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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第74話「夢を追い続けて」

 
前書き
―――……これが最後だ。秋十君


ようやく決着。ぶっちゃけ、ただの蛇足でしか(ry
もっと知識と文章力があれば上手くできたんですけどね……。
 

 





       =out side=







「ぉおおおおっ!!」

「っっ……!」

     ギィイイイン!!

 何度も、何度も何度もブレード同士がぶつかり合う。
 ぶつけ合う内にブレードが折れてしまう。
 だが、すぐに予備のブレードを展開し、追撃を防ぐ。

「はぁっ!!」

「くっ……!」

     ギィイン!!ギギィイン!!

   ―――“九重の羅刹”
   ―――“二重之羅刹”

     ギギギギギィイン!!!

 お互いに、僅かにでも“隙”があると思えば技を放つ。
 だが、それは結局相殺され、決定打には決してならない。

「……っ……」

「はぁ……はぁ……」

 そんな攻防を、どれほど続けたのだろうか。
 秋十は既に息を切らしており、桜も平静を保てなくなっていた。

「ッ……!!」

   ―――“疾風迅雷-二重-”

「ふっ……!」

   ―――“疾風迅雷”

     ギギギギギィイン!!

 それでもなお、技に衰えはない。
 桜が編み出した技と、それをアレンジした技がぶつかり合う。
 技の強さとしては、秋十が放った方が上だ。
 しかし、練度は桜の方が高く、また“羅刹”とは性質の違う技。
 秋十のアレンジを以てしても、相殺止まりだった。

「ッ……ァ……!!」

「っ……!?」

   ―――“二之閃(にのひらめき)

     ギィイイイン!!

 二つに重なった一閃が、桜のブレードを捉える。
 二重之閃よりも早く、重なった一撃。
 それは桜でさえ防御以外で凌ぐ手段はなかった。

「ぉおおおっ!!」

「はぁあああっ!!」

 何度も。何度も何度もぶつかり合う。
 秋十はその中でも決して構えを崩さない。
 そして、桜も決して攻撃の手を緩めない。
 崩してしまえば、あっと言う間に防御を切り崩されてしまうから。
 緩めてしまえば、その時点で桜にとって“敗北”となるから。

「ぜぁっ……!」

     ギィイン!!!

「くぅっ……!」

 気合一閃。“水”による回避も許さずに秋十の一撃が桜のブレードを捉える。
 防御の上からSEが僅かに削られる。

「シッ!」

「ッ……!」

     ギィイン!

 即座に切り返し。桜を押していたブレードが弾かれる。
 その際に伝わる衝撃で、夢追のSEが僅かに削れる。

「「ッッ……!!」」

     ギギギギィイン!!

 防ぎ、躱し、受け流し、反撃する。
 “風”による速さ、“水”による柔軟さ、“土”による重さ、“火”による苛烈さ。
 その全てを織り交ぜた斬撃が桜から放たれ、秋十はそれに対応して捌く。
 一撃で足りなければ二撃で対応し、桜の攻撃を凌ぐ。

「(……ダメだ。これでは、ダメだ)」

 だが、途中で秋十は気づく。
 “これではいけない”と。
 確かに堅実な戦法で、秋十にも合っている。
 しかし、桜たちの望んだ“ISらしい”かと聞かれれば、首を傾げざるを得ない。
 何より、夢追の単一仕様能力があまり活かされなくなっている。

「(……やるしか、ないか……!)」

 今までは、飽くまで地上での自分に合わせていた秋十。
 だが、ここからは単一仕様能力を存分に生かした戦い方をする。
 ISがISらしくあるために。

「ふっ!」

「はぁっ!」

「ッ……!」

 振るわれる桜のブレードを、秋十は躱す。
 今までと違い、空中機動で避けた事に、桜もすぐに気づく。

「ぉおおおおおっ!」

「(そう来たか……!)」

     ギィイイン!!

 旋回、ブレード一閃。
 単一仕様能力により、PICによるエネルギー消費はなくなっている。
 その上で、四属性全てを宿し、秋十は攻勢に出る。

「ッ……!」

「はぁあああっ!!」

 桜も単一仕様能力を起動させながら秋十の動きに対応する。
 宙を駆け、燐光をまき散らしながら秋十と切り結ぶ。

「ぜぁっ!」

「はぁっ!!」

     ギギィイイン!!

 燐光が炸裂する。
 だが、秋十はその炸裂による攻撃を躱しながら肉薄する。
 そして、ブレードとブレードがぶつかり合う。

     ギャリィイッ!!

「ッ!!」

「ッッ!!」

 拮抗は一瞬。ブレードは互いの刀身を滑るように動き、お互いに大きく弾く。
 だが、それはお互いに分かっていた事。
 あろうことか、二人はその上で素手で殴りあった。

「「っ……!」」

 殴り、殴られた反動でお互いに離れる。
 すぐさまブレードを構えなおし、再び切りかかる。

「はぁっ!」

「甘い!」

「っ……!」

 ブレードが振るわれる。そしてそれが躱される。
 そのまま反撃が繰り出されるが、それも体を縦回転させる事で躱される。
 空中機動を生かしているが故に、先ほどまでや地上のようにブレード同士が何度もぶつかり合う事はなくなっていた。

「そこだ!」

「ッ……!」

     ギィイイン!!

 寸での所でブレードを躱され、カウンターの突きが秋十へと放たれる。
 即座に秋十は盾を展開し、それを逸らす。

     ガキィイッ!

「ぐっ……!」

 返す刀で桜へとブレードを振るう秋十。
 しゃがみ込む要領で頭を下げる事で桜はそれを避ける。
 だが、同時に放たれた膝蹴りを受け止めるために防御せざるを得なかった。

「タダでは終わらん……!」

「くっ……!」

 防御した際に仰け反った体を捻り、回し蹴りを秋十へと叩き込む。
 ガードはしたものの、それでもダメージが秋十へと通る。

「っ……!」

「ッ!」

 どちらも攻撃を食らった反動で後ろに下がる。
 仰け反った首を動かし、即座にライフルを展開。射撃を繰り出す。
 互いに同時に放った弾は、奇しくも唯一当たりそうな一発が相殺されるに終わった。

「ぉおおっ!!」

 それを認識して……否、相殺されようがされまいが、秋十は次の行動を起こしていた。
 まるで弾かれるように弧を描く軌道で桜へと間合いを詰める。

「っ……!」

 そして、桜も同じように弾かれるように移動。
 秋十の突撃を躱す。

「つぁっ!」

「っ!ぉおおっ!!」

 それは、さながら某七つの龍の玉の戦闘シーンのようだった。
 宙を駆け、ブレーキと同時に突撃を躱し、桜はブレードを振るう。
 それを、秋十は目の前を通り過ぎるぐらいギリギリで躱し、反撃に切り上げを繰り出す。

「ッ!」

「くっ……!」

 さらにそれを躱し、また反撃を繰り出す桜。
 秋十も負けじと反撃を繰り出す。
 だが、それらはお互いの“風”と“水”の効果で決して当たらない。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「っ………」

 互いに一度間合いを離し、呼吸を落ち着ける。
 千日手……という訳ではない。
 どちらも一歩も引けを取っておらず、少しでも油断すれば勝敗が決まる。
 つまりは、気力と意地の勝負であった。
 そして、その点において二人は決して負けそうになることはなく、結果的に千日手に見える程、決め手となる一撃が当たらない状況が続いた。

「はぁ……はぁ……ふぅ~……っ」

「ッ……」

 息を整え、互いの様子を探る。

「(SEはとっくに半分を切った)」

「(こうなれば長期戦は不可能。秋十君もそれを理解しているはず)」

「(短期決戦は桜さんの方が有利。“想起”を使われたらまず長く保たない。……尤も、それは桜さんも同じだけど)」

 既に何度も斬り合い、お互いのSEはあまり残っていない。
 決着をつけるのならば、短期決戦しかないと思考の中で断言する。

「(……やるなら、今しかない。俺の……俺と夢追の出せる、最強の技を)」

「(……来るか。秋十君。……全力で、俺にぶつかってくるか)」

 秋十がブレードを静かに構える。
 間合いは離れており、桜が意図的に間合いに入らなければ当たらない程だ。
 だからこそ桜も冷静にそれを分析する。

「(……四属性関連の技ではないな。共通点があるとすれば、秋十君の二重之閃の方だ。……つまり、瞬時に放つ連撃の類……!)」

 桜もブレードを構え、迎撃の構えを取る。
 ダメージ覚悟の攻撃はしない。それでは秋十の全力を受け止めたとは言えないからだ。
 全力の技を防いだ上で、倒す。それが桜の取った行動だ。
 ……そして、その判断が勝敗を分ける事にもなる。

「……行きます!!」

「っ、来い……!!」

 瞬時加速で一気に間合いを詰める。
 間合いに入るまでの間、桜は何通りもの想定をする。
 どのように、どこから、どれほどの強さで。
 ありとあらゆる推測を重ね、それら全てに対応できるようにする。

「――――――」

 ブレードの間合いまで入るのに、時間にしてもう1秒とかからない。
 だというのに、秋十にも、桜にも、それは何十秒にも伸びて感じられた。

「ッ――――――!!」

 どのような技で来るか、どう対応するか。
 ……それらの考えは、次の瞬間に吹き飛ばされた。

「ぉ、ぁあああああっ!!」

   ―――“二刀(にとう)九重之閃(ここのえのひらめき)

「ッ……!?」

   ―――“九重の羅刹”
   ―――“九重の羅刹”

     ギギギギギギギギィイイイン!!!

 ……勝敗は、一瞬だった。
 秋十の放つ九重の連撃、その二つ。
 そして、対処するために桜が放った九連撃、その二連続。
 どちらも計18連撃なのには変わりない。
 故に、勝敗が決するとすれば。

「が、ぁ……!?」

 一息の間に放たれる攻撃の数が多い方だ。
 桜にとっては後手に回った上に初見の技。
 だからこそ、この一瞬。完全に秋十が桜を上回ったのだ。

「ッ……!!」

「(SEは、削り切れていない……!?しまっ……!)」

 だが、それでSEがなくなる訳ではなかった。
 僅かに残ったSEを以て、桜は技による硬直で動けない秋十へと突撃する。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「ぐっ、くっ……!?」

 反応が遅れた秋十は、まともにブレードを食らってしまう。
 そのまま、地上に向けて押し込まれていく。

「(SEが……くそっ……!)」

 ISとブレードの間に自分のブレードを割り込ませ、何とか引き剥がそうとする。
 しかし、火事場の馬鹿力なのか、なかなか引き剥がせない。

「(なら……!)はぁあああああああっ!!」

 押してダメなら引いてみろ。
 そう言わんばかりに、秋十はブレードを引っ張り、逆に引き寄せた。

「ッ……!」

 一瞬SEの減りが早くなるが、それによって桜の体勢が僅かに崩れる。
 それにより、ブレードがISから離れ、SEの減りがなくなる。

「くっ、ぉおおおっ!!」

「ッッ……!」

 そこからは、ただの取っ組み合いだった。
 お互いに体勢を立て直させないように、掴みかかる。
 その結果、PICがあっても二機は錐揉み回転しながら落下を続けていた。









「ッッ……!」

 その様子を、地上の面子も衛星などから見ていた。
 全員が、現在何のためにこの場にいるのか忘れたかのように、外へと飛び出す。
 トラップなどは全て束が解除しておいたため、誰かが道中で怪我する事はない。

「……見えた……!」

「落ちて来るぞ!」

 まるで流れ星のように、二人が落ちてくる。
 地面ギリギリでお互いに突き放す事に成功するが、もう遅い。
 結局、体勢を立て直す事が出来ないまま、地面に激突した。

「………」

 その衝撃で二機のSEはゼロになる。

「「ッッ……!」」

 二機は待機状態になり、秋十と桜は生身でその場に投げ出される。

「ぉおおおおおおおおおっ!!」

「はぁあああああああっ!!」

 しかし、なお二人は雄叫びを上げて突っ込む。
 手には何も持っていない。つまり、次に繰り出されるのは……。

「「ッッ!」」

 拳の応酬だ。
 既にISでの決着はつき、その結果は引き分けだった。
 なら、勝敗を決めるのはまだ終わっていない生身での対決のみ。
 だから、二人はそのまま戦闘を続行した。

「ぐっ……!」

「っぁ……!?」

 どちらも疲弊している。
 そのため、四属性を宿していても回避は出来なくなっていた。
 桜の攻撃を耐え、秋十が反撃する。
 その攻撃をまともに受けて一歩後退しながらも、すぐに一歩踏み出して反撃する。
 まさに泥仕合。ただ喧嘩のように殴り合う。

「ッ……!」

「やめておけ」

「でも!」

 見かねたマドカが止めに行こうとするが、千冬がそれを止める。

「……殺し合いではない。気が済むまでやらせてやれ」

「………」

 それはもう、決闘でもなんでもなかった。
 ただの泥臭い喧嘩。意地のぶつけ合いだった。

「ぉおおおおおっ!!」

「ぁああああ!!」

 試合や模擬戦、ISによる戦いならば何度も経験している。
 しかし、ただの意地のぶつけ合いによる喧嘩を、二人はしたことがない。
 そのためなのか、回避も防御も疎かになっている。

「っづ……!」

「がっ……!?」

 桜の拳が秋十の腹に直撃する。
 即座に秋十がその手を掴み、拳を放つ。
 だが、桜はそれを躱し……追撃の回し蹴りを食らう。

「ぉおおっ!!」

「ッッ……!」

 後ずさった桜に飛び掛かるように、秋十が拳を放つ。
 それを桜は受け流すように受け止め、顔めがけて拳を放つ。
 秋十も負けじと拳を放ち、双方同時に顔に直撃する。

「「っ……!」」

 そして、同時に地面に倒れこむ。

「っつ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「ぐ……くっ……!」

 よろよろと、二人は起き上がる。
 桜をよく知る者としては、秋十はともかく桜がそんな状態になっているのに驚いた。
 そこまで、秋十は桜を追い詰めているのだ。

「………っ……」

「はぁ……はぁ……」

 疲労を隠せない様子で二人は睨みあう。

「……これが最後だ。秋十君」

「……これが最後です。桜さん」

 息を整え、お互いにそう宣言する。
 その様子は、まるで先ほどのISでの最後の攻防のようだった。

「―――その動きに風を宿し」

「―――その身に土を宿し」

「―――その心に水を宿し」

「―――その技に火を宿す」

 交互にそう呟き、改めて二人は四属性をまとう。

「夢追」

「想起」

 次にISのブレードを展開する。
 ただし、展開するのは生身に合わせた大きさのブレードだ。

「………!」

 その様子を、皆は固唾を飲んで見守る。
 誰も割り込まない。否、割り込めない。
 これは二人が決着をつけるべき事で、誰にも邪魔をする権利はないからだ。
 テロリストとしての桜たちはもういない。
 今ここには、ただ自身の意地を張り続けている二人がいるだけ。

「「………」」

 互いに様子を探り、動かない。
 それは、さながら達人同士の読み合いのようで、僅かにも動かなかった。
 時間にして僅か十数秒。
 しかし、体感では数分、数十分にも長く感じた。

「っ………」

 “ピン”と張り詰められた空気が二人から発せられる。
 並の人間が二人の間に入れば、その空気に中てられて呼吸困難になるほどだろう。
 いつ、どのタイミングで二人が動き出すか、誰にも分らなかった。
 ……否、もしかすれば、付き合いの長い束と千冬にはわかっていたのかもしれない。

「「ッッ!!!」」

 同時に、二人は動き出す。
 同じタイミング、同じ動きで足を踏み出し、瞬時に間合いを詰める。

「ぉおっ!!」

「ぁあっ!!」

 声を上げ、ブレードが軌道を描く。
 お互いに、最大の手数と威力を持つ技を繰り出す。

   ―――“九重の羅刹”
   ―――“九重之閃”

 桜は、四属性全てを宿した怒涛の九連撃。その全力。
 対し、秋十は自ら昇華し続けた神速の九連撃。

「ッ――――――!」

 それを見ている全員が、目を見開く。
 決着がつくその瞬間を、決して見逃さないために。







     ギィイイイイイイイン!!!







 ……一際、大きな音が響き渡る。
 交わったのは一瞬。音は重なり合い、一度にしか聞こえない。
 だが、確かにお互いに九連撃放っていた。
 実際、束や千冬など、一部の面子はちゃんと()()の音に聞こえていた。

「ッ……」

 それは、漫画やアニメにある一瞬の交差を再現したかのようだった。
 お互いにブレードを振りぬいた状態で、二人は背を向け合っている。

「……っ、ぁ……!」

「っ、秋兄……!」

 先に、秋十が声にならない声を上げ、体がぐらつく。
 それを見て、マドカは思わず声を上げる。

「……見事、だ。秋十君」

「ッ……!!」

 だが、先に倒れたのは、桜だった。
 秋十は倒れそうになったものの、罅が入って折れかけたブレードを支えにしていた。

「っ、はぁ……!はぁ、はぁ、はぁ……」

「秋兄!」

 決着がつき、秋十はその場に座り込んで息を切らす。
 マドカはそんな秋十に誰よりも早く駆け寄る。

「っ……マドカ……勝ったぜ。あの桜さんに……!」

 そんなマドカに、秋十はやり切ったとばかりにサムズアップする。

「……意外だな。贔屓目なしで見れば、最後の交差……あれは明らかにお前の方が総合的に上回っていたはずだ。四属性同時使用の熟練度はともかく、扱いはお前の方が上のはず。だというのに、あの攻防でお前は負けた」

「……まぁ、なに。実際にやれば簡単な事さ」

 一方で、千冬が倒れた桜に駆け寄って決着について尋ねていた。
 桜もそれに答えるために仰向けになり、ゆっくりと答える。

「秋十君は俺たちと違って、別の事を同時に鍛えるなんてできない。そんな事をすれば一つだけを鍛えるよりも効率が悪くなるからな」

「……だから、一つだけに絞ったと?」

「だろうな。あの瞬間、確かに四属性を宿していた。だが、それは最低限だ。秋十君は他のリソースを、意地を、想いを、全部“火”に注いでいた。……攻撃特化の“火”に」

 一点特化。それは、まさに一か八かとなる賭けだった。
 特に、桜に対しては一点特化の利点などあってないようなものだ。
 その一点特化の特徴が即座に見破られてしまうのだから。

「だが、その程度……とは言えんが、お前なら対処できただろう?」

 それに千冬も気づいており、その事を問う。

「ああ。……だが、特化させたのは秋十君が研鑽し、極めた技。その技の速度は俺でも対処が難しい。……それが“火”に特化したんだ」

「……そういう、事か」

 詰まる所、“相性”だった。
 十分に速度が速く、その上攻撃特化の“火”を宿した攻撃。
 それは、防御を捨てた分を補って余りある効果を引き出した。
 ……故に、交差した時、九連撃の最後の一撃が、桜へと命中したのだ。

「……それにしても、負けちまったか……俺も、束も、皆も」

「ものの見事にね。なんでだろうね、実力自体はこっちの方が高かった。戦力もトラップで削ったのに結局負けたよ」

 苦笑いしながら束が言う。
 そう。本来なら束たちの個々の実力は相対した相手よりも上だった。
 複数戦だということを考慮しても、不利だったのは秋十達の方だった。

「……意志と覚悟の差だろう」

「……負けてないつもりだったんだがな」

「まずスタート地点が違う」

 桜の言葉をばっさりと否定する千冬。
 どういうことかと桜と束が千冬へと視線を向ける。

「お前たちは、自分たちが犠牲になる事で世界を変える……つまりは自分たちを犠牲にしなくては出来ないと“諦めた”。対し、秋十達はお前たちを救う事も“諦めなかった”。……その時点でお前たちの負けは決まっていた」

「……そうだな……。確かに、そこは諦めていたし、俺たちは秋十君達に負けるのを密かに望んでいた。……既に、決着はついていたのか」

 千冬の言葉に納得したように、桜は呟く。

「……納得したか?」

「……あぁ」

 そう言って、桜は一度目を閉じ、何かに気づいたようにもう一度目を開ける。

「……悪い、ちょっと、眠る……さすがに、疲れた……」

「……そうか。……存分に休めばいい」

「さー君はずっと頑張ってきたからね」

 千冬と束に言われて、桜は再び目を閉じる。
 そして、まるで死にゆくように眠った。

「……マドカ」

「秋兄?」

「悪い、寝る……」

「ちょっ……」

 秋十もそれに続くように気絶し、戦いの幕が完全に降りた。















 
 

 
後書き
疾風迅雷-二重-…“風”を用いた高速機動による連撃。その一撃一撃を二重にする技。

二之閃…二重之閃の上位互換。二撃の間隔がさらに狭まり、本当に二撃が同時に見える早さになった。さすがに完全に同時ではない。

二刀・九重之閃…九重の連撃を、二刀流で二つ同時に放つ秋十の最終奥義。夢追の全力の補助がなければ放てない。


キリがいいので今回はちょっと短め。
次回で後処理をして、尺が足りなければその次にエピローグ……って感じです。
後日談は今のところ予定してません(ネタがない)。 
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