今の状況は面白くなかった。故に、グシは空に対する抵抗として皮肉を言う事にした。
「なあ18歳童貞。もう満18なら、満を持して桃源郷に飛び込めばどうだ?」
無論、出来ないと知っての皮肉である。自分の出来ないことに理由を取ってつける────虚像と変わらない、ましてその道連れに俺まで使うな、と。そう言外の意図を滲ませシグは言うが、しかし空は全く応える様子もなく完全理論武装で返す。
「悪いがグシ、ここは現実。不健全要素に満ち満ちた世界。『湯気さん』の活躍を過信しては、我がエクスカリバーがだな……」
「ちゅんちゅん丸携えて何言ってんだ。過剰広告はJAR〇に訴えるぞ」
「隠せてねえッ!!あと、なんでサイズが分かるんだよッ!?」
たまらず悲鳴を上げる空に、グシは不敵に笑って告げる。
「おいおい空、俺が魔法を使える人類種だと忘れてないかゴブァッ!?」
「喀血してまで俺を貶したいのかよ!?つーかお前まだ魔法を維持して────って言ってる場合じゃねえ!!ジブリール、治癒術式カモン!!」
「マスターの命とあらば…しかし、これを一時でも称賛したなど、認めたくない事実でございます…」
「え、いつの話だよ?」
困惑するグシに、ジブリールは不思議そうに問い返す。
「あなた様に欺かれた後でございます。もしや、気付いておられなかったので?」
「なんで欺かれたのに気づけたって聞きたいんだよ!?」
「あんな風に叫んで…むしろ、なぜ気づかないと思ったのでしょう」
「あ、でしたね」
ジブリールの正論に、グシはぐうの音も出なかった。そこに、更にジブリールが追撃をかける。
「加えて言えば……あなた様のそれもちゅんちゅん丸でございますよね」
「悪かったな!?だが弱さこそ人類の強さ、無駄なエクスカリバーより技巧を凝らしたちゅんちゅん丸のほうが強いんだよ!!」
ジブリールさえ半眼を向けるその言葉に、だが空が乗っかる。
「今すげえいい事言ったなグシ!さすがだそうだよ男は大きさじゃないんだよ!!」
「オオ同志────さっきはすまんかった。間違っていたのは自分だった」
ちゅんちゅん丸を携えし二人の男は、同じ思いを胸に、桃源郷から目を背けた。
それは女性陣からすれば、あまりに下らない結束だった────。
ところで。
諸君は冒頭で述べた質問を覚えているだろうか。そう、シグを前に浮かんだ質問────あの二つの質問である。
その質問の答えは、グシが示した。その答えとは────これだ。
一芸も極めれば万事に通ずるのか?所詮ゲームに逃げた奴なら、万事に手など出さないだろう?
────通ずる。それを、生まれ変わった『愚志』なら、見せてくれる。
芸は身を助けるのか?結局、ゲームに逃げてすら苦しいのだろう?
────助けない。そんな葛藤を乗り越えるには、『愚思』するしかないから。
そう、実像は答えを見せた。虚像では────否、『至愚』では至れない愚かさを。
正しく開き直った少年は、好敵手たる比翼の鳥と、ゲームに興じる。そこに、生者の光を灯しながら。彼らは、口を揃えて言う────
「さあ、ゲームをはじめよう」
一芸を極めた彼らは。『ノーゲーム・ノーライフ』を謳う阿呆どもは。
そう、言葉を紡いだ。
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