| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

おぢばにおかえり

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

31部分:第五話 彩華ラーメンその八


第五話 彩華ラーメンその八

「じゃあ止めるよ」
「わかったらいいわ。それで」
 随分あちこちに飛んじゃいましたけれど話の本題です。
「ドーナツよね」
「そうそう、それそれ」
 何かの真似みたいですけれど突っ込みませんでした。
「早く行こうよ、もうなくなっちゃうよ」
「なくなっちゃうよってねえ」
 また勝手なことを言います。
「そもそもここに来たのも新一君が」
「過ぎたことはどうでもいいじゃない」
 これです。何処まで勝手なんでしょう。
「だからさ」
「行くのね、今から」
「また後ろに乗って」
 すっと立ち上がって私に言ってきました。
「それでいいよね。答えは聞いてないからさ」
「・・・・・・それは聞くものよ」
 こんな調子なんだから。答えは聞いてないって何考えてるんでしょう。
「じゃあ答えは?」
「いいわよ」
 それしかないですし。憮然として答えました。
「そういうことでね」
「そういえば先輩と一緒にドーナツ食べるのってはじめてだったっけ」
「いえ、違うわよ」
 これははっきりと覚えています。
「ほら。高校の時」
「ああ、あの時」
 新一君は私の言葉に思い出して頷きました。
「おぢばがえりの時だったよね」
「そうよ、詰所で。他にもあったかしら」
「そんなに食べてたっけ」
「私ドーナツ好きだから」
 他にはケーキとかシュークリームとか。甘いもの大好きです。
「新一君いつも私にまとわりついてるし」
「いや、それは気のせいだよ」
 気のせいには思えないんですけれど。高校三年になってからずっと新一君が一緒にいて困ってるんです。私は保護者じゃないのに保護者扱いにされたり。
「先輩の」
「そうかしら。あっ」
 ここであることに気付きました。
「よく考えたら一緒にミスタードーナツに行くのははじめてよね」
「ああ、そうだったんだ」
 新一君はそれを聞いてやっと納得した顔になりました。
「だからはじめてだったんだ」
「そういうことだったのね」
「うんうん。それじゃあさ」
 新一君はにこにこと笑って私に言ってきます。
「また僕が運転するから」
「何かそれも楽しそうね」
「だってさ」
「だって?」
 また何か言いだしました。余計なことを。
「先輩が僕に抱きついてくれるから」
「あっ」
 そうでした。言われてそれに気付きます。
「じゃあそれが狙いで」
「おっと、失敗したかな」
「失敗も何も。ちょっと」
 顔が真っ赤になります。それが狙いだったなんて不覚でした。
「抱きついていたら胸も」
「やっぱり小さいね」
「こ、この」
 身体が震えてきます。まさか。まさか。
「許さないわよ、本当に」
「いやあ御免御免」
「御免じゃなくてね」
「それじゃあさ」
「何よ」
 それでも新一君の話を聞くことにしました。何故か聞いちゃうんです。
「お詫びにドーナツは僕がお金を」
「仕方ないわね」
 何でここでこう言っちゃうんでしょう。不思議と許しちゃいます。
「それじゃあそういうことで」
「うん。それじゃあ」
 新一君も笑顔で応えます。実はですね、内緒ですけれどこの笑顔見てると。かなり失礼千万なことを言われても許しちゃう結果になります。私が甘いんでしょうね。
「ミスタードーナツ行くよ」
「ええ」
 こうして私達は最初から決めていたミスタードーナツに行きました。何だかんだとあった気がしますがまずは楽しいはじめてのデートでした。

第五話   完


                2007・10・13
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧