おぢばにおかえり
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56部分:第九話 座りづとめその四
第九話 座りづとめその四
「わからないけれどね」
「けれど何かあったのね」
「何なのかしらね」
そんな話をしていると。不意に自宅生の娘が一人こっちにやって来ました。何か待ってましたってタイミングでこちらとしては有り難いことでした。
「あっ、丁度いいわ」
中の一人が言いました。
「彼女に聞けばいいわね」
「そうね」
皆その言葉に頷きます。こうして彼女に何があったのか聞くことにしました。
「ねえねえ」
「自宅生の子達だけれど」
そう彼女に皆で声をかけます。
「何かあったの?」
「事件でもあったの?」
「事件って?」
けれどこの娘は事件と言われると目をキョトンとさせてきました。
「何、それ」
「何、それって」
「何か自宅生の子達が騒がしいから」
「何かあったのかなって思って」
私達はそれぞれこう彼女に問い掛けました。やっぱり何かあったのか凄く気になるからです。一体何事なのか、というのが本音です。
「どうしたのよ」
「誰かが結婚したとか?」
「ああ、あれね」
彼女はここでようやく何のことだか気付いたようでした。私達の言葉を聞いてしきりに頷きます。
「あれのことね」
「あれ?」
「じゃあやっぱり何かあるのね」
「これが別に大したことじゃないのよ」
けれど彼女はここでにこりと笑って私達にこう言ってきました。
「別にね」
「けれど何なのよ」
「気になるわよねえ」
「ねえ」
私達は顔を見合わせてこう言い合いました。
「それで教えてよ」
「何があったのよ」
「ミスタードーナツの新メニューよ」
彼女はそのにこりとした笑みのまま私達に言ってきました。
「ミスタードーナツの!?」
「ええ、新しいドーナツね」
これはこれで。凄く興味をそそられるものでした。私達も女の子ですし甘いものには目がありません。ましてミスタードーナツなら駅前にもありますし。すぐに手が届きます。
「チョコレート味のだけれど」
「チョコレート味ですって」
「何か聞いただけで」
食欲が出ます。さっき朝御飯を食べたばかりなのにもうお腹が空いてきました。
「それが滅茶苦茶美味しいのよ」
「滅茶苦茶なのね」
「ええ。一度食べたら忘れられない位にね」
また私達に言います。
「確か駅前でも売っていたわよ」
「じゃあ決まりね」
「そうね」
それを聞いて何かをしない娘はいません。私達だってそうです。
「そのドーナツをね」
「買って食べると」
「それね」
それしかありませんでした。誰が、寮長先生が何と言っても。
「そうかあ、ドーナツだったんだ」
「何かと思ったら」
「事件だとも思ったの?」
自宅生の娘はそう私達に聞いてきました。
「ひょっとして」
「まあね」
「だって。こんな大騒ぎだし」
そうじゃなければ何だと思います。てっきり誰かが結婚したのか離婚したのかって思いました。けれどそれがドーナツだったということでした。
「そうかあ、ドーナツなのね」
「それにしてもさ」
ここで私達は言います。
「何か私達って結構ドーナツ食べてるよね」
「結構以上よ」
私なんてしょっちゅうです。何かまたドーナツ食べてるなって自分で思う時もあります。
「何でかあれなのよね」
「そうそう、他にはソフトクリームね」
商店街の。他にはたこ焼き今川焼きにいか焼きと。買い食いには困りません。
「あとは何と言っても」
「彩華ラーメン」
「あれ美味しいの?」
今度は自宅生の娘が尋ねてきました。目を少しパチクリとさせています。
「何か大蒜の匂いや味や凄いって言われているけれど」
「それがいいのよ」
「一回食べてみればいいわ」
私達はそう彼女に勧めました。
「男の子なんかも多いし」
「食べたら病みつきになるかもよ」
「ふうん、そんなになのね」
あまりあのラーメンを知らない感じです。それが私達にもわかります。
「じゃあ一度行ってみるわ」
「デートだと後があれだけれどね」
「大蒜の匂いがね」
「えっ、デートで!?」
それを聞いて声をあげたのは私です。思わず目をぎょっとさせました。
「デートで行くの?あそこに」
「ってちっちはいないからでしょ」
「普通に行くわよねえ」
「ねえ」
どうもそうらしいです。私の知らなかった衝撃の事実でした。デートであのラーメンを食べに行くなんて。
「そうだったんだ」
「ちっちは早く彼氏見つけなさい」
「きっといい人いるわよ」
「そうかしら」
そう言われても何かそうは思えません。私的には。
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