IS~夢を追い求める者~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
最終章:夢を追い続けて
第75話「そして……」
前書き
戦いの、その後。
無理矢理な展開なのは確実ですが、それでも描写できている自信がありません(´・ω・`)
というか、千冬辺りはISで戦う伏線を出しておきながら結局出番なしって……。
なお、展開上千冬は両親を倒して先に進んだ後、秋十と桜が空へと飛び立った事を知ってすごすごと外へと向かいました。
=秋十side=
「っつ……!」
「あ、秋兄!」
目を覚ます。……どうやら、気絶していたらしい。
記憶もちょっと曖昧だ。
確か、桜さんに勝って、その後……。
「……そりゃあ、あんな戦いをすれば気絶するわな」
「ようやく起きたか。馬鹿者め」
「千冬姉」
隣を見れば、マドカと千冬姉がそこにいた。
「ここは……」
「病院だ。まぁ、よくもここまでボロボロになったものだな」
「体の酷使による筋肉の炎症、骨にも罅が入ってるよ」
「うわぁ……」
マドカに俺の状態を記した資料を見せてもらったが、酷いものだった。
……こりゃ、リハビリ漬けだな。
「……尤も、ここまでしなければあいつには勝てなかったのだろうが」
「って、そうだ!桜さんは!?」
俺の記憶が正しければ、俺の少し前に眠ったはずだが……!
「………」
「………」
「ど、どうしたんだよ二人とも……」
なぜか気まずそうに目を逸らす千冬姉とマドカ。
……まさか……。
「桜さんに、なにか―――」
「やぁ」
「………」
最悪の事態を頭に浮かべてしまい、尋ねようとした瞬間。
千冬姉とマドカの反対側から肩を叩かれ、思わず振り向こうとして頬に指が当たる。
……これは、よくある悪戯の一つだ。そして、それをやったのは……。
「……心配して損しました」
「いやぁ、はっはっは。中々気づいてもらえなかったからつい」
やはり俺とは違ったらしい。
渾身の一撃を食らったはずの桜さんは、俺よりも早く回復していたようだ。
……“もしかしたら”などと考えた俺が恥ずかしい。
「まぁ、うん。隠れてたから仕方ないと思うけど、まさか秋兄が気づかないまま話が進むとは思わなくて……」
「道理で目を逸らした訳か……あー、恥っず……」
よくよく考えれば、あの時使っていたブレードは刃を潰していたものだ。
いくら俺の一撃をまともに食らったとはいえ、それで桜さんが死ぬとは思えない。
いや、一般人だったら普通に致命傷を負ってただろうけどさ。
「秋十は普通だとして……お前たちの体はどうなっているんだ?束は肋骨に罅が入ったはずなのに、既に常人が2週間安静に過ごしたぐらいまで回復しているぞ。そして、お前も骨に罅が入っていたよな?それも肋骨だけじゃなく、腕にも」
「しかも束さん、箒と戦った後普通に外に出てたよね」
……いや、おかしいだろ。
普通なら動けるようなものじゃ……って、普通じゃなかったな。この人達。
「でも、冬姉も人の事言えないじゃん。どういうことなのさ、治療用ナノマシンもないのに私並の回復スピードって」
「自然治癒が早くなる呼吸法があってな……」
「どこの漫画なのさ」
……うん。やっぱり千冬姉を含めた三人は色々おかしいな。
スパンッ!
「今変な事を考えただろう」
「怪我人相手にも容赦ねぇ……」
出席簿ではなくカルテで千冬姉は俺を叩いた。
「というか、なんか千冬姉、不完全燃焼っぽくないか?」
「あー、それな、千冬は俺たちがISを使った際に対抗しようと想起に乗るつもりだったんだが―――」
「それ以上言うと治療期間をもう一週間延ばすぞ?」
桜さんの言葉に千冬姉が脅すように言う。
しかし、面白そうに顔をにやけさせた桜さんの言葉は止まらなかった。
……安全より愉快を取るのか、桜さん。
「―――結局、乗る必要がなくなっでっ!?」
「うわぁ……煙が出てる……」
俺以上に強く叩かれ、叩かれた場所から僅かに煙が出ている程だった。
「んん゛。まぁ、この不完全燃焼は後々お前たちに何とかしてもらうさ」
「だってさ、桜さん」
「だってさ、桜さん」
「秋十君もマドカちゃんも息ピッタリだな!?……って、え?マジで?」
「マジだが?」
少なくとも怪我人に対して要求する事ではないだろう。
……でも、桜さんだしなぁ……。
「……ところで、束さんは?」
「ああ、あいつなら、動けるからと私たちが根回しした事の確認に行っている」
「根回し……あぁ、そういう事か」
“根回し”。これは俺たちが桜さんとの決戦に臨む前に仕込んでいた事だ。
俺たちが普通に桜さんたちを止めた所で無意味。
結局は桜さん達が予測した通りになってしまう。
……その事に対する、対抗策だ。
「……俺たちの知らない所で色々やってくれちゃって……」
「こうでもしなければ納得しないだろう?」
「……まぁ、な。さて、どうなってる事やら……」
この分だと、桜さんはまだ知らないらしい。
「っと、そういえば目が覚めた事を他の連中に伝えていなかったな」
「あ、そういえばそうだね」
「さて、覚悟しろよ?」
「えっ?」
千冬姉の笑みに、一瞬俺の顔が引き攣る。
桜さんはどことなく予想できたらしく、苦笑いだった。
「秋十っ!」
「兄様!!」
「ふ、二人とも速いよ……!」
「急ぎすぎ……!」
「大丈夫ですの!?お二方とも!」
鈴、ラウラ、シャル、簪、セシリアの順に駆け足で病室に入ってくる。
前者二人が凄い勢いだな……。
「止められなかったわ……」
「はぁ……はぁ……桜さん……!」
「……無理して走らなくてもいいぞ?」
そして、その後ろから楯無さんとユーリ、箒が来た。
「(鈴は八極拳の影響で歩法の変化で、ラウラは元々身体能力が高いから速かったんだろうな……。それに追いつく他の面子も相当だけど。それと、箒は束さんとの戦いでのダメージが抜けきってないのか?)」
怪我人のはずの俺たちに容赦なく詰め寄ってくるのを見て、俺は現実逃避気味にそんなどうでもいい事を考えていた。
「ストップだ。それ以上その勢いで近づかせる訳にはいかない」
「いやぁ、気持ちはわかるけど皆落ち着きなよ。ここ病院、騒ぐのNG。オーケー?」
「「「うっ……」」」
主に勢いで駆けこんできた鈴、ラウラ、セシリアがマドカの言葉に気まずそうにした。
「ちーちゃん!あっ君!まーちゃん!皆一体何を―――」
パシィイイン!!
「っつ~~~!?」
「静 か に し ろ」
次の瞬間、戻ってきた束さんが大声を出しながら戻ってきたので、千冬姉の一撃が炸裂した。……桜さんにやったのより威力が高い……。
「ちーちゃんひどーい。束さん、怪我人なんだよー?」
「走ってきた奴の言うセリフではないな」
「そこはほら、束さんだし?」
「もう一発いくか?」
「あーそうだった!話が逸れてたね!」
千冬姉が凄んで言った瞬間、束さんは話を無理矢理切り替えた。
……逃げたな。
「束さんたちが待ち構えてるから動向を知らなかったってのもあるけどさ、皆凄い根回しをしてたよね?なんなのさ、あれは!?束さん達がしてた覚悟が半分ほど無駄になったよ!?」
「有言実行しただけだ。念のため悟られにくいように紙媒体で情報のやり取りをしていたが……お前を驚愕させられただけでも収穫はあったな」
「あー……俺は寝てたから知らないんだが、そんなにか?」
「そりゃあもう!束さんが言うのもあれだけど、無理を通して道理にしたようなものだよ!?ずっと牢屋に入るはずが、実質義務さえこなせば刑期が一年ぐらいだし!」
「……は?」
傍から聞けばおかしい事だらけだろう。
やった事自体としては、束さんや桜さんをこのまま牢屋に入れ続ける事が世界としてどれほど損失になるのか伝えただけのようなものだけどな。
感情論に訴えた所もあるが、基本は損益を訴えただけだ。
それによって“無茶を通すための隙間”を作って、そこに俺たちが求める“最高の結末”にするための意見をぶち込んだ。
当然否定的な意見も出てくるが、そこは専門家の協力者に任せて押し通した。
……意外だったのが、案外桜さん達を擁護する意見が多かった事だな。
まぁ、仮にも女尊男卑になって狂った世界を根底から覆したからな。
割合的に男性からの支持が多かったし。
「私も驚きました……。まさか素人目でもわかる程、無理矢理だなんて……」
「何、一度通ったのであればこちらのものだ」
ユーリも事情を知って驚愕したらしい。
まぁ、我ながらぶっ飛んだ考えだったしな。
「あれ?束さん、クロエは?一緒にいたはずじゃ……」
「あ、くーちゃんなら桃花さんの所に行ったよ。ゆーちゃん達とは別の所にいたから、まださー君達が起きたのを知らないからね」
「なるほどね」
桃花さんの所か……。
あの人の事だし、心配しているのをまた抱え込んでいたんだろうな。
「さて、これだけ揃っているなら話しておくか。これからの事をな」
そう言って、千冬姉は切り出した。
これから、俺たちがするべき事を。
まだ確定していない“理想の未来”を確定させるための事を。
「……っと、よし……」
あれから数週間後。
俺はリハビリをしながら毎日を過ごしている。
あの後、千冬姉の話が終わった後に桃花さんやグランツさん、とにかく色んな人が入り乱れる事になって、てんやわんやになってしまった。
まぁ、必要な事は済ませたし、何とか落ち着いて解散。
数日後、改めて全部終わった事を祝ってちょっとしたパーティーを開いた。
参加者は桜さん達を抜いた皆だ。
さすがに事情聴取だとか、色んなやるべき事が残っているから、俺たちだけで開くにしても、ちょっと豪勢に飲み物や食べ物を振舞う程度に収めた。
桜さんや束さんが参加できないのを悔やんでいた顔を思い浮かべながら、それを肴に酒を飲む千冬姉はどうかと思ったが……。
「秋兄、調子はどう?」
「ん、順調だ。鍛えた分、俺も常人より治りが早いらしい」
骨の罅も過度な運動をしなければ普通に動けるぐらいにはなっている。
ちなみに、束さんと桜さんは既に完治していた。
「そういえば、グランツさんが今度新システムに挑戦するんだって」
「ブレイブデュエルのか?」
「うん。なんでも、相性のいいカード同士を合体……みたいな?」
詳しく聞くと、どうやらなのはやその友人のプレイを見て思いついたそうな。
予定としての名前はユニゾンシステムらしい。
「面白そうだな」
「仮想空間なら秋兄も存分に体を動かせるからね。テスターになってみる?」
「どうしようか……」
別になってもいいけど、純粋に遊びたい気もある。
……まぁ、両方やればいい事か。
「……お、早速やってるな。あの人達」
「へぇ、どれどれ……あはは!流石だね!この分だと世界中の技術が発展しすぎるんじゃないの?」
俺たちが見ているのは、所謂ニュース情報。
そこに載っている一つの記事。
……即ち、桜さん達の情報だ。
「桜さん達もそれについては懸念しているだろうから、上手くバランスを取るだろうさ。……というか、世界各国の首脳陣も、頼り切りなのはよくない事ぐらいわかっているだろうし」
結局、桜さん達は皆一度牢屋に入れられる事になった。
と言っても、待遇は他の囚人とは全く違う。
何せ、桜さん達一味は皆ただならぬ技術力を持っているのだ。
それを腐らせるのは勿体無いと俺たちが根回ししたため、その技術を活かせるような設備を用意してもらったのだ。
そして、さらに条件として、世界のためになる発明をすればするほど刑期が短くなるというものをつけてもらった。
「まずはISに使われてたエネルギーなどを活用した、新しいエンジン……。まぁ、環境に優しいエンジンを開発して、大気汚染を抑えようって事か」
「さすがに分かりやすい所から手を付けたね。……というか、これって別に桜さん達じゃなくてもできたんじゃ……」
「“コロンブスの卵”って奴じゃないか?」
皆が皆、それだけISにばかりかまけてたって事だろう。
最近はやっていた宇宙開発も、元々はISの分野だし。
「多分、桜さん達の事だから、このまま地球温暖化や砂漠化とかも解決しそうだな」
「……否定できないのが恐ろしいよ、ホント」
それほどの事をやれば、刑期は一気に短くなるだろう。
「……俺たちに出来るのは、これ以上ない……か」
「……そうだね」
出来る事はやった。その結果がこれだ。
後は、桜さん達を裏切らないように、俺たちも宙を目指すだけだ。
「とりあえず、俺は体を治すのに集中しないとな」
「そうだね」
マドカ達は夢追を含めたワールド・レボリューションにあるISを、完全な宇宙開発用の機能へと変えていっている。
ついこの間までは、桜さん達を止めるために従来の機能だったからな。
「……そういや、白は何やってるんだ?」
「うーんとねー……」
白式の意志であった白。
彼女は最終決戦に参加はせず、ずっと待機していた。
ユーリと深く関わりのあるチヴィット達も待機していた。
その時は、自分たちに出来る事は少ないと言って、ブレイブデュエルの方を手伝っていたみたいだが……
「不思議なんだけど、あいつと一緒」
「兄さんとか……確かに不思議だな。白って確か嫌ってたはずなんだが」
ある意味世界を歪ませた一因である兄さん。
兄さんとの関係は、俺と千冬姉以外は少ししか改善していない。
千冬姉は普段から公平的な厳しさがあるから大して変わらないし、俺も反省しているのが十分に分かったから気にしていない。
でも、マドカや弾たちとはだいぶ気まずくなるようだ。
何せ、弾と数馬以外は女性陣で、洗脳されていたからな……。
反省していると分かっていても、普通に接する事が出来ないのだろう。
これでも、だいぶマシにはなったが……。
「(……時間が解決するのを待つ、か)」
それしかないだろう。
むしろ“気まずくなる”で済むだけだいぶ改善している。
以前は洗脳されていた時期の俺以上に針の筵だったからな。
ちなみに、桜さんと束さんは無関心になっている。
まぁ、元々学園にいた時以外は関わりをほとんど持っていなかったからな。
ただ、反省している事はわかっているため、あの二人にとって不愉快な人間よりは断然扱いがマシな方だ。
「……いや、そんな事ないか」
「え?何が?」
「白の事。この前会った時、なんというか……悪さばかりしていた息子を見る母親みたいな?そんな雰囲気だったんだよな」
「……えっと?」
あ、マドカが訳がわからないと混乱してる。
まぁ、言った俺自身も訳わからない表現だとは思うけどさ。
「うーん、どうしようもない奴だけどしょうがないから面倒を見ているって感じなんだよな、白って。やっぱり、仮にも兄さんのISをやってたから、そういう節があるんだと思う」
「そういうものかな……?」
「そういうものだろ」
少なくとも、桜さんや束さんが見逃している時点で悪い事ではないだろう。
……一応、白がそんな行動をするのに心当たりもあるしな。
「(IS学園を襲撃された時、体張って頑張ってたみたいだからな)」
大方、それで少しは見直したのだろう。
「チヴィット達は……相変わらずブレイブデュエルか?」
「うん。最近はユーリとよくチームを組んでるみたい。なのは達と互角みたいだよ?」
「凄いな……」
ゲーム内でのなのはは何というか……チートレベルの動きをする。
御神流をゲーム内の身体能力で使ってるからな……嫌でも強くなる。
その動きに、ディアーチェ達チヴィットはついて行っているのだ。
……まぁ、元がAIだった分、仮想空間での動き方を熟知しているのだろう。
「そろそろ殿堂入りするんじゃないか?なのはは」
「あまりに強すぎて、特に近接戦の試合では大抵ハンデをつけてるみたいだよ?」
「既にそうなってたか……」
近接戦でなのはに勝てる奴、ほとんどいないんだろうな……。
恭也さんとかは偶にしかブレイブデュエルをやらないみたいだし。
まぁ、参加したらなのはに勝てるぐらいには実力はあるけど。
「さて、じゃあ私は行くね?」
「ああ」
マドカはそう言って部屋から去っていった。
「……俺もさっさと怪我を治さないとな」
人伝にしか情報を見聞きできないのはちょっと不便だからな。
=out side=
「ねーねー、ここはこうしたらいいんじゃないかな?」
「んー?……やべっ、見落としてた」
「危ないねー」
牢屋……とは名ばかりの、実際はただ単に人が普通に暮らせるような部屋の中で、束と桜は机に大量の紙を広げ、コンピュータのキーボードを叩いていた。
「(……全く理解できん)」
二人がやっているのは、世界を発展させるためのアイデアや開発論。
そのため、二人の見張りをしている者がそれを覗いても全く理解が出来なかった。
「っと、修正して……よし」
「後はここを調整して……うん、オッケー」
組み立てていた理論の一部を修正し、それに伴う調整を終わらせる。
本来ならそんなあっさりと出来るはずがないが、ここにいるのは天才二人だ。
これぐらいなら、少し本気を出せば出来てしまうのだ。
「次は……インフラ関連でもするか?」
「そうだね。じゃあ―――」
それからもしばらくの間、桜と束の会話は続いていった。
「ふい~、ひと段落ひと段落」
「頭を使うと甘いものが欲しくなるよねー」
与えられた食事を済ませ、桜と束は一旦休む。
いくら超人的なスペックを持っていても、疲れるものは疲れるのだ。
「……皆、どうしてるだろうな」
「さぁねー。情勢はわかっても、個人の動きまではわからないよ」
以前なら、自前の人工衛星などで確認できたが、今は衛星の機能を止めている。
そのため、二人は秋十達が今何をしているのかはわからなかった。
「何人かは、わかるんだけどねぇ」
「ブレイブデュエルだよね?上手い具合にISと成り代わってくれて助かるよ」
完全な娯楽でありつつも、非常に完成度の高いVRゲームであるブレイブデュエル。
その人気が高まるのは止まらず、既に世界中に知られていた。
それこそ、ISの存在に成り代わるように、話題を掻っ攫っていったのだ。
……尤も、そうなるように桜と束も協力していたのだが。
「うーむ、やってみたい」
「わかるよー。なんたってVRゲーム、だもんね!いいなぁ、私たちも忙しくなかったらやってたのになぁ」
「まぁ、事を運んだ俺ら自身に責任があるからな。やりたいならさっさと次のアイデアを出さないと」
「そうだね」
超人気ゲームであるブレイブデュエルに思いを馳せながら、二人は作業を再開した。
「(俺と束で世界技術の発展に貢献し、刑期を縮める……か。本当、こんな都合のいい案をよく通したな……)」
作業の中、桜はふと思い返すように、秋十達が根回しした事を考えていた。
「(生活面で俺たちを支えるために同行していた人達は、全員が俺たちに脅されたとして最大限まで罪を軽くし、自分から協力していたドクター……ジェイルさんを含め、皆の罪の責任を俺たち二人げ負う形にする。そして、俺たちが技術発展に貢献し、そのサポートを他の皆で行う。……それによって生まれる利益によって、刑期が縮まる……か)」
なんともご都合主義。
そう桜は考える。
「(……ここまで持ってくるのに、一体どれほどの根回しを……)」
そこまで考えて、桜は自然と笑みを浮かべた。
「(“一人でやれる事には限界がある”。……つまり、“一人じゃなく皆”でなら、その限界を乗り越えられる。……俺の示した“道”に気づき、それを成したんだな)」
そう。あの時、臨海学校で秋十に言った言葉。
“一人では限界がある”。それは裏を返せば“一人じゃないなら乗り越えられる”という事を示していたのだ。
故に、秋十は、秋十達は周囲と協力し、人と人との繋がりを辿り、これほどまでに都合のいい状況まで持ってきたのだ。
「(“天才じゃない”からこそ成しえた事……だな)」
“天才”とは、理解できない者に対する蔑称だと、桜と束は考えた事がある。
並外れた才能を持つが故に、周りとの関係を上手く構築できない。
そのため、理解されずに“天才”と称される。
そして、秋十達のように、広い関係を持つ事が出来なかった。
桜と束という“天才”ではないからこそできたのだと、桜は考えた。
「(っと、今は目の前の事に集中しなくてはな)」
思考に没頭していた事に気づき、桜は気を取り直して作業に戻った。
……こうして、二人の刑期が縮まる度に画期的な発明がされる。
その発明品が、世界に大きな発展を齎すのは、自明の理だった。
それにより、経済に混乱が訪れるのだが、それはまた別のお話……。
後書き
次回、最終回です。
正直、無理矢理にまとめただけなので、矛盾点や粗が多い点は非常に多いと思います。
……要点としては、桜と束がやる気を出しさえすれば、また皆で一緒にいられるって所だけ理解しておけばいいぐらいですし。
(ぶっちゃけこういう理論詰めな展開は書けませんでした)
ページ上へ戻る