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人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
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第4話

 
前書き
つぶやきでお知らせがあります。 

 
 ジオンの巨人。ジオン公国が国力30倍をひっくり返して緒戦を勝利で飾った原動力。歴史を変えた新兵器。モビルスーツ。
 MS―05 ザクⅠ。
 MS―06 ザクⅡ。
 全高18メートルの人型機動兵器。文字通りの鉄の巨人。ジオンの切り札。それが連邦軍基地を襲撃した? ジオン公国軍の地球降下に先立って?

 あり得ない。

 少なくとも、ジオン公国軍のモビルスーツではない。では連邦軍だろうか。連邦軍のモビルスーツが連邦軍の基地を襲う? 反乱だろうか? 普通に考えれば反乱だが、生存者はジオンの巨人と言っていた。モビルスーツと言えばジオン。当たり前の話ではあるが、大前提として、地球連邦軍にはモビルスーツが配備されていない。研究は進めているだろうし、数ヶ月後にはまた別だろうが、現時点において実戦投入出来る段階のモビルスーツは連邦軍に存在していない。していないはずである。
 正式配備されていないなら、実験機か? 実験機の暴走? それならあり得る……といいたいところだが、今回ばかりはあり得ない。基地の被害が度を越しているからだ。一分以内に鼻歌混じりで基地を壊滅させられるだけの戦闘能力。これが実験機だというのなら、このレベルに至る遥か手前で地球連邦軍はモビルスーツの量産に移行しているはずだ。仮に、これほどの実験機を作る技術がありながら目標に届いていないというのであれば、地球連邦軍のモビルスーツの仮想敵が何なのか、非常に気になるところだ。沈んだ大陸の古代文明か、はたまた地獄博士に率いられた機械軍団か。どうであれ、もはや戦争どころではあるまい。地球連邦と敵対しているジオン公国としては是非とも漁夫の利を得たいところである。……冗談は脇に置いて、実験機が想像を絶する高性能機というわけではないというなら、質より量。相当の数が揃っていたということになる。つまりモビルスーツの量産ということになるが、繰り返すが地球連邦軍には正式に大量配備されたモビルスーツはない。実験機でも説明がつかないことになる。

 単純かつ大規模の爆破テロではない。正規部隊の反乱ではない。実験機の暴走ではない。敵対国の軍隊によるものでもない。結局行き着くところは、現地の武装勢力が極めて強力だということになる。それ以外に解釈のしようも無い、と言った方が良いかもしれない。
 これほどの戦闘能力を持つ組織を味方として使えるのであれば、使わないという選択肢は存在しない。無論、これ以上勝手なことをしないように手綱を握る必要はあるが、仮に手綱をつけられないほどの狂犬だとしても、狂犬には狂犬なりに使い途はある。問題は、生存者が語った『そいつ』、その正体。ジオンの知らないモビルスーツの正体だ。

 幕僚団は頭を抱えるだけだが、中将の高位にあり、キシリア派の重鎮でもあるマ・クベには心当たりが全くないというわけではなかった。ジオン公国軍の主力モビルスーツはMS―06 ザクⅡだが、それ以前の主力がMS―05 ザクⅠ。どちらもジオニック社の作である。このザクⅠと主力機の座を争ったのがEMS―04。こちらはツィマッド社の作である。EMS―04はMS―05を遥かに上回る性能を示したものの、二倍近い製造コストと試作機の空中分解事件を理由に不採用となった経緯がある。
 現状では、ジオニック社とツィマッド社の差は開く一方だ。ジオニック社のザクⅠが採用された。後継機のザクⅡも採用された。主力機として使われて実戦データも手に入れた。それは実戦で使えた、使える製品だという証明でもあるのだ。意気上がるジオニック社が更なる開発を進める中、ツィマッド社が巻き返すにはどうするか。性能をどうやって示す? 実戦データはどうする? ジオン公国では不採用。地球連邦は敵。ならばどこに……?
 ……もし。
 もし、万に一つ。万に一つ、ツィマッドがEMS―04の後継機を開発に成功していたら。それがジオン公国以外に提供されていたら。『そいつ』の正体こそツィマッドの新型なのではないか? ギレン総帥とジオニック社を主流と見ればキシリアもツィマッド社も非主流派。キシリア配下の情報網に接触があったのも、ギレン総帥の下ではジオニック社の牙城は固いと見ての接触ではないのか? いや……しかし、或いは……。

 思考の渦に囚われていたマ・クベだったが、ノックの音で我に返る。平静を取り戻し入室を許可すると、入ってきたのは信頼する副官だった。

「マ・クベ司令! 例の部隊から通信です!」
「! すぐに出る。回線をこちらに」

 マ・クベが通信機の前に座ると、画面には何も映らないまま声だけが響いた。

「……通信機? これ壊れてるだろ」

 聞こえてきたのは、まだ若い男の声だった。通信機の向こうで誰かと会話しているらしく、話すだけならいけます、などと別の声も届いてくる。どうやらあちらの通信機は映像の送受信ができない状態らしかった。

「……我々はリリアナ。降下部隊の司令官は応答されたし。我々はリリアナ。」
「聞こえている」

 棒読みのアナウンスにマ・クベが答えると、通信機の向こうからはホッとしたようなため息が聞こえた。声が少し高くなる。

「あなたが司令官か。私はリリアナでリーダーをやっているストレイドだ」
「私はジオン公国軍中将のマ・クベだ。地球侵攻軍総司令官の任を拝命している。ところで、お前の名前はなんだ? 迷える者(ストレイド)と聞こえたような気がするが」
「ストレイドだ、間違いじゃない。もちろん本名じゃないけど、似たようなものかな。だから私のことは野良犬(ストレイド)と呼んでくれ」

 一組織を率いる身とはいえ、中将という軍高官を相手に口調を改めるつもりはないらしい。随分と肝の座った男のようだ。

「……それで、野良犬が何の用だ」
「早速だけど報酬の話をね」
「まだ無理だな」

 マ・クベは即答した。

「無理!?」
「勘違いしてほしくはないのだが」

 通信機から2オクターブ高い声が返ってきたため、マ・クベは直ぐに言葉を継いだ。

「お前達の働きを評価しないというわけではない。むしろ逆だ」
「逆?」

 予想外だったのか、通信機から返ってきた声はきょとんとしていた。幼いと言っても良い。

「評価が終わっていないのだよ。働きすぎだ」
「はぁ」
「作戦はまだ続くが、付近の制圧が終わるまでなら2日の予定だ。だから3日後に会って話したいと思うが、それで良いな?」
「……わかった。しばらくぶらぶらしているとしよう。連絡を待っている」

 通信が切れた後、一言も発しないマ・クベにウラガンが水を向けた。

「マ・クベ司令、向こうはあっさり引きましたな。私といたしましては、意外に素直で少々驚きましたが」
「おそらく幼いのであろうな」
「確かに若い男の声でしたが……幼い……ですか?」

 マ・クベは目を瞑って椅子の上で身体を伸ばした。

「反応が素直すぎる。おそらく幼少時から訓練を受けていて、戦闘以外のことは頭に入っていないのだろう」
「はぁ……少年兵のようなものですか」
「違う。少年兵の多くは、生き残っても子供ではいられない。それまでの過酷な経験が子供でいることを許しはしないのだ」

 首を捻りつつも頷くウラガン。

「言われて見れば分かるような気もします。では、少年兵ではないとすると、野良犬は何者なのでしょう」
「少年兵だ。ただし、大量生産品ではなく、丁寧に作られた一品物。ある種の芸術だ。……奴の話はここまでだ。仕事に戻れ」

 リリアナと名乗る武装集団のことも大切だが、マ・クベ達には広範な地球を支配するという任務があるのだ。いくら戦闘能力に優れていようとも、リーダーが子供なら恐れることはない。そう見切りをつけた思いのマ・クベは、司令官としての責務に立ち返ったのだ。謎の組織リリアナよりも、考え込んでいる間に溜まりに溜まった書類山脈こそが優先して処理する問題であることは間違いなかった。
 マ・クベは後にこのように話している。

「あの時はまだ(第一次)降下作戦も終わってはいなかったし、司令官としての仕事も山積みだった。だからある程度の情報を得て通信を終わらせたが……今でも思うのだ。もっとよく話すべきではなかったか……と」

 黒海沿岸からコーカサス地方へ勢力を伸ばすジオン公国軍に対して、地球連邦軍は即座に反撃に出る。
 コロニー落としとマスドライバーからの砲撃への対処で散っていた戦力を糾合、ジオン公国軍が守りを固める前に一撃を与えてオデッサから追い落とすことを決意。旧ハンガリーに部隊を集結。ジオン公国軍は河川や船舶への意識が薄いはずだという考えに基づき、ドナウ川に沿う形で旧ルーマニア、旧ウクライナへ進軍し、リリアナを名乗る謎の機体に遭遇し全滅した。
 ストレイドがぶらぶらした結果である。

 おまけにウィーンが地図から永遠に姿を消した。
 ストレイドがぶらぶらした結果である。

 
 

 
後書き

連邦軍「やーらーれーたー」

天敵「ついでに近くの有名な街でも燃やすか」

ウィーン「ファッ!?」

ブダペスト「セーフ!」

ブカレスト「知名度低くて助かった……」

キエフ「ドナウ川で遊んでいてください。ドニエプル川沿いには何もありません。本当ですよ」
 
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