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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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十二 奪還

 
前書き
お待たせしました!
色々捏造してしまってますし、オリジナル忍術が出てきます!
おかしな箇所や矛盾する点も多々あるでしょうが、眼を瞑ってくださるとありがたいです…!
どうかよろしくお願い致します!!

 

 
「ま~たサソリの旦那に、準備不足だって怒られそうだな…うん」

はたけカカシを蜘蛛型の起爆粘土で、九尾の人柱力と上手く引き離す事はできたものの、粘土の量がもう残り僅かな事に、デイダラは思わず天を仰いだ。
目を瞑り、強がった物言いで呟く。

「しかし、あれこれ考えてチマチマ用意するのは性に合わねえ。どんな状況になろうとも柔軟な発想で対処する。それこそが芸術家としてのセンスを磨くことにも通じるってもんよ」

苦笑を口許に湛えつつ、閉ざしていた眼を開けて眼下を見下ろすと、自分を睨み据える視線の持ち主と目が合った。




九尾の人柱力───波風ナル。

強い眼光でデイダラを見上げている彼女の視線を受けながら、「うーん…どうしよ」と悠長な態度で人柱力を捕まえる算段を探る。

不意に、眼下の相手が動きを見せた。
攻撃ではない。


何事かと視線をやると、何らかの巻物を取り出している。
流れるような仕草でシュッと巻物を開いたナルに、デイダラは眼をパチパチと瞬かせた。
そうして、巻物に描かれた術式に、瞳を細める。


(【口寄せ】の術…?)

眉を顰めるデイダラの前で、ナルが巻物の術式に手を打った。術が発動する。


直後、巻物の上で立ち昇る白煙。
ナルが口寄せした相手に、警戒態勢を取ったデイダラは、思わぬ姿に眼を丸くした。

























ふらり、立ち眩みを起こす。

一瞬意識が朦朧とし、ヒナタは机の端を掴んだ。ぐっと堪える。
踏鞴を踏んだ彼女を見て取って、砂の医療忍者が慌てて駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

休み無しでずっと、患者の容態を診ていたヒナタを砂忍が気遣う。


サソリの置き土産であった起爆札の爆風に雑ざっていた毒ガスを吸って、多くの砂の忍びが倒れてしまった。
その件で、ひとり砂隠れの里に残り、治療する為にナル達とは別行動を取っていたヒナタは、疲労感を漂わせながらも気丈に振舞う。

『白眼』を持つ故に、医療忍術に長けているヒナタのおかげで、毒ガスの被害に遭った患者のほとんどが快復に向かっている。
本来ならば、ナルと一緒に、我愛羅奪回を目的とした班員に加わるはずだった彼女を、砂の医療忍者は心配した。


「休憩無しのぶっ通しで治療してくださってるじゃないですか!休息してください!」
「それに、貴女のおかげでほとんどの患者が快復しています。もう大丈夫です!ここは我々に任せて…」

医療忍者に説得され、ヒナタは周囲の患者を見渡した。
確かに顔色も随分良くなっている。このまま安静にしていれば、全快するだろう。


砂の医療忍者たちに説き伏せられたヒナタは、木ノ葉増援部隊が休む為に用意された客室へと向かった。
カンクロウが握っていたサソリの服裾を忍犬に辿らせている間、休ませてもらっていた部屋である。
結局毒ガス騒ぎで、治療室に入り浸りになっていたものの、荷物などを置かせてもらっていたのだ。

チャクラを使い過ぎたので、今の状態でナル達の増援へ向かっても、足手纏いになるだけだ。
それに、カンクロウも我愛羅を奪回する為に、里を出るという。
それに同行させてもらう為、とにかく荷造りをしようと考えたヒナタは、自分達木ノ葉の忍びに宛がわれた部屋の扉を開けた。


「えっ!?」

部屋に入った途端、想像していなかった相手が室内にいるのに気づいて、ヒナタは驚愕する。
我愛羅を奪還する為に、とっくに砂隠れの里から出たはずの彼女の姿をまじまじと眺め、ヒナタはおそるおそる訊ねた。


「な、ナルちゃん…?」

じっと動かず、静かに眼を伏せているナルが部屋の隅で座っている。


窓から入ってきた小鳥が肩に乗っていても、微動だにしない。
ヒナタがそっと近寄ると、小鳥は逃げ出したが、ナルは依然として黙している。


「ナルちゃん、いつからここに…?いのちゃんと一緒に行ったはずじゃ…」

砂隠れの里を襲い、我愛羅を攫った『暁』の一員。
サソリの匂いを辿った忍犬の案内で、はたけカカシ、山中いの、そしてチヨと共に、我愛羅救出に向かったはずである波風ナルが残っている事に、ヒナタは戸惑う。

何も反応しないナルの肩に、おずおず触れようとしたその矢先、白煙が立ち昇る。

「な、ナルちゃん…?」
座禅を組んでいたナルの姿が白煙と共に目の前で掻き消える。
妙な現象だが、思い当った術の名を、ヒナタは口にした。


「……今のは…【影分身】?」




ナル本人ではないような気はしていたので、彼女が得意とする術だとは勘付いたものの、ヒナタは首を傾げる。
何故、影分身をわざわざ一体、砂隠れの里に残していたのか。

動かずに、ただじっと黙しているだけの影分身をつくるにも、チャクラが必要だ。
戦闘において大事なチャクラを何故、影分身に回しているのか。


動揺と疑問が入り雑じりながらも、ヒナタはカンクロウが里を出ようとしているとの知らせを耳にして、慌てて身支度する。
部屋を出る寸前、先ほど白煙と化して消えたナルがいた場所をチラリと見やる。

ナルの残像を掴むように、眼を細めて、ヒナタは心の内でナルに呼びかけた。

(ナルちゃん…今から私も行くからね…!)



ナル・いの・カカシ、チヨ、そして我愛羅の無事を願いながら、ヒナタは砂隠れの里を出発する。
治療で既に疲労困憊しながらも、少しでも力になる為に。





























「【口寄せの術】…!」


白煙が掻き消える。
口寄せした相手────口寄せ動物でもなんでもなく、ナルそのものが巻物の上で座っている光景に、デイダラは呆れた声をあげた。

「おいおい…そりゃ【分身】か【影分身】か?」


デイダラを見据えながら、ナルが【影分身】の術を解く。
軽い破裂音と共に、再び巻物の上で白煙が舞い上がった。

「そんなもん、口寄せしたところで何になる?うん?」

冷笑しながら、デイダラは軽く起爆粘土を投げる。

はたけカカシを足止めしているモノと同じ、蜘蛛型の粘土が跳ねながら、ナルに向かって飛び掛かった。
【影分身】の術を解いたナルの頭上に、蜘蛛が小さな影を落とす。


「チャクラの無駄使いだ…うん!!」

デイダラの合図で、蜘蛛が爆発する。
【口寄せ】や【影分身】を解いた時とは比べ物にならない白煙が立ち昇った。


白煙の向こうを透かし見るように、巨大な鳥の上から俯瞰していたデイダラは、次の瞬間、すぐ横から殺気を感じた。
「……ぐっ!!??」

辛うじて、避けようとしたが、吹き飛ばされる。空中で体勢を整えながら、デイダラは巨鳥に合図をした。
旋回した鳥の背中に上手く着地する。

回避したはずなのに、衝撃を受けた事実にデイダラは顔を顰めた。
未だ立ち込める白煙の向こうから、声が聞こえる。


「無駄じゃないってばよ…!」

白煙が消えていくうちに、見えてくる金の長い髪。
寸前と何も変わらないだろうに、妙な威圧感を感じ取って、デイダラは無意識に身構える。


風に髪をなびかせながら、岩の壁に重力を無視して佇むナルは、不敵な笑みを口許に湛えた。




「我愛羅は返してもらう…!!」




眦に紅の色が一筋。
赤い隈取りを目元にくっきり浮かばせて、ナルは口角を吊り上げた。



















印を素早く結ぶ。直後、岩壁をナルは強く叩いた。


「【土遁・岩壁(がんぺき)十手(じゅって)】…!!」


刹那、岩の壁から巨大な手が伸びてくる。
岩で形作られた手がデイダラの乗る鳥を捕まえようと、迫って来た。


それを回避したところで、背後の岩壁から、別の手が生えてくる。
岩壁と岩壁に挟まれた場所だからこそ、攻撃しにくい場所だと判断したのに、逆にその地形を利用してきたナルの術に、デイダラは舌打ちする。


空中を巨鳥で飛び回りながら、判断を見誤った、とデイダラは己の失態を思い知り、苛立ちを募らせた。


鳥を捕らえようと、周囲の岩壁から生えている手が、掴み損ねて空を掴む。
術を発動させながら、ナルもデイダラと同じく、焦燥感に駆られていた。

時間が無い。


仙人モードになれたところで、まだ持続期間は短いのだ。
今の内に、我愛羅を奪い返さないといけない。

砂隠れの里で、客室として宛がわれた部屋に、ナルは【影分身】を一体残しておいた。
そしてその影分身に、万が一の為に、と仙術チャクラを練らしながら待機させておいたのである。

しかしながら、砂隠れの里を出る直前に【影分身】をつくったので、仙術チャクラはあまり練り込めなかったようだ。
【口寄せ】で呼び寄せた【影分身】を解いたところで、還元された仙術チャクラが大した量ではないことが、己の中に入ってきた時点でナルには把握できた。


(せいぜい、二分…ってところか)

ならば、その間に、我愛羅を無事に奪還しなければならない。
そこで用いたのが、己が修行の内に編み出した術──【土遁・岩壁十手】だ。


岩でできた巨大な手が岩壁から十本出現する。
十本と言っても、捕縛対象を追って、あちこちの岩壁から現れ、素早い動きで手の中へ閉じ込めようとする術だ。

この術は、仙人モードではないと発動しないのだが、こういった地形を利用して敵を捕らえる事が可能であり、障害物が多ければ多いほど、捕縛に向いている。
要するに、現在のように、岩の壁と壁に挟まれた地形だからこそ、活用できる技だ。

仙術チャクラを多く練れば練るほど、十手から百手、そして千手へと徐々に手の数を増やしていく、捕縛専用の術である。



倒すだけならまだしも、デイダラの手中には我愛羅がいる。
彼を無傷のまま安全に取り返すには、一先ず、相手を捕縛するのが優先だと、ナルは考えたのだ。







「チッ…!こんなの想定外だぞ、うん…」

岩壁から生えてくる手を爆弾で吹き飛ばすにも、粘土が足りない。
天高く伸びれば、追い駆けてこないかと思いきや、岩の手が鳥の進行を阻む。
行く手を阻まれ、とにかく回避するしかこの場を凌ぐすべはない。

「まぁ、こんな大技、チャクラ切れですぐ終わ…ッ」

不意に、間近に迫ってきた拳に、デイダラは慌てて顔をめぐらせた。
しかしながら、またもや回避したにもかかわらず、頬に衝撃が奔る。

即座に距離を取ったデイダラは、いつの間にか、岩の手に乗って接近し、殴りかかってきたナルを睨んだ。

(まただ…!かわしたのに、攻撃が当たる…!なんなんだ、うん…!?)



仙人モードであるが故に、周囲の自然エネルギーが術者の体の一部となっている為、攻撃範囲が広がる【蛙組手】。

たとえ相手が躱しても攻撃を当てることが可能である体術だとは知らないデイダラは不可解な現象に、顔を険しくさせる。


妙な術を使うナルを警戒するあまり、背後から迫る石の手を見もせず、鳥が回避した。
刹那、鳥の顔に何かが飛びつく。


はたと見下ろしたその瞬間、デイダラは足場を崩された。

「なに…!?」
「我愛羅は返してもらうって言ったってばよ…────【螺旋丸】!!」



我愛羅を口の中に入れている巨鳥の顔。それを手に入れる為に、鳥の首と胴体の中心で閃光が奔った。
【螺旋丸】を当てられた巨鳥の胴体と首が引きちぎれる。



「くそ…!?」
「ナル…!よくやった!!」



足場であった鳥を失い、空中で体勢を整えていたデイダラの耳に、最も聞きたくなかった声が聞こえてくる。
デイダラの蜘蛛型の起爆粘土を振り切って、ナルの許へ駆けつけたはたけカカシが、額あてを押し上げた。
その眼は赤く渦巻いている。



【万華鏡写輪眼】。


その瞳に確実に捕らえられ、デイダラはぶるりと寒気を覚えた。
嫌な予感がすると同時に、空間が曲がる。
全身がその空間に捉えられ、身体そのものが捻じ曲げられそうな感覚を覚えた。



「とらえた…!!」



瞳にとらえた範囲の空間をべつの空間に転送する脅威の瞳術。
ナルのおかげで確実にピントを合わせる事が出来たカカシの左眼がデイダラを真っ直ぐに見据える。
空中で身動ぎひとつできず、デイダラは冷や汗を掻いた。


逃げられない。



































「仙術か…」


岩の壁から生えていた手がやがて、元の岩壁へ戻っていく。
仙術チャクラが切れたのか、肩で荒く息をしながら波風ナルが【土遁・岩壁十手】の術を解いた。
眦の紅が、スゥ……と消えてゆく。


仙術モードではなくなった波風ナルを遠目から見て取って、ナルトは青の双眸をゆるゆると細めた。


デイダラと、カカシ、そしてナルを遠くから観察していた彼は、指先に止まった蝶に、ふっと吐息をかける。
蝶はひらひら、と甘い香りを残し、ナルトの手から離れて行った。



「手間を増やしてくれるなよ…──デイダラ」

デイダラへの言葉を告げながらも、ナルトの視線はナルに向かっている。



以前と同じく真っ直ぐなナルをじっと見つめるその瞳は、まるで眩しいものを見るかのように優しく細められていた。 
 

 
後書き
仙術や仙人モードに関してあやふやな知識しかなくて申し訳ございません…!!
完全に捏造満載ですが、どうか次回もよろしくお願いします! 
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