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提督はBarにいる。

作者:ごません
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酒保の秘密

 引き続き、明石と事務作業を進めていく。いつも工廠を専門に任せている彼女だが、どうしてもシフトの関係上半年に一度あるかないかの頻度で秘書艦当番が回ってきてしまう。

『忙しいんだから免除するか?』

 と聞くと、

『数少ない提督とのコミュニケーションの時間まで奪わないで下さい!』

 と半泣きでキレられた。そこまで交流が少ない訳じゃないと思うんだがなぁ……ん?

「んだこりゃあ」

「どうしたんです?」

 俺が手にしていたのは資源の備蓄量の収支を載せた帳簿と、出納帳。要するに鎮守府の預金通帳みたいなモンだ。

「いや、それがよぉ……妙な所から毎月入金が有るんだよなぁ。『株式会社A&Oリソース』って会社から、定期的に数千万の金が振り込まれてる。それに、資源の収支報告書も微妙に大雑把な所がある」

「え、そ、そうなんですか?」

 明らかに狼狽える明石。こいつぁ……クサいな。明石の奴め、何かしら知っていやがる。どれ、少し揺さぶってみるか。

「リソースってぇと、元はプログラミングとかパソコン関係で使われてた言葉だな……だが、最近はそれだけじゃなくヒト・モノ・カネなんかの経営資源を指す言葉だったりするんだよなぁ……」

 俺がチラリと視線を送ると、あからさまに視線を逸らす明石。こいつにゃ腹芸は無理だ。素直すぎる。良くも悪くも技術バカなんだよな……若干脳味噌がピンク色になってきちゃいるがな。大淀だとこうは行かない。のらりくらりとかわされて、はぐらかされ、重要な部分の尻尾すら掴ませない。だが、今日は都合のいい事に大淀は出撃しており、夜まで帰らない。突き崩すなら今、だ。

「あぁ~かぁ~しいぃ~、俺に何か隠してねぇか?」

「べっ!べべべ、別に何も隠してませんよ!?何も……」

「……そうか、なら俺も無理矢理聞き出すとしよう」

 俺はニヤリと笑い、明石を追い詰める為の支度を始める。まぁ、時間的にも丁度良いしな。





「うぅ~、ひやわへぇ」

「運が良かったねぇ」

「ホントホント、偶然執務室の前を通り掛かっただけだったのに」

「……でもいいんですか?本当に。これ明石さんの分なんじゃあ」

「いいんだよ、俺に隠し事するなんざ100年早ぇ。さぁ、お代わりもあるぞ!食べたい奴は?」

 俺がそう問いかけると食べたい食べたい!と手が上がる。

「う~……こんなの生殺しじゃないですかぁ!拷問より辛いですよ!?」

 明石は椅子に両手足を手錠で固定され、半べそで泣き喚いている。何で執務室に手錠があるかって?まぁその……色々と使い道があるんだ、色々と。後は察してくれ。

「だから、お前が素直に喋ってくれれば手錠もすぐに外すし、『これ』も食わしてやるって言ったろ?」

 そう言いながら、スプーンで掬って口に放り込む。んー、ちべたい。そして口の中に広がるベリーの酸味。我ながら良くできてると自信を持って言える味だ。

 明石を追い詰める為に俺が採った手。それは、

『明石の目の前でオヤツを食べる』

 それだけ。それだけなんだが、これがまた効果的なんだよな。今日のオヤツは俺特製のシャーベット。最近暑かったし、何より俺が食いたかったんでな。俺一人で食っても良かったんだが、より明石にダメージを与える為にたまたま執務室の前を通りかかっていた吹雪・白雪・磯波・深雪に援軍を頼んだってワケさ。

「それにしても、可哀想ですねぇ明石さん」

 スプーンを咥えたまま吹雪が呟く。

「なんでよ?」

「意地張らないで喋っちゃえばいいのに、喋らないからですよ」

 吹雪の言う事にも一理ある。いずれ決算報告書等をチェックしていれば、遅かれ早かれ露呈していた事だ。それがたまたま今日だっただけなのに、何故こうも頑ななのか?それは、明石の役割がかなり重要な部分を担っているからだろう。




「じゃあ司令官、ごっそさん!」

 満面の笑みで深雪を先頭に吹雪達が去っていく。それでもなお、明石はだんまりを決め込んだままだ。ふぅ……と一度溜め息を吐き出し、明石に掛けていた手錠を外して向かい合うように椅子に腰掛ける。

「なぁ明石、ちょいと世間話をしようじゃないか。……まぁ、俺が勝手に話すから反応するなり無視するなり好きにしな」

 そうして俺はポツポツと、明石の隠し事に関する推論を述べ始めた。

「なぁ明石、俺ぁ昔から疑問だったんだよ。明石の酒保で提督のみが受けられるサービス……『資源の購入サービス』って奴がよ」

 明石の酒保では、資源を買う事が出来る。燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトは元より、装備の開発や建造に使う開発資材や高速修復剤、高速建造材等の艦隊運営に必要な様々な資源を、提督のポケットマネーから購入する事が出来る。まぁ、俺は使った事がねぇがな。

「ある時、俺はふと考えた。『資源購入サービスの仕入れは何処からやってるんだ?』ってな」

 運営用の資源を集める手段は主に3つ。大本営からの定期補給か、任務達成の報酬として大本営からの支給か、自ら遠征を組んでかき集めるかだ。大本営も専用の油田や鉱山を確保して定期補給や任務の達成報酬に使っているらしいが、定期補給は資源の少ない新米か資源の枯渇した貧乏鎮守府に優先的に回されるし、任務達成の報酬として配られる資源の量も膨大だ。とてもじゃないが明石の酒保で販売できる程の量が確保できるとは到底思えない。となると、別の資源獲得方法が在ると見るのが普通だ。

「そこで出てくるのがコレよ」

 俺はそう言って紙の束を振って見せた。さっき俺が不審な点を見つけた収支報告書だ。

「この収支報告書な、途中までは小数点以下までキッチリ書かれてたんだが……ある時を境に書き方が変わって小数点以下まで書かれなくなってんだよ」

 例えば艦娘の機関の燃料となる重油。遠征の報告書等では獲得した重油を幾つ、と記入するがこの時の1単位はガロンで統一されている。

「このガロンって単位が曲者でな。1ガロンは約3.8リットル……ちょいと中途半端なんだよな。それに、資源採掘現場じゃあ容器に詰める時に少し上乗せして詰めて寄越す事になってる」

 これは瓶詰めされた酒なんかにもよくある話で、実はラベルに書いてある容量よりも数ml多くいれてあるんだ。多い分には文句を言われる事はほぼ無いし、周りと比べて少なくても規定の量はクリアしておく必要がある為だ。

「大淀の奴は細かくてなぁ。余剰分なんぞ言ってみれば向こうのサービスなんだからそのままにしとけ、っつったんだが細かく解りやすい単位に直して報告書を上げてたんだよなぁ……しばらく前までは」

 ちょうど報告書の書き方が変化し始めたのが、例の『A&Oリソース』から金が振り込まれるようになった辺りからだ。これが関係ないと言われても、ハイそうですかと信じられる程、俺も馬鹿正直な脳味噌はしていない。

「この際だからハッキリ言おうか、明石。お前……大淀と組んで余剰資材の横流ししてんだろ」

 ビクリ、と身体が僅かに反応した。ビンゴか。

「A&Oの名前を見てピンと来たぜ。明石と大淀でA&Oは安直すぎるだろ、いくらなんでも」

「はぁ……そこまでバレたんですか。なら隠しておく必要性は無いですね」

 漸く、明石も喋る気になったらしい。





「最初は、大本営経理部主導の互助会のような形でした。お互いにお互いの鎮守府に余っている資材を融通し合って、円滑な艦隊運営が出来るように……と」

「成る程、それで発注してから暫く時間が掛かるシステムだったのか」

「えぇ、まぁ。提督さん達に購入してもらった資金を財源にして、倉庫の手配や護衛艦隊の手配なんかもしてました」

 横領などをするつもりはハナから無く、あくまでも互いに互いの鎮守府の不足を補う目的だそうだ。

「まぁ、今や規模の大小を考えなければ鎮守府の数も万を超えるからな……塵も積もれば、って奴か」

 昔、某アニメのテロリストが軍資金集めの為に同じような事をやってた気がするぜ……確か、アニメ内だとネットバンキングのやり取りで発生する一円以下の金を日本中からかき集めて、一日に数百万~数千万の金が生まれるようなシステムを構築してたっけ。しかし、良くできたシステムだ。

「ま、横領なんて変な気は起こすなよ」

「……え、それだけですか?」

「当たり前だろ?どうせ余り物だ。倉庫で腐らせとくより役に立つ所に回す方がよっぽど有意義だろが」

 ホッと胸を撫で下ろす明石。

「ただし、今後はこういう隠し立ては無いようにな?次は首が飛ぶぜ?」

「ど、どっちの意味で?」

「……さぁて、どっちだろうなぁ?」

 青ざめる明石にニヤリと笑って見せて、俺は書類仕事に戻った。 
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