ソードアート・オンライン〜Another story〜
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マザーズ・ロザリオ編
第262話 文化祭Ⅱ パーフェクトウェイター(執事?)
前書き
~一言~
ちょっとでも速めに投稿できてよかったです! そしてそして、1~2話くらいかな? と予想してたんですが、何やらまだ続きそうだったりします……笑
もう少々お付き合いいただけたら幸いです!
後、お知らせです。261話のタイトルをちょっと変更しましたので連絡をしておきますー!
最後にこの小説を読んでくださってありがとうございます! これからもガンバリマス!!
じーくw
初めての文化祭。そしてクラスの皆と協力し合った喫茶店。それを全力で盛り上げようと意気込んでいたリュウキ。
そして ある程度宣伝をして回り、集客率も間違いなく良いと思える様になった頃の事だ。
……事の重大性? に漸く気付く事が出来たのは。
「……キリト」
「んぐっ、んぐっ……。んん? どうした? なんだか神妙な顔して」
キリトは、パンダキャップを外して、ペットボトル飲料水を口に含み 水分補給をしていた。つまり周囲に来場者の姿が見えなくなった事で、少し休憩していた時である。
「少し思ったんだが、オレ達は、喫茶店のおススメはパンケーキだと宣伝して、お客も来てくれている……」
「あー、まぁ な(リュウキが大体集めてるって感じだけど)。でも良い事じゃないか? アスナだってレイナだって料理は超得意。喫茶店メニューなら朝飯前、どころか五つ星レストランに早変わりだって」
アスナやレイナの料理。それは キリトは昔から大絶賛している。食に関心が殆ど無かったリュウキでさえ虜にしてしまった程の高威力を誰が疑う事が出来ようか。だから決して誇張表現などはしていないと自信満々に言えるのだ。
「ああ、確かに。別にオレも疑ったりしてないし、するつもりも無いよ。2人なら当然だって最初から思ってる。……が、それでも、宣伝してるのに2人とも味を全く知らないのはどうだろう? と思っただけだ」
「………」
ここまで言った所でキリトは大体の事情を察知した。
本当の最初。つまり リュウキと出会ったばかりの頃だから、約3年程前になろうか。
当初のリュウキはあまり興味を示していなさそうだった。SAO、つまり仮想世界だからそれも変じゃないと言えばそうだが、それでも アスナやレイナの料理の味を知った。つまり料理、食事の楽しさを知った今だからこそ、気になって仕方ないのだろう。
「素直に食べに行きたいって言えよ……。別にオレ相手に言い繕う必要なんか無いだろ?」
「うっ……。だ、だが、キリトは気にならないのか? 一度くらい、って全く思わない?」
「思わない、って言ったらぜーーーったい嘘になる!! と言うか、よくぞ言ってくれた! と言いたい」
「ほら見ろ……。だが、持ち場を離れるのはどうかと思う。……だから」
「おう!! 交代交代でな!」
「流石。話しが判るな!」
ガシッ! と互いにがっちり握手を交わす2人。
片方はウェイター、片方はパンダと 客観的に見てみると、なかなか変な感じではあるが 2人には関係のない、と言う事で リュウキは 傍にあった自販機から スポーツドリンクを一本購入すると、キリトに放り渡した。
「味の確認をしたら帰ってくる。それまで頼む」
「っとと、おう。サンキュー! 確認と言わず、堪能して来いよ。オレもそのつもりだ。……って言うより、リュウキと交代で、って言ったが、そろそろ 店側の連中と交代したいって思ってきたよ」
「……あぁ、それもそうか。店に行ったら交渉してみるよ」
「サンキューっ!」
キリトは、リュウキ以上に体力を使う仕事をしている。着ぐるみを着てる客寄せパンダだから当然とも言えるだろう。
リュウキは軽く手を振って 喫茶店の方へと向かっていった。
「やれやれ。まー、リュウキの頼みと言うか、そーいうの結構珍しいし、問題なし! なんだけど……。こっちの方が、結構きついかも」
キリトは、もう1つの置き土産を手の取る。リュウキが持っていた店のプラカードだ。造りが結構凝っているせいもあってか、少々重い。着ぐるみを合わせて更にきつい。
かといって、降ろして 杖替わりにしてるのは不格好だろう。楽してるパンダ、ラクパンダと言われるかもだ。
「……ま、頑張りますかね。ご褒美がでかいし」
キリトは腹を括った。
待っているのは、凄く美味しいパンケーキ。それを楽しみにし、想像でもすればそこまでの苦ではないから。
~喫茶店……?~
がらっ と扉を開いて中へと入るリュウキ。
よくよく考えてみたら、営業中? に店の中に入るのはこれが初めてだ。だから、少々面食らったのも仕方のない事だろう。
「……これが喫茶店なのか」
先程見せてもらった制服とは少々違う気がした。それに『ご主人様~』や『お帰りなさいませ~』等々の芝居がかった台詞も聞こえてくる。
これらは、どう表現すれば良いのか……、と考えていた時だった。
「うっひょーー、リュウの字も来たのか!? ってか、どーして言わねぇんだよぉ! ただの喫茶って聞いてたのによぉ! あれか!? サプライズってヤツか!?」
色々考えていた時 突然、クラインが飛びかかってきた。
「っ、っていきなりなんだクライン。別に隠してた訳じゃなく、オレも……。……こういうのが学生喫茶店なのか?」
リュウキが難しそうに考えていたので、大体察したクラインがそっと耳打ちをした。
「喫茶店には違いないけど、これメイド喫茶ってヤツだ。リュウの字。『お帰りなさいませ~ ご主人様~』ってヤツだ。皆もいってるだろ?」
「………ああ 成る程。そう言えば、確かそう言う名の喫茶店と言うのが都心部にはあると聴いた事が……」
頭の中で合点が一致した様だ。でも 反応がやや面白くないのか、クラインは少し意気消沈。そして、リュウキはレイナがいるから、この手の誘惑には~ や、つい先日のバーベキュー大会ででも、ハイレベルの女性プレイヤー、それも領主であるサクヤやアリシャの誘惑も何のそのだった事を思い返した。
「ぜーーたくもんだよなぁ! リュウの字は!!」
「っ、だから 何すんだ、いきなり!」
がばっ、と首に腕を回してきたので ぱしっ、と払う。
「へへーんだ! おめーにゃ判んねぇんだよ! ほれほれ、あっちでレイナちゃんら、頑張ってんぞ?? 行ってやれってんだ」
「……何怒ってるんだ?」
「うっせー。とりあえず、ごちそーさんでした! すっげー美味かったよ」
前半怒り気味、後半は食事に(女の子達にも)満足した様で、クラインは帰って行った。
「やれやれ。まぁ、流石に現実で変な事はしないとは思うが、ちと文化祭楽しみがてら、アイツの事も見ておく」
「エギル」
「おう。ご苦労さん。お前さんらはやっぱ大人気だな? 現実でも仮想世界でも。キリトは子供中心でリュウキは女の子達に、だが」
「……はぁ。あまりそう言うの大きな声で言わんで良いから」
ややげんなりとしているリュウキ。やはり慣れない仕事をした為に相応に疲れが溜まってた様だ。
「はっはは。リュウキも食いに来たんだろ? ……これは食べとかなきゃ損ってもんだ」
「エギルもそう思うか。……うん。やっぱりすごいな、2人は」
「何を今更……。一線級じゃねえか2人ともが。全てが玄人レベル。ケチ付けようなんて恐れ多くて出来ねぇってもんだ」
エギルは両手を上げて言った。現実でもダイシー・カフェを経営しているエギルに言われればやはり説得力があると言うものだ。リュウキはニコリと笑いながら 2人を見ていた。
その内、アスナと目が合う。戻ってきた事に気付いて 笑顔で手招きをした。
「ほれ、行ってやれって」
「判ってるよ。……来てくれてありがとな? エギル」
「水臭えって。こんなレベルの高い茶店なら何時でも大歓迎だ。オレ自身の勉強ってヤツにもなる」
エギルはそう言うと、手を上げて出ていった。
リュウキはそれを見送った後に、アスナの方へ。
「お帰りなさい、リュウキ君。お疲れ様」
「ああ、アスナもお疲れ様だ」
「ふふ、ありがとー。さてさて、リュウキ君はこっちに座って? 丁度空きが出来たし、ちょっとした個室っぽいスペースだから雰囲気もあるんだよ?」
「うん? ああ、判った」
呼ばれた理由を聞く間もなく、リュウキは案内されて その場所に座った。一組分のスペースがあり、ちょっとした仕切りがある為、外からは見えず、更に窓際である為 外の中庭にある庭園が一望出来る。良い場所と言った感じだ。
「ふふっ」
「ん?」
外の景色を楽しんでいた時だった。いつの間にか、傍にレイナが来ていたのは。
「お帰りなさいませ、ご主人様っ」
「あ、ああ………」
あまりの突然の不意打ち。アスナは普通の格好(リュウキが知っている制服)だったから 特に意識してなかったのだが、レイナは専用のコスチュームに着替えていたみたいだ。
「も、もー、リューキくんっ、何か言ってよー! これ、結構恥ずかしいんだからねっ??」
レイナは顔を赤くさせていた。
着慣れていない制服に更に台詞。どうやら即興物らしい。事前に決まっていたのであれば、リュウキにも判っていた筈だから。
「悪い。……その、凄く似合ってるから、さ」
「っ……/// う、うんっ、ありがとう、リュウキ君っ。えへへへ、リューキ君は、その……たくさん、たくさん頑張ってくれたから、こちらは私からのサービスになりますっ」
レイナは トレーの上にのせていたパンセットをテーブルの上へと並べた。
「成る程。パンダの形をしたパンだから、パンケーキか。キリトの格好も納得だ」
「でしょ? 形は結構こだわったんだー。味もお姉ちゃんと試行錯誤、だよっ。何でもキリト君が好きだったSAOでのパンの味を~だって」
「……懐かしいな。第1層で食べていた黒パンとクリームか」
懐かしむ……よりも、リュウキはレイナの顔を見て笑った。
「いただきます」
「はいっ、召し上がれ」
レイナはこの一時が大好きだった。
勿論沢山大好きな事はある。一緒に並んで言葉を交わすのもそう、勉強をするのもそう、ALOで一緒にクエストをクリアしたり、BOSS攻略をしたりするのもそう。
そんな中でもトップクラス至福の時がこの瞬間。
美味しそうに、笑顔で自分が作った料理を食べてくれているリュウキを横で見ている事が。
――だが。
そんな至福の時を過ごしていたのに、それをぶち壊してしまう事が起こってしまった。
「ふぅ~~ 結構かわいい子が多いじゃ~~んっ」
「うわっ、マジだマジ、メイドコスもメチャ似合ってんし!」
ガラの悪く、更にチャラい男と言う二重苦な客がやってきたのだ。
こう言う事もありえる、と考えていて 万が一の時は男子生徒達で何とか対応をしよう、と決めていたのだが、材料が切れそうな為、その補給に回り、タイミングが悪く今ここにいる男子はリュウキ以外いなかった。更にエギルとクラインと言ういわば身内も出ていってしまったのもタイミングが悪いと言えるだろう。
我が物顔で 男達は席に座り、注文を取る。
お世辞にも食べ方が上手いとは言えず、下品と言う言葉がピタリと合う様子に他の客も辟易とさせていた。
そんな中で店員の1人を呼び寄せて更に最悪な行為をし始めた。
「なぁなぁ、もっとスカート短くしてよ~ メイドさ~~ん、ほれ、この位」
「きゃ、きゃあっ」
スカートめくりと言う今時小学生もしない様な事もしてきたのだ。
「や、止めてください!」
「良いじゃん良いじゃん、こっちはご主人様だろ~? ご主人様のやる事言う事は絶対ってのが常ジャン~!」
男子達はいない、が流石に度を越えている為 横で接客をしていた女子が割って入った。
「お客さん。止めてください。そう言った要望には応えられません!」
強気、毅然とした態度で拒否をした。
その態度が気に喰わなかったのだろう、手に持ったコップの中身の水をその顔に引っ掛ける。
「きゃあっっ」
「おいおい、その態度はねぇんじゃね? こちとらご主人様なんだぜ? あんまし態度がわりーとよー、調教しちゃうよ?」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら 迫る男達。
「ちょっと! 止めなさいよ。幾ら客でもやって良い事と悪い事があんでしょ? そーいうのしたいんなら、もっと別な店に行けばいいじゃない」
「り、リズさーん……」
強気も強気なのは何も店員だけではない。リズもその1人だ。元々の性格に加え、更に幾千幾万の剣を鍛え上げ、仮想世界で化け物達と戦ってきた経験もあった事も拍車をかけたのだろう。 一緒にいたシリカは……、流石に無理だった様で行けなかった。
「……最低限のマナーも守れないのは客って言えないんじゃない?」
そして 同席していたもう1人のシノンも同じく。普段は大人しい詩乃だが、今回は黙っていられなかった様だ。この喫茶店は 大切な人達が頑張っている。そこをメチャクチャにされたくない、と。
仮想世界で戦いに戦い……きっと強くなることが出来た。あの時、遠藤の要求をきっぱり断り、モデル銃を手に持つ事が出来たあの時から。
「あー?」
「なんだお前ら。なんならお前らがオレらの相手する? まーだ、メイドじゃねぇし、一から仕込んでやるぜ?」
ガタッ、と立ち上がる男達。明らかにリズ達より一回りは大きい体格だ。退きはしないものの リズは『(こりゃ、不味いかも……)』と内心後悔気味だった。
幾ら経験を積み、戦ってきたとは言え それは仮想世界での事だ精神面では強くなれたとしても、如何せん体躯の差は簡単に埋まる筈もなく、気圧されそうになるのも無理はない。
「お、お姉ちゃん! わたし先生を呼んでくるっ」
「う、うん。よろしく。私はあの人達を止めて……っ!?」
レイナとアスナが駆け出そうとした時だった。
本当にいつの間にか、彼らの方へと行っていたのだ。
「当店をご利用なされるご主人様は皆紳士な方でございます。……どうやら、お客様たちはまだその域には達していないご様子。お引き取り願います」
突然の事だった。男達も流石に気付いた様で振り返ると、そこには いつの間にか、ウェイターの格好に着直したリュウキがいた。
「あ?」
「何お前。ここメイド喫茶なのに、なんで野郎がいんの?」
「こちらは、現在 メイド・執事喫茶となっています。……あちらの表示をご覧ください」
指し示す先にあるのは、いつの間にか看板が変わってしまっている表示。
メイド・執事 と言う表示は元々無かった筈だけど、と少し頭に『?』が浮かんだリュウキだったが、噯にも出さなかったのは流石だ。(後々に、追及はすると思うが)
そんな対応をされて、当然男達は和やかなる筈もなく、怒りのボルテージだけが急上昇し始めるだけだった。
「……ナめてんのか、コラ。こっちは客だぞ」
「先程 申し上げた通り、当店でもてなせるのは 紳士な方々でございます。―――申し訳ございません。大変失礼ですが、当店では、お客様方をもてなす用意は出来ません」
止める……にしても、振る舞いは普段とは違うモードに入っている様だ。
だが、楽観的には見てられない。幾ら仮想世界では無敵を誇る男だからと言って、ここは現実世界。ソードスキルも無ければ超人的な動きも出来ない。ましてや相手は2人もいるのだから。
リズを初め、震えていたシリカや、表情を強張らせたシノンは 助けに来てくれた事はとても嬉しい反面、危ないと止めそうにもなっていた。
レイナもアスナも、慌てて駆けつけようとしていた。
だが、そんな心配は……数秒後に消え去る結果となる。
「黙ってろや! クソガキが!!」
こういった手合いの男は沸点が低いのが常。瞬間湯沸かし器の如く達した男の頭は 直ぐに行動へ移す様に身体に命令を下した様だ。即ち暴力と言う手だ。
『っっ』
『リュウキ君っ!!』
思わず思い切り振りかぶって拳を突き出した……のだが。その拳がリュウキの身体に当たる事は無かった。
「お客様。他のお客様方のご迷惑になりますので」
男の左側にいつの間にかいた。目の前の男にとってみれば、見えなかったと言って良いかもしれない。
言葉にするなら 動きは最小限度に、最短を最速で動いただけの事である。
つまり無駄な動きは一切せず、淀みなく流れる様に……。相手だけでなく見ている者もまるですり抜ける様に……って、貴方はいったいどこの武道家ですか? と言っても良い気がする。
「て、テメェ!!」
おちょくられたとでも思ったのか、更に激昂して掴みかかろうとするのだが、それもリュウキは同じ動きで回避。
ただ、今回は 相手に勢いがある為 そのままにしておくとテーブルに突っ込んで滅茶苦茶になりそうだったので、腕を取って捻り上げた。
「ッッ!! あぐ!! い、いててててて!!!!」
鈍い痛みを腕に感じる。痛みと同時に怒りも湧いてくるが、それ以上に感じたのは、このまま腕を折られてしまうのでは? と言う思いだった。怒りが沸いたと言うのに、ほんの一瞬で冷静になり、そう思った。理由は。
『お客様………。他のお客様のご迷惑になりますので………』
声色こそ変わっていない。
だが、明らかにそこには怒気が込められていて、尚且つ冷静。そして冷酷である事を一瞬で感じられた。喧嘩なれし、場数を多少なり踏んでいる男だからこそ……それなりに判る事もあるのだ。
―――この相手は、ぜったいに勝てない相手である。
と。
事実、街中での喧嘩の際に経験がある。今日の様に因縁を付けながら、我が物顔で街中を闊歩している時に、1人の男とぶつかった。勿論、ただで返す訳もなく、胸倉を掴み、数発顔を殴りつけた。
それでスイッチが入ったのか、表情がハッキリ変わった。……冷酷な素顔が見て取れた。
その後は本当に一瞬だった。……倒れてしまったのだ。
本当に一瞬で、顎を撃ち抜かれた。顎を打たれた、と言うのは 周囲にいた仲間達の証言で判った。身体を独楽の様に回した右の鉤爪、即ち右フックを受けた。
仲間の中でもボクシングの経験がある者がいたりした為、更に説得力が増したのだ。
「テメェ! 何しやがる!!」
仲間内の1人が飛びかかろうとした。
当然、そんな掴みあげられている男の様な戦慄を傍から見ていた仲間が感じる筈もなく、遮二無二に掴みかかろうとしたその時だ。
がぽっ! と言う何処となく場違いな音が聞こえてきた。その男は、飛びかかった男の頭に、被り物を無理矢理かぶされた為の音。
「店の中で暴れないで貰えますかっ、……っと!」
「ぶげっっ!?」
それは着ぐるみのパンダの頭部の部分だ。
いつの間にか戻ってきていたキリトが、男の頭にパンダをかぶせた。 泣きそうだった男の子も、パンダを見た事で 笑顔になり、小さな笑い声も聞こえてきた。
「……退出願います」
「ああ。退店して貰おうか。先生達も呼んでもらったからすぐに来るだろうし」
ふっ、と壁に掛けられていた飾りつけ様の白いテープを巻き取ると、両手を縛り、お縄に付かせ。
もう1人の男はまだ暴れそうだったが、視界を完全に塞がれてしまえばどうしようもなく、後は数の理。バラバラと戻ってきた男子陣に取り押さえられた。
静かになってしまっていた店内だったが、それが嘘の様に一気に歓声に変わり―――。
最後のリュウキの一言。
『……お騒がせして申し訳ございませんでした』
と謝罪。勿論、拍手喝采の大嵐である。
そんなちょっとした事件も無事解決した後。
当然ながら、リュウキの周りには人だかりができていた。見事に暴漢をやっつけた上にパーフェクト紳士っぷりを見せて。まるで アニメや映画のキャラがそのまま現実へとやってきた様な、ちょっとしたアトラクションを見せてもらった様な、そんな感じがお客さんの中であふれ出た様だ。
写真を撮って~ から始まり、お話を~ や 連絡先を~ そして サインまでねだられる様になったりもしていた。 後からの立役者のキリトに関しては、パンダの中身を披露すると言う、夢を壊しかねない行為をしちゃった用だが、それよりも悪いヤツをやっつけたパンダのお兄さん、と子供達中心に大人気になっていた。
そんな人気もひと段落した所で リュウキの手をとって店の裏へと連行。
店の裏――そこは、ちょっとした料理のスペース。いわば厨房にしている準備室内である。
「も、もーー リューキくんっ! あまり無茶しないでよー! しんぱい、しんぱいしたんだからねーー!!」
「わ、悪かった悪かったって。落ち着いて、レイナ」
「お、お、落ち着けないよっっ!! ここALOじゃないんだからねっっ! 回復とか簡単にしないんだからねっ! うぅ…… リュウキくんにもしもの事があったらわたしー……」
レイナがリュウキにしがみついて、胸をポカポカと叩いていた。
心配したんだろう。目に涙を浮かべて、今にも流れそうだった。リュウキはそれを見て、少々苦笑いをしていた表情を元に戻し、出来るだけ穏やかな表情を取って、レイナの頭を二度三度と撫でた。
「心配かけてゴメンな? レイナ。オレは大丈夫だから……。落ち着いて」
「う、ぅぅ………」
少しだけ落ち着けた様で、レイナは叩く手を止めた。
「ほーら、落ち着きなさいってレイ。みーんな大丈夫だったんだしさ?」
リズはいつも通りに戻っている。
あの男達が強引に出てきそうな時こそ、怖気づき気味だったが、何のその。肝っ玉は大したものだと太鼓判だ。アスナに代わってレイナを慰めつつリュウキを見た。
「それにしてもさー、アンタは弱点ってヤツは無いのかい?? 現実世界ででも勇者様~って、話でちょーっと聞いただけで、正直半信半疑な部分もあったんだけど、実際見たらさ。現実世界ででもやっぱ勇者で最強なんですか? チーターなんですか??」
肘をぐりぐり~ と押し付けてくるリズ。
にしし~ と笑っているところを見るとただからかってるだけだと言う事がよくわかる。長い付き合いじゃなかったとしても、大体。
「りゅ、リュウキさん凄かったですっっ、わ、私すっごく怖くて、何にも出来なくて……、ご、ごめんなさい……っ」
「そんな謝る事無いってシリカ。って言うか、リズ力強い、痛い痛い。それに誰が勇者だっての……、変に言わないでくれ」
ずんずん、と突かれる肘はそれなりに凶悪だった様だ。シリカは動けなかった事を悔いていた様だが、逆上した連中に襲われかねなかったから 良かったとも思える。
「…………。……もうっ。馬鹿」
「ん……。あぁ、シノンも心配かけて悪かったよ」
リズの直ぐ横で きゅっ と制服の端を摘まんで伸ばすのはシノンだ。シノンはこの中でも数少ないリュウキが現実世界ででも戦ったのを見た事がある内の1人。能ある鷹は爪を隠すと言う言葉が当てはまるリュウキ。……と言うより、普段 普通にしてたら 現実で戦いに巻き込まれる様な事は極めてレア(嬉しくない)だと言える。
それはそうと、シノンはリュウキが強い事は知っていた……が、やはりレイナ同様に心配してしまうのも無理はない。あのGGOの事件の時がフラッシュバックしそうだった程だから。
それを察したリュウキはシノンにも謝罪をした。
そんな時だ。
「さっきの男達は、先生達が警察に突き出したんだって。何でも他の出店でも迷惑行為をしてたとかなんとかだって……」
「みたいだな。ったく、自分らの周りに相手にされないからって 情けない事すんなよな」
「ほんと皆無事でよかったよね。うー、私 竹刀持ってきた方が良かったかな?」
「……スグ。それは止めとけって。補導されるかもだろ」
「わ、判ってるよー。じょーだんじゃんっ!」
アスナとキリト、リーファが帰ってきた。
3人は、事の顛末を見届ける為にと状況の説明をしに出ていたのだ。リュウキも行こうとしたのだが、心配している面々を前に出ていくことなど出来る筈もなく、お留守番だったのである。アスナは 皆を見ると手をぱんぱん、と叩いて注目を集めた。
「さて、見事にやっつけて、クエストクリアー! 大団円に突入~ って言いたい所だけどー。リューキ君?」
「………はい」
アスナの視線が鋭くリュウキを捕らえる。
最早、何を言われるのか判りきっているだろう。アスナからはまだ受けていないから。
「助けてくれたのに何だけど、ちょっとばかりお説教の時間だよ。もっともっと安全に取り押さえる事だって出来てた筈なんだからね? クラインさんやエギルさん達も傍にいたし、男子達ももうちょっとで戻ってくる所だったし。……最近はあまり見なくなったケド、あまり無茶ばかりしちゃ駄目だからね?」
「う……、あ、ああ 本当に悪かったよ。心配かけてゴメン、皆。……抑えられなくてさ。皆が危なくなりそうって思ったら。次から気を付けるから」
「はい、よろしい! レイもそれで良い?」
「うん。えっと、……ありがとう。リュウキ君」
皆を代表して、レイナが前に出て 曇っていた笑顔が戻り、リュウキに礼を言っていた。
『皆が危なくなりそうって思ったら』
と言う言葉の意味を深く知っているからこそ、理解できるからこそ、心に強く響く。
例えどんな場所ででも、守れる様になりたい。そう言う強い想いがリュウキにはあるから。幼い頃からずっと頑張ってきたのだから。
『く~ ボクもリューキがカッコよくやっつける所見たかったかもだよー』
『……ユウ? ゲームならまだしも、現実で見たいなんて言わないの。皆無事でよかった、それだけで良いの』
『はぁーい、姉ちゃん……(ねーちゃんだってぜーったい見たかった筈だよねー?)』
『……何か言った?』
『な、何でもないよーー』
ケタケタと賑やかになるのはアスナの肩にいるユウキ、そして連動する様にレイナの肩にいるランだ。丁度 検診の時間だった為、暫く留守にしていて、事の顛末を知ったのは、ユウキが最初だった。
『リュウキお兄さん。ママがお説教してくれたので、私の方からは何も言いません。無事でよかったです』
アスナとキリトの愛娘、ユイもここに来ていた。丁度、VR世界でユウキの頭の上にいて、少し頬を膨らませていたりもしていた。アスナが言わなかったらきっとユイが言っていた事だろう。
その後は、殆ど同時に皆が笑顔になった。
心から安堵している様にも見える。
それだけ皆が心配してくれてる事に嬉しく思いながらも、やはり心配させた事を快く思わない面もある。本当に良い仲間、友達に囲まれて幸せを感じ、そして反省をするのだった。
「リューキくんっ! お詫びに何か御馳走してもらうんだからねー。と言う事で、時間が出来たから、私と一緒に校内を回って!」
「ん。良いよ。元々文化祭は初めてだから、色々見て回りたかったんだ。……レイナと、な」
「……ぅ、うんっ! 行こっ リューキくんっ!」
その後、少々皆に 後ろ髪を引かれる様な思いがあったりもするのだが、皆とは別行動を取る事になった。
リュウキの手を引き―――2人で初めての文化祭を満喫する。
レイナは心躍る気持ちだった! ……の、だが……。少々暗雲立ち込める展開になるのはこの直ぐ後の事だった。
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