おぢばにおかえり
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74部分:第十一話 おてふりその七
第十一話 おてふりその七
「女の子なんだから」
「女の子だからですか」
「ズボンの制服ってないでしょ?」
今度はこう言われました。
「女の子で。あるかしら」
「それはやっぱり」
ないです。流石に見たことも聞いたこともありません。
「ないわよね」
「はい」
先輩の言葉に答えます。
「だからよ。それにね」
「それに?」
「女の子は日様よ」
ここでおみちの言葉が出ました。
「日様ですか」
「ええ。だからスカートの方がいいのよ」
「!?」
今の言葉の意味はさっぱりわかりませんでした。ついつい首を傾げてしまいます。
「それはどうしてですか?」
「スカートの方が男の子が寄って来るのよ」
「そうなんですか」
「可愛いってね。月様が側にいないと日様も駄目でしょ」
「それはやっぱり」
二つ一緒にいてこそですから。日様だけじゃ寂しいしその働きもかなり制限されてしまいます。月様は日様の光を浴びて輝きますが日様も月様がないと駄目なんです。
「だからよ。月様が側にいてくれないと駄目だから」
「まずはその為にですか」
「そういうこと。悪い男はスルーね」
「ですね」
これはわかります。変な人が来たらやっぱり困ります。けれどスカートはくだけで荻野崇さんみたいな人が側に来てくれたら何でいいんだろうって思ったりします。
「けれどあれよ」
「あれですか?」
ここで先輩は言葉を急に変えてきました。
「側に来てくれた月様をそのまま留めておくのが難しいのよ」
「そうなんですか」
「スカートだけじゃ駄目よ」
先輩はスカートは最初だけって言いたいみたいです。
「やっぱり心のなのよ」
「心ですか」
「日様は温もりを与えてくれるでしょ」
「はい」
これはわかります。学校の授業でもおみちでもいつも言われることです。
「だからよ。性格が優しくて暖かくないと駄目なのよ」
「男の人と一緒になる為にはですか」
「ええ、そうなのよ」
何故かここで先輩の顔が少し悲しいものになります。
「私もね。それで色々あったから」
「色々ですか」
「そうなのよ。それはまた機会があれば話すわ」
「わかりました」
「ただね」
そのうえで少しだけ話してくれました。
「女の子は優しくならないと駄目よ」
「優しくですか」
「それが一番大事だと思うわ」
その少し悲しい顔で私に話してくれます。
「それを忘れたら絶対に駄目なのよ」
「絶対、ですか」
「私もね。高校に入るまでそれがわからなかったのよ」
先輩の顔がさらに悲しげになります。見ている私の方がもっと悲しくなる程です。
「それでもね。色々とあって」
「色々とですか」
「辛いことだってあるわ」
先輩は言います。
「その中でもね。自分がしてしまったことが原因だと余計にね。辛いのよ」
「そんなにですか」
「ええ、そうなの」
こう私に話してくれます。
「だから注意してね。優しさを忘れないで」
「はい」
何処かで聞いたことのある言葉ですがそれでも凄くいい言葉だと思います。やっぱり人って優しさを忘れたら駄目だと思います。けれど何か。
「それは先輩」
「何かしら」
妙に引っ掛かるものを感じたので先輩に問い掛けました。
「それは誰に対してもですよね」
「そうよ」
先輩はすぐに私に答えてくれました。
「誰でも。それはいいわね」
「誰でもですか」
「そりゃ最初見た時はとんでもないっていう人もいるわ」
これはわかります。
「それでもね。最初に見たり話したりして判断したら駄目よ」
「それだけではですか」
「それだけじゃ人間はわからないのよ」
何か凄く意味深い言葉になっていっているのがわかります。
「よく見ることも大事。そのうえで」
「誰にも優しく、ですか」
「ええ。それを絶対に忘れないで」
私に教え諭すように言ってくれます。
「何があってもね。私がちっちに言いたいのはそれよ」
「私に、ですか」
「ちっちなら大丈夫だと思うけれど」
やっとにこりと笑って私に言ってくれました。
「そこのところは」
「私はそんな」
何か言われて恥ずかしくなってきました。
「別にそんな。偉い人でも何でもないですし」
「偉くなくてもいいのよ」
また先輩に言われました。
「人にとって大切なのは一つだから」
「それが優しさ、ですか」
「それよ、それを忘れないでね」
「はい」
先輩の言葉にこくりと頷きます。何かおてふりでも優しい人は奇麗なおてふりをするって言われています。それだけは忘れないでいたいと思うのでした。
第十一話 完
2007・12・23
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