普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
233 〝白〟墜ちて
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
「……お命頂戴っ!」
――“息絶えよ(アバダ・ケダブラ)”
無事〝姿あらわし〟のテストを合格してから数日。諧謔を含ませた宣言と共に俺の杖から飛び出たであろう緑の閃光が、〝その巨体〟の──バジリスクの命を奪った。
俺の頭上から一呑みにせんと首を上げていたバジリスクはどしん、と大きな音を発てて《秘密の部屋》のタイルに倒れ伏す。
……〝杖から飛び出たであろう〟と仮定形になっているのは俺が目を瞑っているからで、自身には“リレイズ”を掛けてあるが一応の保険のためだ。
(まずは状況把握だな)
そんな事を内心でごちてから目を瞑ったままバジリスクの死体に触れ、そこが頭部でないことを確認しつつ──出来るだけ下を見ながら目を開ける。……するとそこには、緩く[S]の字を書くように打ち倒されているバジリスクの死体があった。
バジリスクの死体についての現状を確認すると、流れ作業よろしく次の行動に移す。
(よし次は…)
――“鳥よ(エイビス)”
杖を振った軌道から出てきた数匹の小鳥に〝倉庫〟から取り出した大きめな厚手のシーツを持たせて、頭部がある方に向かわせ──落とさせる。そして角度を考えつつ無事バジリスクの目は隠れたのを黙視で確認する。
後は牙の根元に〝切断呪文〟を掛けるだけで…。
「“切り裂け(セクタムセンプラ)”。……よし、“バジリスクの牙”ゲットだな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
“バジリスクの牙”を入手して、〝お辞儀さん〟に対して〝五手詰み〟を掛けてから今でこそ1ヶ月ほど経過しているが、2週間ほど前6月30日。ついに〝その日〟が来た。……結果から云ってしまえば、〝知識〟通りダンブルドア校長は逝った。
しかし〝知識〟といろいろと異なっているところがあった。
(ベラトリックス・レストレンジ──来るかと思ってたんだがな…)
仙術でダンブルドア校長の〝命の音〟が消えたことと〝校長室から〟遠ざかっていったセブルス・スネイプとドラコ・マルフォイの気配を思い出しながら〝まぁ〝原作〟と〝映画版〟の違いか〟とテキトーに自らを納得させる。
……件の〝ホグワーツ防衛戦〟でフェンリール・グレイバックに噛まれてしまったビルと、頑としてそのビルとの結婚を諦めなかったフラーの、揺るがぬビルへの愛を見れたり…。
閑話休題。
話は変わるが、ここで〝ドラコ・マルフォイにとっての一番の〝幸運〟とは?〟と云う問いについて考えてみよう。
〝〝お辞儀さん〟からの信頼を得ること?〟
≪死食い人≫なら一番に思い付きそうな内容だが、その公算は低いと俺は見ている。……何故なら、信頼を得てしまったら、これ以降もずっと〝お辞儀さん〟からの〝信頼〟に応えられるように努力し続けなければならない。それはここ一年のドラコの変調を見る限り、難しいだろう。
だとすればこうも思うはずだ。〝あのパワハラ上司死なねーかな〟──と。
……もちろんそれは俺、アニー、ダンブルドア校長、の希望的観測でしかないが、少なくと今日〝〝お辞儀さん〟討滅のイージーモードルート〟に入ったのは確かだ。
〝お辞儀さん〟が討滅されたとすると、ドラコは得るものがある。
それは云うまでもなく〝家族の安寧〟。
そもそも、ドラコがダンブルドア校長を殺そうとここ一年頑張っていたのは父親(ルシウス・マルフォイ)の事があってだ。……これも推量でしかないが、【ハリー・ポッターと死の秘宝‐part2‐】を観る限り強ち間違っていないだろう。
(……さて…)
現状の纏めはさて置き、主がマクゴナガル先生に代わってしまった校長室へアニーとハーマイオニーを伴って入室する。
ダンブルドア校長の葬儀は厳かに終わり、〝後は〝ホグワーツ特急〟に乗るだけ〟となっていたのだが、俺とアニー、ハーマイオニーはマクゴナガル先生から呼び出されていた。
一応〝マクゴナガル校長〟と言い換えるべきか──マクゴナガル校長はどことなく所在無さげに、6月30日まではダンブルドア前校長が座っていた椅子に腰を掛けていて、入室してきた俺とアニー、ハーマイオニーを見る。……その眼力にも、やはりどことなく平素の輝きが感じられない。
「ポッター、ウィーズリー、グレンジャー。三人ともよく来てくれましたね」
「マクゴナガル校長先生…」
「グレンジャー、私は今のところ〝代理〟でしかありませんよ」
――“交換”
「顔色がよろしくないみたいですね。……どうぞ」
眼に力がなければ声にも張りは無かった。いたたまれなくて、杖を振って〝取り替え呪文〟でホットココアが容れられたマグカップをマクゴナガル先生に差し出す。
マグカップをマクゴナガル先生は湯気の向こうで「……ウィーズリー、どうもありがとう」と短く礼を言い、そのカップに口を付けて「ふぅ…」と一息吐いて本題を切り出してきた。
「さて、三人とも呼び出された概要については十分に理解しているでしょうが──私が訊きたいのは〝これ〟についてです」
俺のホットココアで幾分か力を取り戻したのか、マクゴナガル先生はさっきまでよりかきびきびとした所作で机の引き出しから三枚の羊皮紙を取り出すとそれを俺たちに突き付けてきた。
羊皮紙の1枚にはこう書かれていた。
――――――――――――――
………認可証………
ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
【ホグワーツ魔法魔術学校】が校長、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアの名に於いて1997年9月1日より上記の生徒の〝無期限休学〟を認可する。
ならびに復学時期、要否は上記の生徒の任意とする。
1997年6月15日
【ホグワーツ魔法魔術学校】校長、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア
――――――――――――――
三枚の内の1枚にはそのような内容が認められていて、他2枚の羊皮紙は[ロナルド・ランスロー・ウィーズリー]の字が[アニー・リリー・ポッター]と[ハーマイオニー・ジーン・グレンジャー]と名前がそれぞれ変わっている。
〝〝お辞儀さん〟討滅〟の手順を踏むにあたり、さすがに〝このままホグワーツに通う〟と云う選択肢を取れなかったので、ダンブルドア前校長に前以て認めてもらっておいた物だ。
「貴方がた三人が──特にポッターがアルバスと某かの謀をしているのは理解していますが、悪いことは言いません。……教師や大人を頼りなさい」
「……それは〝全部話せ〟と云うことですか?」
「………」
アニーが問えばマクゴナガル先生は口を噤む。それは言外の肯定であった。……当然俺達はマクゴナガル先生からの提案は受け入れられない。
「………」「………」「………」「………」
四者四様に口を閉ざし校長室にえもいわれぬ静寂が訪れ、そこで俺は意を決して口を開く。
「マクゴナガル先生。結論からいってしまえば、俺達三人は先生の指示に従う事が出来ません。……ダンブルドア前校長から〝とある使命〟を与えられているからです」
「……ウィーズリー、すでに状況は変わってしまっています。それに気付けない貴方ではないでしょう?」
(……はぁ──マクゴナガル先生なら気付いてもおかしくなかったんだが…)
思わず内心で嘆息。
どうしてマクゴナガル先生は〝休学届〟と云う、判りやすいまでのヒントが有るのに気付けないのか。予想以上に〝アルバス・ダンブルドア〟と云う存在はそれほどまでに強かったらしい。……少なくともマクゴナガル先生の思考能力すらをも鈍らせるくらいには。
そこで俺は少し温くなったホットココアに口を付け、「話は変わりますが」と前置きしてマクゴナガル先生に問う。
「……マクゴナガル先生は魔法省がどれくらい〝保つ〟とお思いですか?」
「……ウィーズリーがどのような意図でそのような質問をしたかは判りませんが──」
「ああ、もう良いです」
それはある意味の最終確認であったが、マクゴナガル先生の言葉を聞いた時点で打ち切る。
どうやらマクゴナガル先生は、〝お辞儀さん〟にとってこれ以上ないほどの目の上のたんこぶであったダンブルドア前校長が死んだ今、〝お辞儀さん〟が誰彼憚る事なく動ける様になったのを十全──どころか、十分にも理解出来ていないらしい。
それからと云うものの互いに主張を崩さず会合の様相は平行線を辿り──軈て〝ホグワーツ特急〟に乗らなければならない時間が来た。……これがマクゴナガル先生との会合の顛末であった。
SIDE END
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