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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第155話「拮抗する人と妖」

 
前書き
一方京都の防衛戦線では……みたいな話です。
メイン&サブキャラは大体集合しているので書き分けの難しい事難しい事……。
ちなみに、優輝の両親だけ九州の方で未だ活動中です。安全がまだ確保しきれていないので、対処が終わり次第応援に駆け付ける感じです。
妖が大量発生と言っても、大抵がなのは達でも十分無双できる相手なので、ようやく原作キャラ達の活躍が描けます。
……なお、原作キャラ以外も活躍する模様。
 

 





       =out side=







「ここを、こうして……これは……!」

 土御門家本家の資料庫にて、次期当主である澄紀は文献を漁っていた。
 同時に、その文献に載っている情報を基に、ある陣をそこに描いていた。

「これは……違う。でも、取っておいた方が……いいえ、今はそこで悩んでいる暇はない。余計な事に手出しする前に、出来る事を……!」

 椿と葵に喝を入れられてから、澄紀の思考は冴え渡っていた。
 彼女は、才能こそあれどまだまだ未熟。
 だが、その才能で文献を一気に解読し、理解を深めている。

「(曰く、現代に引き継がれている術式は、全てが“弱い”。確かに、あの二人の式姫が言う通り、文献を漁っただけでも今の術式をもっと強力に出来る。でも、今はそれでは足りない)」

 確かに、文献にある術式の類を他の者達に伝えるだけでも戦力は強化される。
 だが、それを澄紀は焼石に水だと断じた。
 それ故の、他の手段となる陣だった。

「(ここから状況を好転させるには、さらに式姫が必要。もしくは、その式姫に匹敵する存在が。……この陣を完成させれば、式姫の召喚が……!)」

 そう思考するや否や、陣を書き終える。
 だが、そこで問題が一つ生じた。

「……一体、どうやって召喚を……?」

 そう。召喚の方法が分からないのだ。
 陣に霊力を流すまでは陰陽師や退魔士であれば誰でもわかる。
 だが、そこからどうやって呼び出すかまでは分からないのだ。

「っ……こんな所で、躓いていられない……!」

 なんとしてでも呼び出す。
 その覚悟を以って、澄紀は手探りで式姫を召喚しようと試みた。















       =なのはside=







「シュート!!」

「ファイア!」

 放たれた多数の魔力弾が、多くの妖達を貫く。
 ……一体、これで何度目だろう。

「ふっ……!」

「はぁああっ!!」

 妖の群れの中に、奏ちゃんとシグナムさんが斬りこむ。
 二人だけじゃない。近接系の人達は皆切り込んでいる。

「なのはちゃん!フェイトちゃん!」

「撃ち漏らし、来たわよ!」

 そして、すずかちゃんとアリサちゃんが状況の確認。
 不足の事態に私達後衛担当と一緒に対処している。
 アリシアちゃんは、その両方を担っている。

「神夜は蹴散らしてこい!帝!まだ行けるか!?」

「ああ!まだまだ魔力はあるぜ!」

「なら、続きを頼む!はやて!合図と共に味方がいない所に魔法を叩き込め!」

「了解や!」

 そして、指示役に先程応援に来たクロノ君。
 神夜君は前衛組の中でもトップクラスの突破力を持っているので、他の人達以上に切り込んでいる。帝君はそれをフォローするようにいくつもの剣を繰り出して攻撃していた。
 はやてちゃんは基本的に私やフェイトちゃんと同じだけど、攻撃範囲が広いため、味方がいない所に打ち込んで妖を一網打尽にしている。

「(……でも……)」

 既に半分くらいの人が気づいていると思う。
 ……このままでは、私達は押し切られてしまう。

「(後方支援の人が多すぎて、前線で押し留める人が足りていない。アリサちゃんも前衛タイプの戦い方だけど、前線に行くのは危険だって止められてる。……それに、ザフィーラもいないし)」

 木曽龍神と言う龍神との戦いで、ザフィーラは無理をしてアースラに待機している。
 前衛……それも、相手の攻撃を受け止める役割の人がいないのは、きつい。
 ユーノ君も、防御魔法に秀でているけど、前衛に出れる程攻撃には優れていない。
 むしろ、後衛から中衛に掛けてバインドによる支援の方が役に立てる。

「(そうだよ。後方支援は足りてる。だったら……)」

〈Master?〉

「……行くよ。レイジングハート」

〈……All right.Mymaster〉

 クロノ君も分かっている事だろう。後衛が多すぎて、逆に前衛が少ない。
 このままでは、戦線が後衛まで来て入り乱れてしまうと。
 だから、後衛から何人か前衛に向かわせる必要があった。
 ……行くしかない。

「なのは?」

「アリサちゃん、ついて来て。フェイトちゃんとすずかちゃんも、もうちょっと前まで」

「なのはちゃん!?いきなり何を……!?」

「まさか、なのは、行く気なの……?」

 三人共驚く。まぁ、普通はそうだよね。
 ……でも、そうした方が“良い気がする”。

「『なのは!いきなりどうするつもりだ!?』」

「『ごめん、クロノ君。フェイトちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃんを中衛まで上げて、私とアリサちゃんが前衛に行くね。援護射撃、任せるよ』」

「『それだと今度は逆に後衛が……!』」

 わかってる。本来なら私かアリサちゃんが前に出ればバランスが取れる。
 もしくは、フェイトちゃんとすずかちゃんを後衛のままにするべきだ。
 ……でも、これでいい気がした。
 だって、何もこの戦いは、私達魔導師だけのものじゃないから。

「くぅ!!」

   ―――“雷”

「……そうだよね。くーちゃん」

 大きな鳴き声と共に、閃光が迸った。
 フェイトちゃんの強力の雷魔法に劣らない雷が、妖の群れを薙ぎ払う。
 それを放ったのは、小さい頃に友達になった狐の久遠(くー)ちゃん。
 他にも、後ろの方……安全地帯には、那美さんと葉月ちゃんがいる。
 それだけじゃない。京都にいる退魔士の人達も、そこにいた。

「(それに、一人や二人欠けただけで、何もできなくなる訳じゃ、ない)」

 後衛が減ると言っても、頼りになる人達はいる。
 プレシアさん、リニスさん、アインスさん、シャマルさん、はやてちゃん、クロノ君がいる。……そう簡単に、負けない。

「フェイトちゃんは自由に動いて。アリシアちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんは出来れば三人で固まってフォローしあって欲しいかな」

「了解!まぁ、危険地帯だしね!」

「なのははどうするの?」

「……切り込むよ」

Sword mode(ソードモード)
 
 私はレイジングハートを新形態に変える。
 そして、接近していた妖の前へ躍り出た。

「シッ!」

「えっ」

 そしてそのまま切り裂く。
 アリシアちゃんが驚いたような声を出していたけど、気にしないでおこう。

「来るよ!!」

「ッ……!」

 だって、そんな暇はなくなるのだから。

「行くよ!」

「ええ!」

「うん!」

「っ……!」

 アリシアちゃん達は早速固まって連携を取りつつ妖を撃破。
 フェイトちゃんはスピードを生かして攻撃範囲から逃れつつ切り裂いていく。

「(……うん。やっぱりこっちの方がいいかも)」

 危険性は高まるけど、こっちの方が皆の強さを生かせる。
 フェイトちゃんは魔法の傾向こそ中・遠距離が多いけど、戦術の傾向としてはスピードアタッカーになる。だから、そのスピードを生かして動き回りつつ攻撃するという、遊撃型の方が、フェイトちゃんに合っている。
 アリシアちゃん達は元々安全性を重視するために後ろに下がっていただけで、アリシアちゃん以外は遠距離に向いている訳ではない。
 ……三人に関しては私もどういった事が出来るのか詳しくないけどね。

「(クロノ君も分かっているはず。だから、こうして私の行動を見逃してくれている)」

 本当にダメなら、きっぱりと断られているはずだしね。

「(さて……)」

 目の前に意識を戻す。
 アリシアちゃん達は少し後方で打ち漏らしの妖を撃破している。
 フェイトちゃんと私はそのまま前へ。そこにいるのは……。

「シグナム!」

「ヴィータちゃん!」

 前衛として前に出ていた二人だ。

「フェイト!?なぜここに!?」

「なのは!おめーは後方支援だろ!?」

「こっちの方が、良く“動ける”から」

「大丈夫だよヴィータちゃん」

 驚く二人に、それぞれ答える。

「そうか……なら、ついて来れるか?」

「シグナムこそ、遅れないで」

「ふっ……」

 少し離れた所で、フェイトちゃんとシグナムさんは背中合わせになる。
 ……漫画とかで偶に見るけど、ああいうのってかっこいいよね……。

「っ、っと……!」

「危ね……!」

 私とヴィータちゃんは、不意打ち気味に迫っていた妖の攻撃を避ける。
 そのまま、フェイトちゃん達から離れるように場所を移動する。
 ……ここは二人に任せよう。

「大丈夫、ってのは……その新形態のデバイスか?」

「うん。少し前から、力不足を感じて鍛えたんだ。……お兄ちゃん達にも協力してもらったんだよ」

     ギィイン!ザンッ!

「……マジか」

 襲い掛かってきた鬼のような妖の腕を逸らし、そのまま首を落とす。
 ……うん。さすがに妖を倒す事に対しては慣れたかな。

「ヴィータちゃんは、一人で大丈夫?」

「あったりめーだ。シグナムだって、フェイトに付き合っているだけで一人で十分だ。……押し留められないってだけで、これぐらいならベルカ時代に経験している」

「そっか」

 “じゃあ……”と続け、私は刀を構える。
 そして、魔力を集束させて……。

「一気に、行くよ!!」

〈“Divine blade(ディバインブレイド)”〉

 薙ぎ払うように、その魔力を放った。
 弧の形をした斬撃のような魔力は、一気に妖を薙ぎ払う。

「す、すげぇ……」

「じゃあ、私はもっと切り込んでくるね」

「あ、ああ。こっちは任せろ!」

 私は、意気込んで前に出たのはいいものの、別に守るのが得意な訳じゃない。
 そう言うのは、ユーノ君やザフィーラが代わりにやってたからね……。
 だから、今私がするべきなのは、前に出てとにかく妖を倒す事。

「行くよ、レイジングハート」

〈Yes,Mymaster〉

 目の前に立ち塞がる妖の攻撃を避け、横を抜けながら切り裂く。
 “すれ違いざまに斬る”。これを妖の群れを駆け抜けながら行う。
 そして。

「はぁあああっ!!」

〈“Divine blade(ディバインブレイド)”〉

 斬撃で薙ぎ払う。
 私の得意魔法であるディバインバスター。
 それを、ソードモードのレイジングハートの刃に集中させて放つ。
 それがこの魔法。……シンプルなアレンジだけど、充分強力だ。

「っ!」

     ギィイイイン!!

 周囲の妖を一掃したと思った瞬間に、何体かの妖が飛び出してきた。
 その妖の形は完全に人と同じだった。

「(この妖は……!)」

 司さんとアリシアちゃんが相手していたのを覚えている。
 確か、影法師とかいう、他の妖よりも強い妖だったはず。

「っ、くっ!」

     ギィイン!ギギィイン!

 一撃目を躱し、斬り返しの二撃目をデバイスで防ぐ。
 そのまま三撃、四撃と攻撃は続くけど、それらは相殺する。

「っと、シュート!」

 上から斬りかかってきた斧持ちの攻撃を飛び退いて躱し、魔力弾を放つ。
 だけど、それらは避けられ、代わりに……。

「っ!?バスター!!」

 相手の後方から炎と風の混じり合った霊術が飛んできた。
 咄嗟に砲撃魔法で相殺するけど、砂塵で視界が封じられる。

「(空へ逃げて視界を……!)」

〈Master!!〉

「っ!?」

     ギィイイン!!

 空へ逃げるのを予測されていたのか、飛んだ瞬間に矢が飛んできた。
 咄嗟の判断で弾けたけど、飛び上がるのに失敗してしまう。

「くっ……!」

 体勢が崩れた所へ、槍持ちの妖が突いてきた。
 何とか飛行魔法を上手く使って、その一突きを避ける。

「シッ!!」

〈“Divine slash(ディバインスラッシュ)”〉

 そのまま体を捻り、回転を利用して反撃の斬撃を叩き込む。
 槍で防がれたけど、そのまま地上に叩きつけた。

「シュート!!」

 さらに魔力弾で牽制。
 相手の後方から飛んでくる霊術を無視して、低空飛行に。
 そして、地に脚を踏み込むと同時に……。

「シッ―――!!」

   ―――御神流“斬”
   ―――御神流“貫”

 刀、槍、斧を持つ妖を連続で切りさく。
 どの妖も防御行動をしてきたけど、お父さん達から教わった御神流なら、無意味。

「っ!」

 倒した直後、相手の後方から霊術が“私の周り”に飛んでくる。
 そして、視界を封じるように砂塵が飛ぶ。

「(飛んでも攻撃が飛んでくる……なら)」

   ―――御神流“心”

 心を落ち着け、気配を探る。
 ……ここっ!!

     ギィイイン!!

「っ、くぅ……!」

 振るわれた斧は防げたものの、その力に押される。
 ……当然と言えば、当然かな。私の身体強化魔法は、特別優れてる訳でもないから。

「っ!」

     ギィイン!

「くっ……!」

 さらに別サイドから刀が繰り出される。
 ソードモードは、小太刀二刀が本領なので、もう一刀を出して防ぐ。
 でも、一人で二体の攻撃を防ぐには、力が足りない。

「っつ……!」

 吹き飛ばされ、後退する。
 ……それは、この場においては致命的な事だった。

「しまっ……!」

 ここぞとばかりに、私は大量の妖に飛び掛かられる。
 咄嗟に魔力弾で牽制するも、数が足りない。

「っ……!!」

 瞬間的に、思考速度が早くなる。
 目の前の事以外意識に入らなくなり、視界がモノクロになる。

   ―――御神流奥義之歩法“神速”

「シッ……!」

 それは、お兄ちゃん達が扱う御神流の奥義。
 曰く、知覚外の速度で動くらしいけど……詳しくは知らない。
 でも、そのおかげで私はこの状況を打破できる。

「っ……!」

 知覚速度を上げるだけあって、私自身の動きも遅く感じる。
 それでも、妖の腕、爪、牙、あらゆる攻撃を紙一重で避ける。
 同時に、包囲を駆け抜けるように刀を振るい、妖を倒す。

「ふっ……!!」

「……!」

 包囲を抜け、襲ってきていた妖を倒そうとして、その必要がなくなる。
 風の刃――おそらく霊術――が飛んできて、周囲の妖を切り裂いたから。

「奏ちゃん……!」

「無事?」

「ありがとう。何とかね……」

 駆け付けてくれたのは、最前線で戦っていた一人、奏ちゃんだ。
 もう一人は、神夜君だったりする。

「ここは一番妖が多い場所。行けるかしら?」

「……うん。行けるよ」

「特に、影法師が厄介。あれらだけはここで仕留めるわ。……合わせて」

「分かったよ!」

 短く会話を交わし、すぐに駆けだす。
 奏ちゃんと連携を取るのは、これが初めてではない。
 練習は何度もしたし、実戦でも何度か連携を取った事がある。
 でも、今の私の戦闘スタイルはいつもと違う。
 だというのに、私は連携が取れないとは不思議と思わなかった。

「はっ……!」

「はぁっ!」

 奏ちゃんは霊力を、私は魔力を斬撃として飛ばして目の前の妖を一気に倒す。
 同時に、お互いに作っておいた魔力弾を周囲にばら撒いて牽制する。

「ふっ……!」

   ―――“Delay(ディレイ)

 牽制すると、奏ちゃんが移動魔法で敵陣に切り込む。
 適格に妖達の攻撃を捌き、上手く引き付けてくれる。

「っ、バスター!!」

〈“Dibine bustar(ディバインバスター)”〉

 そこへすかさず私が砲撃魔法を放つ。
 もちろん、奏ちゃんには当てないように拡散して。

「シッ!」

「はぁっ!」

 砲撃魔法を撃った際の隙を、奏ちゃんが埋める。
 それを心の中で感謝しつつも、私も前に出て妖を切り裂く。
 その後も、お互いをフォローし合うように妖を倒していく。
 それは、まるで一種の舞のように見えただろう。

「今……!」

「うん!!」

   ―――“Angel feather(エンジェルフェザー)
   ―――“Dibine rain(ディバインレイン)

 刀で戦っている間に用意しておいた魔力弾で、辺りの妖を一掃する。
 ちなみに、カートリッジも使っていたので、リロードしておく。

「……強くなったわね」

「……うん、まぁね……」

 一掃したおかげで、私と奏ちゃんの周りは少し空けていた。
 その間に、奏ちゃんがそう言ってきた。

「……変わりたいと、思ったから」

 ……私は、神夜君の魅了が解けてから、“変わろう”と決意した。
 多分、過去の……魅了されていた時の事を忘れたかったのだと思う。
 そんな私の決意を、お父さん達は汲み取ってくれた。
 だから、こうして強くなれた。
 体力作りとかがきつかったけど、これで以前みたいに疲労で撃墜される事はないと思う。

「……そう」

 それだけ言って、奏ちゃんとの会話が終わった。
 でも、奏ちゃんは私の言葉を聞いて、確かに笑みを浮かべたような……。
 普段は無表情な時が多いから、余計に気になっちゃう。

「次、来るわ」

「うん……!」

 構え直して、私達は再び妖を倒しに向かった。















       =out side=







「っ……、やっぱり、幽世側からじゃ埒が明かないね……」

 一方、幽世では一人の少女がある場所で術を行使し続けていた。

「あいつには席を外してもらってるし……と言うか、緋雪や現世の連中が何とかした瞬間を狙わないといけないから、不用意に手伝ってもらう訳にはいかないし……」

 彼女が行っているのは、幽世側からの干渉によって、門を閉じるという事。
 他ならぬ、幽世に住まう“土着神”だからこそ出来る事だった。

「くっ……出来て、“門”周辺の様子を探るだけか……。あたしじゃ、現世との“縁”がもうほとんどないから、仕方ないかもしれないけど……」

 “歯痒い”と、彼女は悔やんだ。
 神の座を引き継いだというのに、これ以上何も出来ないのだから。

「誰か……いや、なんでもいい。何か、“縁”になるものは……」

 現世に干渉し、“目”となる術を通して大門の近くを探る。
 そこには、多数の魔導師……なのは達が妖を押し留めている様子が映っている。

「……っ、待て……これは……!?」

 だが、そこで少女はある事に気づいた。

「そんなはずは……!現代において、現世にこれほど“縁”のある存在は……!」

 そう。“縁”がある存在がいたのだ。
 それだけならただ喜ばしいだけだが、その強さが半端ではなかった。
 それは、まるで“家族”でなければありえない程の“縁”で……。

「……まったく、あいつは……」

 頭に手をやり、少女は溜め息を吐く。
 それは、呆れているようで……どこか、喜びも混じっていた。

「……そうと決まれば……!」

 そして、その“縁”を頼りに、少女は術を行使し、現世へと呼びかけた。











   ―――……まさか、生まれ変わってるなんと思わなかったよ。……葉月















「………ぇ……?」

 所変わり、現世……大門近くでは。
 葉月や、那美など、直接戦闘に向かない者達が後方支援を行っていた。
 葉月は、前世であればある程度直接戦闘も出来たが、今は体がついてこないため、後方にいる。もし、術などで体を馴染ませる事が出来れば、かつてのように戦闘ができただろう。

「今の、声は……?」

 そんな葉月の耳に、声が届いていた。
 遠いようで、近い所から。頭に響くようで、耳を通しているような。
 そんな、不思議な感覚の声が、葉月に届いていた。

「………」

 葉月は、遠くを……幽世の大門のその先、幽世を見据えた。

「葉月ちゃん?どうしたの……?」

「……姉さん……?」

「え……?」

 傍目から見れば、遠くを見てボーッとしているしているように葉月は見える。
 だからこそ心配して那美は話しかけたが、呟かれた言葉に訝しむ。

「……そこに、いるのですか?」

「葉月ちゃん、何を……」

 聞き間違えるはずがない、もう姉ではなくなった“姉”の声。
 それが聞こえて、葉月は冷静ではいられなかった。

「姉さん……!」

「葉月ちゃん、危ない!」

 ふらふらと、いつの間にか前に出ていたのだろう。
 なのは達の戦闘の余波に、葉月は巻き込まれそうになり……。



   ―――まったく、いきなり世話かかせないでよ



「え?」

「ぁ……」

 ゆらりと、葉月の意思に関係なく、葉月の掌が正面に向けられる。
 そして、展開された障壁によって、余波は完全に防がれた。

『早く構えなおしな。今のは無理矢理だから、連発するとあんたの体が先に壊れる』

「姉さん?姉さんなんですか!?」

『ああもう、わかっている事をいちいち言うんじゃないよ』

 葉月に話しかけるように、声が聞こえる。
 それは、脳に直接声を届けている訳ではないため、那美にも聞こえていた。

『……厳密には、今のあんたの姉じゃないよ』

「っ……!」

『でも、正真正銘、あんたの“姉”さ。葉月』

「姉、さん……!」

 もう会えないと思っていた。
 だからこその涙を、葉月は流していた。

『相変わらず、なんでも背負い込んで……あたしにも一枚噛ませな。少しばかり状況を好転させてやる』

「姉さんが……?」

『“転身”のやり方は覚えているな?それを行使すればいい』

「は、はい!」

 声に促されるまま、葉月は覚えていた術式を行使する。
 すると、葉月は一瞬光に包まれ……。

「……現世も、見ない内に随分様変わりしたね」

 直後には、葉月ではなく似た別人が立っていた。
 髪型は葉月と違い、葉月と大きさの違う葉の髪飾りと黒いリボンでポニーテールにしてあり、服装も黒い着物に紫の帯と袴。そして袖のない赤い羽織を羽織っていた。

「霊気も薄い……。でも、葉月のおかげで“道”は出来た……!」

『姉さん?一体何を……』

「貴女は、一体……?」

 今度は葉月が声だけ聞こえるようになり、那美は現れた少女へ話しかける。

「……瀬笈紫陽(せおいしよう)。葉月の姉さ。あんた、少しの間離れておきな。じゃないと、あたしの力に巻き込まれるよ……!」

     ドンッ……!

 その瞬間、彼女から膨大な霊力が溢れ出す。
 その量は、あの椿の許容量すらも凌駕していた。

「幽世から現世の“縁”を通して、“門”を閉じる。大門はさすがに無理だけど、他の箇所は安心しな。……幽世の神の名において、きっちり閉じてやるよ!!」

   ―――顕現、幽世之神
   ―――“権能”発動

 そして、その霊力が解き放たれ……近くにいた者は知る由もないが、各地の“嫌な気配”が消えていった。

「……よし……!」

「え、え?何、今の力……?」

 あまりのその力の大きさに、那美はその場にへたり込んでしまった。
 他にも、近くにいた現地の退魔士や、奏達のように霊力を感知できる者達も、思わず彼女のいる方を向いて、その霊力に戦慄していた。
 尤も、前線にいる面子はすぐに妖の対処に追われていたが。

「葉月、良く聞きな。今現在、現世と幽世の均衡が完全に崩れかけている。現世側で何らかの力が働いたのか、幽世の力が大きくなりすぎたんだ。その結果が、幽世の大門が開くと言う事態だ。他の門は副作用に過ぎない」

『均衡が……妖が溢れてくるのも、それで?』

「その通り。おまけに、その溢れた力で大門の守護者……葉月は見たかい?」

『……とこよさん、でした』

「……まぁ、何を思ったのかは聞かないでおくよ。で、大門の守護者も暴走しているようなものだ。守護者自体は何とか倒せばいい……いや、こっちもかなり大変だが、それだけじゃあ解決できない」

 割り込む隙がない程、一気に彼女は葉月に事情を伝える。
 幽世側だからこそ分かった事を。また、その解決法を。

『どうすれば、いいんですか?』

「言っただろう。“均衡が崩れている”って。それを治せばいいんだよ。その条件としては、大門の守護者の打倒と、現世の霊気を昔のように濃くする必要がある」

『昔の、ように……』

「正しくは幽世と近しいぐらいにって所かな」

 それは、現在となっては途轍もなく困難を極める事だった。
 だからこそ、葉月は次の言葉を話せなかったが……。

「こっちは、既に解決法を用意してある。あんただよ、葉月」

『わ、私……ですか?』

「ああ。あんたがいたおかげで、あたしの意識を現世に持ってこれた。これで、幽世と現世を繋ぐ“橋”ができた訳だ。後は、あんたの体が壊れないように、霊力を放出すれば、幽世と現世の均衡は取れる」

『………』

 現在、葉月の体は、幽世と現世の境界がない状態にある。
 幽世にいる紫陽が、葉月の体を借りているからだ。
 それを利用し、幽世側の霊力を現世へと流す。
 そうする事で、均衡が取れるという事だ。

「大門の守護者の打倒は……そっちに任せる事になる。最後はこっちで何とか出来るが……頼めるかい?そこの」

「わ、私!?」

 いきなり自分に話を振られて、那美は驚く。

「話は聞いていたんだろう?それを他の奴らに伝えてくれないかい?……あたしは、この妖どもの相手をする必要があるからさ」

「わ、分かりました……!」

 またもや体から滲み出る霊力に驚きながらも、那美は了承した。
 そして、すぐに近くの者を通じて、情報を伝えに行った。

「葉月、あんたの今の体じゃ、術が満足に扱えない。だからあたしが代わりにやるよ」

『……分かりました。ただ、妖も姉さんに合わせて強くなっているので……」

「あたしを侮っちゃ困るよ葉月」

『えっ……?』

 前線へと駆けていく葉月……否、紫陽。
 そんな彼女へ、彼女に合わせて強化された妖が襲い掛かり……。

「あたしは今や立派な幽世の神なんだ。この程度、どうと言う事はないよ」

 そして、闇色の炎によって消し飛ばされた。















 
 

 
後書き
Divine blade(ディバインブレイド)…ディバインバスターとディバインスラッシュ(140話参照)の中間のような魔法。斬撃のように魔力を放ち、一気に薙ぎ払う。ディバインバスターよりも広範囲に薙ぎ払える。

斬・貫・心…とらハの御神流より。徹と同じ御神流では基礎()の類らしい。詳細等はとらハ参照。基礎とは一体……。

Dibine rain(ディバインレイン)…魔力弾を雨のように降らす魔法。一瞬の連打量だと、フェイトのファランクスシフトを凌駕する。なお、魔力弾を生成するための“溜め”が必要。

転身…かくりよの門やうつしよの帳ではなく、ひねもす式姫の葉月が使えるスキル。物理魔法バフからの、姉の紫陽に交代するというスキル。本編では憑依や入れ替わり、変身と同じ扱い。

霊気…ただ単に空気中の霊力の事。昔はこう呼んでいた。

権能…神が持つ“力”。運命の神なら運命を操ったりと、神の名に沿った力が使える。今回は、幽世の神なので、幽世の門を大門以外全て閉ざした。なお、大門は守護者が規格外の力を持っているため、力が及ばなかった。逆に大門の守護者の力も関係しているので、守護者がとこよでなければ他の門を一気に閉じる事はできなかった。


帝が以前に気づいていた通り、幽世の大門周辺の妖は、魔力にも反応します。よって、なのは達のように霊術が使えない人物たちにも積極的に襲い掛かります。
なのは超絶強化。戦闘民族高町家による近接戦闘強化パッチが適用されています()。元々魔法が使えてから運動音痴の要素がなくなったり(映画二作目での特訓)、innocentでは御神流の動きは出来たりしますから、“強くなりたい”と言う意志を持ってなのはが頑張ればこれぐらいにはなります。
ステータス(3章までのキャラ紹介にあったアレ)で言うなら、一気にレベルが100~200くらい上がっています。

紫陽は、今の所妖を押し留めているメンバーの中で最強になっています。それこそ、別の所にいる椿や葵にも割とあっさり勝てたりします。ただし、時間制限がある(葉月の体が壊れない程度)ので、持久戦には弱かったりします。……それでも充分ですが。 
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