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おぢばにおかえり

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50部分:第八話 はじまってからその六


第八話 はじまってからその六

「おごるから」
「いいですよ、そんなの」
 私も苦笑いになって先輩に言いました。
「気を使ってもらわなくても」
「いいのよ、私も何か食べたいし」
「そうなんですか」
「やっぱり。育ち盛りじゃない」
 これは確かです。私も先輩も。だからこそ今お腹が空いています。
「だからよ。気にしないで」
「だったらいいですけれど」
「何かちっちってさ」
 ここで先輩の言葉の感じが少し変わりました。
「はい?」
「真面目なだけじゃないのね」
「そうですか!?」
「優しいわ。それに温かい」
「温かいですか」
 何かそう言われたのははじめてでした。お父さんとお母さんには子供の頃から人には優しくしなさいって言われてきましたしそれを心掛けてきたってこともあります。それに私も困っている人を見たら放っておけません。これが私のしょうぶんなんでしょうか。
「そうよ。それっていいことだし」
「そうですか」
「女は日様よ」
 ここでおみちの言葉が出ました。
「だから。女の子は温かくないと駄目なのよ」
「それお父さんとお母さんにも言われました」
 これは本当のことです。それで女の子は太陽だから人に対して温かくなりなさいって言われています。明るい心で元気よくとも。
「いいご両親ね」
 先輩は今の私の言葉に顔を綻ばせました。
「その通りよ。そうあるべきなのよ」
「ですか」
「そういう点ではちっちは凄いわ。私なんかより」
「先輩は」
「前ね、とても酷いことをしてしまったから」
 けれど先輩は私の言葉を否定して。また悲しい顔になって仰るのでした。
「私は温かくはないの。そういう人間なのよ」
「そうは思わないです」
 それは絶対に違うと思いました。先輩みたいに優しくて温かい人はそうはいません。外見は一見したら冷たい感じがしますけれど本当は全然違います。
「私は」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
 何か私の言葉に落ち着かれたようでした。
「有り難う」
「いえ、そんな」
「その御礼もしなくちゃね」
 また話が戻りました。
「だから。いいわよね」
「はい、先輩が仰るなら」
 まだ悪い気はしますけれどそれでも。先輩が誘って下さるんですし。
「御願いします」
「ここって結構甘いもの多いわよね」
 先輩は今度は食べ物についてお話をはじめられました。
「ソフトクリームとか」
「私あそこのソフトよく食べます」
 商店街のソフトクリーム、大好きです。
「凄く美味しくて」
「ちっちも甘いもの好きなのね」
「先輩もなんですか」
「ええ、大好きよ」
 また明るい笑顔になってくれました。やっぱり先輩は明るい笑顔であってくれないと。何かそうじゃないととても嫌です。女の子の私が言うのも何ですが凄く奇麗なんですから。
「それじゃあ最初はソフトクリームかしら」
「最初は、ですか」
「ええ。まずはそれを食べて」
 予定が変わっちゃいました。けれどそれもいい感じです。先輩におごってもらうから図々しいですけれどやっぱり。あのソフトが食べたいですから。
「それから駅前ね」
「わかりました」
「ドーナツは何を食べようかしら」
 先輩はそれについても考えます。考える顔もやっぱり奇麗です。それに背も私よりもあって。私があんまりにも小さいんだと思いますけれど。
「飲み物は紅茶ね」
「そうですよね」
 これはわかります。私も紅茶派ですから。
「ドーナツには」
「そうなのよ。そういえば」
「はい?」
「ちっちって寮じゃいつも豆乳よね」
「あっ、はい」
 先輩の今の言葉に答えます。
「そうですけれど」
「どうして豆乳なの?」
 そこを先輩に聞かれました。
「前から思っていたけれど」
「駄目ですか?」
「あっ、駄目とかそういうのじゃなくてね」
 それは違うみたいです。豆乳だから駄目っていうのはやっぱりないです。
「どうしてかしらって。牛乳飲む娘が多いから」
「私豆乳好きなんです」
 第一の理由はこれです。
「それに」
「それに?」
「豆乳飲むと胸が大きくなるそうですし」
「胸が?」
「はい」
 そう先輩に答えます。
「そう聞きましたけれど」
「そういえば私も聞いたことがあるわ」
 先輩は首を捻られました。記憶を調べている感じです。
「キャベツとかもよね」
「キャベツも意識して食べてます」
「アイドルの誰かがそんなこと言っていたような」
 それです。それを聞いて豆乳を飲んでいるんですけれど。
「効果あるのかしら」
「あると思いますけれど」
「牛乳の方がよくないかしら」
 先輩にこう言われました。
 
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