外伝・少年少女の戦極時代
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
斬月編・バロン編リメイク
あたしがあなたで、あなたがわたしで
よく、頭をぶつけたり階段から転げ落ちたりして、二人の人間の人格が入れ替わってしまったという話がある。
今の咲とヘキサはそんな状態だ。
ヘキサの体になった咲が、咲の体になったヘキサが、呆然と互いを凝視している。ちなみにリトルスターマインの仲間たち、ナッツ、トモ、モン太、チューやんも凝視している。
弾みだったのだ。いつものように野外劇場で彼女たちは踊っていて、弾みがついて頭をごっつん! そして両者が顔を上げた時、咲は咲ではなく、ヘキサもヘキサではなくなっていた。
まだ曲は流れている。リトルスターマインのステージは終わっていない。なのに咲とヘキサがダンスに復帰しないものだから、観客であるちびっこたちがざわめき始める。
「はいはいごめんねー! ちょっとリーダーたち事故っちゃったから、今日のステージこれでしゅーりょー!」
「かいさん! かいさーん! 今日もみんなありがとー!」
ナッツとモン太がちびっこたちに帰るよう促す間に、トモが咲とヘキサのぶつけ合った患部を診た。薙刀道を修めるトモによれば、たんこぶも出来ない程度の軽い打撲とのことだ。
「原因究明はあと回しよ。問題はこれからどうするかっしょ」
観客を帰し終えて、ナッツとモン太が戻って来た。
「……ぶつける?」
同じ衝撃を与えれば戻るのではないかとのチューやんの提案に乗り、咲はヘキサと二度頭をぶつけ合った。……視界に星が散ったに終わった。
よい子も悪い子もおうちに帰っていなければまずい時間帯が近づいている。
「どーしよ……」
途方に暮れた声はヘキサのものだが、発したのは咲だ。自分自身にひどい違和感を覚えた。
「ほんとのこと話しても、信じて……もらえないよね。貴兄さんなんか、とくに」
諦めた声は咲のものだが、発したのはヘキサだ。
「なんなら二人とも、わたしの実家泊まる? うちのじーさま、そのへん許容範囲広いわよ」
トモの実家は薙刀道場を営むそこそこの屋敷であるのは、咲たち全員の衆知のところだが。
「だめ。貴兄さん、小学校のあいだは、林間学校と修学旅行以外でのおとまりは禁止って方針だから」
「あたし一度、初瀬くん探しで無断外泊やったから、親がかなりキビしくなってる」
こうなったら――やるしかない。
咲(体はヘキサ)はヘキサ(体は咲)を見た。ヘキサの目にも、同じ結論に達したことが分かる色があった。
黒くて長い車から降りて、咲はそびえ立つ屋敷の玄関に立った。
(まさかこんなカタチでヘキサんちに来る日が来よーとわ)
――咲はヘキサのフリをして、ヘキサは咲のフリをして、家に何食わぬ顔で帰る。それが咲たちの出した結論で、決めた行動だった。
咲は勇気を出して、重々しい白門扉を引いて、呉島邸に足を踏み入れた。
「おじゃま……じゃなくて、ただいまー……?」
これが室井家なら母が「おかえりー」と答えてくれるのだが、この屋敷では沈黙だった。
(うわー。ホールにシャンデリアと噴水? とか。いかにもお金持ちな感じの家だなあ。とりあえず自分の……ヘキサの部屋行って、荷物おいてこなきゃ。確か2階に上がって右の一番奥の部屋、だっけ)
「碧沙。帰ったのか」
口から心臓が出るかと思った。
「た、たた、たっ」
「碧沙?」
「ただいまっ、貴兄さん」
言えた。あの、恐怖の化身といって過言でない白いアーマードライダー、呉島貴虎に対して、笑顔で、挨拶できた。
「ああ、おかえり。――ケガをしたのか? 頭に湿布なんて貼って」
「ちょっとヘキ……トモダチ、と、ぶつかっちゃっただけ。だいじょぶ」
「ならいいが。上がって着替えて来なさい。夕食にしよう」
「はぁい」
後書き
原作20話と21話の間なので、まだ貴虎への苦手意識がある咲(inヘキサ)です。
ページ上へ戻る