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彼願白書

作者:熾火 燐
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逆さ磔の悪魔
  フォックス・ラッフィング

 
前書き
久しぶりです。アズレン始まった頃に書いてたら、書き上がった頃には艦これ二期始まっちゃってるんですが…… 

 
XX年9月18日
首相官邸、総理レク

「えー、以上のことからー、個体としては強力ぅ、ではあるーものーの、撃破は確認されておりー、そして間をおいてのー出現でーあることからーこれらの発見、情報からそれぞれがー別個体と判断しー、通常の鬼または姫クラスの亜種として分類、登録をすべきと」

防衛大臣の間延びした、如何にも原稿を読んでいるだけの内容に、聞かされている総理大臣を初めとした出席メンバーは苛立ちや眠気をそれぞれが覚えていた。
そこに、机を叩くような音がする。

「待ってください。対象を空母棲姫の亜種として登録する判断には、こちらの資料を元に、異を唱えたい。」

特定広域海洋害性黒色生物群暫定登録不明個体に関する臨時閣僚会議。

その場において、グレーのスーツ姿の細身の男がまとめた書類を掲げつつ起立する。
それまでつっかえつっかえに間延びしたように原稿を読んで発言していた小太りの中年の男はぎょっとして振り返る。

「キミィ、いったいなんだね!?これは防衛省の公式見解とわかっていてアヤを付けるつもりかね?」

「失礼、あまりにも希望的な観測にすがり、あまつさえ自分達しか知らないと思っている情報を伏せての防衛省の提言にはほとほと呆れまして、名乗るのが遅れました。」

スーツ姿の男は事務員に書類を渡してから、内ポケットから名刺を出して、指で挟んで見せる。
見た目にはともすれば二十代にすら見える若い男が、白い髪に紅い眼の少女を連れて、この会議に来ているのは、一言で言えば「場違い」だった。
隣に座る全体的に白をイメージさせる更に場違いな少女は、呆れた顔で頬杖を突いて「我関せず」の姿勢を取った。

「私、トラックディストラクション……正式には、特定広域海洋害性黒色生物特別指定種によるトラック泊地襲撃事件の調査以降は、魚釣島に引きこもりっぱなしでして、今の会議に集まるお歴々とはほぼ初対面でしょうか。内務省統合分析室室長兼海上保安庁尖閣諸島魚釣島ニライカナイ基地特殊警備本部『蒼征』本部長兼尖閣諸島魚釣島海上保安庁及び海上自衛隊共同参画常設南方海域警備施設『ニライカナイ泊地』設置推進準備室の壬生森秋保でございます。」








『逆さ磔の悪魔』









「相っ変わらず、趣味が悪いわね。」

緊急閣僚会議の終了後、若いスーツ姿の男と白い少女は並んで、廊下を歩いて外へと向かう道中。
少女はうんざりしたように男に言う。

「たまには、ああいうこともしてみたくてね。我々の目的は確かに達成した。さて叢雲、さっさと帰って次の仕事に向かおう。」

男の名前は壬生森。
見た目と実年齢の乖離とどこまでが事実か怪しい経歴、そしてどこまで届いてるのかわからないコネの範囲と、詐欺師みたいな胡散臭さを隠さない態度から、政敵からは蛇蝎のごとく嫌われていたり、そうでない者からも『狐野郎』と呼ばれたりしている男である。

「そうね。さっさと帰りましょ?どこにアンタの敵がいるかわかんないものね。」

「その言い方は引っ掛かるなぁ。私だけがやましいみたいじゃないか。」

「事実でしょ?アンタが私みたいな清廉潔白な身だとでも?」

白い少女は普段は着ない、紺色のレディース物のスーツにタイトスカートと革のローファーをその低い背丈を思わせないほどキチリと着こなしている。
彼女の名前は叢雲、壬生森の秘書艦として何十年とこうしてやや斜め後をずっと付いてきた、最古参の艦娘である。

「おいおい、私はこれでもだね……っと……」

壬生森はわざとらしい、弁解する気を更々感じさせない弁解をしようとして、官邸の玄関で口と足を止めた。
叢雲も、それに併せて壬生森の斜め前まで歩いてから足を止める。
彼等の前には、黒服にサングラスとソフト帽の男達が左右に横並びで待っており、その間にはその二人を率いてきたのであろう白髪混じりの初老ながら力強く鼻の高い顔付きの男が陣取っている。

「ほら、さっそく出てきたじゃない。アンタ、私の知らないとこで宇宙人でも見つけたの?」

「まさか。 トミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスに追われるような覚えはないよ。 」

叢雲は呆れたように壬生森に問う。
壬生森がおどけたように肩を竦める。

「つまり、あれは……ただの壁、でいいわね?」

叢雲が左手を前に、右手を後ろに、そして右足を一歩前に。
そして、叢雲の左手の指先は真ん中にいるトミー・リー・ジョーンズをしっかりと指す。

「まぁ待て。壁を吹き飛ばすのに、その槍を用いるのは大袈裟が過ぎる。さて、そろそろ名乗るなり、抜くなり、なにかしたらどうかね?」

壬生森は呆れたように叢雲を止めると、トミー・リー・ジョーンズに反応を求める。

「ニライカナイフリートの壬生森だな?」

「そこからかい?如何にも、 内務省統合分析室室長兼海上保安庁尖閣諸島魚釣島ニライカナイ基地特殊警備本部『蒼 」

「肩書き込みの自己紹介はけっこう。私は国防総省国防長官付き太平洋方面分析室のニコラス・ロングだ。」

壬生森が名刺を出そうとしたのを、あっさりと制止される。
ニコラス・ロングを名乗る初老の者は、サムズアップした右手を上げて、肩越しに親指で、背後の出口のほうを指す。

「ハママツに行くのだろう?送っていこう。」

「お話はリムジンの中で、ってことかな?」

「お互いに忙しい身の上だろう。スケジュールに響かないようにするには、これが一番と判断した。来てもらえるかね?」

「……文句のない、パーフェクトな根回しだ。」

では、と老紳士は先に歩き出す。
乗る気?という叢雲の視線に、壬生森はにこりと笑って返す。
不満げな叢雲は、壬生森の隣を歩きながらそっと左腕に絡み、手を握る。
そして、前を歩いている老紳士に見えないように薬指で壬生森の手をトントンと叩く。

"絶対、ろくなことにならないわよ?"

それに対して、壬生森も同じように薬指で叢雲の手をつつく。

"乗らないほうが面倒なことになる。"

"今ならどうとでも出来るわよ。"

"首相官邸に玄関先までとは言え、こうやって入り込める根回しっぷりだ。どうとでもするほうが面倒になる。"

不満げな叢雲を、そこまで説得して、壬生森はもう一度笑う。

"何かありそうだったら任せる。頼んだよ。"

叢雲はハァ、とため息をひとつ。
そして、薬指をやや早めに叩く。

"付き合ってあげる。感謝なさい。" 
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