おぢばにおかえり
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55部分:第九話 座りづとめその三
第九話 座りづとめその三
「というかおみちの女の人自体が小さい人多いしね」
「それはね。気付いてるわ」
言うまでもないことでした。もうわかっています。
「だから気にすることはないっていうのね」
「小学生に間違えられてもね」
「それは冗談じゃないわよ」
制服着ていないと本当にわからないらしくて。それで実際に何度も間違えられています。
「お母さんだって私と一緒にいた時にね」
「何て言われたの?」
「妹さんお連れしてるんですか?よ」
小さいからそう言われたんです。お母さんが若く見えるのもあって。
「これってあんまりよね」
「そうかしら。お母さん若いのね」
「まあそれはね」
それは否定しません。
「けれどそれでもよ。皆から代々小さい小さいって言われてて」
「受け入れられないのね、それは」
「だから豆乳飲んでるんじゃない。あと牛乳も」
「努力は何時か何かの形で実を結ぶわよ」
「だといいけれど」
本当にそうなったら。切実に願います。
「ところでお化粧終わったわよね」
「それはね」
もう終わりました。後は行くだけです。
「それじゃあ行きましょう」
「何か慣れてるけれど」
彼女は急に溜息をつきだしました。
「毎朝だからね」
「おつとめのこと?」
「ええ。正直嫌だなあって思う時あるのよ」
困ったような苦笑いを浮かべて私に言います。
「毎回毎回って」
「そうかしら」
別に私はそう思いませんけれど。
「ちっちは真面目だからね」
「真面目っていうか生まれてからずっとだったから」
私の家は教会なんで。けれどそれって彼女も同じなんですけれど。天理高校はやっぱり教会の息子さんや娘さんも多いです。そうした子達を教えるのも学校の目的の一つですから。
「私はそうは思わないけれど。それは」
「私もそうだけれどね」
彼女もそれを認めます。
「けれどねえ。何かかったるい感じ」
「朝からそんなこと言わないで」
「そうよね」
私の言葉に頷きました。
「そういうことで。それじゃあ」
「行きましょう」
私は彼女を誘って寮を出ます。出る時に行って来ますと挨拶をするのが決まりです。それを済ませてから向かうのは神殿です。一年生は西の礼拝堂のところに集まります。
そこに来てみるともうクラスの子達がかなり集まっています。そうしてあれこれと話をしています。
「昨日の仮面ライダー剣どうだったよ」
「ああ、橘さんがな」
ドラマというか特撮の話をしているのは自宅の子達です。寮生はテレビ観られないのでこうした話題にはかなり疎くなるのが悲しいです。小耳に挟みながらクラスメイトのところに行きます。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶を交わして皆と話をします。下は小石なんで座れないので立つかしゃがみこんで話をします。しゃがみこむと何か格好が悪い感じなので私は立ったままですけれど。
「何か昨日あったのかしら」
「何が?」
話をしていると不意に中の一人が言い出しました。
「いや、自宅生の子が色々と騒がしいのよ」
「自宅生の子が?」
「何かあったみたいよ」
そう私達に言います。
「誰かが結婚したとか離婚したとかじゃないかしら」
「誰なのよ」
「さあ。そこまでは」
わかるわけないです。とにかくそうした世間のことは全然わからないのが寮生ですから。おかげでもう浦島太郎みたいな気分になりかけています。
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