僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜
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開幕!! 雄英体育祭!!
クラスメイトに優勝宣言してから二日が経った放課後。緋奈は珍しく一人で雄英にあるトレーニングルームにいた。というのも、今回の体育祭は全員がライバルだからだ。
「よし、やりますか!」
更衣室で、ジャージに着替え軽く準備した後、携帯に書き記してあるトレーニングメニューに目を通す。
「えーと、まずは個性の弱点が何のかを探すことから始めようかな」
まずは、『自然干渉』。 『風』に干渉する。 持続時間は5分。 威力の調整は問題なし。
「けど、使用時は無防備になる、か」
個性を消して、緋奈は呟いた。
「次は『具現化』を試そう」
頭の中で『木刀』を思い浮かべ、『具現化』させる。作製時間は5秒。強度も構造も完璧。 軽く振ったり、壁に叩きつけても、折れたり消えたりしない。
「『具現化』は問題無しっと」
木刀を壁に立てかけて、緋奈は呟く。
「あとは『対象の操作』だけど、今はやめとこう。それに、体育祭という舞台で試したいこともあるしね」
緋奈はウンウンと一人納得する。
「さて、弱点となると、個性無視の殴り合いかな。 正直、個性頼りも限界がある。普段は、近づかずに敵の動きを封じる方法で戦ってきたから、爆豪くんや出久君みたいな近接特化型にはキツいんだよなぁ。 近づかれたら、ワンパンされちゃうね」
緋奈にとって一番の弱点は『近接』。 彼の個性、『言霊』は中遠距離を保って戦う事で本来の力を発揮する。 その為、爆豪や出久、切島のような近接向き個性の相手は天敵となる。だからこそ、近づかせないようにしているわけなのだが、戦闘センスが高い者には無駄なことだ。 多少の時間稼ぎにしかならず、『言霊』にも欠点はある。 頭痛というデメリット。 毎5回に頭痛が起こるのは不便といえば不便だ。
だが、今回の雄英体育祭は個性と個性のぶつかり合い。全員が敵で味方はゼロ。それに、万が一、一対一のトーナメント戦などがあったら、嫌でも近接戦闘になる可能性が高い。
『個性』発動ですぐ終わればありがたいのだが、そうそう上手くいかないことぐらい、馬鹿でもわかる。
「仕方ない。本当は嫌だけど、父さんと母さんの戦闘スタイルでも真似するかな」
緋奈は心底嫌そうに呟いて、動画サイトで、両親が敵と戦っている映像を見ることにした。暫くして、動画を見終えた緋奈は、
「ちぇ。両親としては最悪だけど、戦闘スタイルや個性の使い方は凄いとしか言いようがない」
悔しげに呟く。
「うっし。 動画チェックで見た事だし、早速練習と行こうかな!」
ゴキゴキと拳を鳴らした後、大きく伸びをして、緋奈は近接戦闘の練習を始めた。
❶
雄英生徒達が各々体育祭に向けて個性を鍛えたり、肉体を鍛えたりと鍛錬を重ねる日々はあっという間にすぎて、
雄英高校にあるいくつもある大きな行事の一つ、
雄英体育祭が幕を開けた!
❷
満点の青空の下。広大な敷地には数多くの露店も立ち並び、数々のヒーローグッズ等も販売されているが、ここに訪れる者達は、いずれこの露店の商品棚にも並ぶほどのトップヒーローの原石が現れることを期待している。
そんな体育祭だが、今回は前回と違い警備の数が5倍になった。本来なら中止すべきかもしれないが、ヒーローの卵達がプロにスカウトされるかもしれない大チャンスを潰すことは出来ない。雄英の講師陣も苦渋の決断だったはずだ。
警備には、教師であるオールマイトを含めたNo.2ヒーローから、若手のヒーロー達があたっている。
更には、入場検査も前回より厳重になっており、マスコミの行列が出来ていた。 その光景に、
「久しぶりに雄英来たけど、私達の時よりも厳重になってるみたいね」
「ああ、そうみたいだ。まぁ、俺達には関係の無い事だ」
警備の仕事で雄英に来ていた言霊ヒーローのアトノアとカグヤは周囲を警戒しながら歩いていた。 どこもかしこもお祭り騒ぎで心底不快になる二人。
この二人、目立つ仕事に付いていながら、目立つのが大嫌いである。アトノアの方は外面を良くすることは可能だが、カグヤの方は人に関心を持たないため、興味ないことには全く興味なしという態度をとる。
「今回の体育祭で緋奈はトップとれるかしらね」
「知らん。 緋奈の事はお前に任せると言ったはずだ。俺はあいつがどうなろうと興味はない」
「心配しなくていいわね。私達の息子なんだから一位は当たり前よね。できないならその程度の子だったって訳だし」
「そういう事だ。 行くぞ、言葉」
と、息子に全く興味を持たないアトノアと、期待しているというより1位をとるのが当たり前だと思い込んでいるカグヤは、見回りに戻っていった。
❸
一年A組の更衣室。 誰しもが、やる気と緊張が入り交じった面持ちの中、そこに緋奈の姿はない。
「皆!準備は出来てるか!?もうじき入場--ん? 緋奈君の姿がないが、どこに行ったんだ?」
「アイツなら、もうそろ帰ってくんじゃねえの?」
扉を勢いよく開けて入ってきた委員長の飯田に、上鳴がそう答える。
「帰ってくる? それはどこから?」
「トイレから」
「トイレか。 先程も行ってなかったか?」
「あー、あいつ、緊張で腹が痛いんだと」
「一応聞くが俺がここにいない数分の間、緋奈君は何度トイレに行ったか分かるかい?」
飯田がそう一応と、尋ねる。 というのも、彼がいる時にも緋奈はトイレに行っている。しかも、5回ほど。 オマケに、3分に1回はトイレに行くという負のスパイラルに陥っていた。 一応、腹痛の薬は飲んでいたが、全く効果はなかった。
「今で10回目だな」
「そんなに!? それでは身がもたないではないか!!」
上鳴の言葉に、飯田は驚く。と、そのタイミングで、ガチャ、と扉が開き、生気を感じさせない顔色の緋奈が更衣室に入ってきた。ヨボヨボのお爺さんかと思わせるほどに、両足を震わせ、お腹を押さえながら。
「緋奈君! お腹まだ痛いのかい?」
独特な手の動きを混じえながら飯田が心配そうに尋ねてくる。 それに対し、
「う、うん。 もち、だいじょ・・・うぷっ!?」
もう大丈夫だとアピールしようとしたら、今度は気持ち悪くなり吐きそうになる。どうやら、緊張が最大許容量を超えたらしい。
「ちょ、ちょっと悪いんだけど・・・僕の鞄から酔い止めの薬と水を持ってきてくれる?」
「あ、ああ! 任せてくれ」
飯田は即座に、緋奈の鞄を漁り、酔い止めの薬と水のペットボトルを取り出し、手渡してくれる。
「んはー! これでなんとかなる!」
酔い止めの薬をの水で流し込んだ緋奈は、先程までの様子が嘘かのように元気ハツラツになる。
「では、緋奈君も元気になった事だし、会場へ向かおう!」
飯田の指示にA組生徒達は素直に従い、会場へと向かった。
❹
体育祭で最も注目の的となる学年はと問われれば、大抵はラストチャンスに懸ける熱と経験値からなる戦略等で『三年』という答えが多いのであるが、今年は違った。
本来、もっと先に味わう敵という恐怖を覚え、それでも尚―――否、だからこそヒーローになるべく乗り越えてきたクラスが居る学年。
場所は一年ステージ。
例年以上に活気に溢れる観客席は、彼らの登場を今や今やと待ちかねている。
『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!? 敵の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』
一年ステージの実況を務めるプレゼント・マイクが、普段より五割増のテンションでマイク目がけて声を発した。流石、教師兼プロヒーローであるにも拘わらず、毎週金曜深夜一時から五時までぶっ続けでラジオをしているだけの声量はある。
彼の煽りを受けて盛り上がる観客。
そして、轟く歓声に迎え入れられながら入場してくるのは、
『ヒーロー科!! 一年!!! A組だろぉぉ!!?』
一斉に湧き上がる歓声に、A組の面々はそれぞれ違った反応を見せる。 その中で緋奈はというと、
「はぅ!? 気持ち悪いのと腹痛のダブルコンボが来た・・・」
「今回は吐くなよ、桜兎。俺達が恥ずかしいからよ」
緋奈の隣を歩く上鳴がそう忠告するが、
「と言われても、吐きたいものは仕方な・・・う・・・おぇぇぇぇ!!」
「うわぁぁぁああああ!?」
返事を返すタイミングで思い切り、リバースする。耐えきれないものは仕方ない。 その後、開会式が始まる前、雄英講師のセメントスに直してもらい、綺麗な床に元通りとなったという話を小耳に挟み、申し訳なく思った緋奈。
そして、表彰式。
朝礼台には、ボンテージにタイツの18禁ヒーロー、ミッドナイト。
「18禁なのに高校に居てもいいものか」
「いい」
「今更じゃない?」
「静かにしなさい!!」
ざわめく生徒たちを静かにするべく、右手に携えていた鞭を撓らせるミッドナイト。
「選手代表!! 1-A、桜兎 緋奈!!」
すると、静かになったのを見測らい、ミッドナイトが宣誓を行う生徒の名を声高々に呼んだ。
「やっぱり、緋奈かぁ。 残念だったな、爆豪!」
「うるせぇ!ぶっ殺すぞ、クソ髪!!」
「二人とも静かにしたまえ!緋奈の折角の晴れ舞台なんだぞ! 少しは応援したり・・・って、緋奈君!? 顔色が前よりひどいぞ!」
「あー、うん。平気平気。 できるだけ、汚さないようにするから」
口元を押さえながら、諦めモード全開の緋奈。 彼の背を見送りながら小さな声で呟くA組の面々は、得も言えない不安が胸の内に込み上げてくる。
なんだか嫌な予感がする―――誰もがそう思っていたのだ。
「宣誓、我々選手一同は、スポーツマンシップに則り、正々堂々と全力を出し切って戦う事を誓います。 選手代表、桜兎 ひ・・・おぇぇぇぇ!!」
最後まで言えると思った矢先、本日二度目のキラキラを床にぶちまけた。因みにミッドナイトはというと、即座に退避していた。 流石はプロヒーロー。
「おい、あいつ本当に敵の襲撃から逃れたのかよ?」
「ハッ、どうせ隠れてたんだろ。 震えながらよ(笑)」
「んだよそれ、A組ってそんなやつもいんのかよ! 全国に吐いてるところ、見られてるなんてネタかよ!! まじ笑えるわ!」
他のクラスの人たちが好き勝手に、緋奈をからかう。 それに対し本人はというと、気にした様子もなく、自分のクラスへと戻って言った。 その後、本日二度目のセメントスの個性で朝礼台を綺麗にしてもらい、ミッドナイトが再び立つ。
「さっきは些細なアクシデントがあったけど、これからが雄英体育祭本番よ!気を引き締めていきなさい!」
と告げ、鞭を床に叩きつける。それにより、弛んでいた雰囲気がガラッと変わった。
「じゃあ、競技の発表をするわよ! 第1種目は--」
ミッドナイトの声に合わせて、電子掲示板が起動し、デカデカと競技名が映し出される。
「『障害物競走』!! 計11クラスの総当りレースよ!コースは、スタジアムから外周約4km!!」
ミッドナイトが興奮した様子で話を続ける。
「我が校は自由が売り文句! ウフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」
それで説明が終わり、生徒達はスタート位置に立つ。 計11クラスということもあり、人混みがすごい。要するにもみくちゃ状態だ。
「まぁ、僕には関係ないけど」
すべてを吐き出してスッキリ状態の緋奈は、完全復活した様子で、声を張り上げた。
そして--全クラスが準備した後、
「スタート!!!!」
ミッドナイトの合図と共に、地面が一斉に凍りつき、
「がぶっ!?」
緋奈は情けない声を上げ、盛大にこけた。
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