レーヴァティン
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第六十五話 志摩の海賊その二
「もっともおなごも多くは褌だの湯文字だの穿いてたがのう」
「ああ、湯文字な」
湯文字と聞いてだ、船乗りは納得した顔になって頷いた。
「うちの女房も一着持ってるぜ」
「奥さんもか」
「ああ、一着な」
「持っているっちゅうんか」
「三十五になってもお洒落でな」
自分の妻のことを笑って話す船乗りだった。
「下着にも凝ってるんだよ」
「それで湯文字も持っているぜよ」
「ああ、湯文字もいいって言ってるぜ」
「あの下着もじゃな」
「ショーツだけじゃなくてな」
「そんなもんかのう」
「まあおなごで褌はないな」
船乗りはきっぱりと言い切った。
「少なくとも俺はそう思うぜ」
「それは何でじゃ」
「俺の好みだよ」
またはっきりと言い切った。
「それで言うんだよ」
「成程、それは確かな理由じゃな」
「下着の好みなんてまずそれだろ」
「ああ、穿き具合とのう」
「俺は男はトランクスでな」
「おなごはショーツか湯文字じゃな」
「基本はショーツだな」
船乗りはあくまで自分の好みを言った。
「錬丹術からゴムってやつが出来てな」
「それでか」
「そうした下着も普通なんだよ」
こちらの世界ではというのだ。
「褌だけじゃないってこそさ」
「それはええのう、そういえばこの世界ゴムもよお使われているぜよ」
室町期の日本に近い島だがそこは全く違っていた、だから下着もそうしたゴムを使ったものになっているのだ。
「それだけでも全く違うぜよ」
「ゴムはあんた達の世界にないのかい?」
「あるけど出たのはずっと後ぜよ」
室町時代の日本にはある筈もないものだとだ、当季は船乗りに話した。
「まさに夢のもんじゃ」
「そうなるんだな」
「そうぜよ、わし等の世界ではのう」
「成程な、あんた達の世界も色々あるんだな」
「それぞれの世界にそれぞれの事情があるぜよ」
当季は船乗りに笑って話した。
「わし等の世界では陰陽術も錬丹術もないぜよ」
「それじゃあ全然違う世界だな」
「ああ、それでもまっこと楽しき世界ぜよ」
「楽しいならいいか」
「そうぜよ、ほな船乗りさんここでじゃな」
「一旦お別れだな」
そうなるとだ、船乗りも言ってきた。
「じゃあな」
「おう、また機会があったらな」
「会おうな」
「その時にまたじゃ」
「刺身で一杯か」
「そうするぜよ」
「世話になった、お礼だ」
英雄は船乗りにここまでの駄賃を出した。
「受け取ってくれ」
「おいおい、これだけ貰っていいのかよ」
「これだけのものをしてもらった」
大判を人数分、それだけ出しての言葉だ。
「だからな」
「くれるもんは貰っておく主義だけれどな」
「なら問題ないな」
「船の駄賃で大判はないだろ」
それも人数分というのだ。
「あんた随分気前がいいな」
「何度も言うがこれだけのものをしてもらった、酒も刺身も馳走になったしだ」
英雄はさらに話した。
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