僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章:桜兎 緋奈:オリジン
迫る雄英体育祭!!
臨時休校を終えた翌日の朝。 USJ事件の事を頭の片隅から放り出した緋奈は、いつも通りの雰囲気と態度で、女子メンバーと共に下駄箱で靴を履き替え、廊下を歩いていた。
「昨日は楽しかったねー」
「ええ、有意義な時間でしたわ」
「またみんなで行けたらええね」
「今度は怖いのがない所にね」
新しく登校&下校メンバーに加入した耳郎の言葉に、緋奈達は癒しを得た。
「響香ちゃんって、ロックな感じで怖いもの知らず、なんて思ってたけど、ホラー苦手なんて、予想外すぎて可愛い!!」
「私も緋奈ちゃんと同じよ」
「私もー!!」
「耳郎ちゃん、可愛い!!」
緋奈の言葉に、蛙吹、芦戸、葉隠が同意する。
「か、かわい・・・」
皆に可愛いと言われ、耳郎は顔だけでなく、耳まで真っ赤になった。ましてや、男に可愛いと言われたのは初めてだ。
「べ、別に嬉しくないし」
顔を背け、耳郎は呟く。 ただ、その行動と態度が照れ隠しなのは確かめなくても理解出来た緋奈と八百万を除く女性陣がニヤニヤと笑っていた。
暫くして、1-Aの教室前に辿り着き、扉を開ければ、敵連合の襲撃を切り抜けたクラスメイト達が出迎えてくれる。 ただ、誰一人、敵の恐怖に怯え、ヒーローを辞めるという生徒は存在しなかった。
「やあ、おはよう! 緋奈君、それに皆も!」
電車ごっこでもしてたの?という感じに腕を曲げた飯田が挨拶してきた。
「う、うん。 おはよう、飯田君」
そう挨拶を返すと、
「もう肩の怪我は大丈夫なのかい?」
固定器具を外している緋奈に飯田が尋ねてくる。
「うん、もう大丈夫だよ。 リカバリーガールに1日安静にしてれば治るって言われたからね」
と、左肩を回して、完治アピールする緋奈。 その姿に、納得した飯田は、自分が救援を呼ぶのが遅かった点について謝罪をした。 どうやら、ほかの生徒達にもこうやって謝罪していたらしい。 流石は真面目委員長。 こういう人間が、プロで活躍するのだろうと、緋奈は思った。
「まぁ、怪我したのは僕が油断した結果だし、飯田君はあの黒霧って敵から逃れて救援に行ってくれたわけだしね。だから、謝らないでよ」
「しかし、俺は--」
「そういうのいいって。 別に誰も君に対して怒る人はいないと思うよ?」
緋奈がそう言うと、
「そうだよ、飯田君! 緋奈ちゃんの言う通り!」
「そうだよ、委員長!!」
「ああ、そうだぜ、飯田!!」
「お前が呼びに行っていなかったら、俺達は全滅していた」
飯田をUSJから外へと生かせるために黒霧相手に奮闘した麗日達が賞賛の声を上げた。それに対し、号泣し始める飯田。 と、背後の扉が開き、
「おい、お前ら。 席につけ」
相澤の声が聞こえた。緋奈達はその声にゴクリと唾を飲み込み、脱兎のごとく駆け、席へと着席する。が、号泣中の飯田は相澤に気づいていないらしく、自分の世界に浸っていた。
「おい、飯田。 顔洗ってこい」
「すみません」
相澤に肩を叩かれ気づいた飯田は、言われた通りにトイレへと向かった。それから数分して、飯田が教室に戻り、席に座る。 そして周囲をぐるりと見渡し、欠席者がいないのを確認して、
「全員、出席しているみたいだな」
出席簿を机に置いて告げた。
「相澤せんせーい! その包帯ぐるぐるは重体じゃないですか?」
気になって仕方のなかった緋奈は、我慢出来ず、手を挙げて尋ねる。その行動に、クラスメイト達は、驚いていた。 それもそのはず。 クラスメイト達は聞いていいのか?分からなかったから言葉にしなかったのだ。
「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
「戦い?」
「まさか……」
「まだ敵が―――!!?」
「1抜けた」
意味深な匂いを漂わせる発言に、誰もが『戦い』とは何を意味するのか思慮を巡らし、ある者は怯え、ある者はやる気満々の態度をとる。 それと違い緋奈はと言うと、怯えるわけでもやる気を出すわけでもなく、誰よりも早く離脱する意思の言葉を告げた。
そんな空気の中、相澤が続けた言葉は―――。
「雄英体育祭が迫っている!」
『クソ学校っぽいの来たあああ!!!』
「・・・?」
誰もが大声をあげる中、体育祭ぐらいで盛り上がる状況に理解出来ず、緋奈は首を傾げる。昔から体育祭は嫌いなのだ。 別に運動音痴なわけでも協力するのが苦手な訳では無い。ただ、足が速いからってリレー選手に勝手にされ、スタミナがあるからって2回走れと言われ、断れば、のけ者扱い。そういう謎ルールが大嫌いなのだ。
「各自、体育祭に向けて準備しておけ」
相澤はそう言い残して、教室を出ていった。
❶
形骸化したオリンピックに代わり、現在日本のオリンピックの代わりともなっているのが、この雄英高校で開かれる雄英体育祭。 数多のプロヒーローがスカウト目的で訪れるこの体育祭は、生徒にとっては相棒候補にしてもらえる可能性の高い催しだ。 チャンスは一年に一回。 この一回を棒に振るか、振らないかで卒業後の未来が決まる。誰もが、そのビッグチャンスを勝ち取るためにやる気に満ち溢れる中、緋奈はというと、午前中の授業を全て睡眠に費やし、気づけば昼休みになっていた。
「みんな〜!昼ごはんたーべよ!」
机をドッキングしている八百万、耳郎、葉隠、蛙吹、芦戸に声をかけると共に、自身の机をドッキングする緋奈。 勿論、八百万の隣という安定ポジションに。
「んじゃ、食べようか」
緋奈はそう言って弁当箱を開ける。すると、
「うわっ、あんたの弁当凄いね」
「ねぇねぇ、私にこの卵焼きちょーだーい!!」
弁当箱の中身を見て、耳郎と葉隠が大声をあげた。
「相変わらず、緋奈さんのお弁当は美味しそうですわね」
「ホントだよねー! しかも弁当作ってるのが、お母さんじゃなくて緋奈ちゃんなんだもんねー!!」
「意外な特技ね、緋奈ちゃん」
八百万、芦戸、蛙吹は、葉隠に誘導してもらいながら、彼女の口へと卵焼きを運んでいく緋奈に賞賛の声を上げる。
「もうちょい下。 そうそう、そこ!」
やがて、葉隠の静止の声がしたタイミングで、卵焼きを掴む箸を止める。そして、卵焼きが消える。
「そう? 昔から料理は好きだったから、そう褒められると照れちゃうよ」
もぐもぐと白米を頬張りながら、頬を赤くする緋奈。
「話は変わるけど、体育祭ってそんな盛り上がるもの?」
その質問に、八百万達は驚いた。
(・・・変な事言ったかなぁ、僕)
雄英体育祭について多少は知っている。両親の出ていた雄英体育祭の映像を見せられたことがある。 ただ、両親に関するヒーロー事情は忘れるようにしていたため、うろ覚えでしかなく、というか、その映像を見てテンションが上がった記憶が無い。
「盛り上がるに決まってんじゃん! プロが私たちを見てんだよ!? どうかしてんじゃないの、あんた!」
「おかしいですわね? 昔は一緒に見ていたじゃありませんか」
耳郎が大声を上げ、八百万が小首を傾げた。
「しっかし珍しいもんだねー。雄英体育祭で盛り上がらないなんて」
「緋奈ちゃんは、ヒーローになりたいんちゃうの?」
芦戸の言葉に頷いて、麗日が疑問を投げかける。 緋奈にとっては答えずらい疑問。
『ヒーローになんてならないよ』
そう言えれば楽なのに。言ってしまったら、この関係が終わる気がして。だから--
「勿論、なりたいよ。 昔、僕を助けてくれたヒーローの様に凄い人になりたいからね」
嘘と真実を入り混ぜて答える。ヒーローに助けられた事と尊敬していた事は真実で、ヒーローになりたいのは嘘。
「ならない、って言われたらどういう反応したらいいのか分からんかったよ」
安堵の溜息をついた麗日は笑った。緋奈もそれにならって、微笑んだ。嘘をつくのは本当に疲れる。でも、雄英体育祭で恥をかけば、プロにスカウトされることもないはずだから、必然的にヒーローの道は閉ざされる筈だ。
(・・・個性使わずにやればいいや)
緋奈がやる気ゼロ宣言を胸中で呟いたタイミングで、カバンに入れていた携帯が振動した。どうやら、電源を消すのを忘れていたらしい。
「それにしても、こんな時間に誰が・・・?」
鞄から携帯を取り出し、画面をつける。すると、そこには、
『お母さん:雄英体育祭で優勝しなさい。私達も見に行くから、恥をかかせないで』
『お父さん:母さんに言われたから、仕方なく見に行くがお前には期待していない』
両親からの圧力の言葉が送られてきていた。その内容は、親が息子に投げかけるような言葉ではない。
(息子にかける言葉がそれかよ)
緋奈は携帯の画面を消し、懐に押し込んだ。しかし、また携帯が振動する。
(・・・またか)
胸中でイラッとしながら、携帯を取り出し、画面をつける。 だが、今度は母でも父でもなく、
『お義姉ちゃん』
しかも着信だ。
「ちょっと、ごめん!」
緋奈はすぐに、席を立ち上がりトイレへ駆け込む。個室に入り、通話ボタンを押す。と、
『もしもし、緋奈ちゃん?』
若い女性の声が聞こえた。 数年ぶりに聞いた義姉の声。いつも優しくて、自分を愛してくれた唯一の家族とも言える存在。緋奈は嬉しくて、声音が上がっているのだろうが、本人は気づいていない。
「うん、緋奈だよ。 久しぶり、お義姉ちゃん」
『久しぶりね。 遅くなったけど、雄英合格おめでとう、緋奈ちゃん』
その言葉は、両親から言われても嬉しくなかったのに、義姉に言われると嬉しくてたまらなかった。
「これぐらい余裕だって、お義姉ちゃん!」
『うふふ。 昔より成長したね。 お義姉ちゃん鼻が高い!』
と嬉しそうに声を上げる義姉。 緋奈は、相変わらずの義姉の声と態度に、クスっ、と笑う。それが聞こえたのか、
『あ。 今、緋奈ちゃん、お義姉ちゃんのこと笑ったでしょ?』
と、恐らくムスッとした表情を浮かべているであろう状態の義姉が訴えてきた。
「ごめん、お義姉ちゃん。 久しぶりに声が聞こえたから嬉しくて、つい・・・」
『ジョーダンよ、ジョーダン♪ お義姉ちゃんが一度でも、緋奈ちゃんを怒ったことがある?』
「ううん、無いよ。 もう、怖がらせないでよ、お義姉ちゃん!」
『うふふ、ごめんなさいね。 それより、雄英って体育祭が始まる時期でしょう?』
と、義姉が話を切り替える。
「うん、そうだけど」
『その日はちょうど休みがとれたから、家族みんなで応援に行くね、緋奈ちゃん』
義姉のいう家族とは、結婚した旦那と娘二人の事だ。初めて会うからドキドキする。
『それじゃあ、雄英体育祭の時に会うの楽しみにしてるね。 バイバイ、緋奈ちゃん』
「う、うん! またね、お義姉ちゃん」
その言葉を最後に通話が切れる。 緋奈は携帯の電源を消し、懐に押し込んだ。そして、用をたした後、手を洗い、教室に戻る。と共に、
「皆! 雄英体育祭、僕は優勝します!」
クラスメイト達に向かってそう宣言した。
ページ上へ戻る