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レーヴァティン

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第五十六話 ミラノの街その十

「金出してもな」
「そう思うよね」
「気に入らないからって追い出すとかな」
「我儘だよね」
「どんな連中だよ」
 こう留美に言った。
「ここの歌劇場のお座敷は」
「だから普通のお客さんからはよく思われてないだろ」
「そりゃそうだな」
「もう歌劇場私物化してるから」
「支配人も逆らえない位にっていうからにはか」
「うん、もう大変だよ」
 それこそというのだ。
「看板指揮者も歌手も追い出してその人達他の歌劇場で活躍してるし」
「それだと全体的な質の低下になるよ」
 こう指摘したのは淳二だった。
「歌劇場のね」
「うん、鋭い指摘だね」
 留美は淳二の言葉にすぐに応えた。
「優れた人を追い出していったらね」
「もっと優秀な人を連れて来るならともかく」
「お気に入りの人ばかりを入れたらね」
 そのお座敷の連中のだ、その指揮者や歌手の力量に関係なくそうしたことをしていると、というのだ。
「歌劇場の質が低下するよ」
「それで最近そのことも心配されてるんだ」
「島一の歌劇場でも」
「ウィーンと五分を争う位のね」
「ウィーンだね」
「うん、この島の音楽は何といってもウィーンだけれど」
 それでもというのだ。
「そのウィーンにも負けない位凄いんだけれどね、本来は」
「それがなんだ」
「そう、本当にね」
 これがというのだ。
「最近はね」
「質の低下が問題になってるんだ」
「そうなんだ」
「とりあえず僕が思うにはね」
「お座敷の人達何とかした方がいいね」
「幾ら特等席でお金をうんと出してくれても」
 それでもというのだ、この場合金は力であるがそれでもというのだ。
「やりたい放題はね」
「許さないことだね」
「歌劇場の為にもね」
「それが出来たらね、今の支配人さん気が弱くて」
「お座敷の人達に言わないんだ」
「そうなの」
 これがとだ、留美は淳二に話した。
「これがね」
「だから余計にだね」
「ややこしいことになってるんだ」
 お座敷の者達が好き勝手しているというのだ、優れた指揮者や歌手を追い出してお気に入りの者達を入れる様な所業を。
「この辺り政治だよね」
「歌劇場も政治でござる」
 ここでこう言ったのは進太だった。
「力を持つ者が腐敗するならば」
「どうするかだよね」
「どうにか出来ないとでござる」
「ここの歌劇場みたいになるね」
「そうでござるよ」
 まさにとだ、進太はミラノの賑やかな街並みを見つつ留美に話した。
「この街の歌劇場はそう考えるとでござる」
「危ういね」
「言うなら支配人はお飾りでござるな」
「そうなってるよ、というかね」
「お飾りよりもでござるな」
「悪いかもね」
 そうした状況だというのだ。
「正直ね」
「傀儡はそれなりの資質が必要でござるからな」
 その立場であることを認識して座っている、それが出来ないと傀儡は出来ないのだ。 
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