戦国異伝供書
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第二話 百姓の倅その十一
「猿、お主よくぞな」
「よくぞといいますと」
「そこまで考えられるな」
「美濃のことまでですか」
「先の先のことまでな」
「いえ、美濃まで手に入れればもう二百二十万石、五万以上の兵を普通に持てるのでそこから上洛も」
「何とっ」
大学は驚いた顔になっていた、その顔で木下に言うのだった。
「上洛までもか」
「殿はその様にお考えかと」
「お主もそこまで言うか」
「はい、そうなると見ていますが」
「今川家に勝ったばかりだぞ、尾張にしてもな」
「殿が一つにされたばかりというのですな」
「それでもう上洛か」
驚いた顔のままの言葉だった。
「凄い流れじゃのう」
「ははは、動く時は何でも一気に動くといいますが」
「その勢いが凄いな、しかし織田家も一気に大きくなるな」
「左様ですな、では」
「我等はじゃな」
「その大きくなられる殿を」
「盛り立てていくか、しかしうつけと言われた殿がな」
まさにとだ、大学は笑みにもなって言った。
「今川家に勝ち伊勢や美濃を手に入れられ」
「そして上洛となると」
「大きいわ、やることも増えるしのう」
「手柄も立て放題ですな」
「そこでまたそう言うか、手柄を立ててか」
「はい、城の主になり」
それでと言うのだった、ここでも。
「母上も姉妹も楽になります」
「家族思いじゃのう」
「これまで母上には苦労ばかりかけましたので」
「ああ、お主は今川家にも少し仕えておったな」
「そうしたこともありましたし」
「とかく身を立ててか」
こう木下に問うた。
「家族を楽にさせたいか」
「ずっと貧しい暮らしだったので」
「そうか、そういえばお主白い米もな」
「あれはもう」
「馳走か」
「特にひき米が」
そうだとだ、木下は大学に話した。
「そう思っておりまする」
「そうか、ではそのひき米をな」
「好きなだけ食えてですな」
「母君にご姉妹を豊かに暮らせる様にせよ」
「その様にします」
木下はこの一念で働いていた、そして次第に伊勢や志摩への調略にも送られる様になり織田家が美濃といよいよ全面的に戦になろうという時にだった。
伊勢そして志摩は調略により長島等本願寺の勢力圏以外は織田家のものとなった、このことに木下は清州城において言った。
「いやあ、次はですな」
「うむ、美濃攻めじゃ」
丹羽が彼に応えた。
「それになるな」
「その時が来ましたな」
「美濃で大きな力を持つ四人もこちらに来てくれそうじゃ」
「安藤殿、稲葉殿、氏家殿に不破殿ですな」
「その方々が織田家についてくれればな」
その時はというと。
「織田家が美濃を取ることで大きく進むことになる」
「まさにその通りですな」
「後は稲葉山城じゃが」
「あの城ですか」
「あの城は厄介じゃ」
斎藤家の拠点であり当主の斎藤竜興がいるこの城はというのだ。
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