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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第49話

~オルキスタワー・36F~



「――――ようこそ、いらっしゃいました。」

リィン達が部屋に入るとユーディットがリィン達に声をかけ

「―――お初にお目にかかります、ユーディット皇妃陛下。それにキュアさんも。」

「本日は貴重な時間をわたくし達の為に取って頂き、誠にありがとうございます。」

「いえ、こちらの方こそお忙しいところ、貴重な時間を頂き、ありがとうございました。――――皆様、まずはソファーにおかけになってください。」

声をかけられたリィンはセレーネと共に代表して答え、キュアにソファーに座るように促されるとユウナ達と共にソファーに座った。



「うふふ、それにしても貴女達がレン達と話したいなんてちょっと意外だったわ。レン達の中で面識があるのはせいぜいアルフィン夫人くらいで、接点はほとんどないでしょう?」

「レ、レンちゃん。」

レンのユーディット達に対する指摘を聞いたティータは冷や汗をかき

「”特務部隊”と共に父―――カイエン元公爵が原因で起こった内戦終結に多大な貢献をして頂いた旧Ⅶ組の意志を継ぐ”新Ⅶ組”の方々と話したかったのは本当の事ですわ。」

「それにリィンさんにお礼と、アルフィン皇女殿下とアルティナさんにも謝罪をする機会を設けたかったので、お忙しいところ申し訳ないとは思いましたが、時間を取って頂いたんです。」

「へ……」

「え………」

「アルフィン様はともかくわたしに”謝罪”、ですか?」

ユーディットの後に答えたキュアの説明を聞いたリィンとアルフィンは呆け、アルティナは不思議そうな表情で首を傾げた。するとユーディットとキュアは最初にリィンに視線を向けて答えた。

「リィンさん、他国の方でありながら父――――クロワールの野望を未然に防ぎ、私達の祖国であったエレボニアの内戦を終結して頂き、本当にありがとうございました。」

「そして、父達―――貴族連合軍の愚行によって故郷(ユミル)やご両親が傷つけられながらも、”七日戦役”を和解へと導いて頂き、ありがとうございました。」

「いえ……どちらも、自分にとっても必要な事柄でしたから、お二人が自分に感謝の言葉を述べる必要はないと思います。それよりもむしろ自分はお二人に謝罪すべき立場です、自分はお二人の父を討った張本人で、またお二人の兄を討った人物の手助けをしたのですから……」

「兄様……」

二人に感謝の言葉を述べられたリィンは謙遜した様子で答えた後静かな表情で二人を見つめ、リィンの様子をエリゼは心配そうな表情で見つめた。



「父と兄の事はどうかお気になさらないでください。二人の”死”は当然の”報い”だと私達も思っていますので。」

「それにお恥ずかしい話、私達と父と兄は昔から反りが合わず、お互いの家族仲はそれ程いいものではありませんでした。ですから、父と兄の件で私達に対して罪悪感等を抱く必要はありません。」

「……寛大なお心遣い、ありがとうございます。」

ユーディットとキュアの言葉にリィンは静かな表情で会釈をして答えた。そしてユーディットとキュアは次にアルフィンとアルティナを見つめて頭を深く下げた。

「――――謝罪が遅くなりましたが、内戦を止められず、挙句七日戦役まで勃発させてしまった事でエレボニア帝国を衰退させ、皇女殿下の御身にまで危険な目をあわせてしまい、誠に申し訳ございませんでした……」

「アルティナさんも父の愚かな野望に付き合わせてしまった事で、メンフィル帝国に囚われの身になって、怖い思いをさせてしまい、本当にごめんなさい……」

「ユーディット皇妃陛下………キュア公女殿下………」

二人の謝罪を見たクルトは驚き

「……お二人とも顔を上げてください。確かにカイエン元公爵に思う所が無いと言えば嘘になりますが、貴女達が内戦に反対した事や内戦勃発後も内戦で傷ついた民達を私財をなげうってまで援助した事は存じていますわ。ですからわたくしは内戦や七日戦役の件で貴女達を責めるつもりは一切ございませんわ。」

「……わたしにも謝罪は不要かと。元々わたしはルーファス・アルバレアの指示で”貴族連合軍”の”裏の協力者”と貴族連合軍に協力していた身ですから、わたしの場合は自業自得です。それにメンフィル帝国に囚われた事で前の職場よりも待遇が遥かに良いリィン教官達に引き取られたのですから、結果的にはわたしにとって良い結果になりましたし。」

「寛大なお心遣い、感謝いたします。」

「父上が原因で、政略結婚をさせられたアルフィン皇女殿下が結婚相手であるリィン様と相思相愛の間柄である事はヴァイス様達を通して伺っていましたが………実際に仲がいいお二人の様子を見て安心しました。」

アルフィンとアルティナの気遣いにキュアは軽く会釈をし、ユーディットは安堵の表情でリィンとアルフィンを見つめた。



「ふふっ、そう言うユーディットさんの方こそヴァイスハイト陛下の事を愛称で呼んでいらっしゃるのですから、ユーディットさんもヴァイスハイト陛下ととても仲がよろしいのでしょうね。」

「あ……そう言えばユーディット皇妃陛下も、わたしやレンちゃんみたいにヴァイスさんの事を愛称で呼んでいますね。」

「えっと……という事はティータとレン教官もヴァイスハイト皇帝と昔からの知り合いなのかしら?」

アルフィンの答えを聞いてある事に気づいたティータの言葉を聞いて疑問を抱いたゲルドはレンとティータに訊ねた。

「ええ、オリビエお兄さんと同じ”影の国”という所で知り合ったのよ。――――それにしても貴女とヴァイスお兄さんとの結婚の件は人づてで聞いていたけど、たった1年半で政略結婚をしたはずの貴女の心を本当の意味で奪ったヴァイスお兄さんの手腕はリィンお兄さんも見習った方がいいのじゃないかしら♪」

「ちょっ、何でそこで俺を例えに出すんですか!?」

ゲルドの質問に答えたレンは小悪魔な笑みを浮かべてリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは慌て

「………まあ、”自覚”している事に関しては見習って欲しいですね。」

「確かに”無自覚”の方が性質が悪いかと。」

「ご、ごめんなさい、お兄様……その件に関してはわたくしも常々思っていますわ……」

「ううっ、そんな事を言われても、どうすればいいんだ……?」

更にエリゼやアルティナ、セレーネもレンの意見に同意するとリィンは疲れた表情で肩を落とし、その様子を見守っていたユウナ達は冷や汗をかいて脱力した。



「クスクス………――――それにしても”新Ⅶ組”も”旧Ⅶ組”のように所属する生徒達の構成が随分と変わっていますね。三帝国出身の人達が全員所属しているんですから。」

「さすがに”旧Ⅶ組”程ではないと思いますが………そう言えば少しだけ気になっていたのですが、キュアさんは何故”サティア学院”に?確かオルディスにはアストライア女学院と並ぶ女学院があるのですから、”四大名門”の”カイエン公爵家”の令嬢であるキュアさんも姉君のようにオルディスの女学院か聖アストライア女学院に通っているものと思っていましたが………」

リィン達の様子を微笑みながら見つめた後自分達を見回して感想を口にしたキュアの言葉に困った表情で答えたクルトはある事をキュアに訊ねた。

「確かに去年まではオルディスの女学院に通っていましたが………私達――――カイエン公爵家はご存知の通り、クロスベル帝国に帰属しましたから今後のクロスベルを支える勉強の為にも、サティア学院に編入したんです。”激動の時代”であるこの時代で最も”変わった”ともいえるクロスベルの為に私達が何をすべきかを知る為にも、この目でクロスベルの現状を見て、実際にクロスベルの人達とも接する必要がありますので。」

「ふえ~……立派な考えだと思います!」

「あたしもクロスベル人として、キュアさんの考えは立派で、嬉しく思います!あの……ユーディット皇妃陛下、失礼とは思いますがいくつか聞きたい事があるのですが………」

「何を知りたいのでしょうか?私で答えられるような質問でしたら答えますので遠慮なく、幾らでも質問をして頂いて構いませんよ。」

キュアの答えを聞いて呆けたティータは感心した様子でキュアを見つめ、嬉しそうな表情でキュアを見つめたユウナは遠慮気味にユーディットに視線を向け、視線を向けられたユーディットは親し気な微笑みを浮かべて続きを促した。



「えっと………さっき、エレボニアとメンフィルのVIPの人達がオルキスタワーの屋上に着いた時にユーディット皇妃陛下やエリィ先輩達はVIPの人達を迎えていましたけど……どうしてあの場にヴァイスハイト陛下達――――”六銃士”やリセル教官がいなかったのでしょうか?ヴァイスハイト陛下の正妃のリセル教官は勿論、”六銃士”の人達はみんな、クロスベルの最高クラスのVIPなのに………」

「言われてみれば、あの場に”六銃士”は一人もいなかったな……」

「皇帝や正妃はともかく、皇帝や正妃でもない”六銃士”のアル皇妃やパティルナ将軍があの場にいなかった事には少々違和感を感じますね。」

ユウナの質問を聞いてある事を思い出したクルトは目を丸くし、アルティナは静かな表情で呟いた。

「そうですね………それについては簡単に説明すると、新興の国家であるクロスベルはメンフィルは勿論、エレボニアとも”同格”である事を双方の帝国やクロスベルの市民達に知らしめる為ですわ。」

「ふえ……?」

「新しい国であるクロスベルがメンフィルとエレボニアと”同格”である事を知ってもらう為にどうしてそんな事をするのかしら?」

ユーディットの答えを聞いて意味がわからないティータとゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。



「―――単純な話よ。”六銃士”はユウナも言ったようにクロスベルの最高クラスのVIP――――つまり、その国の代表者―――”王”や”大統領”のようなものよ。そんな存在が他国の皇族―――それもその国の長である”王”や”大統領”でもない人達の迎えの場にクロスベルの最高クラスのVIPである”六銃士”がいれば、クロスベルはメンフィルやエレボニアよりも下に見られるかもしれない可能性があったからあの場にヴァイスお兄さん達はいるべきではないのよ。――――つまり、もっと簡単に言えばメンフィルやエレボニアにクロスベルの事を舐められないようにする為よ。」

「それは…………」

「……なるほど。だから双方の国のVIP達の中で身分上の”格”で言えば”同格”である側妃のユーディット皇妃陛下や皇女のメサイアがヴァイスハイト陛下達の代わりに双方の国のVIP達を迎える場にいたのですね。」

「えっと……もしかしてエリィさんがあの場にいたのも、何か理由があったのですか?」

レンの答えを聞いたエリゼは複雑そうな表情をし、リィンは静かな表情で呟き、ある事に気づいたセレーネはユーディット達に訊ねた。

「はい。エリィさんは皆さんもご存知のように長年クロスベルの市長を務めてきたヘンリー学院長の孫娘であり、ヴァイスハイト陛下達――――”六銃士”が現れるまで”クロスベルの新たなる英雄”として称えられ、親しまれてきた”特務支援課”の一員であったのですから、以前のクロスベルと比べると何もかもが大きく変わったクロスベルに不安を抱えるクロスベルの市民達を安心させる為に、私達と共にあの場にいたのです。エリィさんに対して失礼な言い方になりますが、ヘンリー学院長の孫娘であり”特務支援課”の一員であったエリィさんはクロスベルの市民達に大きな影響を与える存在ですから。」

「VIP達を迎える時点で既にそのような思惑があり、ユーディット皇妃陛下達が迎えの場に選抜されたのですか……」

「で、ですがその思惑だとエリィさんがヴァイスハイト陛下達に……」

「―――政治利用されているって事じゃないですか!まさかエリィ先輩はそれを承知で、あの場にいたんですか!?」

キュアの説明を聞いたクルトは真剣な表情を浮かべ、ある事に気づいていたアルフィンは複雑そうな表情をし、ユウナは怒りの表情で声を上げてユーディット達に訊ねた。

「ヴァイス様達からヴァイス様達が考えている思惑について直接説明はされませんでしたが、幼い頃から将来マクダエル学院長を支える為に政治を学び、今では”一等書記官”として外交業務に今まで積み重ねてきた経験や知識を振るっている聡明なエリィさんでしたらその程度の思惑は気づいているでしょうね。」

「だったら、エリィ先輩はどうしてあの場に……っ!自分が利用されているってわかっているのに……っ!」

「ユウナ……」

ユーディットの答えを聞いて怒りの表情で身体を震わせているユウナの様子をゲルドは心配そうな表情で見つめていた。



「多分だけど、それもクロスベルの為だから、ヴァイスハイト陛下達に思惑を聞くことや反論することなくエリィは受け入れたんだと思う。」

「そうですわね……エリィさんが目指していた事は二大国の圧力――――エレボニア帝国と旧カルバード共和国の圧力によって起こるクロスベルの様々な”しがらみ”を何とかする事――――即ちクロスベルが”真の平和”と”自由”を掴む事ですから、”生まれ変わったクロスベル”に対して感じているクロスベルの市民達の不安を取り除く事に関してはヴァイスハイト陛下達の思惑と一致していますから、ようやく手に入れた”クロスベルの平和と自由”を保つ為にも受け入れたのでしょうね。」

「わたしは教官達程エリィさんの事は詳しくありませんが………少なくても、エリィさんはクロスベルを大国へと成りあがらせる事やクロスベルの皇になるという大きな目標を持った”六銃士”と違い、政治家の一人としてクロスベルを支える事を目標としていた事は今までのエリィさんの言動や行動から判断できます。」

「……………ぁ……………………それじゃあ、別の質問になるんですが………ユーディット皇妃陛下はクロスベルの領土となった所に住んでいる元エレボニア帝国貴族達の立場を護る為にユーディット皇妃陛下自身が自らあの女好き―――いえ、ヴァイスハイト陛下の側室になる事を申し出て結婚したとの事ですけど、本当にそうなんですか?」

リィンやセレーネ、アルティナの意見を聞いてエリィの事を思い返したユウナは呆けた声を出した後複雑そうな表情でユーディットに訊ねた。

「本当にそうなのかとは、一体どういう意味でしょうか?」

「その………ヴァイスハイト陛下ってユーディット皇妃陛下も知っていると思いますけど、たくさんの女性達と結婚していながら娼館にまで通っている”好色家”じゃないですか。そんなヴァイスハイト陛下の事だから、すっごい美人で大貴族のお嬢様のユーディット皇妃陛下も自分のハーレムに加える事を目的で、クロスベルの領土に住んでいる元エレボニアの貴族達の立場を護ろうとしていたユーディット皇妃陛下の弱みに付け込んだじゃないんでしょうか……?」

「ユウナさん………」

ユーディットへのユウナの質問内容を聞いたセレーネは複雑そうな表情をした。

「…………そうですね。まず、クロスベルに帰属する事になったエレボニアの貴族達や私達カイエン公爵家の立場を護る為にヴァイス様に私をヴァイス様の側妃にして頂けるように私の方から申し出た事は本当の話です。ですがヴァイス様は私の”忠誠”を確かめる為に、”誰もが驚き、普通の女性なら忌避するような条件”を出しました。」

「”誰もが驚き、普通の女性なら忌避するような条件”、ですか?」

「まあ、たくさんの女性と結婚しても娼館にも通うようなヴァイスお兄さんの性格を考えたら大体想像できるけどねぇ。リィンお兄さんとセレーネも、ヴァイスお兄さんがユーディット皇妃に突き付けた条件は予想できているのじゃないかしら?」

「そ、それは……」

「え、えっと……それを本人の目の前で口にするのはちょっと……」

ユーディットの話を聞いたクルトが不思議そうな表情をしている中呆れ半分の様子で答えたレンに話を振られたリィンとセレーネはそれぞれユーディットを気にしながら言葉を濁していた。



「フフ………その条件とは、”忠誠の証”として私の操をヴァイス様に捧げる事――――つまり、私がヴァイス様の側室になる事を申し出たその日にヴァイス様に抱かれる事でした。」

「!!」

「な――――――」

「ふ、ふええええっ!?」

「……”好色皇”とも呼ばれているヴァイスハイト陛下らしい条件ですね。」

「そ、その……それでユーディットさんはどうされたのですか……?」

リィンとセレーネの様子に苦笑したユーディットは静かな表情で答え、ユーディットが答えた驚愕の事実にユウナとクルト、ティータが驚いている中アルティナはジト目で呟き、アルフィンは不安そうな表情でユーディットに訊ねた。

「勿論了承し、その日にヴァイス様に今まで守っていた私の純潔を捧げました。そしてヴァイス様は約束通り、カイエン公爵家(私達)を含めた元エレボニアの貴族達の立場を守ってくれましたし、私自身の事も信頼し、大切にしてくださっています。」

「えっと……ユーディット皇妃陛下はいきなり純潔を捧げる事を躊躇わなかったの?普通は躊躇うのだと思うのだけど……」

「一瞬躊躇いはしましたが、ヴァイス様が”好色家”だからこそ私の申し出を受け入れてもらえると思い、ヴァイス様の性格を承知の上で側室になる事を申し出ましたから、”そう言った条件を求められる事”も想定していました。………さすがに、側室を申し出たその日に純潔を捧げる事になるとは予想していませんでしたが。」

「ユーディったらそんなとんでもない事をよく他人事のように話せるわよね……?」

ゲルドの質問に対して答えた後苦笑したユーディットにキュアは呆れた表情で指摘した。



「……っ!そんなとんでもない要求を受け入れたユーディット皇妃陛下はそんな形で好きでもない男性に女性にとって一番大切なものを奪われて本当によかったんですか……!?」

「私は皆さんもご存知のように”貴族”―――それも貴族の中でも相当地位が高かった”四大名門”の一角ですから、”家”の利益の為に政略結婚として好きでもない殿方に嫁ぎ、操を捧げる覚悟はできていましたし………それに、レン皇女殿下も仰ったように今ではヴァイス様の事を心から愛していますから、ヴァイス様に純潔を捧げた事に後悔はしていませんわ。」

「ヴァイスハイト陛下は一体どのようにして、ユーディット皇妃陛下の心を奪ったのでしょうか?」

唇を噛みしめた後厳しい表情を浮かべたユウナの質問に静かな表情で答えた後微笑んだユーディットにエリゼは不思議そうな表情で訊ねた。

「そうですね……色々ありますが、一番の理由は側室になる事を申し出たその日に純潔を捧げる事を要求した後に口にしたヴァイス様のお言葉がきっかけだと思いますわ。」

「えとえと……ヴァイスさんは何て言ったんですか?」

ユーディットの説明の中になったある事が気になったティータはユーディットに訊ねた。

「『俺は女性全員を等しく愛し、幸せにする主義だ。いつか必ずお前に俺を惚れさせ、家の為に俺に嫁いだ事が幸せである事を思い知らせてやろう。何せ俺の好きな物の一つは女性の笑顔であり、嫌いなものは女性の涙だからな!』……今思い返すとヴァイス様の事を殿方として気になり始めたのきっかけはその言葉だと思いますわ。」

「ふふっ、それもまたヴァイスハイト陛下らしい答えですわね。」

「ああ………」

「クスクス……やっぱりヴァイスさんはヴァイスさんですね。」

「何というか………端麗な容姿とは裏腹に大胆かつ懐が広い性格をしていらっしゃる方ですね……」

「ふふ、私も最初はユーディの事を心配していましたけど、いつの間にかユーディからヴァイスハイト陛下とのノロケ話を聞かされる程、ヴァイスハイト陛下と仲良くなった事を知って安心すると共に二重の意味で驚きましたよ……政略結婚するつもりでいたユーディが政略結婚相手であるヴァイスハイト陛下に恋をして、ユーディの口からノロケ話が出たのですから……」

ユーディットの答えにセレーネとリィン、ティータが苦笑している中クルトは驚きの表情で呟き、キュアは微笑みながら答えた。

「うふふ、リィンお兄さんも”上司”だったヴァイスお兄さんの女性達に対するそう言った姿勢を見ていたから、釣った魚達もちゃんと大切にし続けているのかしら♪」

「つ、”釣った魚達”って……もしかしなくてもわたくし達の事ですわよね………?」

「ふふっ、間違いなくそうですわ♪――――そして、リィンさんが一番最初に釣った魚がエリゼで、その証拠にエリゼがリィンさんにとっての”特別”だもの♪」

「そうね…………まあ、その私が兄様に”釣られた魚”である事を知ってもらうのに随分と時間がかかった上、私自らが行動しなくてはならなかったけど。」

「ううっ、返す言葉がない………」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの発言にユウナ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セレーネはユウナ達のように表情を引き攣らせ、アルフィンにウインクをされたエリゼは静かな表情で答えた後ジト目でリィンを見つめ、見つめられたリィンが疲れた表情で肩を落としている様子を見たユウナ達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「フフ……―――そう言う訳ですから、私はヴァイス様と結ばれた事で”女性”として今でも幸せです。そしてそれはヴァイス様の他の多くの伴侶の方々も同じだと思いますよ。」

「………その、最後の聞きたい事があるのですが………RF(ラインフォルトグループ)が開発した新型の”列車砲”がクロスベルにも配備されるとの事ですが、ユーディット皇妃陛下達はその件についてどうお思いなのでしょうか……?」

「ユウナ………」

ユーディットの説明を聞いた後更なる質問をしたユウナの質問内容を聞いたクルトは複雑そうな表情をし

「―――新興の国であるクロスベルに新型の列車砲を配備する事は為政者の一人として、そして私個人の意見としても必要だと思っています。ここにいる皆さんもご存知のようにエレボニア帝国はクロスベル帝国とメンフィル帝国を滅亡した旧カルバード共和国の代わり―――新たな宿敵として見ていますしね。」

「メンフィル帝国は”百日戦役”と”七日戦役”による”結果”がありますから、幾ら軍拡を続けているとはいえ、衰退したエレボニア帝国がメンフィル帝国との三度目の戦争を起こす事は”無謀”である事はエレボニア帝国政府も理解していると思います。ですがクロスベル帝国は新興の国ですから、どうしても他国からは侮られてしまいます。そして他国からは侮られない為として……そして戦争を仕掛ける事を躊躇わせる抑止力としてかつてディーター・クロイス大統領政権によるクロスベル独立国の力の象徴である”神機”のような凄まじい”力の象徴”が今のクロスベルには必要ですから、ヴァイスハイト陛下達も新型の”列車砲”の配備を決めたのだと思います。」

「それは…………」

「ユーディットさん……キュアさん…………」

「…………………」

ユーディットとキュアの説明を聞いたリィンとアルフィンは複雑そうな表情をし、ユウナは辛そうな表情で顔を俯かせて黙り込み

「うふふ、ちなみにオルディスには列車砲を配備するのかしら?オルディス地方もエレボニア帝国の領土である”フォートガード地方”と隣接しているし。」

「レ、レンちゃん……」

「――――ええ、オルディスにも新型の列車砲を配備する事をヴァイス様に既に要請し、承諾して頂きました。」

「ええっ!?という事は……!」

「ユーディット皇妃達の故郷にもあの”列車砲”という”力の象徴”が配備される事になるのね……」

レンの質問にティータが不安そうな表情をしている中躊躇いもなく答えたユーディットの答えにセレーネは驚き、ゲルドは複雑そうな表情で呟いた。



「その……どうしてユーディットさんはそのような要請をヴァイスハイト陛下にしたのでしょうか……?」

「……アルフィン殿下もご存知と思いますが、私とキュアは”七日戦役”で兄が戦死した後事実上カイエン公爵家を乗っ取り、メンフィル、クロスベルの両帝国に対して忠実な態度を取った事でそれをよく思わないエレボニア帝国の貴族達からも反感を抱かれています。そしてフォートガード地方はクロスベルに帰属する事を嫌がったラマールの貴族達が集まっている場所であり、また縮小されたとはいえ領邦軍の本拠地がある場所でもあります。それらの件を踏まえると私達クロスベル側のカイエン公爵家はエレボニア帝国政府もそうですが、エレボニア帝国の貴族達の動きも警戒し、そして牽制する必要があるのです。」

「…………………」

「アルフィン…………」

自分の質問に対して答えたユーディットの答えを聞いて辛そうな表情で黙り込んでいるアルフィンをエリゼは心配そうな表情で見つめ

「”クロスベル側のカイエン公爵家”……?そういう言い方をするという事は、エレボニアにもカイエン公爵家が存在するのかしら……?」

「はい。カイエン公爵家はエレボニア帝国の”四大名門”の一角ですから、エレボニアの貴族勢力が衰退したとはいえ、カイエン公爵家を無くす事はエレボニア帝国の貴族達にとって色々と問題があるようなんです。――――とは言っても、今はそのエレボニア側のカイエン公爵家の当主はまだ決まっておらず、その件でエレボニア帝国の貴族達は揉めていらっしゃっているようですが………」

(バラッド候の件か………)

ゲルドの質問に答えたキュアの説明を聞いて心当たりがあるクルトは複雑そうな表情を浮かべた。



「少しだけ話は逸れてしまいましたが、私がクロスベルに新型の列車砲が必要であると思っていた理由は先程も説明したように新興の国であるクロスベルを他国から侮られない為に必要な”力の象徴”だからだと思っているからです。」

「…………………あたしみたいな平民の疑問に色々と答えてくださってありがとうございました。」

ユーディットの答えに複雑そうな表情で黙り込んでいたユウナはユーディットに会釈をした。

「………―――ユウナさん。貴女が見せたヴァイス様に対する態度や私に対する質問から察するとヴァイス様に対して何か思う所があるようですけど………もしかして、ヴァイス様達――――”六銃士”がクロスベルを”変えた事”ですか?」

「ち、違います!クロスベルの独立をディーター市長とは違うやり方でエレボニアどころか各国にも認めさせたヴァイスハイト陛下達のやり方は複雑ではありますけど、感謝していますし、尊敬もしています!だけど、今聞いたエリィ先輩がVIP達を迎える場にいた理由も含めてあたしには色々とわからない事や、『何でそこまでするのか』って思う事があるんです………」

「ユウナ………」

ユーディットの指摘に必死の様子で答えた後複雑そうな表情を浮かべたユウナの様子をクルトは心配そうな表情で見つめていた。

「なるほど………貴女の悩みはどんなものなのか、何となくわかりますが、その悩みには”部外者”である私に答える”資格”はありませんからこの場では答えられませんが………これだけは知っておいてください。”政治”は綺麗事だけで”国”を成り立たせる事はできません。それは為政者である私やヴァイス様達は当然理解していますし、エリィさんも理解した上で”国の政治”に関わっています。―――そしてそれは”市長”だったマクダエル元議長も同じで、マクダエル元議長はその覚悟を持ったうえで、長年二大国からの圧力に対してクロスベル市長として戦っていたと思います。」

「それは……………」

ユーディットの言葉をある程度理解できていたユウナは複雑そうな表情で黙り込み

「そしてヴァイス様とギュランドロス陛下は”クロスベルの皇”として様々な清濁を呑みこみ、自分達が先頭に立ってクロスベルを導く事を自覚し、クロスベル帝国の更なる繁栄を目指しています。………私の言いたい事は以上です。ごめんなさいね、皆さんに難しい話を聞かせてしまって。」

「いえ、自分達にとっても勉強になる話でした。」

「ふふっ、エレボニアの社交界で”才媛”と称されていたユーディットさんが仰る言葉だけあって、言葉の重みもあって、わたくしも思わず緊張してしまいましたわ。」

語り終えた後のユーディットに謝罪されたリィンとアルフィンが代表して答え

「……色々と教えてくださり、本当にありがとうございました。」

ユウナも続くように会釈をした。

「そう言えばまだメンフィル帝国のVIPの方々には会っていないのでしたよね?パーティーが始まるまでの時間を考えれば、そろそろメンフィル帝国のVIPの方々がいらっしゃる部屋を訊ねた方がよろしいのではないでしょうか?」

「そうですわね………お兄様。」

「ああ。ユーディット皇妃陛下、キュアさん。自分達はこれで失礼します。」

「ええ、皆さんの演習の成功を祈っていますわ。」

「本日は私達の為に時間を取って頂き、本当にありがとうございました。」

そしてユーディット達がいる部屋を出たリィン達は最後にメンフィル帝国のVIP達――――エフラム達がいる部屋を訊ねた―――――


 
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