人類種の天敵が一年戦争に介入しました
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第5話
前書き
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地球連邦軍は無能の集団ではない。確かに緒戦で手痛い敗北を喫したものの、それはルウム戦役で初めて艦隊戦を経験した、エリート面した素人集団の、連邦宇宙軍の失態だ。
地上軍は違う。彼らは大規模戦闘の経験者こそいないものの、反地球連邦主義者の弾圧やゲリラの掃討などで実戦経験は豊富な、言わばプロの集団だ。そのプロの集団をしてオデッサを始め黒海沿岸、コーカサス地方では敗北し続けているわけだが、これすら原因は宇宙軍の失態にあるのだ。
ジオン公国軍のジャブローを狙ったコロニー落としは地球連邦軍宇宙艦隊の必死の抵抗により失敗したが、それでもコロニーの後ろ部分、およそ3分の1がオーストラリア大陸に落下した。そのエネルギーは凄まじく、落下地点のオーストラリア大陸南東部が消滅し、地球の自転速度と地軸の傾きにも影響を及ぼし、南太平洋では各所で地震が連鎖発生し、火山が噴火した。そして、それすら些事に思えるほどの大津波が太平洋をはじめ世界中の沿岸部に押し寄せた。コロニー落としや火山の噴火で舞い上がった粉塵は空を覆い、核の冬が到来した。コロニー落としの衝撃により南半球を流れる海流もその経路を大きく変え、核の冬によって世界的に気温は急低下。津波や火山の影響が小さい地域でも、世界的な異常気象から逃れることはできなかった。核の冬そのものは長く続いた現象ではなかったが、昼でも薄暗い世界という光景は、地球に暮らす人々に終わりが始まったと印象付けるには充分だった。
コロニー落としの影響はこれだけではない。コロニー落としというとオーストラリア大陸にコロニーが落下したことを指すことが多いが、実際は細かい破片も南半球を中心として地球の広い範囲に降り注いでいた。更に続くマスドライバーからの攻撃は、宇宙対地上という新たな形の戦争において、安全圏など存在しないと知らしめた。
新たなリスクを前に金融は1日で崩壊した。大恐慌の発生である。金融の崩壊は市場に流通する資金を大いに減じさせ、取引不能から倒産に至る企業が続出。カネ不足はモノ不足を生み、モノ不足はそのまま社会不安に。社会不安は治安悪化へと繋がり、治安悪化はそれだけでリスクであり、リスクの有るところからカネは消える。資金不足が企業を倒産させ……と、地球経済は負の連鎖に突入した。
地上は戦争どころではない。それをもっとも理解しているのは連邦地上軍だ。彼らはコロニー落としの爪痕を生存者の中ではもっとも間近で見続けた。
海軍は全軍で最大の被害を被った。2億人を殺した津波が発生したのだ、海に生きる彼らの被害も当然だ。僅かに残った艦船は、最低限の修理を 終えると、海に沈んだ仲間の船体と波に浚われた民間人の遺体の捜索に当てられた。水中の死体というのは凄惨極まりない。地獄に落とされたようなものだ。
陸軍は救助活動に奔走し市民を助け、治安出動に駆り出されては市民に銃を向けた。コロニー落としと経済恐慌によって人々は物心両面から追い詰められており、犯罪が急増。暴動の発生も頻繁であり、警察力はたちまち飽和し、現地政府は連邦軍に治安出動を依頼する他なくなっていた為だ。護るべき連邦市民に銃を向けるだけでも迷いがあるのに、発砲命令が下った日には部隊の士気はどん底、お通夜状態である。
こうなると兵の中には脱走という選択肢を取る者も現れるのが世の常だ。海軍や空軍に比べて陸軍は脱走が特に起きやすいが、常ならぬ事態として、地球連邦軍の地上部隊で脱走は殆ど起きなかった。代わりに大量に届けられたのが除隊申請である。戦時なら除隊は認められないが、地球連邦政府はジオン公国を国家として承認していない。実体はともかく建前の上では、地球連邦政府にとってジオン公国との戦争は地球連邦政府とサイド3現地政府間における紛争なのである。戦争ではない。戦時ではないが故に殺到した除隊届を棄却できない。後に南極条約に伴ってジオン公国の主権が認められ、ようやく地球連邦軍は戦時体制に移行したが、その頃には陸軍の人員は戦前の6割に落ち込んでいた。
空軍は、前二者と比べればマシな状況に見えたが、実際は陸軍より酷い。沿岸部が壊滅した為に海上輸送が出来ず、暴動多発の為に陸上の物資輸送は難航した。つまり物資輸送は空軍に一任された。輸送機を飛すのだが、墜落が相次いだ。撃ち落とされたのである。
地球連邦政府が成立する前、地球環境は人口の増加に耐えかねて危機的水準にあった。宇宙移民は文字通りの意味で地上の口減らしの為に行われたのである。当然と言うべきか、宇宙移民政策には反対意見も多かったが、推進派の国々は連合を組み、反対派の国々を軍事力で捩じ伏せ、宇宙移民政策を推し進めた。この時の、いわば勝ち組の連合軍が地球連邦軍の前身なのだ。
国家が滅んで軍隊が消滅しても、民衆は消えない。地球連邦軍はゲリラと化した残党を相手に戦い続けてきた。この間、地球連邦軍が実戦経験を蓄積するのと同じく、反地球連邦組織も実力を蓄えた。何しろ宇宙移民政策が進められて地球はガラガラだ。隠れ潜む場所には事欠かない。そして彼らは今次戦争を見逃さなかった。過疎または無人地帯に潜伏していた彼らはコロニー落としの被害も小さく、地上で暴動が多発するのに合わせて活動を激化させた。その彼らの頭の上を輸送機が飛んでいくのである。これを狙わない訳がない。
一方で地球連邦軍だが、彼らもわざわざ撃墜される為に輸送機を飛ばしているわけではない。高度を上げれば済む話なのだが、それが出来れば苦労はない。高度をヒョイとあげられない事情が存在した。
核の冬だ。コロニー落としと連鎖する噴火で舞い上げられた粉塵は空を覆って核の冬をもたらした。この粉塵は天然のチャフであり、レーダーも通信も阻害する。そもそも衛星を全喪失した今、GPSや衛星通信の類いは一切機能しない。地上からの管制が頼りなのだが、天然のチャフが空にあるため迂闊に高度を上げると通信が切れる。なので高度を上げられない。
遮るものない大空を飛ぶ低高度の輸送機。日中はさぞ見つかり易いだろうが、ならば夜間飛行をすれば良い、というのは素人考えだ。常時通信妨害されているこの時期では、長距離通信自体が不可能だ。飛んでいる間、常に地上からの管制を受けるわけではない。管制を受けられるエリアと受けられないエリアがあり、受けられないエリアの方がずっとずっと広い。この管制を受けられないエリアで空軍機はどのようにして飛んでいるのかと言えば、地図と地面を見比べて飛んでいる。
本来なら星を見て飛ぶ天文航法を行うべきだが、核の冬によって空は塵に覆われて見えない。星が見えないのだから天文航法は出来ない。雲の上に出れば天文航法は可能だが、舞い上げられた粉塵はジェットエンジンの天敵だ。これを大量に吸い込むとエンジンが壊れるため、雲の中を突っ切る事などとても出来ない。普通に墜落するだろう。それを避ける為にも地文航法しかないのだ。地上が見えなくては飛べないのだから、夜間飛行は不可能。日中、低高度で飛び続けるしかない。そしてゲリラの携帯式対空ミサイルに襲われる。
雲の中を突き抜けて雲の上に出ると墜落必至。雲の下を飛ぶと撃墜の恐れあり。嫌な二択だが、まだマシな選択の先も救いはない。粉塵はエンジンの奥深くにまで潜り込み、その除去には非常に手間がかかった。通常の整備手順では対応できない。そのため次々にエンジンを交換して急場をしのぎ、その間にひたすら分解整備に励む。だが、予備のエンジンの数は無限ではない。飛べば飛ぶほど、ただ飛ぶだけでまともエンジンが減っていく。エンジンがなくなれば飛べなくなる。飛べない空軍に意味はない。ただのブタだ。
不幸中の幸いと言うべきか否か、核の冬は長続きしなかった。やっと制限飛行から解放されたと喜ぶ彼らだったが、その喜びは長続きしなかった。雲が晴れて地上がよく見えるようになった為、マスドライバーによる地上攻撃が始まったのだ。主な攻撃対象は主要軍事拠点と空軍基地。地球連邦政府が講和に応じなかった為、ジオン公国軍は地球侵攻する他なくなったが、宇宙から地上は地続きではない。空を経る必要がある。安全に地球侵攻部隊を降下させる為には地球の空軍を叩いておくことは必要不可欠なのだ。宇宙の目から隠れようにも、長大な滑走路と巨大な格納庫がある空軍基地は隠れようがない。空軍は徹底的に叩かれた。
地球連邦軍地上部隊は、このような情勢下でジオン公国軍と戦う羽目になっていたのであった。
後書き
なんか変だ。前の第5話と違う……。
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