魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
閑話13「緋き軌跡」
前書き
前回の最後に登場したキャラである〇〇が、前回に至るまでの話です。
まぁ、いないとは思いますが、もし誰か分からない場合は次回を読んでからじゃないと若干ネタバレです。
申し訳程度に視点変更時に名前を伏せていますが、意味はないです。
=out side=
「……こんな事、ありえるの?」
アースラにて、現場に行ったクロノを見送ったエイミィはモニターを見て呆然としていた。
「……ううん、そんなはずがない。きっと、これは海鳴の門に現れた妖と同じ……。だって、あの偽物も魔力はあったって優輝君が言ってたし……」
きっと違うだろうと、独り言のように訳を述べる。
だけど、分かっていた。モニターに映る存在がまやかしではないと。
「……でも……」
モニターに映るその存在は、強力な妖を倒していた。
その強さは、かつて見た強さとは違った。
だから違うと、自分に言い聞かせようとして……。
『……聞こえますか?』
「ッ……!?」
アースラへと響くその念話に、紛れもない真実が突きつけられた。
「あ、はは……!」
エイミィはそれを認識して、思わず笑ってしまう。
なぜなら、それは悪い方向への“真実”ではなく……。
―――きっと、良い意味での“真実”なのだから。
=???side=
「………」
私をこの場所へ送った陣の輝きが治まる。
息を軽く吸い、目を開ける。
「ここは……」
見渡すと、そこは見覚えのある場所だった。
子供達がのびのびと走り回れる広さの敷地。
海沿いで、海を眺めるためにベンチがある。
……ここを、私は知っている。
「海鳴臨海公園……」
懐かしいと、そう思える場所だ。
何せ、数年振りだからね。
「………」
感慨深いものがある。
ここは、私も小さい頃に遊んだ事がある。
そして何よりも、ここは私が死んだ場所なのだから。
「っと、のんびりなんてしていられないよね」
背中から羽を広げる。
普段は仕舞っているけど、今は非常事態。仕舞っている意味も必要もない。
「(それに……)」
制限時間がある。だから急いでいるのだけど……。
遠くの方へと顔を向ける。その方向から、大きな力を感じる。
「私に反応して、門が開かれた……って所かな」
この辺りの門は全て閉じられたのだろう。
だから、遠くの門が反応した。
「……結界?まずいね、挟んじゃってる」
霊力のような魔力の結界の気配を感じる。
その位置は、私と門の間にある。
……おまけに、その門の守護者は私の所へ向かっている。
「(幽世から出た私を戻すための抑止力って所かな。門から離れるなんて)」
現世にいられる時間が限られている。
しかもそれは、無理矢理現世に身を押さえつけてでの話だ。
現世と幽世の均衡を保つため、私を幽世に連れ戻される“力”が働く。
それが、あの門の守護者なのだろう。
「私が出したのだから、責任は取らないとね」
地面が割れないように、魔法陣を足場に私は跳ぶ。
かつて現世で生きていた時よりも速く、結界が張られている場所へと向かった。
「ここは……学校?」
結界が張られているのは、私も見た事のある学校だった。
入学する事は叶わなかったけど、予定では私もここに進学するはずだった。
「……っと、それどころじゃないね。術者は……いない?放置されてる?」
いるはずの術者、もしくは結界を維持する供給源がなかった。
いや、供給源自体はある。それは大気中の魔力や、地脈の霊力による代用だ。
……でも、どうして放置を?
「っ、来た……!」
結界があるのは、一般人が避難しているのを保護するためだろう。
だとすれば、術者は元凶を潰しに行ってるのかな?
……なんて考えている内に、門の守護者がやってきた。
何とか私は学校を守る場所に割り込む事が出来た。
でも、結界がなかったら被害を出してしまうね。
「あれは……!」
現れた妖は、青い巨躯に焔のような霊力が所々から噴き出している。
赤い角が額から一本生え、鋭い黄金の牙が口から見え隠れしている。
その妖の名は“アラハバキ”。
諸説あり、明確な正体は分からない神だ。
今回現れたのは、そんな神を模した力の一部の集合体って所かな。
「聞いてはいたけど、実際に戦う事になるなんて……ねっ!!」
ドンッ!!
アラハバキは、私を認識した瞬間跳躍し、殴り掛かってきた。
それに対して私も対抗するように拳を振りかぶり、ぶつける。
その一撃で衝撃波が迸り、校舎に避難している人達がこちらを見てくる。
「(あ……)」
……ふと、そこで何人かの生徒が目に入った。
その人達は、生前私のクラスメイトだった人達。
特別仲良くしていた訳じゃないけど、記憶に残る程度には交流を持っていた。
そんな人達が、こちらを見ていた。
「っ……ぁあっ!!」
―――“轟”
魔力で身体強化を施し、再度振るわれた拳を相殺する。
アラハバキの放つその一撃は、私の力を互角……いや、この一撃に関してはそれ以上とも言える威力だった。
「っ、たぁっ!!」
でも、そんな一撃を真正面から受ける必要はない。
紙一重で躱し、その風圧を利用して体を一気に捻り、回転。
回し蹴りをその腕に叩き込む。
「(先に、門の座標を特定しなきゃ)」
同時に、サーチャーを飛ばす。
このサーチャーで、アラハバキの門の位置を特定。
そして、倒した後にサーチャーの座標を基点に転移すればすぐに封印できる。
「くっ……!」
体格の差で、まともに打ち合えば私が大きく押される。
連撃で防御の上から吹き飛ばされた私は、校舎まで吹き飛ぶ。
結界があったけど、今の私は素通り出来るらしい。
「っ!」
校舎の壁に着地。……いや、壁に着地って何かおかしいけど。
ちょっと罅を入れてしまったのは仕方ないだろう。
……でも、それより気になるのが……。
「ぇ……あ……」
「………」
生徒達の、私を見る目。
信じられないものを見るのは分かる。本当なら私は死んでいるのだから。
でも、恐ろしいものを見る目になっているのが、良く分からなかった。
「(いや、今はそれよりも)」
けど、そんな事を気にしている暇はない。
すぐさま魔法陣を足場に跳躍。アラハバキの目の前に躍り出る。
既にアラハバキの跳躍の影響で、街に被害が出ている。
住民は避難しているから大丈夫だけど、そこら中にクレーターが出来ちゃっている。
「(結果の強度は見た所、相当強力。それこそ、私の一撃でも割れない程。こんなの出来る人っていたっけ……?)」
校舎に張られている結界は、戦闘の余波だけではびくともしない程強固だった。
でも、あんな強固な結界を張れる存在に心当たりはない。
防御系に強いユーノ君やザフィーラさんでも、ここまでのは出来ないはず。
「(……司さん?いつの間にこんな……)」
魔力の質を見て、おそらく司さんが術者なのだと理解する。
でも、生前ではここまでの結界は張れなかった。
死んでいた三年間の間に、ここまでの力を身に着けたのだろう。
「(でも、これは好都合!)」
余波で壊れない結界なら、グラウンドを使わせてもらおう。
これ以上無闇に街を壊されたくないからね!
「(守る必要がないのも、ちょうどいい!)」
拳を相殺し、一旦距離を取る。
その瞬間、両手に魔法陣を展開、そこから砲撃魔法を放つ。
尤も、即座に放つ程度の威力じゃ、大したダメージは与えられない。
「吹き飛べ!!」
―――“戦技・金剛撃”
でも、目晦ましにはなる。
その隙に後ろに回り込み、拳から霊力の衝撃波を放ち、吹き飛ばす。
「……転移!」
そして転移魔法を発動。
お兄ちゃんみたいに即座に、とはいかないけど、アラハバキが吹き飛んだ先に回り込む事ぐらいは容易く出来る。
「もう、一発!」
―――“戦技・金剛撃”
「ォ、オオオッ!!」
吹き飛ばして、今度は地面に叩きつけるために攻撃を放つ。
でも、今度は防御されたからダメージは大した事がなかった。
そのままアラハバキはグラウンドに着地する。
―――“Magie Waffe”
「はぁああああっ!!」
そこへ、私は魔力で作り出した大剣で斬りかかる。
でも、私が扱うのは魔力。霊力を纏うアラハバキには……。
ガキィイイイイン!!
「っ……!!」
効果が薄い。
まるで堅い岩に棒を叩きつけたかのような反動が返ってくる。
これでも、私のマギー・ヴァッフェによる武器生成の練度は、生前と比べて格段に上がっている。切れ味も上がっているはずなのだ。
それなのに、斬れない程に堅い。
「ォオオオオッ!!」
「くっ……!」
ギィイイン!!ギギィイン!!
拳と大剣。本来ならぶつかり合う事なんてありえない組み合わせ。
その組み合わせで、私とアラハバキは攻防を繰り広げていた。
霊力を存分に纏ったその拳を、私の大剣では斬れない。
「……なんて、思ったら、大間違いってね!!」
「ッ……!?」
当然ながら、私がその程度で終わるはずがない。
生前と違い、私は霊力も扱える。
魔力の大剣に、さらに纏わせるように霊力を使う事で、アラハバキの腕に傷をつける。
「あまり魔力と霊力も無駄に出来ないけど、出し惜しみもダメだよねぇ!!」
―――“霊魔相乗”
“ドンッ”と、腕を弾いた後に蹴りを入れて間合いを取る。
そして、大剣を消して、両手に霊力と魔力を纏わせ、混ぜ合わせる。
「ッ……!」
私から大きな力が溢れ出るのを感じる。
当然だ。本来なら、足りない力を無理矢理補うためにある裏技のようなもの。
それを、充分に力が足りている私が使ったのだから。
「(……やっぱり安定しないな)」
でも、それは安定させるのには相当な技術が必要。
霊力の扱いを充分に磨いた私でも、裏技と呼べる程の強化には持って行けない。
……やっぱり、お兄ちゃんは凄いな。こんな技をやってのけたんだから。
「さて、行くよ……!」
ドンッッ!!!
踏み込み、地面が陥没する勢いでアラハバキへ間合いを詰める。
霊力を拳に纏わせ、抵抗してくるけど……。
「遅い!!」
霊魔相乗がなくても私と互角近かったのだ。
強化された今なら、拳を押し切るどころか、躱すのも余裕!
「はぁっ!!」
元々体格差も大きい。懐に入り込めば、私は捉えられにくい。
それを利用し、高速で動いて足払い。
そして、胴体を思いっきり蹴り上げ、上空へと吹き飛ばす。
「そー、れっ!!」
転移魔法を設置し、その場で思いっきり振りかぶる。
そして、拳を繰り出すと同時に転移。
アラハバキの上へ転移し、反転させるように地面へと叩きつける。
「焼き尽くせ、焔閃!!」
―――“Lævateinn”
そして、余波で被害が出ないように結界を張り、焔の大剣を叩きつける。
「っ、これを耐えるんだ。タフだなぁ……」
胸の辺りを切り裂かれ、全身が焼き焦げていても、アラハバキは生きていた。
……でも、まぁ……。
「一発だけじゃ、ないんだけどね?」
―――“刀技・紅蓮光刃”
焔の大剣を維持したまま、さらに焔を強くするように霊力を纏わせる。
そのまま、二連撃。アラハバキへと叩き込んだ。
「ォオ、ォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「ッ……!?」
だけど、そこでアラハバキは決死の反撃に出た。
全霊力を拳に集中させ、殴り掛かってきた。
攻撃後の硬直もあり、私は回避するもののギリギリだった。
空ぶった拳から、衝撃波が迸る。
その衝撃波は上空へと向けられており、上空にあった雲が吹き飛んでいた。
「くっ……!」
でも、攻撃はそれで終わりじゃなかった。
そのまま避けた私を狙ってくる。
さっきよりは避けやすい体勢だけど、避けてはいけない。
「(背後に、校舎……!)」
戦いの余波なら防げる結界も、空ぶった全身全霊の攻撃は防げないかもしれない。
実際の強度は知らないけど、そう考えたら避ける訳にはいかなかった。
「(まずは足場を崩す!)」
―――“Zerstörung”
“瞳”を握り潰し、アラハバキの足元を崩す。
これで、アラハバキの体勢は崩れた。
でも、攻撃の威力は大して変わらない。だから、後は……!
「(かちあげる!!)」
―――“刀奥義・一閃”
ガィイイイイイイイン!!
霊力を纏ってくれたのが幸いだった。
私が下から切り上げるように攻撃を繰り出す事で、拳を上空へと逸らす。
残念ながら、弾くとまでは行かなかったけど、結界よりも上へと逸れていた。
「これで、終わり!」
―――“刀技・紅蓮光刃”
そのまま続けざまに二閃。アラハバキを切り裂く。
今の一撃で力を使い果たしていたようで、あっさりとアラハバキは倒れた。
「……ふぅ……」
倒した事を確認し、サーチャーから送られてくる映像を確認する。
……うん。ちゃんと座標が分かってるね。じゃあ……。
「封印……っと」
転移魔法を発動。祠へ移動し、即座に用意していた封印術を発動。
祠を封印し、もう一度転移魔法で学校へと戻る。
「………」
なぜ学校に戻ったのかと言うと、私に対する恐れを抱いた目が気になったから。
その理由はある程度予想している。それを確かめるためでもあるね。
「……ふぅ」
まずは大剣を消し、身に纏っている霊力と魔力も解く。
これで私は完全に無防備な状態。敵意がないと示す。
「(……ま、これで簡単に近づいてきたらダメなんだけどさ)」
当然だけど、その程度じゃ誰も出てこない。
と言うか、ここを守っていた司さん辺りが出ないように言っていたのだろう。
「(誰か知っている人……)」
ただの友達や知り合いではダメだ。
ある程度、説明を受けている人でないと話が通じにくいはず。
でも、そんな人なんて……。
「(……いた)」
一人だけ……いや、何人かいた。
私がそれなりに知っている人で、尚且つこちらを恐れていない人。
他にも同じような人がいたけど、一番はその人だった。
「(確か、お兄ちゃんの友達で……)」
地面を蹴り、ふわりとその人の前……の窓近くまで行く。
周囲から少しばかり小さい悲鳴が聞こえたけど、この際は無視する。
「大宮さん……でしたっけ?」
「あ、ああ……」
「さ、聡……!?」
名前を確かめようと尋ねると、普通に答えてくれた。
その事に、隣の女生徒(見覚えがある)が驚いていた。
まぁ、普通は普通に応対できる訳ないよね。
「……一つ、確かめておきたい事が。……以前に、私の姿をした存在がここに来ましたよね?それも、襲う形で」
「っ……ああそうだ……」
「(やっぱり……)」
予想通りだった。
私は幽世の大門が開いた影響で、妖となっていた。
咄嗟に式神を作り、そっちに自我を追いやったおかげで、どうにかなったけど……。
妖となった部分は、門の守護者にでもなっていたのだろう。
そして、ここを襲った。それなら、生徒の人達が恐れるのも分かる。
私が現世に来れるようになったのは、その妖が倒されたからだから、もう脅威はないのだけど……そこは人間の心理。しょうがないね。
「……なぁ、もしかして……」
「何を考えているのかは大体わかるけど、説明している暇はないです。私も急いでいるので」
大宮さんの問いを遮る。
大方、私が本物なのか聞こうとしたのだろう。
でも、説明している暇はないので、それを遮った。
「……でもまぁ、答えるとしたら。“その通りです”とだけ。では……」
「ぁ……!」
その返答に、彼……いや、お兄ちゃんの友人であろう彼らは目を見開いた。
それを余所に、私は転移魔法を使う。
向かう先は、大きな力を感じる方角。
細かい距離は分からないので、転移してからは自分の足で向かうつもりだ。
「『……聞こえますか?』」
転移し、高速で現地に駆けていく間、念話を試みる。
通信先はアースラ。他にも艦が来ているようだけど、知っているのはここだけだからね……。
『……緋雪ちゃん……なの……?』
「『……はい』」
信じられないと言った感じで、応えた人……エイミィさんは聞いてきた。
それに誤魔化す事なく、私は返事する。
『本、当……に……?』
「『はい。偽物でも、ましてや妖でもありません』」
通信の映像として映っているエイミィさんは、完全に声を震わしている。
まぁ、当然だよね。死んだはずの人物が通信してきたんだから。
「『……説明してほしいのは分かりますが、その暇はありませんよね?簡単に状況説明をお願いします』」
『っ、う、うん。えっと、まずは妖についてとかは……』
「『知っています。今、幽世の大門が開いて、妖が溢れている事も。私が今向かっているのは強大な力を感じる方向ですが……大門の守護者が、いるんですよね?』」
どこから説明すればいいか戸惑うエイミィさんだが、代わりに私がどの辺りまで知っているか先に話す。
『……まさか、向かうつもりなの?』
「『当然です。私はそのために現世に戻ってきたのですから』」
そう。元より私は大門の守護者を倒すために派遣されたようなもの。
今打てる幽世側の最善の手が、私なんだ。
『そんな、大門の守護者は……!』
「『どんな相手なのかは知っています。容姿も、強さも。そして、生半可な力では太刀打ちできない事も』」
私は知っている。とこよさんの強さを。
だから、同じ力を持つ守護者がどれほど強いのか、わかっているつもりだ。
「『それに、今守護者と戦っているのはお兄ちゃんですよね?……だったら、尚更行きます。お兄ちゃんばっかりに、負担を掛けられないから……!』」
『っ……!……そこまで言うのなら、わかったよ。状況を説明するね。大門の守護者は、今言った通り優輝君と葵ちゃんが戦っている。優輝君は神降し……って言っても分からないかな?椿ちゃんとユニゾンしているみたいな状態なの』
「『神降しについては、聞いた事くらいは……』」
神降しに関する事は、幽世でとこよさんに聞いた事がある。
あれ?って事は、今椿さんはお兄ちゃんと一緒になってるの?
……いいなぁ……。……じゃなくて……。
「『他は?』」
『他の皆は京都の大門から溢れ出る妖を食い止めてるよ。それ以外の地域にも戦力を割いて、現地の陰陽師や警察とかと一緒に安全を保っているよ』
「『……分かりました。それだけ分かれば十分です』」
被害などは聞いている暇はない。
どの道、これほどの規模なら被害なしはありえないだろう。
「『では、私は止めに向かいます』」
『……無理しないでね』
その言葉に頷いて、私は通信を切る。
同時にスピードを上げ、現場へと急行する。
「邪、魔ぁっ!」
魔力のナイフを生成し、一気に投げる。
それらが向かう先は、進路上に立ち塞がる妖達。
一体一体は大した強さじゃないけど、急いでいる身としては非常に邪魔だ。
「ふっ!」
大剣を生成して一閃。一気に薙ぎ払う。
同時に、思いっきり地面に踏み込む。
ドンッ!!
「そー、れぇっ!!」
一気に加速、そして拳を振りかぶる。
魔力で体を強化して、一つの弾丸として一直線に進む。
幸い、今進んでいるのは人気のない山中。
一般人とかと鉢合わせする事はないだろう。
「(……まずいね)」
エイミィさんの言った通り、京都に溢れ出ている妖は大丈夫だろう。
適当な妖が現れた所で、戦力を集中させておけば押さえていられる。
でも、問題はそれ以外だ。
「(東の方……これは司さんの魔力かな?)」
エイミィさんの説明を私がもう十分だと止めたから聞いていなかったけど、東京方面から感じられる魔力は明らかに司さんのものだ。
結界で隔離しているとはいえ、膨大な魔力なためここまで感知できる。
……明らかに、人一人が出せる魔力じゃない。
「(司さんがどういう状況なのかも気になるけど、その相手もなかなかだよね)」
これほどの魔力であれば、それこそ龍神やさっきのアラハバキが相手でも難なく倒せるだろう。でも、この魔力は私が現世に来た時から感じられた。
つまり、これだけ戦いが長引く程の相手がいるという事。
「(……とこよさんが言っていた、学園裏に封印されてた龍かな?)」
聞いた事があるのだけど、その龍は途轍もない強さだったらしい。
私でも苦戦する程の相手とか言われた気がする。
「(いや、そっちを気にしてる場合じゃない……!)」
状況が動いた。……動いてしまった。
さっきまで感じられた神の力が、感じられなくなった。
……結界によって遮断されたのだろう。
「(元より、“神”の類はとこよさんが相手だと相性が悪い!それなのに、さらにその力が削がれたら、さすがのお兄ちゃんでも……!)」
とこよさんは神格を持つ妖を何体も倒した事がある。
その事から、所謂神殺しと言われる性質を持ってしまっている。
……神殺しは、その性質上、“神”の類の天敵だ。
相性が悪い。それだけでも致命的なのに……!
「ッ……!」
跳躍、上空へとその身を躍らせる。
ようやく、目的地が見えた。
そして、結界も見える。
「(いた……!)」
結界は、外界から遮断する効果を持っている。
一度、破る必要があるだろう。まぁ、それはいい。
それよりも、目に入ったものがあった。
「(お兄ちゃん……!!)」
お兄ちゃんが、そこにいた。
葵さんと共に壁へと叩きつけられ、その場に倒れ込んだ。
椿さんも気絶していて、完全に戦闘不能だった。
「ぁあああああああっ!!!」
魔法陣を生成、それを足場にする。
そして、弾丸のように飛び出す。
「割れろ!!」
―――“Zerstörung”
パリィイイイン!!
“瞳”を握り潰し、結界を割る。
術式自体は破壊しきれなかったけど、この際問題はない。
―――“Magie Waffe”
「ッッ!!」
ギィイイイイイイン!!!
「ッ……!」
そのまま、大剣を生成して斬りかかる。
お兄ちゃんに対して振り下ろそうとしたその刀で受け止められる。
でも、そんなの関係なくその場から吹き飛ばした。
「…………」
吹き飛ばした先を見据える。
……不意打ちだったおかげか、だいぶ距離を取れたみたいだ。
「………」
地面に突き刺さっていたシャルを引き抜く。
久々に手にするけど……。
「(……うん。馴染むね)」
一度お兄ちゃんの方を振り返る。
お兄ちゃんは、既に気絶寸前だった。
……お兄ちゃんは頑張った。頑張ったよ。だから……。
「……後は任せて。お兄ちゃん」
―――ここから先は、私が相手だよ。とこよさん……いや、大門の守護者……!
後書き
アラハバキ…かくりよの門では“神代ボス”と言われる、レイドの中でも一線を画した強さを模したボス。その中で一番最初に戦えるようになる存在。いくつもの考察があり、名前の表記だけでも諸説あるらしい。
轟…単体打属性攻撃。霊力を込めた剛腕による一撃。シンプル故に強い。
刀技・紅蓮光刃…斬+火属性による二回攻撃。光る程凝縮させた焔を纏った剣で切りさく技。神話級(UR相当)のスキルなため、非常に強力。
アラハバキは、それこそ実装当初は何人ものプレイヤーを一気に塵に返す程の強さを誇っていましたが、今ではソロで討伐出来てしまいます(作者も今年四月から可能に)。それでも、神と呼ばれる存在なので、龍神や四神と同等以上の強さです。
ちなみに、このアラハバキがとこよが神殺しの性質を持つ原因の一つだったりします。
今回の霊魔相乗ですが、優輝にとっての一割~三割程度の効果しかありません。それだけ安定させるのが難しいからです。葵が霊魔相乗を使わないのも、それが理由の一つです。(もう一つは、デバイスなため、優輝よりも負荷が大きいから)
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