戦国異伝供書
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第二話 百姓の倅その十二
「険しい山全体が城になっていてな」
「そこを攻めるとなりますと」
「容易ではない」
「やはりそうですな」
「そうじゃ、だからな」
それでと言うのだった。
「美濃の有力な家老達を引き込もうとも」
「問題は」
「あの城じゃ」
稲葉山城、この城だというのだ。
「あの城を攻め落とさねば話にならんわ」
「あの城を攻めようにも」
「足がかりも必要じゃが」
「その足がかりを築くにも」
「中々厄介じゃ」
伊勢を手に入れ美濃を攻める時になっても悩みはあった、だがそれでも木下はこう丹羽に対して言った。
「しかしその厄介なことも」
「何とかなるか」
「為せば成るかと」
「また強く言うのう」
「しかし実際にです」
「やろうとせねばじゃな」
「何も出来ませぬし」
木下は丹羽にさらに話した。
「何があろうと攻め落とせぬ城もないですな」
「うむ、あの城は殿の義父である道三殿が築かれたが」
「あの方がこれ以上はないまでに堅固に築かれましたな」
「そうじゃ、しかしな」
「決して攻め落とせぬかといいますと」
「それはない」
決してとだ、丹羽も述べた。
「お主が言う通りな」
「左様でありますな」
「そう言われていて攻め落とされた城も多い」
「この戦国の世においても」
「だからあの城にしてもな」
「攻め落とせますな」
「それが出来る、このことは確かじゃ」
こう木下に話した。
「実際にのう」
「それでは」
「うむ、しかし容易に攻め落とせぬことも事実」
「尾張もそうですが美濃も川が多いですし」
「それじゃ」
まさにとだ、丹羽は木下に述べた。
「それがまた厄介なことじゃ」
「川があの城の守りになっていて」
「中々城に進めぬ様になっている」
「やはりそうですか」
「険しい山のうえ幾つもの川に囲まれておって」
「まことに攻めにくい城、なれど」
木下はここでまた言った。
「やはりそれでもです」
「うむ、攻め落とせるな」
「ここは知恵を使えば」
「知恵か。そういえば猿お主は頭が回る」
木下はこのことで知られている様になっていた、それで織田家の中では平手、林、佐久間、柴田に続くまでになっている丹羽も言うのだった。
「だからな」
「ここはですか」
「知恵を出せるか」
「そしてここで知恵を出して城を攻め落とせば」
「お主も織田家の重臣になるぞ」
「そうなりますか」
「うむ、万石取りにもなるぞ」
そこまでの者になるというのだ。
「働き次第でな」
「万石ですか」
「そうじゃ、お主にしてもな」
「それは有り難い、では何としても」
「城を攻め落とすことをか」
「考えていきまする」
こう丹羽に答えたのだった、だが笑顔で言ったその後でだった。木下は不意にこんなことも言ったのだった。
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