クラディールに憑依しました
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チーズケーキを食いました
第一層がクリアされてから二ヶ月と少し、第二層を十日でクリアしてからは、そのペースで順調に攻略が進んでいる。
今日は第八層が開放されて、俺は新しい街を一人で歩いていた――この階層は竜使いシリカのホームになる筈だ。
街の中は非戦闘員の観光客が所狭しと探索したり観光したりしている。
俺は特定のレストランを探して街の中を歩き続けていた――そして行列が出来始めたレストランの外装を見て確信した。
ここがシリカのお気に入りチーズケーキがある店か……並んでる人も少ないし食ってから行くか。
暫く並んでるとNPCが開いた席まで案内してくれた――早速、チーズケーキと持ち帰りは可能かを聞いてオーダーを出す。
栄養バランスを考えずにチーズケーキだけ頼めるってのもSAOならではだよな……現実ではベッドの上で点滴生活だがな。
チーズケーキも食い終わった頃に、持ち帰り分のチーズケーキが焼き上がり店を出る。
耐久値をある程度誤魔化す処理をした後、チーズケーキを片手に食い歩いていると、一人の少女が衝突してきた。
噂をすればなんとやら、見覚えのあるツインテール、竜使いシリカがそこに居た――ピナが居ないな? 懐く前か。
アレはメニューに放り込む事が出来ないからな、居るか居ないかで判断できる。
「あ、ご――ごめんなさい」
「気にするな、それよりケーキを食ってたんだが服に付いてないか?」
「あ、いえ、だ――大丈夫です……あの、それって、チーズケーキですか?」
「あぁ、そこで売ってたんだが……」
振り返った先にあるレストランは、飯時と重なって店の外では俺が店に入った時よりも行列が増えていた。
「……凄い人気ですね」
「……良かったら一個貰うか? これも何かの縁だろう」
「えっ!? 良いんですか!?」
「あぁ、次からは気を付けろよ?」
「ありがとうございます、お金は払いますね」
シリカはチーズケーキを受け取りお金を払うと、もう一度お礼を言って上機嫌で去っていった。
……確かに金は貰った――だが、チラリと見えた残金が二桁程だった気がするが……今日の宿代あんのかアイツ?
新しい街だからって浮かれて湯水のごとく金を使ったか、それとも装備を買い換えて金が無いのか……まぁ、既に宿代を払ってる事を祈ろう。
俺は日が沈むまで周辺の地形を把握しながら雑魚狩りを開始した。
ふむ、東門は手頃なモンスターが居て夜でも人の出入りが多くなりそうだな。
北門は山岳地帯で隠れる場所が無いし、強そうなモンスターも活動してるな。
西門は強いモンスターが出て低レベルでの対処は無理、となると……。
森に続く南門か――アクティブモンスターも居ないし、人気の無くなる時間帯を見れば隠れるのも容易いな。
大体の予測をした後、街に戻ると見覚えのある人影を発見した。
きっとアイツのキャラネームは情報を売り買いするってのと胡散臭い中国人が使う日本語、『アルアル中国人の日本語』に引っ掛けてるんだろうな。
「――アルゴ」
「何ダ、お前さんカ……何の用――と言うのは可笑しいナ、また面白い事でも思い付いたのカ?」
「さてな? 取り合えず情報をくれ、攻略組以外でコリドーを所持していて犯罪に使いそうな奴とその転移先だな」
いくら街の周辺を警戒しても転移されては意味が無い。
「二百コルだナ」
「……安いな? こんな情報を聞く奴なんて――解放隊か」
「察しが良いナ、最近は睡眠PKが増えてきたからネ、特殊なコリドーを持ってる奴は金になるのサ」
「ふむ、それなら手が回ってそうだから問題ないか……昼間にチーズケーキを売った女の子が居たんだが――所持金が尽きた様に見えた」
「……四百コル」
「買う」
「宿屋の通りを往復している子が居たと複数の情報が寄せられていル……観光客で第八層の宿泊施設は何処も満杯だ――感の良い者は気付いてるだろうナ」
「お使い頼めるかい?」
「あいヨ!」
アルゴと別れた後、お使いを済ませたアルゴからメッセージが届いた。
【金は渡したが、そのまま納屋で寝るそうダ、頑固者だナ――宿無しで有名な連中が数名で見張っているようダ、コリドーは持っていないヨ】
ふむ、流石情報屋だな、頼りになる。
深夜、南門を監視してたら何やら怪しげなグループがゴミ袋の様な物を抱えて森に消えて行った。
夜間のゴミ出しは禁止――って言うかSAOにそんな習慣ねーよ、アレは寝袋だな。
気付かれない様に後を追うと話し声が聞こえて来た。
「此処まで離れりゃ大声出されても大丈夫だ」
「早くお楽しみしようぜ」
「焦らせるなよ、完全デュエルを了承させて麻痺らせてるんだ、慌てる必要は無い」
「寝てる間に色々出来るなんて、スゲー裏技だよな」
あー、ゲスな笑い声が聞こえる。
四人の内の一人が背負っていた寝袋を開けると麻痺状態シリカの姿が見えた……この状況で寝てられるお前がスゲー。
……ふむ、寝ているプレイヤーを運ぶ方法はいくつかあるが――担架だと怪しまれるからコッチにしたか。
「おい、誰か見張りやれよ」
「マジかよ、チッ、後で交代しろよな」
「わかってるよ」
……面倒臭せー、取り合えずシリカ起こすか。
投げナイフを一本抜く――シリカに当てて起こすのではなく。
投擲スキルの射程範囲ギリギリに居たモンスターに当ててMPKもどき――モンスターを怒らせて邪魔する事にした。
シリカに当てて傷害扱いでオレンジになったら面倒だしなー。
モンスターを攻撃してアクティブにすると木の影に隠れながらシリカ達を挟むように回りこむ。
すると俺とモンスターの直線ライン上に重なった男がモンスターに轢かれ吹っ飛んだ。
「ぐえ!?」
「何だ!? アクティブモンスターは居ないんじゃなかったのか!?」
「チクショウ、お前等武器を出せ、速攻で終わらせるぞ!!」
「!? 此処は何処なんですか!?」
「起きたぞ!! 押さえてろ!! 解毒結晶を使わせるな!! メニューも開けさせるな!!」
近くに居た男がシリカを押さえ逃がさない様にする。
「嫌ッ!! 止めて下さい!!」
モンスターを目の前にして戦力を一人削る指示を出すとは……ロリコン恐るべし。
いや、この場合はペドフィリアか? しかし、アレの定義は六ヶ月以上にわたり十三歳以下の子供にエロい事を続けてなければ認定されない筈。
……どうでも良い思考に耽っているとモンスターは倒され、男三人のHPは半分以下になっていた。
「クソッ!! MPKか!? お楽しみの邪魔しやがって」
「街が目の前だからって逃げやがったのかもな」
「まあ、苦労した分はアイツで発散させようぜ」
「放して下さい!!」
モンスターが倒されてる間にシリカは自分の置かれている状況が理解出来た様だ。
……そろそろ始めるか。
「!? 今何か通らなかったか?」
「いや? 何もなかったが?」
「おい!? お前のHPドンドン減ってるぞ!?」
「嘘だろオイ!?」
シリカの見ている目の前で男達四人全員が次々と赤ゲージ――そして麻痺状態になって地面に倒れた。
そして男達を切り刻んだ俺のHPカーソルが傷害判定でオレンジに変わる。
「よぅ、おめーら、楽しそうだな」
闇の中から現れた俺を男達は絶望的な表情で出迎えた。
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