レーヴァティン
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第五十六話 ミラノの街その十二
「僕達は本来の住人じゃないから」
「しがらみはないよな」
「そう、だからね」
「しがらみに気をせずにか」
「政治も出来るよ」
「そうだよな、じゃあな」
「うん、歌劇場のことはね」
今話になっていたこちらのことはというと。
「結局ね」
「歌劇場の方でか」
「何とかするしかないよ、歌劇場の問題で」
「ひいてはこの街の問題か」
「そう、ミラノのね」
「だからか」
「うん、僕達はね」
それこそというのだ。
「見ているしか出来ないよ」
「どうすればいいかは話せてもな」
「何も出来ないよ」
自分達にはというのだ。
「もうそれこそね」
「どうしようもないか」
「うん、残念だけれどね」
「そうだな、嫌な話でな」
「聞いていると何とかしなきゃって思うけれど」
人情としてだ、そう思ってもというのだ。剛はこの人情とシビアな現実の両方を久志にあえて話した。
「手が届く場所にはないじゃない」
「歌劇場のことはな」
「今の僕達にね、人間はね」
「自分の手が届く範囲までしかな」
「出来ないからね」
何かをというのだ。
「人間はそうしたものだよ」
「そうだよな、どんな人間でもな」
「何かを出来るのは手が届く範囲までだよ」
剛は久志にこの現実を再び話した。
「そこから離れるとね」
「見えていてもな」
「何も出来ないよ、出来るとしたら」
「もう人間じゃないな」
「神様だよ」
その存在になるというのだ。
「神様はそうしたことが出来るからね」
「神様だよな」
「そう、だからね」
「人間だとか」
「もう手が届く範囲じゃないと諦めるしかないよ」
そうなるというのだ。
「歌劇場のこともね」
「そういうことか、じゃあな」
「うん、今からね」
「手の届くことをするか」
「街を見回っていきましょう」
順一はその手が届く範囲の話を出した。
「そうしていきましょう」
「ああ、じっくりとな」
「そうしてです」
「この街を勢力圏に収めた時どう治めるか」
「このことを考えていきましょう」
「そうだよな、まあ別にな」
久志は腕を組み考える顔になり述べた。
「強権政治とか独裁とかな」
「そうした政治はですね」
「考えてないからな」
「政府の権限は強くしてもですね」
「さもないとどうにもならないからな」
政府の権限、それが小さいと治められるものも治められない。統治はそれを確かなものとする力があってこそ動き成り立つからだ。
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