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提督はBarにいる。

作者:ごません
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マメに食べよう!豆料理特集・2

「お、お邪魔します……」

「邪魔するなら帰って、どうぞ」

「ふえぇ!?」

「冗談だ、本気にするな春雨」

 ノックをしておずおずと入ってきたのは春雨だった。他の連中は仕事中だろうがズケズケと入ってくる奴が多いが、極々少数の娘達は申し訳無さそうに入ってくる。春雨もその一人で、たまにからかいたくなっちまうんだよな……リアクション可愛いし。

「お邪魔します、司令!」

「ほぇ~、本当にキミって料理するんだねぇ」

 ちょくちょく遊びに来る春雨は、普段は一人で来るんだが……今日は珍しくツレがいた。

「よぅ、五月雨に水無月か。……そういやぁ水無月はウチの店に来た事無かったっけか?」

「うん。僕、あんまりお酒は飲まないし……」

「ウチは別に下戸お断りって訳では無いんだがなぁ?」

 下戸でも賑やかな雰囲気が好きで店に来る奴は少なからずいる。そういう奴にはノンアルコールカクテルなりソフトドリンクなりを出してやるし、晩飯食いたさに来る奴もいる。ハイ画面の前の君、

『そもそもアンタの鎮守府下戸がほとんど居ないだろ!』

 というツッコミをしないように。そのようなツッコミは受け付けません、悪しからず。

話が逸れた。

「……んで?3人は何しに来たんだ」

「わ、私は今日は非番でして。差し支えなければ提督さんをお手伝いしようと思いまして……はいっ!」

 わたわたと焦りながら春雨がそう応える。焦る必要は無いと思うんだが……。

「私は春雨ちゃんとぶつかりそうになって、そのついでにお話を聞いたので一緒にお手伝いしようと……」

 と五月雨。またお前はぶつかりそうになったのか?なんというか、そういう星の下に生まれて来たとしか思えない確率でドジを引き寄せるなお前は。笑いの神にでも取り憑かれてるのか。

「僕は面白そうだったから、何となく付いてきてみたよ~、にひひっ♪」

「一番馴染みのねぇ奴が一番フリーダムな理由だったぞオイ」

 この水無月以外でも、長女の睦月をはじめとして、卯月とか望月とか弥生とか、マイペースというかフリーダムなのが多い気がするぞ……それでいいのか睦月型。

「まぁいいや、手伝ってくれるならありがたい。早速取りかかろう」

 大量に作らにゃいかんからな。正直猫の手も借りたい状況だ。




《豆でコロッケ!?ターメイヤ》※分量2~3人前

・蚕豆:750g

・パセリ:適量(ソラマメと同じ位の量に見えるくらい)

・ニンニク:3片

・パン粉:1カップ

・卵:1個

・クミンパウダー:小さじ1

・コリアンダーパウダー:小さじ1

※スパイスが無ければカレー粉かオールスパイスでも可

・塩:小さじ1/2

・小麦粉:小さじ1

・煎りゴマ:大さじ3

(タッヒーナ)

・白練りゴマ:230g

・プレーンヨーグルト:250g

・オリーブオイル:大さじ4

・ニンニク:1片

・オレガノ:ひとつまみ

・乾燥ミント:ひとつまみ

・塩:適量



「んじゃ、まずはターメイヤを作るか」

「「「ターメイヤって何?」」」

 3人が声を揃えて尋ねてくる。息ピッタリだなお前ら。

「ターメイヤってのは、エジプト料理の1つでな。簡単に言えばイモじゃなくて豆……それも蚕豆(そらまめ)を使ったコロッケだ」

「へぇ!豆でもコロッケって出来るんだ!?」

 あまり料理をしないのか、水無月が驚いたように目を見開いている。

「まぁな。とりあえず、蚕豆を茹でて貰おうか。えぇと……担当は」

「はい!私やりたいです!」

「だ、大丈夫か五月雨?」

「はい!お任せください!」

 ……ものすげぇ不安なんだが。まぁいい、やる気があるのは良いことだ。

「じゃあ蚕豆をサヤから取り出して、薄皮の黒くなっている部分に切れ込みを入れてくれ。茹でた後で薄皮も剥くからな」

「了解です!……でも、蚕豆のサヤが固くて上手く取り出せないんですが」

「そういう時は、布巾を絞るように捻ってやるとサヤが口を開けやすいぞ」

 蚕豆のサヤを1つ手に取り、実演して見せる。捻ってやると固く閉じていたサヤの口が開き、豆が顔を覗かせる。

「おぉ!すごいすごい!」

 そんなに褒められるような事でもないんだがなぁ。

「僕は何をすればいい?」

「水無月には……そうだな、今の内にタッヒーナを作っておいてもらおうか」

「タッヒーナ?」

「タッヒーナってのは、エジプト料理の定番のソースみたいなモンだ。ヨーグルトとゴマがメインのソースでな、パンに付けたり揚げ物にかけたり……色々使うんだ」

「へぇ~、どうやって作るのさ?」

「材料と分量は書き出しておいた。後はこの通りに量って、ミキサーで混ぜるだけだ」

「うん、それなら料理をしたこと無い僕でも出来そうだね!」

「任せたぞ。……っと、春雨は俺とターメイヤに入れる具材とかの準備だな」

「りょ、了解です!」

 水無月が秤を取り出して計量を始めたのを横目に見つつ、蚕豆が茹で上がる前に他の支度を済ませる。と言っても、中に混ぜるパセリを刻んだり、衣にするゴマをまぶしやすいようにバットに広げたりするだけだけどな。

「提督、蚕豆がそろそろ良さそうです!」

「どれ……うん、良さそうだな。んじゃザルにあけて薄皮を剥くぞ。まだ熱いからーー」

「あちっ!」

「……少し冷ましてから剥こうと言おうとしてたんだがなぁ?五月雨」

 そそっかしいやらせっかちやら。少しは落ち着け、五月雨。

「ご、ごめんなさいぃ~っ」

「別に怒ってないから大丈夫です、五月雨ちゃん。提督さんは五月雨ちゃんが火傷とかしてないか心配したんですよ。ねっ?」

「お?おぅ」

 春雨のナイスフォロー。お陰で泣いてた五月雨がにへらっと笑っている。

「お~い、遊んでないで皮剥きしようよぉ」

 そりゃごもっとも……すまん、水無月。




 タッヒーナを作り終えた水無月も交えて、4人で黙々と蚕豆の皮を剥く。切れ込みを入れておいたお陰か、薄皮と実の間に水分が入り込んでいて、軽く力を加えてやればつるんと綺麗に剥けてくる。その感触がまた独特で、やっていて飽きない。

「それにしても、国際色豊かな料理だね」

「アメリカ、ブラジルにエジプト……言われてみればそうだな」

「何で和食の豆料理が無いんですか?」

 純粋に疑問に思ったのだろう、春雨が首を傾げつつ尋ねてきた。

「あ~……なんつうかその、和食の豆料理って、豆がメインの料理が少ねぇし、豆そのものを食う料理が少ねぇと思うんだよな。個人的に」

 豆類の中で日本で一番消費されているのはぶっちぎりで大豆だろう。しかし、大豆そのものをそのまま料理する料理を思い浮かべてみてくれ。せいぜい、野菜とか蒟蒻と煮込む五目豆か、節分に使う煎り大豆位だと思う。

「あー、言われてみれば」

「確かにそうですよね。大豆の加工品は和食に欠かせませんけど」

 醤油に味噌、納豆に豆腐におからに油揚げ、がんもどきに厚揚げ。豆乳に湯葉。最近だと肉に似せたソイミートなんて代物もある。

「そのまんま食べる枝豆とか蚕豆だって、せいぜい、塩ゆでするか蚕豆ならサヤごと焼くか位だろ?豆料理の豊富さなら日本よりも外国の方が勝ってる……っと、剥き終わったな」

「……あれ?予定より豆が多くない?」

「あぁ、別の料理にも使うんでな。ついでに茹でておいたんだ」

 蚕豆の皮を剥き終わったら、フードプロセッサーやミキサーで蚕豆を細かくしてペースト状にする。それをボウルに移し、ニンニク、塩、スパイス、小麦粉、卵、パン粉を加えて練る。イモで作る普通のコロッケの生地くらいの手触りになればOK。水気が多かったらパン粉の量を増やして調整してくれ。

 生地が出来たら生地をゴルフボール位の大きさに丸め、潰して円盤形に成形。周りにゴマをつけて、温めておいた油で揚げる。ゴマがカリッとしてきたら完成だ。

「ほれ、味見」

 揚げて油の切れたターメイヤにタッヒーナを少しかけて、3人に手渡してやる。揚げられてカリカリになったゴマの衣の下から、スパイシーな風味の生地が顔を出す。イモのようなホクホク感は無いが、蚕豆独特の香りとしっとりとした生地が食欲をそそる。

「「「美味しい!」」」

「そりゃよかった」

 自分達で作ったんだ、美味しさもひとしおだろうさ。
 
 

 
後書き
多摩「呼ばれた気がしたニャ……!」ガタッ

球磨「気のせいだから安心するクマ。そもそも今遠征中だクマ」ペシッ 
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