人類種の天敵が一年戦争に介入しました
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第6話
前書き
やけっぱちで投下。
もう元の第5話を全く思い出せない。
連邦地上軍は戦う前から疲れきっていた。戦争はもうたくさんだ、というのは彼らの総意と言って良い。もちろんコロニーを落とそうとしたジオン公国は憎いが、彼らがそれ以上に憎んだのは、予算の大半を懐にいれてエリート面をしつつ、ジオン公国の数倍の戦力を保持しながらもコロニーを地球に落っことした無能な連邦宇宙軍であった。地上軍にとって、宇宙軍はもはや同胞ではない。ジオン同様、憎むべき宇宙人の片割れに過ぎなかった。
地上軍が宇宙軍の尻拭いに四苦八苦しているうちに、南極条約が締結された。これで戦争は終わると思っていた彼らの前に現れたのは、ルウム戦役で捕虜となった戦犯、レビル中将。そして始まる大演説。
レビルの演説を最も苦々しい思いで聞いていたのは、レビルに逃げられたジオン公国の首脳部ではない。連邦地上軍だった。
戦争はもうたくさんだ。続けるなら勝手にやれ、宇宙人同士で殺し合え……そんな気持ちではなかったか。しかし戦争は続く。今度は、地上を舞台として。戦う前から擦りきれていた彼らを主役として。
戦争はもうたくさんだ。救助活動をしながらそう思っていた。部隊に集結命令が出たときも、そう思っていた。オデッサに敵出現と聞いたときも、そう思っていた。だがオデッサに移動中、現地の味方は全滅したと聞いたとき、世界が変わった。
過酷な任務で消耗していた将兵の士気は、コロニー落としとオデッサで死んでいった市民、友軍の仇討ちを前に一瞬で沸点に到達した。宇宙人同士の戦争に地球人が巻き込まれた理不尽に対する怒りが爆発したのだ。
宇宙人を叩き出す!
オデッサに急進する連邦軍は、将兵揃ってこの一心である。味方が残されているなら必ず救う。噂通りに全滅したというなら、宇宙人もそうするまでだ。
先行していた地上部隊の頭上を虎の子の航空機部隊が追い越して行く。彼らの仕事は航空偵察と先制攻撃だ。基地はもともと連邦軍のもの、占拠して2日のジオン公国軍よりも連邦軍の方が詳しいくらいだ。観るべきは基地ではなくジオンの巨人、モビルスーツ。
そのモビルスーツだが、映像で見る限り宇宙空間での動きには凄まじいものがあった。地上で出来る動きとは思えなかったが、ジオンの巨人が地上に降りたというなら、それはある程度以上は連邦軍地上部隊を想定した兵器であるということだ。翻って、連邦軍地上部隊にはモビルスーツを仮想敵にした兵器などない。全く未知の敵なのだ。主力の地上部隊が衝突する前に航空機部隊で一撃を加え、モビルスーツの運動性能、防御力などを評価しなくてはならない。その為、貴重な早期警戒管制機を情報分析用としてもう1機を加え、2機投入しているのだ。
素人が! と連邦宇宙軍を罵ってとどまるところを知らない地上軍だが、宇宙軍とは違って彼らは敵を舐めてはいない。敵は優秀だと考えるのは軍人にとって職業病と言ってもいい。甘い見積りで部下を殺すわけにはいかないからだ。地上部隊は何も僻みや被害者意識だけで宇宙艦隊を馬鹿にしているわけではない。初戦のコロニー攻防戦で得た戦訓を共有出来ずにルウム戦役で大敗した宇宙艦隊は、やはり軍隊として意識が低かったと言わざるを得ない。素人集団と馬鹿にされる由縁である。
地上部隊に隙はない。機甲部隊は百戦錬磨であり、航空機部隊はマスドライバー攻撃を生き延びた虎の子。急遽編成された混成軍ではあるが、その士気は高く、戦意は旺盛で、目標は解釈の余地なく明らかだ。空と大地を貫いて、彼らは今、そのとき一つだった。そしてそのまま一つ所で死ぬことになる。
公開通信でされた宣言を、全軍が一斉に傍受した。
「あー、テステス。我々はリリアナ。付近の地球連邦軍へ。我々はこの通信が聞こえているすべての地球連邦軍を攻撃する。聞こえていなくても攻撃する。以上」
通信が切れるや否や、早期警戒管制機が2機とも爆散した。護衛機はノータイムで散開し、自機への被害を回避した。結果だけで言うなら悪手だった。たとえ攻撃されることになろうとも、増速し、少し前を飛行する爆撃機部隊の護衛に参加するべきだったろう。
護衛機が全力で横方向への機動を見せて前進速度が鈍った瞬間、後ろから現れた襲撃者が散開した護衛機をごぼう抜きにした。当然、その先にいるのは爆撃機部隊。散開することで位置と速度を無駄にした護衛機だったが、二度続けてのミスはしなかった。今からでも真っ直ぐ追いかければ敵を真後ろから撃てるチャンスがある……ように見えるが、その先にいるのは味方だ。角度を付けた攻撃で誤射の無いようにするしかない。後方集団と化した護衛機は高度を上げながら増速した。
爆撃機部隊の護衛機は鋭く反転し、襲撃者を迎え撃った。彼らの視界に映ったのは、戦闘機でもジオンの巨人でもなく……真っ白な光の塊だった。全身を噴射炎に包まれているように見えるナニカ。目を疑う光景だったが、彼らは一瞬も躊躇わなかった。なにしろ、目標の速度はマッハ2。すれ違うような反航戦では攻撃のタイミングは一瞬だ。
そして彼らは目撃する。相対速度により敵から見れば発射直後にも関わらずマッハ4を越えているはずのミサイルが、次々に撃ち落とされていく。その直後には、ミサイルを発射した機体が餌食となる。敵をロックした一瞬を逆に捉えられたのだ。
それでも落とされなかったミサイルが敵に向かう。更に、味方が落とされていく一瞬、その一瞬の積み重ねの間に追い付いた後方集団の護衛機が敵の上からミサイルを発射。正面と後方斜め上からの同時攻撃。これは当たるか、と思った直後、更なる驚きが彼らを震わせる。敵はマッハ2で進みながら、瞬間移動と見紛うばかりの横っ跳びでミサイルを回避したのだ。しかも複数回。明らかに空力で飛ぶ機体の挙動ではなかった。全身を包んで光の珠に見えるほどの噴射炎といい、跳んだ方向の反対側に一瞬だけ吹き上がった噴射炎といい、アホらしいほど推力任せの力技だ。その力技に耐えられる、機体と搭乗者の耐久力。何しろ運が良くてクラッシュ、悪ければミンチになるほどの動きだ。機体もそうだが搭乗者のタフさも尋常ではない。
――あるいは無人機か? しかし、この感じは……!
操縦者の生還を考えていないかのような機体の動き。ならばいっそ無人機という可能性もあるが、それにしては機体の挙動に相手の意志が見えすぎるように感じられた。だが、そんなことは目の前の問題に比べれば些細なことだ。
反航戦の攻撃機会は一度きり。そのアプローチに失敗し、敵とすれ違い、先頭集団の護衛機はたちまち後方集団と入れ替わってしまった。彼らが反転して追い付くまでの間、爆撃機部隊の護衛はアプローチに入らなかった少数の先頭集団の残りと、敵の後方から追いすがる元後方、現中央集団に任せるしかない。
つまり、攻撃に失敗した今この時、敵と爆撃機部隊の間には遮るものが何もない。敵と爆撃機の速度差は倍以上。易々と爆撃機部隊の中央に踏み込まれるのも当然だ。
速度を爆撃機に合わせたため、敵の全身から噴き出していたように見える噴射炎が少し弱まる。そうして幾らか見えるようになった敵の姿は、連邦軍パイロット達の予想を裏切るものだった。巨人は巨人でも、ジオンの巨人よりだいぶ小さく、ザクとは似ても似つかない外観をしている。そいつが光の中から両腕を左右に突きだすと、それぞれの手に握られた銃が連続して火を吹いた。次々に食い荒らされていく爆撃機。敵を近づけさせまいと防御火器を全力稼働して弾幕を張るが、次元の違う敵の回避の前にははっきり言って無駄な努力だ。むしろ弾幕の厚さに護衛機が一度散開して離れた為、護衛機の妨害を受けない敵にいいようにやられている。
護衛機としても味方がやられていくのを黙って見ているわけにはいかないのだろう。一斉に高度を上げ、数を減らしていく爆撃機部隊の中心、暴れまわる謎の巨人へ向けて急降下を開始した。
ミサイルが振りきられるというのなら、敵と味方による弾雨の中に飛び込んででも機銃の直接照準でケリをつける……というわけなのだが、それをやろうと思う気概もやってのける腕前も並みではない。もちろん、ある程度の勝算あってのことだ。
敵は爆撃機部隊に足を合わせたため、速度が大きく落ちている。マッハ2から亜音速まで速度を落としているのだから、半減以下だ。爆撃機部隊を狙い続けるために足を合わせた。それは攻撃の為の正解の一つかもしれないが、まだ護衛機がいる状態で速度を落とすというのは油断か、驕りか。どちらにしても、その隙を見逃す連邦軍パイロット達ではない。闘争の場において隙を突くのは礼儀ですらある。突ける技量があるならば、の話だが、彼らは精鋭中の精鋭だった。彼らはただの一機も味方の誤射に落とされることなく、逆落としからの格闘戦に持ち込むことに成功した。連邦軍パイロットの高い技量を証明したといえる。次の瞬間には全機撃墜されてしまったが。
戦士達の名誉の為に言えば、リリアナによる襲撃予告からここまで、レトルト食品が出来上がるのとどちらが早いか微妙なところである。瞬殺も有りうる実力差を考えれば立派なものと言えるだろう。
航空機部隊は全滅した。
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