普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
234 遺贈品
SIDE アニー・リリー・ポッター
「えへ…」
1997年7月31日。〝隠れ穴〟のボクに宛がわれている部屋で独り、ロンから貰った黒曜石──と思わしき菱形の石があしらわれているネックレスを撫でながら頬を緩ませていた。
先ほどロンから渡された17歳──魔女として成人した証の誕生日プレゼントだ。
「えへへ…」
母さんの守護魔法が切れるに当たって数日前に行われた、ボクを魔法省に内緒でプリベット通りから連れ出すために行われた〝5人のポッター作戦〟であったが、今もこうしてベッドでだらけている現状から判る通り、マッド‐アイは例外だとして──全員五体満足でボクの誕生日を迎えられた。
護送に際して〝ポリジュース薬〟でボクに変身することを承諾してくれたのはハーマイオニー、フラー、トンクス、ヘスチアの四人。……もちろん男性陣には遠慮してもらった。
ボクにはマッド‐アイとウィーズリーおじさんが付き、ハーマイオニーにはキングズリーとロンが、フラーにはビルとチャーリー、トンクスにはリーマスとシリウス、ヘスチアにはフレッドとジョージと云った塩梅でそれぞれ二人ずつに護衛が付いた。
計15人の大移動であったが、〝〝幸運〟な事に〟全員各自のポイントへ誰一人欠ける事なく散る事が出来た。……お察しかもしれないが、最近お馴染みになりかけの〝困った時の〝幸運の液体(フェリックス・フェリシス)〟頼み〟である。
―〝幸運の液体(フェリックス・フェリシス)〟──4×15の60時間分ある。……全財産の半分近くが溶けたけどな──まぁ、アニーの安全が買えるなら安いもんだ―
とはロンの言。
……ちなみに、その時のボクの顔が熱くなったのは云うまでもない。
閑話休題。
しかも、〝〝幸運〟な事に〟──と云っていいかは判らないが、ヴォルデモートはロンに釘付けになっていたらしく、壮大な空中戦の後ロンを簡単に落とせないと知るとすごすごと退いたらしい。
――「アニー、お客様よ」
「えへへへ──っ、はーい」
〝5人のポッター作戦〟の顛末はそんなもので、その存在を確かめる様に、またもロンから貰ったネックレスの石を撫でながらトリップしていると、不意にドアの向こうからウィーズリーおばさんの声が掛けられる。
……〝黒歴史になるところだった〟──と、内心で安堵の息を吐きつつウィーズリーおばさんの後を追い一階に降りると、部屋の角で意外な人物を視認する。
魔法省大臣ルーファス・スクリムジョールだ。……否、彼だけではなく、何故かロンとハーマイオニーもそのテーブルを囲んでいた。
まるでそこがボクの特等席だと云いたいかの様にスクリムジョールの対面が空いていたので、〝こんちくしょうめ〟と内心でロンとハーマイオニーに毒を吐きながら二人の間に腰を下ろす。
スクリムジョールとは、ダンブルドア校長先生の葬儀の際、物別れで終わっていたので、「誕生日おめでとう」「どうも」と互いに済ますだけで、直ぐ様本題に入った。
「此度、君たち三人の前に姿を見せたのは他でもない。アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアからの遺言状に従って、〝君達三人へ〟かの故人からの遺贈品を贈与するためだ」
「ダンブルドアから!?」
「遺贈品ねぇ…」
「遺贈品──つまりは遺産…」
スクリムジョールからの言葉に、上からハーマイオニー、ロン、ボクの順で反応する。ダンブルドア校長先生とは対して交友の無かったハーマイオニーは驚き、ロンは〝知識〟が有るからかすんなりと受け止めている。
……ロンのリアクションからして、ダンブルドア校長先生からの遺贈品の贈与は〝原作イベント〟と見ていいだろう。
ボクは遺贈品の贈与にしても〝今更?〟と首を傾げかけるが、直ぐに〝保有可能期間〟について思い至る。ダンブルドア校長先生が死んだのは6月30日。〝押収〟したものは三十一日を超えると魔法省はその物品に対して保有出来る権利を失ってしまうとかそんなだったはずだ。
(……まぁ、魔法省にもいろいろ有るか…)
〝ダンブルドア校長の遺志を量りたかったのだろう〟と、ボクはそんな風に──ロンの様子を見る限りロンも納得出来たが、ハーマイオニーは納得しきれていないようで、スクリムジョールに噛みつく。
「大臣、今日これを持ってきたと云うことは〝三十一日間〟と云う期限が切れたからですよね?」
「その通りだ。ミス・グレンジャー。……若いのによく勉強している。将来は魔法法に関する職にでも就きたかったのかね?」
「違います。〝杖有れば小難〟と云うことで魔法法に関しても一通り勉強しておきました」
スクリムジョールは「ふん」と鼻を鳴らすと、それきりハーマイオニーとの会話を打ち切り、「ダンブルドアからの遺言状によれば〝君たち三人へ〟の遺贈品となっている」と前置きしてから、傍らに持っていた包みをテーブルの上で拡げた。
………。
……。
…。
ダンブルドア校長先生からの遺贈品の受け取ったあと、スクリムジョールとは2、3すったもんだがあったが、取り敢えずスクリムジョールが去って──ボク、ロン、ハーマイオニーは遺贈品を持ち寄り、直ぐ様ロンの部屋集まっていた。
〝ボク達三人に対して〟ダンブルドア校長先生から遺贈されたのは2枚の羊皮紙と一個のライター、そして1冊の本だった。
ライターは“灯消しライター”なる代物で、なんとダンブルドア校長先生が開発した物だったとか。
本は【吟遊詩人ビードルの物語】と云う、云わば【眠れる森の美女】や【シンデレラ】のような童話の短編集。
本とライターは良い。問題は羊皮紙だ。羊皮紙のサイズは2枚ともA4ほどとそう気にする事では無かったのだが、書かれている内容──と文字が問題だった。
……2枚とも〝日本語〟で書かれていたのだ。
内容は以下の通り。
――――――――――――――
世界を股に掛ける悪人だ。
分が悪いのはわかっている。
流浪の身にもしてしまう。
全ては私の不徳と致すところ。
――――――――――――――
「……あー、なんつーか、これは…」
(……? ……あー、なるほどなるほど、スネイプ先生ね)
羊皮紙自体のサイズに見あわない文量と、その内容に対して一瞬だけ頭を傾げるが、直ぐにダンブルドア校長先生が伝えたかったであろう内容が判る。ボクより早く呆れた様にため息をついていたあたり、ロンもまたダンブルドア校長先生からの正しい遺言状を受け取ったのだろう。
「……もう判ったの?」
「単純な縦読みだよ。……ほら、こんな風にすると…」
ロンはいまだ理解出来てなかったハーマイオニーに文頭の文字以外を隠して見せる。ハーマイオニーもスネイプ先生が獅子身中の虫である事を知っているので「あっ…」と声を上げるだけに留まった。
そして…
(……んん?)
次の羊皮紙に目を通し、数秒意味不明な文字列に目を回す。……判るのは〝日本語で書かれている〟と云うことだけ。
しかし、これではさすがに情報が少なく、他に手掛かりが無いかと調べていると──ふと羊皮紙の上部の端にダンブルドア校長先生の殴り書きだろうか、[HH]と云う文字が三日月の様な図形にくるまっているのを確認する。
「……これは──2枚とも日本語ね。……でも、この[HH]って何かしら?」
ハーマイオニーの疑問も尤もで、ボクもこう云った暗号の類いは嫌いでは無いが、まだまだ情報が少ない。いっそ〝ハンタの事かな?〟と投げ遣りに考えていると不意にロンが口を開く。
……ちなみに、ロンが造りハーマイオニーとボクにプレゼントしてくれた〝翻訳メガネ〟のお陰でハーマイオニーも苦もなくダンブルドア校長先生からのこの遺言状を読むことが出来ている。
閑話休題。
「[HH]──多分、ヘルガ・ハッフルパフだな」
「……ハッフルパフと云えば忍耐力とアナグマ…っ」
自分で〝アナグマ〟──〝Badger〟と口にしていて思い至る。この遺言状に書かれている言語は〝日本語〟だ。……〝Badger〟は〝アナグマ〟の他にも和訳が有る。
……狢──それと、〝狸〟だ。
「……アナグマ──だとするなら〝たぬき(Tanuki)〟暗号か。……こっちもこっちで、また古典的な…」
「どうして〝アナグマ(Badger)〟が〝たぬき(Tanuki)〟になるの?」
「日本語だと〝アナグマ(Badger)〟は、〝ムジナ(Mujina)〟と発音されて〝アナグマ(Badger)〟と同一視されるんだよ。そして〝ムジナ(Mujina)〟は〝たぬき(Tanuki)〟と同一視される」
「なるほど、ある種の〝日本語の妙(ジャパニーズ・マジック)〟と云うわけね…。……あ、それから、おそらくだけどこの三日月の暗号が解けたわ」
〝〝たぬき(Tanuki)〟暗号〟についてロンの説明で納得したハーマイオニーが驚くべき事を言い放つ。どうやらボクとロンが[HH]の文字に意識を向けられている間にハーマイオニーが三日月の方の暗号を解いてくれたようだ。
「〝鏡〟よ」
「……〝鏡〟ねぇ──おー、そうか〝鏡文字〟か。……たしかにそれっぽいな。俺は〝女性〟を意味するものかと思ってたんだが…」
「確かに〝月〟はロンの言う通り〝女性〟と云う要素の方が〝鏡〟よりも強いには強いけど、ダンブルドアは〝私達三人に〟これを遺したのよ? ……それに一年の時を思い出してみて?」
〝ボク達三人と〝鏡〟に関しての共通点〟──ボクより数瞬早く思い出したロンがその〝共通点〟を口にした。
「“みぞの鏡”」
「……あー、すっかり忘れてたや。やるね、ハーマイオニー」
「ああ、全くだ」
「~~~っ、もうっ!」
ロンと二人してハーマイオニーを褒めそやし、ロンはハーマイオニーの赤面を十分に堪能したのか、懐からダンブルドア校長からの遺言状と同じくらいのサイズの羊皮紙とペンを取り出す。
「じゃあ、これからしなきゃならんのは文の清書だな」
ロンはそう言うやいなや、高速で遺言状の内容から〝[た]〟と〝[タ]〟、そして〝[タ]の字を含む漢字〟を抜きつつ〝ぎなた〟も正していきながらも逆さから正しい文に起こしていく。……ボクも前世では日本人だったので日本語を書くなんて朝飯前だが、〝対外的には〟一番その作業に適しているのはロンであった。
〝翻訳メガネ〟は〝読み取り〟は出来ても〝書き取り〟は出来ないからだ。
……手持ちぶさたとなったボクとハーマイオニーはロンの作業を見守る。文の中には[〝グブレイシアンの火〟]と云う文字も散見されていて、地味にわくわくしていると、軈てロンは作業を終えた。
「……っ、まじか…」
「うわぁ…」
「え──これって…」
そしてその内容にボク達三人は──ロンすらも驚かされるのだった。
SIDE END
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