【完結】猫娘と化した緑谷出久
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猫娘と期末試験編
NO.058 期末試験 四回戦目
前書き
更新します。
八百万は体育祭で一人、常闇に何も手を出すことが出来ずに場外にまで押し出されてしまった事が自信の喪失へと繋がっていた。
時間さえあれば―――……。
戦うものをすぐに創造できていれば―――……。
もっと機敏に動けていれば―――……。
……考えれば考えるほどに、色々な思いが湧き上がってきて自信を少しづつ削っていく。
だが、ある時に八百万は自身では到底推し量れないほどの運命を背負った人の事を知る事になる。
出久だ。
思い起こせば爆豪が珍しく素直に出久の言葉にしたがって帰り道を歩いていてとある公園に入っていった時の事だった。
八百万は何を話すのかと言う好奇心に負けてしまい、みんなで聞けば問題ないをすんなり受け入れてしまい、盗聴器まで使ってしまった……。
そして出久の口から話される推し量れないほどの事実。
『僕ね―――……少なくともフォウの今まで吸ってきた生命力が原因で寿命は少なくとも1万以上……大雑把に多く見積もっても3万から4万くらいはあるんだ……』
それを聞いてしまった八百万は己の浅はかさに、そして出久の過酷な運命に涙した。
その時には他にも聞いていたみんながいた手前、泣きながらも出久に聞いてしまった事を謝ったが、家に帰った後にじっくり考える機会を得て、さらに悩みが増えたような気がした。
「(なんて……今までわたくしがうじうじと考えていた事が浅はかだった事でしょう……)」
人生で負け知らずの人間など一人もいない。
もし、負けを知らないで来てしまったものは、いずれどこかで破綻する。
ゆえに、体育祭で負けを経験した己はさらに強くなれる可能性を秘めている……。
だが、出久はどうだ……?
出久は必ずヒーローになるだろう。
その志しを聞けば頷ける。
以前に、「どうしてヒーローを目指したのか?」という女子達だけでの会話をした事がある。
それで女子達はそれぞれ、生活のためとか親を助けたいとか、目立ちたいとか……悪く言うわけではないが、現実的であった。
己もただ親に望まれたから……きっと素敵なヒーローになれると言われたから。
ただ、そんな中で出久は一線を画した返答をしてきた。
ただただすごいの一言で、『救いたいから……オールマイトのように笑って助けて誰でも笑顔で過ごせるような世の中にしたいから……』と、出久は言ってのけた。
この多感な年頃である自分たちの中でもう明確なヴィジョンが出久の中にはあった。
そしてそれを聞いたのはすでに出久が己の運命を受け入れていた後だったというのがとても大きい。
それを思うと「すごいね」という生半可な言葉は言う事も出来なかった。
出久の将来のヴィジョンは先ほども言った通りで、それとは別にもう一つだけ、とても尊い目標がある。
『みんなと同じ時間を過ごしたい……みんなと笑って泣いて、一緒に歳をとってできることなら子孫に見送られながらも楽しかったと思える一生を過ごしたい』
というもの。
だが、それには出久の生命力の膨大な多さが邪魔をしてきている。
聞けば、人一人を生命力で治すのには軽傷のものなら一日か二日分の生命力を与えれば完治が可能。
重症の者なら一週間から二週間くらいの生命力。
命の危機に関わるものならば一か月分くらいの生命力を与えればなんとかなる……。
だが、逆に言ってしまえばそれだけしか消費されないのだ。
以前に常闇が言っていた。
『それに、呪い……言いえて妙だが、例の猫の罪滅ぼしとは聞こえは良いが……結果的には誰かが傷つかないといけない、不幸な目に合わないといけない……ヒーローとは本来誰も傷つかない事を望まないといけないというのに、この矛盾っぷり……茨の道と言わざるを得ないな』
それはとても真に当てはまる言葉だった。
出久は生命力を使い続けて治療し続けなければ、いつになっても死ぬことが出来ない……。
フォウもそうだったように自殺を図っても、体が勝手に修復されてしまうのだ。
人間の一生は百年くらいと言われる現代で、出久は最悪その数百倍の時間を生きなければいけない。
普通なら気が狂いそうな……絶望してもし足りないほどの運命だ。
なのに、出久はすんなりそれを受け入れてしまっていた。
―――心が強い。
八百万はただただそう思うしかなかった。
できることなら出久の目標を自分たちが生きている間に成し遂げさせてあげたい……。
しかし、現実的に見て無理かもしれない……という諦め感も否めない現状で、
「(それなら緑谷さんが早く生命力を使いきれるようにサポートする事も友として当然ですわ!)」
その思いが八百万の心に変革をもたらしていた。
哀れみから来る思いでは無い。
純粋に出久のためになるであろう事をしたいと、八百万の中で自分の将来の役割が決まりつつある決定打だった。
ゆえに、
「こんなところでくよくよとしていられませんわ!」
「うぉっ……!?」
と、今現在轟とともに相澤から逃走中の住宅街エリアでかくれんぼの様な事をしつつもそう叫んでいた。
轟はそんな八百万に対して、
「なんだかわかんねぇけど、前まで少しだけあった自信の喪失さはもうなさそうだな……」
「はい! そして相澤先生に対してばっちりな対策がもう出来上がっています!」
「ほう……話してみてくれ」
「はい!」
それで話し合う二人。
というのも、すでに一回相澤とはエンカウントしていたために、轟による大氷河によって個性を消されない範囲まで逃亡を図る事に成功した後のこの発言。
轟も聞かないわけにはいかない。
そして話し合った結果、作戦はすぐに実行に移される事になる。
「(緑谷さんの手助けになるためにも、こんなところで挫けているわけにはいきませんわ!)」
その思いとともに、八百万はとあるものを作りだしていた。
相澤は大氷河によって遮られたために二人が行動を起こすまで待っていた。
「(轟に関しては問題はない……が、八百万は体育祭から自信の無さが浮き彫りになっていた。だが、緑谷の一件で良くも悪くも八百万は成長できたのかもしれない……)」
そう相澤は分析している。
出久の事を聞いてから八百万の顔はどこか晴れやかの様な、悩みなど吹っ飛んだような軽快な表情になっていた。
相澤にとっては事が事だが素直に八百万も受け入れて将来のヴィジョンを描けるまでに成長できたのもまた事実だから出久には複雑の極みだが感謝しないといけない。
「(ふんっ……焼きが回ってきたか?)」
そんな非合理的な考えに、しかし悪くはないと相澤は思う。
そう思っていると、物陰からフードを被った二人組の姿が見えた。
「(囮か……それとも正面突破か? まぁいい。八百万、ここでどう成長できたか見させてもらうぞ)」
相澤はあえて自身から飛び込んでいった。
そして、
「やりましたわ!」
「ああ……やったな」
結果は、八百万の用意したマネキンによる二人いたかのような見え見えの囮に、相澤はわざとかかっていって、そして用意していた形状記憶合金の布とカタパルトを用意していた八百万が失敗もせずに相澤に向けてそれを射出して、そこに轟が炎を放って一気に元に戻っていく布によって相澤はすぐに捕縛されてしまった。
「やるじゃないか……合格だ」
こうして二人は相澤にカフスを嵌めたところで、
『轟・八百万ペア、条件達成!』
というリカバリーガールのアナウンスが入る。
相澤はそれで大人しくなりながらも八百万に聞く。
「……八百万、聞くがどうしてそこまですぐに立ち直ることができたんだ?」
「分かっているのに聞くなんて酷いですわ、先生。わたくしは緑谷さんの事を聞いて己の矮小さを痛感いたしました。ですからこんなところで立ち止まってしまっては緑谷さんにいつまでも追いつけないと思ったからです」
「そうか……お前ならきっと追いつけるさ」
「はい!」
二人だけ分かっているような会話に、だが置いてけぼりを食らっていた轟はというと、
「まぁ……俺も明確なヴィジョンは持ってるんだがな……」
と、呟いていた。
どういう内容かは本人の口からは話されなかったが、一体……?
後書き
八百万の気持ちみたいなものを書かせていただきました。
そして次回はお茶子ですね。
ちょっと百合思考的な事を書こうかなと……。
青山はやっぱ引き立て役だよな。
……実を言うと、轟・八百万戦と青山・お茶子戦の戦いは一話に纏めようとしていたのですが、書いていく内に、『あ、これ一話にまとめんの無理だ』と思いまして……。
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