渦巻く滄海 紅き空 【下】
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十一 暗中飛躍
前書き
大変お待たせしました!
ですが申し訳ございません!急いで書いたので手抜きに加え、短いです(汗)
だけど、久しぶりのあのキャラが再登場!
憶えていらっしゃるでしょうか…??
身体を捻り、人形が突き出してきた刀を回避する。
耳元で、ひゅっと、風を切るような音がした。
自らが操る傀儡人形。
主である自分の意志に逆らって攻撃してきた人形に、サソリは顔を顰める。
(チヨ婆の奴…俺の傀儡にチャクラ糸を繋げやがったか…!?)
しかしながら、ただでさえ十本の指で【白秘技・十機近松の集】を操っているのに、その上更に、いのまで操るチヨに、サソリの傀儡を奪ってチャクラ糸を繋げる余裕があるだろうか。
(だが、俺の傀儡を操るなんて、それしか考えられない…婆め、一体どんな手を…)
改めてチャクラ糸の先がきちんと傀儡に繋がっているか、サソリは手ごたえを確認する。
その間に、窮地を脱していたチヨは肩で息をしながら、今し方の展開に眉を顰めた。
(今のはわしを殺す絶好の機会だった…何故────)
頭上から迫り来るサソリの人形。
その攻撃をもろに受けてしまう間際、一瞬何かに気を取られたのか、サソリの手元が僅かに狂った。
その隙に無事攻撃を回避したチヨは、不可解な展開に違和感を覚える。
疑問が生じつつも、サソリからの怒涛の攻撃と圧倒的な傀儡の数を前に、チヨは再び指を構えた。
サソリの傀儡人形───それらが着実に減っている。
その理由が、いのにある事に、彼らはまだ気づいていなかった。
辺りを警戒する。
二人で交互に周囲を満遍なく見渡し、誰にも見られていない事を確認する。
打ち捨てられた廃墟。
与えられた任務を遂行した後、指示された待ち合わせ場所で、鬼童丸と左近は油断なく廃墟の奥へと進んで行く。
奥に進むにつれ、益々暗くなっていく廃墟。
四方は石壁で取り囲まれており、あちこちで石の柱が崩れている。
罅割れた天井の隙間から洩れる僅かな日光だけが、唯一の明かりだ。
崩壊した遺跡のようなその場所はかつての栄光など忘れてしまったように、しん、と静まり返っていた。
「…人使いが荒い奴ぜよ、ダンゾウって野郎は…」
「まったくだ。これならボスのほうがまだマシだっつーの」
ぼやきながら、倒れた柱の瓦礫に腰を下ろす。
罅割れた石柱に背中を預け、一息つくと、壁と壁の合間から声が聞こえた。
「おっつかれ~!!」
やけに間延びした明るい声に、二人の肩が大きく跳ねた。瞬時に警戒態勢を取る。
しかし、人影らしいモノは見当たらない。
待ち合わせしている相手か、それとも気配を消して自分達を尾行していた敵か。
後者なら、現在自分達の身柄を拘束している組織の可能性が高い。
鬼童丸は左近と目配せした。
お互いの心にある懸念は一つ。
((もしや、バレたか…!?))
「あ、大丈夫大丈夫」
二人の気持ちを読んだかのように、見えない存在が明るく答えた。
声のする方向へ眼を凝らすと、壁の壁の罅の隙間から、何かが滲み出ている。
じわじわと大きくなる染みの正体を、左近と鬼童丸は注視した。
「……水?」
「せいか~い!」
瞬間、壁の罅という狭い隙間を抜けて、ばしゃりと多量の水が迸る。
かと思えば、その水は人の姿を模って、やがて青年へと変化していく。
「正確に言えば、【水化の術】なんだけどね~」
ぴちゃん、と波紋を描いて、人の姿へと戻った水月は、へらへらと笑みを浮かべる。
警戒態勢を崩さない左近と鬼童丸を困ったように眺めて、彼は頭を掻いた。
「え──っと。アンタらが『根』に潜伏中の、元『音隠れ五人衆』?」
悪びれる様子もなくあっけらかんとした物言いで、訊ねてきた水月に、左近と鬼童丸の顔から血の気が引いた。
色白の見知らぬ青年と大きく距離を取る。チャクラを練り始めた二人に、水月は慌てて顔前で手を振った。
「いやいやいや!!ちょ、ちょっと勘違いしてない!?」
水月の意見を聞かず、左近が一気に踏み込む。その後方では、鬼童丸が蜘蛛の糸を硬質化させ、弓矢を構えた。
【呪印】を発動させずとも蜘蛛の糸を弓矢に変化させる事が可能になっているのは、皮肉にも『根』の過酷な修行の効果である。
「敵じゃないって!!」
二人からの攻撃を避け、水月は叫ぶ。
能天気な雰囲気を醸し出しているものの、しっかり回避する相手に、鬼童丸と左近は益々警戒心を高めた。
しかしながら直後、攻撃を仕掛けた彼らは、水月の一言で、ピタッと動きを止める。
「アンタ達、喧嘩っぱやすぎ!カルシウム足りてないんじゃね!?君麻呂を見習ってカルシウム濃度調整しろよ!!」
折しも、昔、香燐が君麻呂に向かって怒鳴った言葉と同じ言葉を水月は言い放つ。
君麻呂の名前に反応した左近と鬼童丸は水月を訝しげに見遣った。
「……てめぇ、君麻呂を知ってるのか?」
「知ってるも何も!アイツ、ナルトにべったりじゃん!!白と毎回、右腕の座巡って争ってるし!」
聊かうんざりした口調で答えた水月に、左近と鬼童丸は顔を見合わせる。
攻撃こそ止めたが、未だ警戒態勢は崩さず、水月から距離を取っていた二人の脳裏に、次の瞬間、声が響いた。
『久しぶりだな、鬼童丸、左近…それに、右近も』
普段は左近の体内で眠っている右近にも挨拶してきたその声の主に、水月・鬼童丸・左近は同時に叫んだ。
『おっそいんだけど!?ナルト!』
『ナルトか!待ち合わせにコイツ寄越したのはお前ぜよ!?』
『ってゆーか、この水ヤロー誰だよ、ボス!?』
【念華微笑の術】で連絡を取ったナルトに向かって、一斉に喚く。
同時に言われ、ナルトの苦笑雑じりの声が三人の脳裏に伝わった。
『一気に言わないでくれ…それと、左近、その呼び方はやめてくれ』
自分をボスと呼ぶ左近を窘めるナルトをよそに、鬼童丸が水月を睨み据える。
『俺達はお前の指示通り、待ち合わせ場所である此処に来たんだぜよ』
『ああ、すまない。俺は少し抜けられない用事があってな。彼に頼んだんだ。顔合わせもさせたかったしな』
ナルトの謝罪に、左近と鬼童丸の警戒心が若干薄れる。
それでもまだ自分に対して警戒態勢は崩さない彼らに、水月は軽く肩を竦めた。
「ボクは鬼灯水月───ナルトのお仲間だよ」
なんとなく白々しいその様子に、左近と鬼童丸は顔を顰める。
しかしながら、脳裏に響くナルトの言葉が、水月が敵ではない事実を明らかにしていた。
左近と鬼童丸は、大蛇丸の命令でうちはサスケを里抜けさせる最中、大蛇丸から逃れ自由の身となる計画を企てていた。
死を偽造しようとしたものの、失敗し、『根』のダンゾウに生け捕りにされてしまう。
もっともナルトが前以って取り引きしていたので身の安全は保障されており、現在は『根』の優秀な手駒としてダンゾウの下、修行させられていた。
ナルトとは度々、【念華微笑の術】という術で連絡を取り合っており、今回、待ち合わせ場所として指示されたこの廃墟に、ダンゾウの眼を盗んで、二人は来たのだ。
しかし、待ち合わせ場所に来たのは、ナルトではなく見知らぬ人間。
左近と鬼童丸が警戒するのも無理はなかった。
一方、水月は再不斬の首切り包丁が目的で、ナルト達と行動を共にしている。
前以って、元・音の五人衆の二人である左近と鬼童丸の事は聞かされていたものの、自分の情報も既に彼らに伝わっていると思っていた為に、水月は聊かナルトを非難した。
『ちょっと!いきなり攻撃されるとか聞いてないんだけど!?なんで顔見知りじゃなくて、ボクを寄越したわけ?』
今回の待ち合わせ場所へナルトに指示されて向かったものの、顔見知りである君麻呂や多由也のほうが適任だったのではないか、と言外に告げると、脳裏で謝罪と共にナルトが説明する。
その説明を聞くうちに、水月の機嫌も徐々に治まってきた。
『───というわけだ。お前が適任だろう、水月?』
『あ──…そういうことね…』
納得した水月が左近と鬼童丸に顔を向ける。
ナルトの説得でようやっと警戒態勢を解いてくれた二人に、水月は本題を切り出す。
現在『根』に潜入している彼らにしか頼めない事。
この廃墟のように人目がない場所ならともかく、流石にダンゾウの眼が光る『根』に水月は潜入出来ない。
だからこそ、今、表向きは『根』に所属という形に納まっている鬼童丸と左近が適任だ。
そして、彼らに与える任務内容から、今回待ち合わせ場所にナルトが水月を向かわせた事も納得できる。
ナルトから得た情報をもとに、早速水月は本題を切り出した。
「ボクが知る限りの情報を教えるから、アンタ達にはダンゾウの許から奪ってきてほしい」
「奪う、だと…?」
怪訝な表情を浮かべる左近と鬼童丸に、水月は言い直した。
「いや、ダンゾウが奪った、というのが正しいか…」
「何の話だ?」
理解が出来ず、眼を瞬かせる二人に、水月は口許に弧を描いた。
特徴的なギザギザの歯が垣間見える。
「霧隠れが唯一所有する双刀『ヒラメカレイ』、そして鮫肌と首切り包丁を除いた───『霧の忍刀七人衆』の忍刀」
己の目的であり、本来の目的を達成する為の重大な要。
その為に水月は、『根』に表向き所属している左近と鬼童丸に協力を仰ぐ。
ナルトの仲間であり、『根』にスパイとして入り込んでいる彼ら二人に。
「ダンゾウの許にある、それら忍刀を盗んできてほしい」
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