名探偵と料理人
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第四十四話 -大阪のダブルミステリー-
前書き
このお話は原作第31,32巻が元になっています。
「私、剣道の試合って見るの初めてかも」
「ウチもですなあ…前の高校に居た時はクラスメイトに剣道小僧がおってクラスの皆は応援にいってはったらしいですけど」
「へえ、そうなんだ。だったら今日の大会にもその人出てるんじゃない?紅葉ねーちゃん」
「多分出てはるでしょうなあ。前の時は優勝しはったらしいですし」
「え?じゃあ服部君ってその人に負けたの!?」
「あー…去年ね。前に平ちゃんから聞いたことあるよ。確か剣道で言う有効打は貰わなかったけど突きを躱したときに首切って血が止まらなくなってそのままドクターストップだってさ」
「え?剣道でそんなこと起きるの?龍斗君」
「まあごく珍しい事らしいけどあるらしいよ。よくは知らないけどね」
「へえ…」
「(prrr…)あ、僕トイレ!」
「えー、またなの?コナン君」
「ごめんなさーい、すぐ戻るから!!」
新ちゃんは窓側の席を立ちトイレに行った。まあ、多分ポケットに入れた携帯が鳴ったから立ったんだとは思うけど。
今日は毛利一行と俺、紅葉の五人は平ちゃんが出場している近畿剣道大会を見るために東京から大阪へ向かっていた。今はその道中で新幹線の中というわけだ。空手の大会だったり、サッカーやテニスの試合とかは生で見たことあるけれど剣道の試合は俺も初めてだから結構楽しみだったりする。まあ、毛利一行は大阪に行くといっつも事件に巻き込まれて食べそこなっている静華さんのテッチリ目当てで試合観戦はあくまでおまけらしいけどね。って、新ちゃんが帰ってきたな。
「…ふぅ(ったく、服部の奴何度もかけてくるんじゃねえよ。というか、俺達のほかに龍斗と紅葉さんが一緒にいるんだから迷うわけねえじゃねえか)」
「おかえり、コナン君。災難だったね?」
「あはは、まあねー…」
「そういや龍斗君。実際の所どうなんだ?」
「どう、とは?」
新聞を読んでいた小五郎さんが新聞から目を上げ俺に聞いて来た。
「あの探偵ボウズの母親の作るテッチリだよ。わざわざ食べに来るように誘うくらいだから余程のもんなのかい?」
「私も気になるなー。ほら、美國島に行く前に服部君のお母さんが来た時に料理が上手なのは何となく分かったんだけど」
「ウチはそのお人にお会いしたことはありますけど、流石に料理の腕までは分かりませんなあ…」
「え?会ったことあるの?」
「まあ、大阪府警本部長の奥方ですから。大岡家の後継として何度かお会いしたことがあるんよ。まあその時は余所行きの対応をしとりましたから人となりまでは…」
「へえ…やっぱり紅葉ちゃんもお嬢様なんだねえ…」
「嫌やわ、蘭ちゃん。ウチの家系なんてちょっと長く続いているだけですよ」
いやあ、あれをちょっと古いだけというには語弊があるんじゃないかなあ。本家なんてちょっとした大学の敷地面積位はあるし。
「静華さんのテッチリかー。まあ今日の夜になればわかりますが…平ちゃんのお父さん、服部平蔵は俺の父緋勇龍麻と幼馴染みなんです。その関係で静華さんとは面識があって。その関係で料理も教えていたみたいですよ。それから、俺もそのテッチリを楽しみにしてます…これで小五郎さんの質問の答えになりません?」
「ほっほー!龍斗君はそこまで言うのならかなりの物なのか!こら俄然楽しみになってきた!!」
「私も楽しみになってきた!」
「ウチもそれを聞いて楽しみになってきました。緋勇の料理を教わりたいって人は世界中におりますけど、お店を持っていない彼らから継続的に教わるのは不可能やって有名なんです」
「へえ、なんか初耳かも」
「唯一の機会が彼らが雇われた晩餐会なんかのスタッフとして一緒に仕事をした時に助言を貰うことらしいんや。やから、ウチや小さい時から龍斗に教えてもらってきた蘭ちゃんは他の料理人を目指す人には垂涎の立場やって事なんやよ。もしバレたら探偵事務所に人が押し寄せるかもしれへんな?」
「もー!紅葉ちゃん恐いこと言わないでよー」
「あ、そう言えばな。今日大阪に行くいうたら…」
「えー、そうなの?それは…」
紅葉と蘭ちゃんはまた別の話題に移ったようだ。小五郎さんも新聞読みを再開したようだし俺も新ちゃんと雑談に興じるかな。
――
「ついたー!」
「久しぶりに来たなー」
「で?その剣道大会まではどうやって行きゃあいいんだ?」
「あ、それならはっと…平次兄ちゃんが教えてくれたよ。東尻行きのバスに乗って七つ目のバス停だって」
「ああん?次のバスは…って、30分も後じゃねえか!!待ってられるかよ、タクシーだタクシー!」
「ああ、毛利さん待ってもらえます?…ほら」
新幹線内で事件に遭遇することもなく、無事新大阪駅につき剣道大会が開催されている浪花中央体育館に向かうことになった。平ちゃんが教えてくれたバスは時刻表によればそれなりに待つという事でせっかちな小五郎さんはタクシーを選択しようとした…が。
「お待たせしました、お嬢様」
「いいえ、伊織。いいタイミングです…というわけで、目的地まではこのリムジンで移動しましょう」
「お、おおう。ありがとう」
「わあ!やっぱりお嬢様~」
「もう!蘭ちゃんたらまたそないなこと言う…!」
「まあまあ。とりあえずお願いします伊織さん」
「はい。浪花中央体育館ですね?お任せください」
と、いうことで俺達はリムジンで移動する事となった…大阪市内の移動は普通の車両を使った覚えがないな。
リムジンに乗って十数分。新ちゃんが携帯を取り出してどこかにかけ始めた。まあどこかというか、平ちゃんだろうけどね。
「もしもし…いや、紅葉さんがリムジンを手配してくれてな。今はそれに乗って移動中だよ……いや、流石に途中でおろしてくれって言えるわけねーだろ?もうオレ達は伊織さんの運転に任せて後は勝手に着くのを待つだけだよ。それよりもオメー本当に決勝に残ったんだろ―な?おい服部?どーなんだ?はっとりー?…あれ切れてやんの」
「どうだった?コナン君」
「うん、なんか勝手に切れちゃった」
「どうしたんだろ?試合時間が近くて切ったのかもね」
「うーん…」
なにやら電話を切られたことに違和感があるのか悩みだした新ちゃん。まさか、剣道大会をほっぽって殺人事件を調査しているなんて…あるわけないしね?
――
「「和葉ちゃーん!」」
「蘭ちゃん、紅葉ちゃん!!」
無事、浪花中央体育館につき敷地内に入ると走り回っている和葉ちゃんを丁度見つけた。
「お久しぶりや、和葉ちゃん」
「どう?服部君の剣道部は勝ち残ってる?」
「お久しぶりや、紅葉ちゃん。それに蘭ちゃん。一応次は決勝なんやけど平次がどっかいってもうてん」
「え?」
「きっとさっき起こった殺人事件の事嗅ぎまわってんのやと思うけど…」
「「「「殺人事件!?」」」」
まーじーかー。なんでこう…こうなるんでしょうかね?
「ここのプールの横の更衣室で人が殺されたんやって…」
「だったら、そこにいるんじゃねーのか?」
「とにかく、そこに行ってみようよ!」
「じゃあ、ついてきて。こっちや」
そう言って先導を始める和葉ちゃん…いや、平ちゃんがいるのはそっちじゃないな。屋内にいる。しゃあない。俺は横にいる紅葉に小声で話しかけた。
「…紅葉、紅葉」
「ん?なんや、龍斗」
「平ちゃんがいるとこ分かったんだけど誘導できないし俺だけ行って呼んでくるよ。事件現場に行けば新ちゃんが何かしら事件の糸口に気付くかもしれないし一緒について行って?」
「ん。分かった。上手く伝えとくわ」
「ありがと。じゃあ行ってくる」
俺は静かに集団から離れ、先ほど平ちゃんの匂いはした建物へ向かった…ここは別館?何でこんなところに。平ちゃんがいるのは…体育倉庫?
『…あんたが犯人やっちゅう何よりの証拠やで!』
…ああ、犯人と対決してたのか。でもなんで体育倉庫なんだ?
俺は平ちゃんと犯人の会話を彼らに見えないように隠れて聞いてみた…ふむふむ、殺された垂見という人物がしごきで剣道部員をなぶり殺しにしたと。同じ剣道部員としてその場にいながら止められなかった犯人たちも同罪という事でしごきがバレたら道連れにすると就職が決まったこの時期に言われ、そうなる前に殺したらしい。…あん?
「居合の刀は…一振りやなかったっちゅうこっちゃ!!」
「くっ!」
犯人は剣道袋から刀を抜いて平ちゃんに切りかかった。…おい。
「はあぁああぁ…あ?」
「あん?」
上段から振りかぶった刀を思い切り振りきろうとした犯人とそれを受け止めるべく携帯を盾にしようとした平ちゃんが変な声を上げた。それにしても剣道の上段って刀の先が頭より後ろに来るんだね。お蔭で掴みやすい。
「んな!?」
「た、龍斗!?何で来ないなとこに?」
「それはこちらのセリフだけどねえ、平ちゃん?剣道の試合はどうしたのさ」
「なにをごちゃごちゃ言うとんねん!?…なんでや、なんで動かんのや!?」
犯人は刀を両手で握り、思い切り振りかぶろうとしているが俺が刀を人差し指と中指で掴んでいるせいでピクリともしない。その様子を真正面から見ている平ちゃんも真剣での命の危険からくる緊張も解け、今ではあきれ顔になっている。
「…はあ。まあええわ。最後は締まらんやったけど。龍斗。こいつ殺人犯や。捕まえるで」
「な、何言ってやがる!?俺は刀を持ってるんやぞ?!」
「その刀を両手で全力で振りかぶってんのに二本の指で抑えられてんのはどこのドイツや?しかもその相手に完全に後ろとられてんやで?観念しいや」
「…平次ぃっぃいいいいぃぃ…い?」
「へ、平ちゃん?」
「おーう、大滝ハンに和葉!」
そうして、刀を振りかぶったままの犯人は体育倉庫に来た大滝さんに手錠をかけられ連行されていった。
「ほんならなー!あとはたのんまっせ、大滝ハン!」
「…さって?やっと見つけたで、平次!さあ試合や試合!!」
え?試合時間過ぎてるのにこんなことしてたのかい…ん?本館の方から気絶した剣道部員に肩を貸している団体が出て来たな。平ちゃんがそれを見て…
「ん?アカン、もう終わってしもうたみたいや…でも、ま」
そう言って和葉ちゃんと一緒に来ていた新ちゃんに目線を向けて。
「しゃーないわ!試合に負けて、勝負に勝ったっちゅうこっちゃ!(最後はアシストされてもうたけどな)」
なんのこっちゃ。
――
「おーいーしー!!」
「ほんまやねえ。こないな美味しいテッチリ、京都の料亭でも中々お目にかかれへんよ?」
「こりゃ最高だ!龍斗君が言っていた通り!!」
「当たり前や、オカンのテッチリは天下一品やからな!って、なんや和葉?箸もつけんと寝てしもうてからに」
大会終了後、俺達は何事もなく服部邸にお邪魔になり毛利一行にとってはやっとのテッチリを頂いていた…うん、父さんのをベースに服部家に合う味になるように工夫を凝らした静華さんの料理、とても美味しいです。それにしても自然に平ちゃんの肩に寄りかかっているねえ、和葉ちゃん。
「平次のせいやで?和葉ちゃん、あんたを探して走り回ってたんやから」
「しゃーないやろ?殺人事件解かなあかんかったし」
「いやー、それにしても流石は本部長の息子さん!電光石火の解決劇でしたなー!」
「いやいや、毛利さん。こいつの推理は勘働きに頼ったママゴトみたいなもんです…まだまだ毛利さんの足元にも及びませんわ…」
平ちゃんの頭に手を当てながら言う平蔵さん。あ、ぶすっとした表情になって新ちゃんを見てる。あれだな?小五郎さんより下=新ちゃんより下、って思ったな?
「けど平蔵…話を聞くにお前のガキん頃にそっくりやで?こら後が怖いなぁ…」
「おいおい、酒はあかんぞ?銀四郎」
確かに。和葉ちゃんを迎えにきたお父さん、銀四郎さんがお酒を飲んでしまったら車に乗れなくなってしまう。職業柄(いや、職業関係ないけど)飲酒運転なんてするはずもなし、どうするんだろ?
「心配するな。帰りはお前に送ってもらうつもりやから」
「……」
んー?なんだ、この2人の間にながれるこの微妙な空気は。って、平蔵さん酒飲めないじゃないか、それだと。
「…ねえ、龍斗ちゃん?どう、このテッチリ」
「え?ああ、とても美味しいですよ。夏の時期に失いがちな成分も考えて去年の冬に頂いたテッチリとは微妙に変えてますよね?底なしに食べられそうです」
「あら、ほんま?龍斗ちゃんにそこまで言われるなんておばちゃん嬉しいわあ」
「え?そうなんか?龍斗」
「うん。それに今日は平ちゃんが大会に出た後だってことも考えて工夫を施されているよ?やっぱりいいねえ、家庭料理って」
「…なんや、懐かしいやないか?のう、平蔵」
「ああ、ガキん時を思い出すな」
「え?」
「なんや、おとん。ガキん時て」
「ああ、オレと銀四郎それに龍斗君のお父さんの龍麻は幼馴染みやって事は話したやろ?ほんで龍麻も季節に合わせて、オレ達の体調に合わせていつもメシを振る舞ってくれたんや」
「おかげでオレも平蔵も年中体調を崩したこともなく、面白おかしい青春時代を送ったってわけや…あいつの飯を食わなくなった大人になって初めて風邪とか引いた時はビックリしたよなあ、平蔵?」
「ふん。いまじゃあ笑い話じゃ…それにしても」
うん?細い目を片方あけ俺の横の方を見る平蔵さん。上品にテッチリを味わっていた紅葉もそれに気付き箸と椀を置いた。
「公の場でしか面識がありませんでしたが。大岡紅葉と申します。龍斗とお付き合いさせて貰っております」
「まさか、龍斗君に彼女ができるとはのぅ。しかもそれが大岡家のお嬢様とは」
「それは確かにな。いっちゃあ悪いが龍斗君はウチのワルガキどもの面倒を見てもらっていた時から大人っぽかったというか。どうしても同性代の子たちと付き合うなんて思わんかったわ」
「それは、龍斗の近くにウチがいなかったからです。まあ、今はウチがいますけど?」
そう言って俺の腕に抱きついて半ば睨めつける紅葉。なんで喧嘩腰になってるんだ?
「はっはっは。小さいころを知ってると彼の恋人になる人物なんて想像がつかなかったですよ。まあ、相性はいいみたいですよ?彼女は龍斗君にぞっこんですよ」
「ほう?そう言えば毛利さんの娘さんは龍斗君と東京での幼馴染みだとか。私たちの知らないことを知っていそうですな?」
「いやあ、平蔵もそんな年頃の娘をねめつける様なことしなさんな。すまんのう、紅葉さん。オレも平蔵も小さいころからかわいがっとる龍斗君が彼女を作ったとなればその相手も気になるってもんでね」
「平蔵?女の子においたはあかんで?…それで毛利さん?東京での龍斗ちゃんはどないな感じなんです?」
「ああそれはですね…」
「せやねえ…」
「えっとね…」
そんなこんなで話が途切れることなく、楽しい夕餉は過ぎて行った。
――
「あの丸いんが大阪ホール!その向こうにぎょーさん並んでるビルんとこが大阪ビジネスパーク!ほんでここが大阪のシンボル、大阪城!どーー!ええとこやろ、大阪は!」
「そのセリフ、前にオレが案内したときと一緒やんけ…」
「え?」
「それに、高いトコからの大阪の景色はオレが前に通天閣から見せてんのや!はあ、お前に頼んだのが間違いやったか…」
「せやかて、天神祭も祇園祭も岸和田のだんじりもなくて、大阪城しかなかってんもん…」
「んじゃー、オメーなら今度はどこに連れてってくれたんだ?」
「そーやーなー、オレやったら。ほら、あっこに見える大阪府警本部を隅から隅まで案内したったるけどなぁ…」
「アホ!そんなん面白がるのはあんただけやで…」
「(みてえ…)」
「まあまあ。ウチは楽しいですよ?前回は参加してなかったですし、和葉ちゃんが頑張ってくれて嬉しいわぁ」
「ううう、紅葉ちゃーん!!」
「おっと…よーしよしええこやねー」
感極まって紅葉に抱きつく和葉ちゃん。うんうん、仲がいい事はいいことだ。
「それにしても、大阪城って写真やTVで見るよりずっときれいだね!」
俺達は服部邸で一夜を過ごし、大阪案内をしてくれるという和葉ちゃんの先導で大阪城に来ていた。大阪の改修の年数を曖昧に発言した和葉ちゃんに、正確な年数を教えてくれた少し風変りのおじさんが参加しているツアー団体とかちあったりしたが和葉ちゃんの大阪観光ツアーにしゃれ込んだ。
――
「こんの、ドアホ!大阪城に逆戻りさせよって…だいたいなぁ、鞄に入れてた財布普通落とすか?」
「平次が「はよせえはよせえ」言うから、どっかに忘れてしもてんもん!」
「そんで?なんぼ入ってたんや?」
「五千円…」
「いややあ!大事なお守り入ってんのに…」
彼女がたてたツアー通り、俺達は楽しく観光していたがとあるタイミングで彼女の財布がなくなっていることが分かり財布がありそうな大阪城へと俺達は戻ってきていた。お昼は天気が良かったのに今はもうすぐにでも降ってきそうだな…あ。
「おい、みつからんやからって泣くなや!」
「え?ウチ泣いてへんよ…これ、雨や。目のふちに落ちたんやね」
降り出してきたな。これは結構長引きそうな雲模様だ。
「こりゃー、しばらくやみそうにねーぞ?」
「あ、わたし傘なら持ってるよ?」
そう言って蘭ちゃんが出してくれたのは女性用の小型の折り畳み傘だった。まあ、俺と小五郎さんみたいな大柄な男性が入れるわけもないので俺は入るのを遠慮させてもらったが。
「あかん。どないしよ」
「ねえ、もしかしたら財布忘れたのあのお店かもよ?」
新ちゃんがそう言いながら指差したのは俺達がいる場所からすぐ近くにあるお土産屋さんだった。
「ほら、和葉姉ちゃんあそこで使い捨てカメラ買ってたよね?」
「そうゆうたらそうやわ…」
「そやったら、ウチらが見てきますさかい…ほら龍斗も傘に入って!ほんなら行ってきます」
そう言って三人娘は走って土産屋さんに走って行った。さあて、俺たち男性陣はどうしますかねえ。ってお?
「ん?さっきのやつらや」
平ちゃんも気づいたように、俺達が大阪城刊行していた時に遭遇した「八日間太閤秀吉巡り」ツアーのメンバーが集まっていた。俺達が近づいてどうしたのかを聞いてみるとどうやら俺達があっていない唯一のメンバーが俺達と別れた後も合流していないとのことだ…って!?
――――――ボン!!!!
「ん?」「なんや?」「なに?」
「上だ!大阪城の屋根の上!!」
「ひ、人や!人が燃えてんぞ!…って龍斗!?」
俺は屋根を転がり落ちてくる人物が落ちてくるであろう場所に走りだし、天守台をやや駆け上がり受け止めた…ってあっつ!
受け止めた人物へ衝撃を与えないように着地して俺は火消しを行う…これは喉が焼けて声は出ないか…
「龍斗!無事か?…おっさん救急車や!」
「良し分かった!」
火は消えたが、彼の様子を見るにこのままだと呼吸できないで窒息してしまうな…って。
「なんや、何があった!?…って傘?」
言葉を伝えられない彼は渾身の力を振るって平ちゃんが持っていた傘を掴みそのまま…とはいかんよ?
「平ちゃん傘借りるよ?ここからは探偵に出来る事はない」
「な、なんやと龍…斗!?」
俺は蘭ちゃんの折り畳み傘を借りるとシャフトを10cmほどに切断した。彼の状態は気道熱傷の中でも上気道閉塞が起きている。マウストゥマウスじゃ、呼吸の確保は無理だ。粗っぽいけど、俺は中空となっているシャフトを彼の無事と思われる気道に突き刺した。
「お、おい!?」
おっと、熱傷による痛みのためにショックが起きないように軽いノッキングもかける。後は、心臓が止まらないように注意しながら人工呼吸を行う。肺胞の動きも新ちゃんたちに気付かれないように操作してね。
「た、龍斗…」
「オレ達に手伝えることはねえのか?」
残った傘の部分で俺の作業点に雨が当たらないようにしてくれている二人が言う。
「ごめ(ふー)ん、繊細(ふー)、なさぎょ(ふー)うだから。(ふー)救急(ふー)隊員に(ふー)上気道(ふー)閉塞(ふー)の説明(ふー)お願い。(ふー)手がはな(ふー)せない」
「わ、わかった」
それから10分後、救急隊員が到着して彼を搬送する事となった。運が良かったのは経鼻エアウェイの気道確保を得意とする救急救命士が居たこと、すぐに医師の許可が取れたことで俺の応急処置は終わった…が。
「ちょ、ちょっと!君も腕に首に…顔まで火傷してるじゃないか!救急車に乗ってもらうよ!」
「え」
「ホラさっさと乗る!」
そう言えば受け止めた時に火傷してたな…これは迂闊だった。紅葉になんて言おう…
――
あの後、俺は病院に連れていかれ火傷の治療を受けた。思ったより深刻な火傷と言われ跡が残ってしまうと言われたが…まあそこは、ね。それと緊急措置として喉元に金属片を突き刺したのはやっぱり怒られた。一歩間違えれば君が彼の命を奪っていたのだと。
…うーん、人の構造なんかよりもっと複雑な食材を解体してきたものとして、それは1ミクロンも起きえないことなんだけどまあ結果、彼が生きている状態で救急隊員が間に合ったのは俺のお蔭という事で褒められもした。うん、いいお医者さんみたいだ。若いのに跡が残ってしまう事にすごく申し訳なさそうにしてたし。
「龍斗。大丈夫ですか?」
「…うん。跡が残るっていわれたけど…ね?」
「ああ、そうですね。そう言われてしまうと困ってしまうなあ」
苦笑いを浮かべる紅葉は俺が一段落してすぐに連絡を入れて呼んだ。大丈夫だと分かっていても心配をするという事は痛いほど訴えられたので、連絡を入れられるようになったら直ぐに入れるという事を実践した結果だ。
「それで?向こうの方はどんな感じ?」
「途中で抜けてきたから何とも言えへんけど…実はツアーの中でも紅一点だった人がおったやろ?その人も殺されたらしいんや」
「連続殺人?いや、まあ彼はまだ生きているけれど」
「そういえば龍斗が助けたっていう彼の様子は?」
「多分大丈夫だろうけど、火傷は油断できないからね。1,2週間後に急変、ってこともありうる怖いものだからあとは病院の腕の見せ所だよ」
「そうなんやね…命を奪う事の簡単さに比べたらなんて難しい事なんやろうね、命を助けるってことは」
その言葉とともに顔に陰を浮かべる紅葉。全く、その通りだよ。
「…うん。料理人として命を頂くことをしっかり胸に抱いて行かないとね。だから言うんだよ、『いただきます』ってね」
その言葉を聞いた紅葉はただ静かに俺の肩に頭を預けた。
――
「あんのくっそオヤジ。今度そないな目に遭わせよったら耳の穴に指突っ込んで奥歯カタカタ言わせたんぞ!」
ははは、捜査のために平ちゃんの気質を利用して囮にするなんて…どうやら平蔵さんの方が一枚も二枚も上手だったみたいだね。まあ絶対の安全は確保してただろうけどね。
「…それにしても堪忍なあ、龍斗。その火傷のこってまうんやろ?」
「なんで平ちゃんが謝るのさ。悪いのは犯人だし、その原因を作った被害者でもある彼だよ。それに俺だよ?常識がやけどの跡が残ると言って残ると思う?」
その言葉を俺の強がりか、励ましかと受け取ったのか平ちゃんはそれ以上はもう何も言わなかった。
「…それより!次こそは平和に大阪に来たいな?」
「…!おうよ、今度こそ任せとけ!!」
あれ?でも前回は平ちゃん、今回は俺。ってことは次は新ちゃんが怪我するのか…?ま、まさかね…?
後書き
はい、二つの事件とも龍斗はほとんど触れませんでした。一応、秀吉さんは生き残りましたが結局彼も警察行きが決まっているという…あ、新一君は前回大阪に来た時に刺されることが回避されているので怪我フラグ自体そもそもないですね。
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