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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第154話「再臨する緋き雪」

 
前書き
気分的にはラストダンジョンで死んだはずのアバン先生(ダイの大冒険)が駆け付けたようなものです。……尤も、守護者もまだ実力を出し切っている訳じゃなかったり……。
 

 






       =out side=





「…………」

 アースラ管制室にて、サーチャーによる映像を食い入るようにエイミィは見ていた。
 そこには、倒れ伏す優輝達と、彼らの代わりに守護者と相対する存在。

「……頼んだよ。緋雪ちゃん」

 ……そう。死んだはずの緋雪が、そこには映っていた。











       =緋雪side=







〈……お嬢、様……?〉

「……久しぶりだね、シャル」

 掌を守護者が飛んでいった方向に向けながら、シャルと話す。

〈生きて……いえ、蘇ったのですか……?〉

「……ちょっと違うかな。今の私は、所謂限定キャンペーンみたいなもの。蘇った訳じゃないし、現世(うつしよ)に留まれる時間も限られてる。……でも、正真正銘貴女のマスターだよ」

〈っ……!〉

 今のシャルの気持ちを表すとすれば、それはショックと歓喜だろう。
 ……自惚れみたいに聞こえるけど、マスターである私が現れたのだから。尤も、それは期間限定で、時間が経てば再び私は消えてしまう。
 だから、ショックもあるのだろう。

「大まかな状況は知っているし、細かい所もエイミィさんに聞いたよ。……守護者を、倒すよ」

〈お嬢様……はい……!〉

 魔力を練り上げ、準備は整う。

「……守護者、とこよさんの事は私も良く知っている。どれほどの人なのか、どれほどの強さなのかも、良く知っている」

〈……彼女には神降しでさえ敵いませんでした。お嬢様、勝算はあるのですか?〉

「まぁ、見てなよ……」

 自信たっぷりな感じで、そう答える。

「(……勝機なんて、ほとんどある訳ないじゃん)」

 もちろん、それは()だ。勝算なんて、ほとんどない。
 とこよさんをよく知っていると言ったって、それは“幽世でのとこよさん”だ。
 大門の守護者としてのとこよさんは、未知の部分が多い。

「(それに、昼だし)」

 私の体質上、昼では全力を出し切れない。
 元より、私は幽世でもとこよさんには負け越している。

「……ふぅ……」

 そこまで考えて、一度息を吐く。

「(まぁ、でも……)」









   ―――()()()()()()()()()()()









〈お嬢様!〉

「(来るッ……!)」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

 気配が、音を置き去りにするかのような速度で迫る。
 それに対し、私は立ち向かいながら、連続で“瞳”を握り潰す。

     ドドドドドドォオオン!!

「ぁあっ!!」

「っ!」

 爆発が起きる。だけど、それを躱して守護者は迫る。
 まぁ、予想済みだ。これの目的は少しでもスピードを落とさせるためだから。
 接敵と同時にシャルを振るう。
 だが、速度で劣っている状態では、それは躱される。
 反撃の一撃を喰らいそうになるが……。

「(甘い!)」

 私と守護者の間で爆発を起こし、間合いを取る。
 そう。掌をずっと向けていたのは、この連続爆破のための布石だ。

「(勝算がない?実力が劣っている?そんなの関係ない!!)」

 お兄ちゃんは元より、とこよさんも同じ経験をしてきた!
 そして、それを乗り越えてきたんだ。
 なら、私だって、同じことをすればいい!!

「すぅぅ……っ!!」

   ―――“霊魔相乗”

 魔力と霊力を掛け合わせる。
 不安定ながらも私の内から途轍もない力が湧いてくる。
 ……これで、差を少しは縮められただろう。

〈お嬢様、それは……!〉

「生前のあの戦いで、お兄ちゃんが使ってた反則技……!あの時のたった一回しか目にした事はなかったから、完全再現とまでは行かないけど……!」

     ギィイン!ギギギィイイン!!

 高速で繰り出される剣撃を、何とか受け止める。
 同時に、足元に仕掛けていた術式を起動。火柱で突き放す。

「……この通り、相手をするには十分……!」

〈いつの間に、このような……〉

「私だって、死んでから何も鍛えなかった訳じゃないよ?」

 いやまぁ、普通は死んだら何も出来ないけどね。
 ここら辺は皆知らない事だから、仕方ないけどね。

「(それよりも……)」

 つい勢いで霊力を使ったけど、ふと気づいた事がある。
 ……霊力でシャルを扱えている事だ。

「……さすがはお兄ちゃん。霊力でも使えるようにしてくれたんだ」

〈……はい。マイスターがフュールング・リヒトと共に強化してくれました〉

 これなら、もっと食らいつく事が出来る。

「(まずは、ここから移動させないと)」

 “瞳”を出現させ、両手を合わせる。
 それによって、私を巻き込むように大爆発を起こす。
 もちろん、お兄ちゃんたちを巻き込まない規模で。

「ッ……!」

「はぁっ!!」

   ―――“速鳥”
   ―――“扇技・神速”
   ―――“斧技・瞬歩”

 いくつもの術式を掛け合わせる。
 それによって途轍もない速さを叩き出す。
 爆発から飛び退いた守護者へと追撃する。

「はっ!」

「甘い!」

   ―――“紅雨(こうう)

 撃ち出される高速の矢。
 それに対し石礫を投げるように霊力と魔力の弾を放つ。
 威力は大したことがないけど、矢を撃ち落とすには十分。

「はぁああっ!!」

 シャルに魔力を纏わせ、斬りかかる。
 守護者は術式を用意していたようだけど、纏った魔力を犠牲に切り裂く。
 追加で用意された御札は、魔力による投げナイフで縫い付ける。

「シッ!」

「ッ!!」

 術式を潰しつつシャルを振るうが、受け流すか回避で凌がれる。
 そして、反撃に刀ではなく槍で突いてきた。
 空気を穿つような音が、私の顔の横を突き抜ける。

「は、ぁっ!」

     ギィイイン!!

 多少掠ろうが、問題ない。
 私の体は吸血鬼と同じだ。聖属性でなければ何とかなる。
 そんなごり押し気味の回避で間合いに入り、シャルで槍を大きく弾く。
 ……力なら、こちらが上だ……!

「ふっ!」

     ドンッ!

「っっ……!」

 槍を弾いたのはいいものの、反撃の掌底が繰り出される。
 咄嗟に手でガードしたけど、不用意に間合いが離れてしまった。

「ッ!」

「くっ……!」

 そうなれば、こちらが圧倒的不利だ。
 迫りくる高速の矢と、強力な術式。
 強引に突破する事も可能ではあるが、当然それは想定されているだろう。
 そうなれば、無理矢理間合いを詰めた所で、罠にはまるだけだ。

「なら……!」

 相手が遠距離に特化させるなら、こちらもそれに対応すればいい。
 元々、幽世でも手合せで同じような状況に陥った事はある。
 当然、その時に対処法も備えている。

「アンファング!!」

   ―――“Donnerlicht(ドンナーリヒト)

 私の羽にある対となっている二つの黄色い宝石が輝く。
 刹那、その宝石に込められた術式が開放。雷が迸る。
 その雷は、即座に出せる攻撃にしては非常に強力で、守護者の遠距離攻撃の波を穿った。

「ふっ!」

「っ!」

 穿った箇所だけ、弾幕が薄くなる。
 そこへ私は飛び込むと見せかけ……僅かにずれた場所へ飛び込む。
 シャルで一閃し、若干無理矢理突破する。
 こうする事で、弾幕を薄い所から突破してくると予想している所へ、意表を突ける。

「くっ!」

「は、ぁっ!!」

 私が想定して行動した通り、守護者は迎え打とうと斧を振るってきた。
 けど、少しばかり想定よりも横にずれていたため、十全にその力は振るえない。
 よって、私がそのまま押し切る事ができた。

「はっ!」

 吹き飛ばすと同時に、片手で術式を生成。
 砲撃魔法を撃つ。

「ふっ!」

「ッ……!」

     ギィイイン!!

 砲撃魔法は即座に斬られてしまう。
 だけど、そこには既に私はいない。
 砲撃魔法をそのままに、私は側面から迫っていたのだ。
 不意打ちのように放った一撃は、残念ながら防がれてしまう。

「(でも、そんなの関係ない!!)」

「っ!?」

「ぁあっ!!」

     ドンッ!!

 防がれた状態から、魔力を増幅させる。
 大剣のように纏われた魔力が爆発。一気に守護者を押し切り、吹き飛ばす。
 もちろん、反動がない訳じゃない。私の手は少しばかり焼けてしまっている。

「ッ……!」

〈“Stern Bogen Sturm(シュテルンボーゲン・シュトゥルム)”〉

 手が焼けても問題はない。この程度、戦闘中に再生して回復する。
 だから私は、そのまま間髪入れずに吹き飛んだ守護者へと大量の魔力弾を叩き込む。

「くっ!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 だけど、その魔力弾は強力な障壁によって防がれてしまう。
 このままだと、追撃しても回避されるだろう。

「(なら、逃げ道を塞がないと)」

 マギー・ヴァッフェでナイフを指に挟むように生成。そして投擲する。
 弧を描くように、未だに魔力弾を防ぐ守護者へ迫り……。

「シッ!」

 魔力弾の射線上から逃れた守護者の刀に、切り裂かれた。

「(でもまぁ、予想通り)」

 当然、それは想定していた事。
 本命はナイフに紛れさせて守護者の近くに打ち込んだ術式の基点。
 そこから、私は魔法を発動させる。

「囚われよ、死の鳥籠!」

〈“Tod Käfig(トート・ケーフィヒ)”〉

 鳥籠のように魔力弾が展開される。
 この魔法は多人数で真価を発揮する魔法だ。
 よって、単体では大した効果を持たない。だから……。

「これなら、どう!?」

 魔法陣を、鳥籠をさらに包囲するように多数展開。
 一気に砲撃魔法を撃ち込む。

「っ!」

     ギィイン!

 鳥籠の魔力弾が吹き荒れる中、矢が飛んできた。
 シャルであっさり弾くも、どうやらこの魔法も通じないのだと悟る。

     ッギィイン!!

「ッ……!」

「は、ぁっ!」

 仕掛けるために接近しようとする瞬間、シャルと刀がぶつかり合う。
 すぐさま私はその勢いを逸らし、そのまま蹴りを叩き込もうとする。

「っ……!?」

   ―――“神撃-真髄-”

 だけど、それは予想されていた。
 掌に込められた霊力がぶつけられ、私は吹き飛ぶ。

「はぁっ!」

「くっ!」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

「そう簡単に、やられはしない……!」

 今の一撃で、私は片足を消し飛ばされた。
 激痛が走る。でも、私は我慢して目の前を“瞳”を握り潰して爆破。
 爆風で距離を取る。

「(……やるしかない、か)」

 遠距離主体で戦っていたら、咄嗟の接近戦で私が不利だ。
 私は、まだお兄ちゃんやとこよさんのように戦い方の切り替えが上手くない。
 だから、やるからには近接戦を主体にするべきだろう。

〈お嬢様、脚が……〉

「大丈夫」





   ―――すぐ、再生するから





 そう言うや否や、私の体は多数の蝙蝠になる。
 厳密には吸血鬼ではないけど、私は吸血鬼みたいな事が出来る。
 心は“人”のままだけど、力ぐらいは受け入れて使いこなすようにしている。

「ふっ……!」

「っ……!」

     ギィイイイイイイン!!!

 蝙蝠からいつもの体に戻し、同時に斬りかかる。
 不意打ちのようなその一撃に、守護者は反応するものの、防御の上から吹き飛ばされる。
 ちなみに、脚は体を戻す際に一緒に再生させている。

「(それに、もう遠距離にする必要はない。……充分、離れたから)」

 私が何度も距離を離すように戦っていたのは、場所を変えるため。
 お兄ちゃん達がまだ近くにいたから、巻き込みたくなかったのだ。

「はぁあっ!!」

「っ……!」

     ギィイン!ギギギィイン!!

 速さでは私の方が劣っている。
 でも、力では私が上だ。だから、それで上手く戦えばいい。
 当然ながら、守護者は上手く私の攻撃を受け流そうとしてくる。
 これは幽世でのとこよさんも良くやっていた事だ。
 というか、そうしなければとこよさんでも押し切られるからね。

「(でも、甘い!)」

 だけど、そうしてくると分かっているなら、私だって対策はする。
 受け流されないように、軌道を変えたり、不意を突くように動いたり。

「はぁっ!」

「くっ……!」

「させない!」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

 力で押し切り、体勢を崩す守護者。
 でも、それは誘いで、術で私を消し飛ばそうとしていた。
 もちろん、そうはさせない。すぐさま“瞳”を握り潰し、術式を破壊する。

「っっ……!」

「シッ!」

「はっ!」

     ギギギギィイイン!!

 その破壊の間に、守護者は体勢を立て直していた。
 そして、そのまま私へと斬撃を放ってくる。
 私はそれをギリギリで回避し、反撃にシャルを振るう。
 武器同士がぶつかり合う音が、何度も響き渡る。

「ふっ!」

「っ!」

「同じ手は食わないよ!」

   ―――“神撃-真髄-”
   ―――“闇撃-三重-”

 剣戟の際に拳を放つ。それを読んでか、蹴りの時と同じように術を構えられる。
 でも、今度は私もそれを予想済み。
 単体では真髄には敵わないから、三重に術式を用意して相殺する。

「っっらぁっ!!」

〈“Emission(エミッション)”〉

「っ……!」

     ドォオオオン!!

 相殺と同時に、片手に持ち替えていたシャルを、力いっぱい振るう。
 大剣として機能していた魔力が集束。衝撃波のように放出される。
 出が早いこの魔法を前に、守護者も防御や迎撃ではなく、回避を選んだ。
 横に回避した所へ、私はさらに追撃を狙う。

   ―――“斧技・鬼神-真髄-”

「っ!」

     ギィイイイイン!!

「燃え上がれ」

   ―――“紅焔-真髄-”

「ッ―――!!」

 だけど、それは瞬間的に身体強化された守護者の斧に受け止められる。
 その状態で起動する術式。既に“瞳”を潰して阻止できる状態じゃない。

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

「くっ……!」

 だから、私を吹き飛ばすように“瞳”を潰し、その場から飛び退く。
 すぐさま魔法陣で足場を生成、それを蹴って再度間合いを詰める。

「ぁああっ!!」

「ッ……!」

     ドォオン!!ギギギギギギギギギィイン!!

 設置されている様々な術式を魔力弾の雨で破壊。
 そして、一気に切り込む。
 だけど、守護者は既に二刀を構えていた。
 これでは手数で大きく劣るため、私も霊力の短刀を用意しておく。
 刹那、展開される驚異的スピードの剣戟。
 短刀は最低限防ぐのに留め、シャルの方で力によるごり押しで対処させる。

「ッッ……!」

 最低限の防御なため、当然ながら短刀を持つ左腕は傷だらけになる。
 でも、それ以上はない。
 シャルを持つ右手の方は押しているため、守護者はそっちの対処に追われている。
 対処に追われている事は、それ以上押される事はない訳だ。

「(でも、状況が変わらないのは同じ……!)」

 むしろ、再生するとはいえ傷を負っている分、私が不利だ。
 このままでは押し切られてしまうだろう。
 でも、下手に動きを変える事はできない。
 そうしてしまえば、守護者の振るう二刀にあっという間に切り刻まれてしまう。

「(どうせ傷を負わずに追い詰めるなんて出来ない!なら……!)」

 最低限の防御にしか使っていなかった左手を一気に突き出す。
 そんな事をすれば、当然切り裂かれる。

     ザンッ!

〈お嬢様!?〉

 左手が切り裂かれ、肘から先の感覚がなくなる。
 直後に激痛が走るだろう。……でも、その前に行動を起こす!

「ッ……!唸れ業火!(にえ)に左手を捧げよう!」

   ―――“贄之焦熱地獄(にえのしょうねつじごく)

 霊力と魔力の混ざった術式、霊魔混合術式によって、左手が贄に捧げられる。
 そんな左手を中心に、超高密度の炎が展開される。
 そして、その炎が守護者に向けて扇状に放たれる。

「っっ……!(回避される所は見えなかった。つまり……!)」

 その炎は、喰らう側に回ったとしたら、なんとしても回避したいものだ。
 咄嗟に張れるような障壁では、とても耐えれるものではない。
 そんな炎を、守護者は避けれなかった。ならば……。

「っ……!くっ……!」

「(やっぱり……!)」

 障壁を張った上で、防ぎきれなかったのだろう。
 守護者の服はそこら中が焼け焦げ、露出している肌も焼けていた。
 それでも原形が崩れていないのは、障壁だけでなく体にも霊力を纏っていたからだろう。……それも、障壁並に丈夫な程に。

「ふっ!」

「っ……!」

 お互い、小さくはないダメージを負っている。
 私は左腕を消失。再生するとはいえ時間は必要だ。
 守護者も炎によるダメージがある。これも回復が必要だろう。
 ……だから、すかさず私は動いた。

     ギィイイン!!

「ぐっ……!」

「はぁっ!」

「ぁあっ!?」

 全身やけどを負った守護者は、動きが鈍かった。
 もちろん、私はそれを狙っており、刀を弾いて蹴りを叩き込んだ。
 片手によって直撃は防がれたけど、大きく吹き飛ばした。

「っっ……!」

〈お嬢様……!〉

「平気……!これぐらいやらないと、倒せないからね……!」

 いくら再生するとは言え、痛みがない訳じゃない。
 思い出したかのように痛む左手に、思わず顔を顰める。
 普通に手を斬られた時と違い、贄に使った場合は再生に時間がかかる。
 ……本来なら再生すらしないはずだからね。改良してもこれが限界だ。

「(それにしても、これほどやらないと追い詰められないなんて、本当に強すぎる……!)」

 少なくとも、四神の式神、神降しをしたお兄ちゃんと連戦のはず。
 いくら傷を治せるとしても、疲労は溜まっているはずだ。
 ……なのに、昼の私とはいえ、互角だった。

「ホント……とんでもない強さだよねっ!!」

「ッ!!」

     ギィイイイイン!!

 シャルを振るい、一気に間合いを詰めてきた守護者の斧の一撃を迎え撃つ。
 ……凄く攻撃が重い。多分、霊術でしっかり強化してきたのだろう。

「(回復に集中するんじゃなく、回復を促進させて戦闘中に傷を治してしまおうって事か……まぁ、来なければこっちから仕掛けてたし、驚くような事じゃないか)」

 斧の一撃を放った直後に、守護者は二刀に持ち替えた。
 私はまだ左手が再生しきっていない。だから、このままだとまずい。

「(……と、考えられるから、また二刀で来たんだろうね)」

 どの道、守護者……とこよさんが攻めにおいて得意とするのはこの二刀流だ。
 私が両腕あっても二刀流で来ただろう。

「シッ!」

「ッ!」

     ギギィイン!ギィイン!!

 一刀は逸らし、もう一刀は避ける。
 そのように凌ぐ私を見て、守護者は驚いた素振りを見せる。

「(やっぱり……!)」

 そこで私は確信を得る。
 ……やはり、守護者は弱ってきているのだと。

「はっ!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 私が幽世のとこよさんの動きを知っており、守護者の動きに慣れてきたのもある。
 だけど、だからと言ってそれで私が動きに対処しきれる訳ではない。
 というか、もしとこよさんが相手なら既に私は斬られている。
 それなのに片手で対処できるのは、それだけ守護者も弱っているという事。
 本来なら片手になったらあっという間に決着が着いてしまうからね。

「くっ!」

「ふっ!」

 ……まぁ、弱っていると言っても、余裕なんて一切ないんだけどね。

「はぁっ!」

 一度間合いを取り、魔法陣を生成。砲撃魔法を放つ。
 それを、あろうことか守護者は刀で切り刻みながら突き進んでくる。

「させない!」

   ―――“呪黒剣-真髄-”

 それを、地面から黒い剣を生やして進行を阻止する。

「シッ!」

「はぁあっ!!」

   ―――“刀奥義・一閃-真髄-”
   ―――“刀技・紅蓮光刃”

     ギッギィイイン!!!

「っつ……!」

 即座に側面に回り込まれ、二刀で一閃が二つ放たれる。
 それに対し、私は焔を纏った二撃を放つ。
 片手でこちらが連撃な分、押し負ける。

「アンファング!」

   ―――“Hitze(ヒッツェ)

 咄嗟に羽の赤い宝石に込めてある術式を発動。
 灼熱の炎により防壁を展開する。

「(どうせあっさり突破してくる!だから……!)」

 防壁から距離を取り、シャルを弓のように構える。

「シッ……!」

「(今……!)」

   ―――“Pfeil Gungnir(プファイル・グングニル)

 刀で一閃し、炎の防壁を切り抜けてくる。
 そこへ、私は強力な矢の魔法を叩き込む。
 タイミングはバッチリ。回避は難しいはず……!

「ッ……!」

「ッ、ぁああっ!!」

     ギィイイン!!

 防御すら貫く威力なため、咄嗟に張られた障壁は貫いた。
 でも、守護者はそこから刀で軌道を逸らし、最小限のダメージに抑えてきた。
 ……まったく、こればっかりは……!

「(()()()()だよ!!)」

「ッ―――!?」

 同時進行で組んでいた転移魔法の術式を発動。
 魔法を逸らした守護者の背面に回り込む。

   ―――“怪力乱神(かいりきらんしん)
   ―――“剛力神輿(ごうりきみこし)

「吹き飛ばせ!!焔閃!!」

〈“Lævateinn(レーヴァテイン)”!!〉

「ッ、ぁああああああっ!?」

 ―――完全に捉えた。
 刃そのものは二刀によって防がれた。
 でも、それは元より承知。
 この一撃で重要なのは、“吹き飛ばす事によるダメージ”だ。
 それにおいて、この一撃はきっちりと決まった。

「(……にしても、あれでも折れない刀なんて、相当な業物だなぁ……)」

 罅どころか曲がりすらしなかった。
 幽世で聞いた事があるけど、文字通り魂を込めて鍛えた刀との事。
 あれかな?“刀も生きている”って奴で、成長してるのかな?

「(……で、曲がらなかったという事は……)」

 ダメージもだいぶ抑えられた。
 いくらきっちり入った一撃でも、今ので倒せたとは思えない。

   ―――“速鳥-真髄-”
   ―――“扇技・神速-真髄-”

「シッ……!」

「(やっぱり……!)」

 吹き飛ばした際の砂塵を突き抜けるように、槍が繰り出される。
 私も守護者も、それを回避する事は承知だった。
 重要なのは、次以降の手。
 守護者はやはり二刀を選んだ。
 
「(あれでもダメ。なら……)」

 既に、先程の一撃の時点で左手は完全に再生した。
 そんな両腕の状態でも二刀がある今はまともに攻撃を入れる事が出来ない。
 ……だとすれば。

「はぁっ!」

「っ、ふっ!」

「ッ……!」

 突きの攻撃が躱される。
 即座に放たれた二刀の内、一刀を躱す。
 そして、回避した所を狙ったもう一刀は……。

「っづ……!」

「っ……!?」

 手で、掴み取った。

「(これ、で……!)」

 もう一刀で、刀を掴む私を斬ろうとする。
 でも、一瞬反応が遅い。シャルでそれを防ぐ。

「ぁあっ!!」

「くっ……!」

 そして、その状態から蹴りを掴んだ刀を持つ手に繰り出す。
 それは躱されたものの、それで私の目的は達成する。

「封印!!」

〈はい!!〉

 そう。刀だ。二刀の内一刀でも奪ってしまえば、それだけこちらが有利になる。
 もちろん、奪うだけでは術式で呼び戻されるので、封印を施しておく。

「もう……」

「……!」

「一刀!」

 シャルを一撃、二撃を振るう。
 躱され、繰り出された反撃に、手繰り戻したシャルを当てる。
 一瞬、鍔迫り合いの体勢になる。
 その瞬間を狙い、再び私は刀を掴み取る。

「っつ……!」

 刃ごと握る私の手に痛みが走る。さっきと同じだ。
 でも、これで……!

「ふっ!」

     ドシュッ!

「ぐぅ……!?」

 ……まぁ、そんな上手く行く訳がない。
 守護者は、私が刀を叩き落すよりも早く、咄嗟に刀の柄を空いた手で叩いた。
 それにより、掴んだ刃が滑り……私の指が切り落とされる。

「くっ……!」

「はっ!」

     ギィイイイン!!

 叩き落すはずだったシャルの一撃は空振り、反撃をすぐさま防ぐ事になる。
 再生するのにそんな時間は掛からないが、そんな僅かな時間でもきつい。

「まだ、まだぁっ!!」

   ―――“呪黒剣”

「ッ……!?」

「後ろだよ!」

 咄嗟に頭に浮かんだ動きを、実践する。
 呪黒剣で牽制。同時に組み上げた転移魔法で背後に転移。

「フェイクだけどね!」

 だが、転移したのは魔法で生成した大剣のみ。
 もちろん、これも攻撃の一つなので、無視はできない。

「そこだぁっ!!」

「ぐっ……!」

     ギィイイイイン……!!

 私は、転移なんてしていない。
 呪黒剣を突き抜けてくる私を迎え撃とうとする守護者だけど、反応が遅かった。
 転移させた魔法の大剣を、障壁で防ぎ残った刀で私を迎え撃つつもりだったのだろう。
 ……だけど、それより早く私が刀を弾き飛ばした。

「っあっ!!」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

「かはっ……!?」

 “瞳”を握る。それで、咄嗟に張られた障壁を破壊。
 ……そして、私の蹴りが、守護者に直撃した。















 
 

 
後書き
紅雨…魔力や霊力を石礫のように放つ技。一発一発の威力は並の術者なら低いが、緋雪であれば十分な威力を持つ。

Donnerlicht(ドンナーリヒト)…“雷光”のドイツ語。緋雪の羽にある黄色い宝石に込められている術式。解放する事で、強力な雷を放つ事ができる。矢のように放ったり、防壁にしたりと汎用性が高く、事前に込めた術式なので発動が早い割に非常に強力。

Stern Bogen Sturm(シュテルンボーゲン・シュトゥルム)…“星弓の嵐”。フランのスターボウブレイクの上位互換。広範囲だけでなく、集中させる事も可能。

Emission(エミッション)…“放出”。何かに使っている魔力をそのまま集束させ、無造作に振るう魔法。シンプルであるが故に、威力の割に繰り出しやすい。

贄之焦熱地獄…何かしらを贄として発動する霊魔混合術式。今回のように片手だけだとしても、地獄の業火の如き炎を小さな山一つを焼き尽くす程広げる事が可能。

霊魔混合術式…名前の通り、霊力と魔力を併用して機能させる術式。仰々しい名前だが、霊魔相乗のようなもの。扱いが非常に難しい分、強力。実は優輝も使える。

Hitze(ヒッツェ)…“灼熱”。緋雪の羽にある赤い宝石に込められている術式。解放する事で、協力な炎を放つ事が出来る。ドンナーリヒトと同じ要領で扱える。

Pfeil Gungnir(プファイル・グングニル)…プファイルは“矢”のドイツ語。名前の通り、グングニルを矢として放つ魔法。実は、デバイスがないと碌な威力を出せない。

怪力乱神…物理バフ。ただし、MP消費ではなくHP消費(5割小)で発動するスキル。下記の剛力神輿よりバフ倍率は高い。なお、本編では使用による倦怠感が少し大きいだけでそこまで体力は消費しない。

剛力神輿…物理バフ。物理アタッカーには必須レベルのスキル。


かつて死んだはずのキャラが復活し、しかもパワーアップして助太刀に来る。
王道展開且つ燃える展開だと確信しています。
……だからと言って、それをしっかり描写できる訳では(ry 
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