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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第73話「夢追・無限」

 
前書き
―――これが……IS……!俺の、俺たちの求めていた、翼、か……!


そろそろ決着をつけます。
 

 






       =out side=





「………」

 束が打ち上げていた衛星から送られてくる桜と秋十の戦いに、映像を見ているユーリ達は黙ってその行方を見つめている。
 戦闘が終わり、体力回復に勤しんでいるマドカ達の所にも映像は投影され、同じように戦いの行方を見つめていた。

「……秋兄……」

 無意識に、マドカは秋十の名前を呟く。
 どう転んでも、桜はこの事件を終わらせるつもりなのはマドカも分かっていた。
 その上で、勝敗が決するその時まで目が離せないようだ。

「……さー君」

「……桜、秋十……」

 別の場所にいる束と、合流した千冬も目が離せずに映像を見ている。

「……これが、お前たちの望んだ戦いか?」

「……うん。才能に恵まれすぎた天才と、才能に恵まれなさすぎた……けど決して努力をやめなかった非才の戦い。……どんな人にも、可能性はあるって示してほしかった。……ISがどこまでも羽ばたける翼だという証明と共に」

 映像には、弾幕のように遠距離武装で攻撃する桜の姿が映る。
 数々の武装を再現し、その攻撃が秋十を襲っていた。
 だが、秋十はそれらの攻撃を決して直撃はせずに間合いを詰めようとする。
 しかし、AICも再現されている事もあって、それが上手くいかない。
 むしろ、まだ負けていないのが不思議なほど、劣勢だった。

「……押されているが?」

「でも、負けてはいないよ。押されているのは単純に二次移行が済んでないからだね。……それに……」

「それに?」

「さっきの言葉と関係なしに、私も気になるんだよ。この戦いの結末が」

 そう言って、束は映像へと視線を戻す。
 その言葉を聞いて、千冬は少し目を見開いたが、同じように視線を戻した。







     ギィイイイン!!

「ぐっ……!」

 “想起”によって再現された武器に、秋十のブレードが僅かに弾かれる。

「はぁっ!」

「ッ……!」

 その瞬間に桜が肉薄。秋十を吹き飛ばす。
 “飛翔・桜”による燐光からは逃れるように、秋十は動く。

「くっ!」

 直後、ブレードを振るう。
 それにより、AICの効果を切り裂いて事なきを得る。

「(っ……まずいな……)」

 そのまま距離を離すようにしながら旋回し、弾幕を躱す。
 空中での機動力は、桜に遠く及ばないため、それでも逃げられない。

「っ!」

「おっと」

 燐光に囲まれる。
 このままでは、秋十は爆発に包まれてしまう。
 その前に秋十は判断を下す。
 手榴弾を前に投げ、盾でその爆風を防ぐ。
 そして、その爆発によって燐光を払い、燐光の包囲を抜けた。

「くっ……!」

 だが、そうなると背後ががら空きになる。
 それは秋十も気づいており、背後からの桜の射撃を、ブレードで凌ぐ。

「はぁっ!」

「ぐぁっ!?」

 しかし、桜はそのまま旋回しながら秋十に接近する。
 二つ目の単一仕様能力による機動力で、完全に秋十を翻弄していた。

「っっ!」

「遅いぞ!」

「ぐぅっ!?」

 ギリギリでAICの効果を躱すも、桜はその上で攻撃してくる。
 AICの脅威を利用して、完全に秋十の動きを読んでいた。

「っ、っ、ぁああああっ!!」

「ッ!」

     ギィイイイイン!!

 しかし、秋十もただではやられない。
 僅かな隙も決して逃さず、反撃を繰り出していた。
 問題なのは、それでも桜を倒すには至らないということ。

     ギィイン!ギギィイイン!!

「っ、ぁっ!!」

 燐光とAICを警戒して秋十は間合いを離す。
 繰り出される射撃を一部はブレードで弾き、ライフルで応戦する。

「ちぃっ……!」

「っと……」

 燐光で囲んでいる事を秋十は見逃さず、手榴弾で燐光を退ける。
 今度は爆風に巻き込まれないように立ち回ったようだ。

「はぁっ!」

「ぐっ……!」

     ギギィイイイン!!

 しかし、即座に桜は旋回し、秋十へと切りかかる。
 空中での機動力の差で、それだけでも秋十は押される。

「っ……!」

   ―――“五重之閃”

     ギィイン!!

「(捉えられなかった!?)」

「背中ががら空きだ!」

「がぁっ!?」

 そして、咄嗟に放った攻撃の隙を突かれ、まともに攻撃を食らってしまった。

「ッ……まだだ!!」

「っ!」

 だが、その上で秋十は反撃に出る。
 AICで捕らえられないように一刀目でAICの効果を打ち消し、二刀目で切りかかる。

「っと……っ!?」

「ぁあっ!!」

     ドォオオオオン!!

 それを躱す桜だが、避けた先に手榴弾が投げられており、秋十はそれをライフルで爆発させた。もちろん、秋十も巻き添えだが、それを承知の上だった。

「っ!?ぐぁっ!?」

 しかし、直後に燐光が炸裂。その衝撃に秋十は一瞬怯む。
 そして、追い打ちに蹴りが炸裂。秋十は吹き飛ばされた。

「(……完璧に翻弄されている……!ただでさえ厄介な“想起”に加えて、もう一つの単一仕様能力で機動力の差が開きすぎている……!)」

 振り返り、ライフルを乱射。
 しかし、それは簡単に躱されてしまう。
 すぐさま全力で空を駆け抜ける。

     ギィイイイン!!

「っ……!」

 しかし、秋十は追いつかれてしまう。
 空を羽ばたく事において、今桜の右に出る者はいないのだ。

「くっ……!」

 蹴りと手榴弾を使って何とか距離を取る。
 “想起”で放たれる弾幕は少なくなってきた。
 “想起”は他の武装を再現すればするほどSEを消費するからだ。
 また、“飛翔・桜”だけでも秋十を上回っていた事もあり、使用を控えるようになった。

「っつぁっ!!」

 燐光が炸裂すると同時に、秋十はブレードを振るう。
 そうする事で、燐光のダメージを軽減する事ができた。

「甘いぞ!」

「っ、ぐぅ……!」

 だが、それは焼石に水だ。
 燐光もSEを消費して繰り出すとはいえ、“想起”を使わなくなった分、連発して展開できてしまう。そのため、秋十の動きを上回るように桜が動くだけで、秋十は燐光に囲まれていく。

     ギィイイイン!!

「がぁああああっ!?」

 そして、ついに。
 ブレードで大きく弾かれた所に、燐光が炸裂した。
 攻撃が直撃してしまった秋十は、墜落するように落ちていく。

「(か、勝てない……!)」

 “完全に遊ばれている”。そう秋十は確信していた。
 生身でさえあそこまでギリギリだったのだ。
 そこへさらに差が付けられた。普通ならそれが分かった時点で諦めている。
 それでも、秋十は立ち向かった。

「(……まだ、()()()()の単一仕様能力じゃダメか……!本当の力じゃないと……!)」

 ……なぜなら、まだ、“勝機”は残っていたからだ。

「夢追!」

【っ……!】

 地上へと落ちながら、秋十は力の限り叫ぶ。

「まだ、羽ばたけるよなぁっ!!」

【っ……!はいっ!!】

 その言葉を叫んだ瞬間、確かに“変わった”。

「……当たり前だよな。あれだけ経験を積んで、二次移行が出来ないはずがない」

 それを見て、桜も呟く。

「(二次移行……“夢追・無限”か……)」

【どこまで、羽ばたく。夢を追って、無限に!】

「……ああ……!!」

 機体の姿は、あまり変わっていない。
 元よりシンプルな見た目だったが、スラスター部分がさらに“翼”らしくなっていた。
 ……そして、単一仕様が変化していた。

「これが……俺たちの全て!俺たちの、そして桜さんたちが望んだ翼、夢追・無限だ!!」

   ―――“単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)“夢想飛翔”起動

 “バサリ”と、夢追の“翼”はためかせて桜の前に改めて対峙する。

「これが……IS……!俺の、俺たちの求めていた、翼、か……!」

「……行きますよ……!」

 お互いにブレードを構える。
 秋十は空気で感じていた。
 二次移行した事により、桜が出し惜しみなく全力で来るのだと。

「はぁっ!!」

「ぉおおっ!!」

     ギィイイイン!!

 動くタイミングは同時だった。
 まずは手始めとばかりに正面からブレードをぶつけ合った。

「ッ……!」

「っと……!!」

 ぶつかり合いで、互いに一瞬後退する。
 すぐさまもう一度ブレードを振るう。

「(追える!)」

 今までは追いきれなかった空中機動とそれを伴ったブレードの攻撃を、秋十は防ぐ。
 さらにはその上で反撃を繰り出す。

「っ!」

     ギィイイイン!

 ブレードとブレードがぶつかり合い、間合いが離れる。
 お互いにライフルを展開し、射撃を行うが……。

「(遅い!)」

 実弾銃の弾では、秋十も桜も捉える事は出来なかった。
 それほどまでに夢追と想起の機動力は増しており、遠距離武器はほとんど無駄だった。

「………」

「その燐光も……」

 だが、秋十と違い、桜は燐光による攻撃もある。
 それを炸裂させるのだが……。

「慣れました!!」

「ッ!」

     ギィイイイイン!!

 その炸裂による攻撃の合間を駆け抜け、ブレードの一撃をお見舞いした。

「はぁあああっ!!」

「ぉおおおおっ!!」

     ギィイン!ギギギギギギィイン!!

 空中で何度も折り返し、二人は切り結ぶ。

「っ!」

 ただぶつかり合うだけじゃない。
 空中だからこそできる動きでブレードの攻撃を躱す。

「ぉおおっ!!」

「はぁああっ!!」

 まるでバトル漫画のように、空中を駆け抜け、ぶつかり合う。
 お互いの攻撃が直撃することはなく、何度もブレード同士がぶつかる。

     ギギィイン!ギギギィン!ギィン!ギィイン!!

「くっ……!」

「っ、ぁっ!!」

 ブレードがぶつかり合い、くるりとその場で一回転し、それで追撃を躱す。
 空ぶった勢いを利用して体を捻り、反撃の一撃を躱す。
 躱しきれなくなったら再びブレード同士がぶつかる。
 その繰り返しだった。

「っつ……!」

 だが、ぶつかり合いになれば技量の問題で秋十が劣勢になる。

「はぁっ!」

「っ!!」

 僅かに押された秋十を見て、桜は動きを変える。
 ばら撒いていた燐光を炸裂。さらに、それを足場に瞬時加速も発動。
 二重の加速を以って秋十へと切りかかった。

     ギィイイイン!!

「ぉおおっ!!」

「くっ……!」

     ギィイン!!

 だが、秋十はそれを“水”で受け流し、同時に瞬時加速を使った。
 逸らした反動で弧を描くように通り過ぎた桜を追いかける。
 受け流されたことに対処しようとしてスピードが落ちていた桜に追いつく。

「っつ……!!」

「ッ……!」

 燐光が炸裂。しかし、秋十はそれを躱す。
 即座に旋回し、桜へと肉薄。

「はぁっ!」

「ぉおっ!!」

   ―――“二重之閃”
   ―――“二重之閃”

 宙を駆け、交わる瞬間だけぶつかり合う。
 そのため、ぶつかり合う度に超速の連撃が繰り出される。

「「ッッ……!!」」

     ギギィイン!ギギギィイイン!!

 まるで、螺旋を描くかのように、何度もぶつかり合いながら攻防を繰り広げる。
 ぶつかり合う度に重なった金属音が響き、火花が散る。

「(互角か……!)」

「(性能自体は夢追の方が上……!だが、それだけじゃない!秋十君の並々ならぬ努力があってこそのこの力……!)」

 もう一つの単一仕様能力の影響で、ISの性能は夢追の方が上である。
 しかし、四属性の練度や地力が桜の方が上なため、結果的に互角になっていた。
 もちろん、全く同じ動き、力ではないため、このまま千日手になる事はないが……。

「っ……!」

「っ、いつの間にか、ここまで来ていたか」

 視界に映った光景に、二人は思わず動きを止める。
 桜が呟いた言葉も、地上なら届くはずなのに秋十には聞こえなかった。

「【……これが、俺たちの見たかった光景の一つだ】」

「【これ、が……】」

 眼下に映るのは、弧を描いて見える地平線。
 星として丸く見える高度まで、二人は来ていたのだ。

「っ……」

 秋十は息をのんだ。その光景があまりにも壮観だったからだ。
 今まで、映像越しにしか見たことがない光景。
 それを、ISを纏っているとは言え、肉眼で見る事が出来たのだから。

「(……今まで、ただ“桜さんたちの夢”と捉えていたけど、桜さんたちの気持ちが分かった気がする。……この光景は、凄い……)」

 決して見通せないほど広がる(そら)
 眼下に広がる地球。
 無限に広がる“未知”を前にして、秋十は桜と束がなぜ宇宙に憧れたか理解した。

「(そして、この光景を見るための“翼”が……ISか)」

 言葉に言い表せない、感慨深いモノが秋十の胸の内を駆け巡る。
 一体、桜や束はこれを実現するまでにどんな思いをしてきたのだろうかと、秋十の脳裏にそんな考えが浮かぶ。

「(でも、今は)」

 だが、それは今の状況では雑念になりかねないと断じ、頭の隅に追いやる。
 秋十は改めて桜を見据え、ブレードを構えなおして対峙する。

「【夢を追い続け、かつての憧憬を想い起こす。……桜さんと束さんは、そんな願いを込めて俺のISを生み出したんですね】」

「【……ああ。……秋十君。君が俺たちの想いに共感してくれて嬉しいよ】」

「【まだ一欠片程度、ですけどね。……では】」

「【再開しようか】」

 プライベートチャンネルによる会話を済ませた直後、張り詰めた空気に包まれる。
 もう、これ以上の会話は必要ない。
 知るべき事、知りたかった事は全て知る事が出来た。
 後は互いの想いと意地をぶつけ合うだけ。

「………」

「………」

 構えたまま、双方は動かない。
 お互いに不用意に動けばタダでは済まないと理解しているからだ。

「っ……」

「……!」

 膠着状態。お互いに相手の様子を探るために、動かない。
 だが、そのままずっと膠着状態が続くほど、二人は悠長な戦いをするつもりはない。

「「ッ!!」」

 故に、状況が動くとすれば、それは同時攻撃。
 同じタイミングで駆け、同じタイミングでブレードを振るう。

     ギィイイイン!!

 空気が薄くなっているため、音が小さい。
 それでも、その音を皮切りに最後の決戦が開始した。

「ぉおおっ!!」

「はぁあああっ!!」

     ギギギィイン!!

 雄叫びを上げながら、二人のブレードが振るわれる。
 空中だからこそ出来る縦横無尽の剣閃がぶつかり合う。
 地力では桜が勝るが、それを夢追の単一仕様能力でカバーする。
 空中機動と燐光による攻撃は、夢追の機動力で対処する。
 秋十の経験から導き出した動きで、的確に桜の動きに対応する。

「はっ!!」

「っ!」

     ギィイン!!

 だが、それでも桜は上回ってくる。
 元より、桜は天才で、秋十は非才の身。
 対処の早さは桜の方が上だ。

「ふっ……!」

「シッ……!」

   ―――“三重之閃”
   ―――“三重之閃”

 同じ技に、同じ技を。
 秋十が放つのを見てから、桜も同じ技で相殺していた。
 これだけを見れば、桜の方が上手で敢えて同じ技で返しているように見えるだろう。

「っ……!」

 だが、実際は同じ技の場合、桜が押されていた。
 それもそのはず。これは、秋十が編み出した技だからだ。
 秋十が編み出し、研鑽し、昇華させてきた。
 であれば、秋十の方が練度が高いのも当然のことだった。
 元々秋十は努力をし続けるタイプなため、さすがの桜でも超える事はできない。

「(なら……!)」

「はぁっ!!」

   ―――“三重之閃”
   ―――“四重之閃”

     ギギィイイイン!!

 同じ技で勝てなければ手数を増やす。
 そう考えて桜は秋十より一手多い技を放つ。

「まだ!」

「ッ!?」

   ―――“二重之閃”

「ぐっ……!?」

 だが、それは結果として悪手となった。
 手数一つ分、秋十は押されたが、それを利用して即座に反撃を放った。
 手数が少ない分、隙が少なかったため、その早さに桜は相殺しきれなかった。

「ふっ、はははは!!」

「(また桜さんの悪い癖……!来る!)」

 同じ技だと押される。そのことに桜は大声で笑った。
 その態度を見て秋十はさらに警戒を高める。
 なぜなら、ここから先は桜も得意分野で来ると分かったからだ。

「まずは小手調べだ……!」

   ―――“羅刹”

「っ……!」

   ―――“三重之閃”

     ギギギィイン!!

 “火”と“土”を宿した連撃に対し、秋十が超速の三連撃を放つ。
 力の差で桜の方が押しているが、相殺自体は出来た。

「ほう……!」

   ―――“九重の羅刹”

 だが、その直後に桜は上位互換の技を出してきた。

「くっ……!」

   ―――“四重之閃”
   ―――“二重之閃”

     ギギギギギィイン!!

「がぁっ……!?」

 ブレードをもう一つ展開し、二刀で相殺しようと試みる。
 しかし、威力を殺しきれずに秋十は吹き飛ばされてしまう。
 幸いなのは、吹き飛ばされた事で直撃しなかった事だ。

「まだまだ!」

「ッ……!」

 追撃を桜は繰り出してくる。
 すぐさま体勢を立て直した秋十は、旋回したその攻撃を躱す。
 しかし、桜はそのまま追ってくる。

「(逃げ続けた所で、意味はない!)」

 空中機動に特化した単一仕様能力を持つ夢追ならば、桜から逃げ続けられる。
 しかし、それでは勝つことは出来ない。
 何より、時間を掛ければ桜は機動力の差を埋めてくる。

「(やってやる……!)」

 秋十の手札は多くない。
 何せ、手札の多くは桜から教えてもらったものばかりだ。
 通じない手札を使う理由はなく、そのため、使える手札は少なくなる。
 数少ない手札は未だに通じているが、いつ対処されてもおかしくはない。
 ……よって、秋十はこの場で新たな手札を生み出す必要があった。

「……!」

「(あれは……“羅刹”の構え?)」

 秋十が逃げるのをやめ、一つの構えを取る。
 それは、すぐに放てるためにあまり見ることのない、“羅刹”の構えだった。

「(あからさまな“羅刹”の構え……何を……?)」

 桜に“羅刹”は通じない。それは秋十もわかっている。
 ……だが、天才である桜は知らない。
 “既知”が“未知”になるその瞬間を、彼は知らない。

「ッッ……!」

   ―――“二重之羅刹”

 それは、言ってしまえばただの“合わせ技”。
 どちらも桜が知り、そして使うことのできる技だ。
 しかし、それらが合わさった事で、桜にとって未知の領域となっていた。
 “羅刹”の一撃一撃が“二重”となり、桜へと襲い掛かる。

「なっ……!?」

   ―――“九重の羅刹”

 咄嗟に桜も九連撃を繰り出す。
 しかし、反射的に繰り出した程度では威力が足りず、桜は一撃だけとはいえ攻撃が直撃してしまう。

「ッ……!これは……恐ろしいな……!」

「(入った!これなら、通じる!)」

 一撃だけとはいえ、確かに直撃した。
 つまり、一時的だとしてもその技は確実に桜に通じるという事だ。
 
「はぁっ!」

「っ……!」

「くっ……!」

 しかし、それでも。
 空中での戦い方で差がついてくる。
 いくら秋十が努力を重ねたとしても、それは地上での話だ。
 適応力の差で、空中での戦い方は時間を掛ければかける程桜に分がある。

「(縦横無尽に動く。……俺の力だと、その動きで桜さんに勝つのは難しいか。……でも)」

 それがわからない秋十ではない。
 そして、対処ができないという訳でも、ない。

「っ……!」

「………」

 構えなおした秋十を前に、桜は一度攻撃の手を止め、間合いを取る。

「(……空中という状況下でなお、“隙がない”と思わせる構え……!これは、簡単には攻撃できないぞ……!)」

「(こんな状況を想定していなかった訳じゃない。対策が必要だろうと、今までの特訓を経てきた俺なら普通に考えつく。……でも、有効な手段が思いつく訳にもいかない俺には、これしかない)」

 言葉で表すなら、それはただ単に地上での構えを空中にアレンジしただけ。
 だが、実際に隙をなくしてその構えをするのは並大抵の技量ではできない。

「(だが、まぁ……)」

「(……だけど)」

 お互い、リンクしたように同じ事を考えた。
 そして、すぐに次の行動を起こす。

「(それでも、俺は攻める!)」

「(それでも、桜さんなら攻めてくる!)」

「「(なぜなら、それが天才(強者)たる所以だからだ……!)」」

 弱者の工夫や細工など、叩き潰してこそ。
 秋十が弱者かどうかはともかく、その信念に基づいて、桜は突撃する。
 非才である秋十が挑戦してきているのだから、それを正面から叩き潰す気概でなければ、天才など名乗れるはずもないと。そう言わんばかりに。

「ぉおおおおおおっ!!」
 
「っ……!」

     ギィイイン!!

 桜のブレードが秋十のブレードで逸らされる。
 重く、鋭い一撃。しかし、秋十の構えは崩れない。

「(生身の時から戦闘続きで、長期戦はどの道不利。なら、出し惜しみなく俺の全てをぶつけていく……!)」

「ッ……!」

     ギィイン!ギィイン!!

 秋十は長期戦は気力が持たないと判断し、四属性を宿す。
 それに応じるかのように、桜も四属性を宿す。
 
「くっ……!ぜぁっ!」

「ッ……!」

 防御の上から削られるように、秋十は押される。
 だが、四属性を宿し、二次移行も済ませた秋十もタダではやられない。
 “風”の動きで避け、“土”で受け止め、“水”で受け流し反撃。
 “火”で一撃一撃を強化する。

「ぉおおおっ!!」

「はぁあああっ!!」

 まさに一進一退。どちらも一歩も退かない攻防が続く。
 まともな一撃はどちらも入らず、SEは防御の上から削られていく。

「っつぁっ!!」

「くっ……!」

     ギィイイイン!!

 秋十の一撃に、桜は一度間合いを取る。
 ここまで戦闘が拮抗しているのは、別に実力が追いついているからではない。
 秋十は自らの経験全てを活かして防御を固め、桜はそれに対して防御を捨ててでも全力でぶつかりにいっていた。
 防御を捨てた分と、秋十の“絶対に勝つ”と言う想いと桜の“全力でぶつかる”という想い。その想いの違いが、二人の実力差を埋めていた。

「はぁああっ!」

「っ、ぜぁっ!」

 ただ、ぶつかり合う。
 自分の力の限り。自らの想いの限り。
 どちらも自由に羽ばたきたいという想いは同じ。
 だが、桜は自分たちを絶対悪とする事で世界の秩序を保とうとし、秋十はそんな桜たちを見す見す切り捨てたくないと主張した。
 どちらも正しく、どちらも間違っている。そんな思想のぶつかり合い。
 ……ただの、意地のぶつけ合いが、そこにはあった。

     ギギィイイン!!

「「ッッ……!!」」

 しかし、既に二人は周りの事など無視していた。
 ただ、“相手に勝つ”。そのために力をぶつける。
 空を翔け、ただひたすらにぶつかり合った。













   ―――最後の戦いが、終わりへと向かっていく。

















 
 

 
後書き
夢想飛翔…二次移行した夢追の本当の単一仕様能力。群軽折軸は秋十に合わせて夢追が発現した“仮の単一仕様能力”だったが、二次移行して変化した。“飛翔・桜”と同じように空中機動に補正がかかり、さらに“空を羽ばたく”事に関するエネルギーを自己生成する。

二重之羅刹…二重之閃と羅刹の合わせ技。技としては、羅刹が二重に重なったかのように連撃が繰り出される。 
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