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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第261話 文化祭Ⅰ キリパンダとマスターウェイター

 
前書き
~一言~

早めに投稿できてよかったですっ!! 因みに、今回のお話…… 勿論元ネタがあったりするのです! バレるかなぁ……? と少々ドキドキしたりも…… 苦笑

作者であるじーくwの思い出は…… ただただ、こき使われただけで(運動部だったから……) しんどかったーー!! って思い出しか浮かばないのです 苦笑


 それは兎も角、この小説を読んでくださってありがとうございます! これからも、ガンバリマス!


                            じーくw 

 
 突発的に始まった第28層のBOSS攻略。

 まるで 盛大なバーベキュー大会の後と言う事で、食後の良い運動だった。と言わんばかりにBOSSをあっという間に屠ってのけたあのレイド・パーティには 本当に脱帽ものだ。

 その話題はアルヴヘイム中を駆け巡り、行く先々で称賛された。

 以前いざこざがあった新生アインクラッドのBOSS攻略専門のギルドの者達も次の層こそは……と闘志を密に燃やしていたそうだが、初見で攻略されてしまったのを見て大口開けて ぽかん、としていたに違いないだろう。なにかクレームを言おうにも そのメンバーの豪華さを見てみれば、黙して語らず、触らぬ神に祟りなし、が一番賢い選択だと判る筈だ。多数の種族のトップが集まったパーティに誰が好き好んで喧嘩を売るだろうか、と こちら側も判るから。


 そしてその後 たて続けに攻略すると言う意向が決まり、次回の29層のBOSSは 今度はスリーピングナイツのメンバーだけで攻略をすると言う事になった。


 少なからずプレッシャーを感じるのはアスナとレイナであり、仕事の関係上、指定した時間でのリュウキが参戦不可となって益々プレッシャーを感じてしまう。でも、姉妹揃ってお互いにおんぶにだっこ状態では笑われてしまう、と強く思ったからこそ出てくる力があって、それが多少は嬉しい誤算だった。


 そして、プレッシャーがそれなりにあった第29層のBOSS攻略。
 見事に初見で討伐する事が出来た。


 同じくしてその日の夜に、今度はレイナとリュウキのログハウスで盛大な打ち上げを行った。
 腕によりをかけて振る舞うレイナの料理には皆が感動を覚えて また作ってほしい、次の料理はこういうのが食べてみたい、と矢継ぎ早のリクエストが集中した際には、レイナは困った様な笑みを浮かべながらもしっかりと頷いていた。料理なら任せておいて! と力を入れながら。因みに、自分も負けないぞ、とアスナも腕を振るって振る舞う料理にも全員がノックアウト。

 キリトやリュウキに違った意味での嫉妬をしてしまったのも言うまでもない事だった。





 そして――季節な立春。2月の始まり。




 2月には色んなイベントがある。
 恋する乙女達が想いを込めたチョコレートを意中の男性へ送るバレンタインデーも然り、その手のイベントはALO内でも連動しているから、街中、広場ではちょっとしたお祭り騒ぎにもなっている。




 因みに、キリトやリュウキ達にとって忘れちゃ駄目なのが 学校のイベントだ。








~ 学校 ~



 
 それは昼休みの話。
 

「………文化祭?」
「ああ。2月にな。もう近々あるらしいぞ。アスナが職員室に行った時に先生が話してるの訊いたってさ」

 お昼の弁当も完食した後、キリトの話を訊いて、リュウキは少しだけ不自然に思い、考える。

「そう言うのって突発的に決まるものなのか……?」

 学校に通うのはここが初めてであるリュウキ。
 だから知らない事も多いのだが、基本的に大きなイベント等の開催時期は年間スケジュールで決まっていると思う。数々の企業を相手に仕事をしてきたリュウキは、其々の会社のイベント開催に合わせて調整するのも少なくない。だからこそ 少しばかり不自然に思った様だ。事前に知らされてるのではないか? と。話を訊けばアスナはたまたま先生が話していたのを聞いたらしい。つまりまだ発表されていない、と言う訳だ。ゲリラ的なイベントじゃあるまいし、直前まで(厳密に言えば直前ではないかもしれないが)黙っているのは考えにくいから。

 でも、学校と言うのは こういう感じなのかもしれない……と理解しようと頭を整理し始めた時、キリトは大体悟ったらしく、苦笑いをしていた。

「あ、あー 言っておくが普通の学校は大体決まってるぞ? 大きなイベントって。体育祭とか文化祭とか修学旅行とか、コースによってのインターンシップとかさ。この学校は次世代学校のモデルケースって言われてるだけあってかなり充実してるけど、正直な所、設備以外は急ごしらえって感じだし、その手の一般的な学校のイベントは後手後手になってるんじゃないか? 後は生徒達の希望や要望みたいなのが集まって決まったって言うのもあるかもしれないな。学校のイベントと言えばベタだけど人気あると思うし」

 いつも楽しく過ごせているから忘れがちになるが、この学校は表向きはSAO事件に巻き込まれ、学校に行けなかった生徒達を援助する為のもの。そして 社会復帰の際に危険性があるかどうかの有無を確かめ、かつカウンセリングを行う施設と言った役割をもつ一般的な学校とはやはり違うのだ。
 だが、日ごろの生徒達の学習意欲や活発的な行動のそれは年頃の学生と何ら遜色ない。

「私は要望があったーって言う方があると思うなー」
「うんうん。だってさ。やっぱり学校なんだから。勉強も大切だけど……、他にも沢山楽しい事だってあるでしょ?」
 
 ひょこっ、と顔を出すのはアスナとレイナ。職員室で訊いた張本人たちだ。

「うーん。成る程……そう言うもの、か」

 リュウキは 難しそうな顔をして 理解を深めて~ としている内に、レイナがすっと傍によって、その固く結ばれた口許に狙いを定めて手を伸ばした。伸ばした先は両頬。『えいっ』と掛け声1つして、つまんでぐにっと広げる。

「ふへぇ……?」

 素っ頓狂な声。リュウキにしては珍しい場面だ。リュウキは顔をあげてみると、そこにはレイナの笑顔があった。リュウキの表情が和らいだ? のを確認するとレイナは手を放す。

「もー難しく考えないのー。楽しいイベントが待ってるって事だよ。だって折角の学校だもん。リュウキ君も楽しまないと、だよ? 判った??」
「………ふふ。そうだな。初めての経験になるんだ。全力で、楽しむよ」

 ニコリと笑顔で返した。それをレイナの隣で見ていたアスナは笑う。

「あははは。訊いたからねー、リュウキ君。準備とか役割とか、ものによっては結構大変だったりするからね。キリト君も覚悟しといてよ?」
「……なんだかアスナ、その言い方は 色々と知ってる様な感じがするんだけど……」
「気のせーだよ? キリトくんっ♪」
「……レイナも何だか怪しいぞ」

 そこはかとなく、嫌な予感がするのはキリト。
 職員室で訊いた……とだけしか自分達には訊かされていない。ひょっとしたら、何をするのかまで訊いているのではないか? と思えてしまうのだ。或いは 準備期間を考えたら もう候補が大体決まっている、とか。

「何をするにせよ。其々に役割、分担があるのなら全うする。大体の基本だ。任せられたんだから」
「あー……。うん。苦手分野とかあっても知らないからな? ほら、リュウキは目立つのとか苦手って言ってたし。司会進行役~とか、皆を引っ張るリーダー、とか。ゲームのクエストの際はよく突っぱねる事あるけど、大丈夫か?」
「……ま、まぁ 確かにそう言われれば思う所はあるが、流石にこの学校内では だいじょーぶ……と、思うぞ。(……多分)」
「(多分って言ったな……) はは。ま、安心しろって。オレも手伝うから」
「手伝うから、って それは当たり前だろ……。クラス一丸となって、が基本だと書いているぞ」

 リュウキが見せたのは 素早くチェックした文化祭と言うイベントについて主な内容一覧だった。話してる間も片手間でしっかりと調べていた様だ。
 
「あはは。うん。頑張ろうね? 皆」
「凄く楽しみになってきたよー」

 アスナとレイナも笑顔でそう言う。
 そして、今この場に病院関係でユウキやランの2人がいないのが少々残念だとも思っていた。勿論、もう2人は自分達と同じ生徒だから、ちゃんと伝えて、当日はしっかりと来てもらうつもりだ。

 その後、色々と気合を入れて頑張るぞ、と掛け合った後 教室へと戻るのだった。 






 そして――キリトの直感。アスナやレイナが何か知っているのでは? と思った事が正しかったと、直ぐ後で知る事になる。





 普通は何が出来るのかから始まって、候補があり、その中で何をするかクラスで決めるのだけれど、準備期間が少々短くなったと言う事もあって各クラス其々がもう決められていたらしい。 その旨を伝えられた所、少なからずブーイングもあったが、直ぐに皆ノリノリになった。

 うちのクラスがするのは《喫茶店》。

 他のクラスは 《お化け屋敷》だったり、ちょっと大がかりの《アトラクション》だったり、各分野の《発表会》だったり、と種類はかなり多く 来場者を十分楽しませることができるだろう、と思える。

 だが、今はそんな事よりも……思う所があった。

「……妙にアスナ達が楽しそうにしてた理由は これか……」
「……………」

 役割はしっかりと決められていた事だ。希望があった訳ではないのだが、全て決められてた、と言うのは聊かいただけないと思うのは間違いなのだろうか? とも思う。

 キリトとリュウキはウェイター兼宣伝係。

 ユニフォームは殆ど白と黒で彩られて、何故かリュウキは白を中心、キリトは黒を中心に拵えられていた。互いに色で割り当てられた様な気もする。流石に銀色は無かった様だから、白で。……白と言えば自分よりも アスナやレイナの方が、と思ったのはまた別の話。

「わぁー、似合うよー2人とも!」
「うんうん。あー、私お客さんになろーかなー」
「隼人君! 和人君! ほらほら、写真写真! 写真撮ろっ!?」

 クラスの女子の間では 早速着せられて大騒ぎ。
 アスナもレイナもこの時ばかりは、ニコニコと笑みを浮かべるだけに留まっていた。こうなる事が大体予想出来ていたし、何よりも自分達も見るのを楽しみにしていたのだから。

『ふわー、リュウキもキリトも似合ってるよねー』
『とても素敵です』

 アスナとレイナの肩に乗っているプローブから聞えてくる声は勿論 ユウキとラン。予定よりも早めに終わったとの事で、遅れながら参加した様だ。見事にグッドタイミングだった。

『あー、それでアスナとレイナはウエイトレスさんになるのかな??』
『わぁ、それも見てみたいですね。お2人ともきっと似合うと思います』
『あ、ボクもそー思う!』

 ニコニコと笑っていた2人だったが……、自分達もちゃんと選ばれてる事に改めて気付いたらしく、少しだけ笑みが引き攣っていた。

「あ、あははは……。そーなんだよね。うん、ありがとう、2人とも」
「何だか私達、決定事項! って感じで選ばれちゃったんだー。リュウキ君たちみたいにさ。勿論4人だけって事は無いんだけど、あとは募ってた所を見てもなんだかねー」

 男子にも女子にも人気のある2人。ウエイトレスの格好もとても可愛いと評判。なら、アスナとレイナは絶対似合う! 絶対可愛い! と言う事で決まった。素直に褒めてくれる事は嬉しいんだけど、やっぱり恥ずかしいと言うのは彼女たちも同じだ。

 でも――リュウキとキリトの2人がウェイターだから、2人の姿も見れるのだからと最終的にはそこで納得した。

「接客業……。大丈夫、かな。不安しかない……」
「初めての事には何でも挑戦……なんだろ? ……コレもいつもみたいに楽しんで挑戦すれば良いと思うぜ……」
「確かにそうだが、得手不得手はオレにだってある。 …………まぁ、やるしかないか。決まった事だし。それに1人で、って訳じゃないのも良かった……」

 この学校に通う事になったばかりの頃は、やはり今の様にはっきり言ってしまえば挙動不審だったかもしれない。でも、周りの支えがあって、大切な人の支えがあって、今の自分がいるんだ……。と、最後に綺麗にまとめ様としているが、周囲の頼もしいクラスメートたちのニヤニヤと笑ってる姿がどうしても気になる。

「……コレ、遊ばれてない?」
「違う……と思う。いや思いたい。…………いや 遊ばれてるな。きっと」

 そう結論付けてしまうのも仕方のない事だった。



 その後は怒涛のペースで進んでいった。

 準備に必要な資材は 学校側があらかじめ手配をしていてくれた様で、予算面等は問題なく 後は一斉に生徒達全員で準備に取り掛かり、2~3日で大体終わらせてしまった。
 リュウキ自身も、システムと名の付くものなら、何でもござれ、と言う事もあって色んな所に引っ張りだこである。

 合間合間に リズやらエギルやらの指導? を受けてキリトと共に一流(疑)のウェイターに仕上げてくれた。

 それはALO内でもちゃっかり行ってくれて、それなりの感触はつかめたとの事。更に言えば、エギルやリズの店が妙に繁盛しだしたりもして、ウハウハだったとか。 
 因みに、それを見ていたシノンは、当日文化祭に必ず行くことを心に決めつつ、暫くは疑似お客さん名目で2人に付き合った。
 クラインは最初こそは冷やかし~だったのだが、アスナやレイナ、それに容姿面でかなりレベルの高い学校と言う事もあって、下心満載で参加する事を決意。
 リュウキがぼそりと『セキュリティ面は万全だから』と言った途端に慌てだしたのはいつも通りの事。
 リーファもキリトのウェイター姿を見て、顔を赤らめながら行くことを他のメンバー同様に決意。レコンが茶々入れてきそうなので(『リーファちゃんがメイドをしてくれたら~』と言った)鉄拳制裁で黙らせたりもしている。



 いつもよりも少々忙しく感じながらも、来たる土曜日……文化祭の当日を迎えた。 


「文化祭では制服じゃなくて、各クラスで配られているTシャツを着るんだって」
「成る程……。ん、いつもと違った感じがやっぱりするな。……うん。文化祭だって感じがする、と言うヤツかな?」

 制服より断然動きやすい格好だ。空調設備も学校全体に行き届いている為、Tシャツでも全く問題ない。

「今日はがんばろーね? みんな!」
「この日の為に頑張ったんだもんね。校外からもお客さんが沢山来るらしいし、頑張ってもてなしちゃおう!」

 アスナとレイナもやる気満々。
 立ち振る舞いは元々良い所のお嬢様な2人。曰く結城本家での振る舞いを考えたら……との事だ。

「ああ。午前中はオレ達が任されてるからな。……まずは呼び込みからか」

 リュウキが時計を見ながらそう言っている間に、クラスメートの1人、相田 紗希と 神田 由紀がひょいと顔を出した。

「うん! 和人くんも隼人くんも、沢山宣伝してきてね? はい、これ宜しく!」
「ん。了解だ」

 リュウキに渡されるのはプラカード。 喫茶店の字が可愛くデコレーションされていて更にそれなりに大きいから目立つだろう。

 そしてそして、少し大きめの段ボールを持ってきた由紀がにこっ と笑いながらキリトの前に出る。

「目立ったもん勝ちな所、あるからね? 公式じゃ無いケド、売上勝負~ みたいなのもあるみたいだし、和人くんにはコレを着て頑張ってもらいたいんだけど……」
「おう。……ん? 着る? 何それ」

 ひょいひょい、と取り出して、まるで示し合わせた様にアスナと見事な連携で、ささっとキリトに着させたのは パンダの着ぐるみ。


「あはっ、キリト君似合う似合う!」
「だねーっ!」

「…………………」


 本当にあっという間だ。あっという間に着替えさせられてパンダになってしまっていた。
 まるでシステムオブジェクトでも起動させたのか? と思えてしまう程あっという間で、リアクションも遅れてしまったキリト。 最後にパンダの頭を乗せられた所で漸く我に返った様で。

「えええ! マジかよ!? つーか暑いって!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。2月だし、まだ外は寒いから丁度良いかもだよ?」
「いやいや、学校内は何処もガンガン温調効いてるから! 常温でコレは絶対暑いから!」

 色々と抗議してる間に、リュウキにも一声。

「じゃあ、隼人君はウェイターコスで宜しくね?」
「ああ。了解」
「何!? この格差!!」
「外見からだったら、バレないし、ある意味良いかもしれないぞ?」
「あー……それはそうかも、だけど……」
「ちゃんと倒れない様にフォローはするよ。ほら、ガンバレ。キリパンダ」
「誰がキリパンダだ! 次リュウキが着ろよ!」
「……他人が着た着ぐるみを自分が着るのは抵抗があるな。流石に」
「う゛…… ま、まぁ オレもそーだが……。はぁ 仕方ないなぁ……」

 もう早速着てしまっている(無理矢理)から 仕方なし、と半ば諦めモードに入った所で。

『パパっ、とってもかわいいですー!』
『あっははは! キリト似合うじゃーん!』
『ふふ、ふふふ。そうですね。宣伝効果はきっと倍増しだと思いますよ』

 周囲の声も大きくなってきた。
 
「お前ら……。見た目以上にこれ大変なんだぞ?」
『パパっ、頑張ってくださいです! 応援してますっ!』
『あははは! それに今度はさ、ボク達が退院して、こんなイベントがあったら全力で手伝うよー』
『はい。その時は任せてください。お手伝い、頑張りますから』
「……はぁ。当てにしてるよ」

 キリトは覚悟を決めた様で、かぽっ と頭の部分をかぶった。視界は良好らしい。通気性は最悪だが、それはしっかりと横で見ているリュウキに任せる事になった。こんな季節に熱中症はないと思うがケアは大切だから。

「じゃあ、呼び込み宜しくね? 私達はお店の準備があるから」
「私達も準備終わったら合流するから」
「おー、ここまで来たんだ。最後まで気は抜かず、だ。さ、リューキ。しっかり宣伝してくれよ。オレ、この状態じゃ声出しにくいし」
「判ってるって。身体張ってくれてるんだしな。オレもその辺は頑張るから」

 と言う訳で二手に分かれて其々の持ち場で頑張る事になった。


 和人のパンダ着ぐるみ効果、と言うべきか隼人のウェイターコス効果、と言うべきか判らないが、集客面に関しては最初から出足好調。

 極一部のやり取りを抜粋。

「あ、隼人君っ! 隼人君のとこ、喫茶店なんだっけ。行ってみたいなー、どう? そこ美味しい?」
「ああ、勿論おいし……って、悪い。そう言えばオレは食べてなかった……」
「あははははっ、隼人君にしてはうっかりだねー。こうなったら ちゃんと味、確かめてくるよ。隼人君も一緒に食べよ??」
「いやいや、仕事中だから。……楽しんできて。きっと美味しいよ」

 リュウキスマイル炸裂。
 この辺りは、リズやエギルの教え、云々よりも 爺やさんの教育の賜物だったりする。パーフェクト紳士を目指している(らしい)。その穏やかな笑みは、魅惑効果? があったらしく、耐性の無い者には効果はさらに倍増。

「はー………」

 暫く沈黙いてしまう設定。……な訳はない。

「あ、あははは。じゃ、いってみるねー。仕事終わったら私にも付き合ってよー。たまにはさ。レイちゃんばっかりズルいしね? ほら、2人っきりでさ!」
「……レイナが怒りそうだから、2人きりと言うのは勘弁してくれ」
「もー、真面目なんだからー ま、そこが良いんだけどねっ♪ レイちゃんも可愛いし♪」


 等々、こんな感じで客引きはバッチリだ。
 キリトは、『オレの意味ないんじゃない!?』って思った様だが、そこはまだ早い。パンダの着ぐるみは、小さな子供に大人気だから。

 以下、キリトの部分を抜粋。

「あ、パンダさーん! ねぇねぇ、そこのおにぃちゃんがもってるのに、パンケーキってあったけど………、おいしー?」
「………ああ。おいしいよー。とっても」
「ほんとー!? わぁ、わぁー! ママ、たべてみたいよー」
「じゃあ、行ってみようかー」

 大はしゃぎする小さな男の子。 それをほほえましく見送るキリト。母親と目が合ってぺこりとお辞儀をされた。

 ただの客引き……だけど何だか良い気分になってその後、更に精を出したのだった。


 勿論、そこにやってくるのは顔見知りだっている訳である。

「よぉー、リュウの字よ。やってるかー」

 後ろからぽんっ、と肩を叩かれた相手はクライン。そして後ろにはエギルも来ていた。

「見ての通りだよ。繁盛出来てる様で何よりだ」
「みたいだな。ウチの店にもバイトで来て欲しいぜ」
「本業の方が忙しいんでな。無理だ」
「言ってみただけだって」

 リュウキは客引きを、そしてエギルは引き抜きを勤しんでいる時、クラインは周りを見渡す。店の中にも沢山の女の子、可愛い女の子が沢山いて、 いっと全部リュウキの力? で誘われたに違いない! と判断。……勿論、男も沢山いるんだけど、クラインの目には映らない様子。

「リュウキが客引きだもんなー。そりゃー、寄ってくるよなぁ。……そりゃーーよ………!!」
「……何か変な私怨が混ざってる気がするんだが?」
「気のせいだ! こんちくしょー!」

 うぉぉんっ、と泣きながら? 喫茶店へと入っていった。

「あんの馬鹿。……あー、安心しろ。アイツの面倒はオレが見てるから。リュウキ、頑張れよ? オレも太鼓判を押してやる」
「……悪いな。エギル」

 不審者と間違われないか? と心配になったが、エギルもいるし、それにアスナやレイナもいるから大丈夫だろう。


 そして、更に続くのは リズとシリカ。

「よっす。似合ってんじゃん。リュウキ」
「お疲れ様です。リュウキさん。ちょっと寄らせてもらおうかな、と思いまして」

 リズやシリカにはこの件を含めて、色々と世話になっているから、リュウキは 一般客同様に、フランクに接するのではなくしっかりと宣伝をする事にした。

「当喫茶店でのおすすめはこちら、パンケーキとなっております。……時間の許す限り どうぞごゆるりと」

 す、っと頭を下げて手を指し示す。
 突然、雰囲気がガラッと変わって面を喰らった2人だが、直ぐに笑顔になる。

「あっははは。天職だったりするかもよ? リュウキ」
「は、はい。とても素敵でした! これはお客さんも騙されちゃいますよ! リュウキさんの笑顔に!」
「……って、いやいや、騙してはないぞ? アスナ達がいるし、料理メニューに関しちゃ 間違いなく美味しいって。評判も貰ってるから」
「あ、あわわわわ。そー言う意味じゃなくてですね?? え、えとー、そのー、リューキさんがとっても素敵でって事でーー、あ、あわわっっ! わ、私ってば何をっ!❓ い、いや、ウソじゃないんですよ??」
「はいはい。ストップストップ。リューキスマイル~なんて私達には耐性あるっしょ? そんなに慌てないの」
「……なんだよそれ」

 呆れるリュウキと慌てるシリカ、そしてそれを明らかに楽しんでるリズの構図だ。
 そして、リズは一頻り笑った後。

「それでキリトはどうしたの? てっきり一緒にいるって思ってたんだけど」

 リズは照準をキリトへと変えた様だ。
 リュウキは勿論知ってる。

「キリトなら、さっきリーファ、直葉が来てて……ほら、そこ」
「へー、リーファ来てた……んだ?」
「……あれれ?」

 リズとシリカの目に飛び込んできたのは、リーファ事、桐ケ谷直葉の姿と、……パンダの着ぐるみをかぶった人。

 リズが肘でちょんちょんとリュウキの脇の辺りをつつきながら『アレ、キリト?』と訊く。答えるのは当然YESだ。シリカもリズも驚いていたが、直ぐに笑顔になった。

「あーーっはっはっは。似合うじゃーん、キリトぉー」
「あははは、とってもかわいいですよ。キリトさん!」
「うおっ、な、なんだ リズにシリカか……、ビックリするじゃないか」
「おはようございまーす! 2人ともっ。ふふ、お兄ちゃんがこーんな可愛くなってるなんて、ちっとも知らなかったですよー。当日まで黙ってるなんて、ナイスサプライズっ♪」
「……当日に当てられたんだ。サプライズのつもりない」

 あっという間にキリトを囲む。話題性は間違いなくキリトの方が上だな、とリュウキは思っていたが、実績を考えれば殆ど五分である。

「ふぅ……。さて、と。そろそろ交代があっても良いと思うが……ん?」

 喫茶店側を見ていた時、肩をぽんっ、と叩かれた。振り返ってみると、そこにいたのは朝田 詩乃事、シノンだった。

「お疲れ様。リュウキ」
「シノン。来てくれたんだな。ありがとう」
「……勿論、でしょ? あれだけ頑張ってたんだから。私はそこまで薄情じゃないつもりよ」
「薄情って。想っても無いから、それ」

 ふいっ、とそっぽ向くシノン。そして来てくれた事を純粋に喜ぶリュウキ。
 シノンは、前までは どことなく恥ずかしいからと、あまり乗り気には見えなかったのだが、今は違うみたいで少し嬉しかった。
 ……遠くでリュウキが呼び込みをしているのに気付き、女の子も多いのが判って(予想通り)少々早歩きになったのは言うまでもない。
 ふいっ、とそっぽ向いてるシノンに笑いかけながら、身に付けた作法を披露するリュウキ。


「当喫茶店のおススメはパンケーキとなっておりますお客様……。興味がございましたら、一度、お越しください」
「っ………。行く。行くわよ、勿論」
「ありがとうございます。時間の許す限り、どうぞ、ごゆるりと……」


 それを見たシノンは、顔を少し赤らめる。しっかりとウェイターをマスターしてるのだから。尽くしてもらえればどれだけ嬉しいか……とやや邪な考えは 頭から消す。その後は やっぱり 綺堂さんの子なんだなー、と何処か納得出来たりもしていたのだった。


 
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