名探偵と料理人
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第四十三話 ‐オリジナル回‐
前書き
今回は日常回?になります。祝・更新50回目到達!
どうしてこうなった……
番外編、オリジナルと二回続けて原作から離れていますが次回は原作のとある事件が舞台となります。
「…で、この連立方程式を解くと…うん、合ってる!」
「1337年、百年戦争が開戦…」
「ケッペンの気候区分はA、B、C、D、Eの5区分あり…」
「ファンデルワールスの状態方程式とは…」
時折聞こえる各々の独り言以外ではただただ筆記具を動かす音が聞こえてくる…そろそろ前の休憩から一時間か。
「…あーー!なんで花のJKたる園子様が休日なのにかりかりかりかり勉強しなきゃならないのよー!!」
「園子ちゃん、それ一時間前にも言うとりましたよ?」
「仕方ないじゃない。11月には全国模試あるんだから。時間がある時に勉強しとかなきゃ」
「そうそう。皆でやれば苦手な所を教え合えるしね」
今日は蘭ちゃんの家で高校生四人で勉強会を開いていた。蘭ちゃんが言った通り、全国模試があるのでその対策のためだ。蘭ちゃんは流石毛利夫妻の血を継いでいるというか文系科目が得意で、紅葉も暗記系は得意。園子ちゃんは次期鈴木財閥を引っ張っていく立場なので英才教育は施されていて、語学系、文系は得意で理系が苦手。俺は、昔取った杵柄というか物理化学生物は高校レベルなら余裕。語学系も転生特典で苦にしない。数学がもう一度やり直しているので人並みと言った所だ。理系なので選択科目は地理。まあこれはこれまで色々な国に連れて行ってもらったので料理史につながる風土記を漁ったり現地に赴いたおかげで試験用の知識を加えるだけで事足りた。
「ただいまー」
「お」
「あ、コナン君が帰ってきたみたい」
新ちゃんは少年探偵団の面子と公園でサッカーをしていたらしく、朝来たときにはすでにいなかった。お昼を取った時にも帰ってこなかったので結構な時間を遊んでいたようだ。うん、小学生を楽しんでるね。
「あれ?龍斗……にいちゃんたち来てたんだ」
「お邪魔しているよ」
「おばんどすー、コナン君」
「よーがきんちょ。いいわねえ、ガキは気楽にこんな時間まで遊べて」
「いいじゃないか、園子ちゃん。子供は遊んで何ぼだよ。ねえ、コナン君?」
「え!?あ、ああ、うん!(んにゃろめ、分かっててガキ扱いしやがって!龍斗の奴ぅ~!)」
「せやねえ、子供はのびのびしてるんが一番や」
「うぐ…」
さて、俺のはからかってるだけだけど紅葉のは本心だから新ちゃんも何も言えないみたいだ。って、今更だけど。
「やだ、コナン君が帰ってきたってことはもうお夕飯の準備しないと!」
「あ、私もそろそろ帰らなきゃ!」
「じゃあ俺達もそろそろお暇させてもらおうか」
「そやね、今日は夏さんがお夕飯作って待ってますって言うとったしね」
「食べて行ってって誘おうかと思ったんだけど、もう作ってるなら仕方ないか」
「それはまたの機会やねー」
「ごめんねー、今日はパパの知り合いの人との会食に出ないと行けなくて。次は絶対頂くから!」
「なら次の機会には腕によりをかけてお夕飯作らなきゃね!じゃあ三人とも気を付けてね」
「大丈夫や、ウチには最強のボディーガードがついてますから」
「私も近くに迎えが来てるみたいだから大丈夫よ」
「また学校でね、蘭ちゃん。それじゃあコナン君お邪魔しました」
「うん、みんなまたねー!」
俺と紅葉、園子ちゃんはビルの階段を下り、ポアロの前でそれぞれの帰路についた。
――
――――――♪♪♪~
「ん?」
あくる休日。仕事のない、家人が他にいない、珍しく完全に何もない日。俺は自室で今まで集めた各国の風習の資料を眺めていた。今回の世界大会のテーマはかみ砕いていうのなら「持ち味」だ。例えば、フランス料理を長年作っていた人でも店を構えていたシェフならコース料理。パーティ専門ならアラカルト料理。日本料理を作り続けていたなら和食。俺の父さんなら各国で料理を作ってきた経験を生かした、その国の特色を生かした「パーティ向けの料理」という感じになる。世間一般の評判で言うのなら俺も父さんの後追いになっているわけで…
だが、俺の料理の根底は「たとえどんなものでも食えるものにする」、そして目指したものは「家庭料理」だからな。もう遙か彼方の昔だがあのジダルでの経験は忘れられるようなものではない。それが「持ち味」なんだけど、現状あんまり外に出せてないからなあ。
まあそれをこの機に何とかしようかと思って審査員の出身国の情報を集めてたんだが……なんだ?携帯に電話がかかってきたが知らない番号だ。
「…もしもし」
『ハァイ、龍斗。今日お暇?』
「あれ?シャロンさん?ええ、世界大会前の情報集めもどきをしてましたけど別に急ぎではないので。どうしたんです?」
『あら、そうなの。ならよかった』
よかった?
『それじゃあ私とデートしましょ?待ち合わせは――の××ですぐ来てね?』
「え?あの、ちょっと?シャロンさん?」
『あ、彼女の事気にしてる?大丈夫、そっちもちゃんと手は打ってるから』
「え……切れた。一体どうしたんだ?」
なんだなんだ。今までこんなこと一切なかったのに。とにかく行ってみて事情を聞くしかないか……
――
俺は「顔見知りが見れば既視感を感じ、会ったこと無い人には分からない」程度の装いをしてシャロンさんに指定された場所に向かった…え?
「母さん…?」
待ち合わせ場所には母さんがいた…いや、よく見ればあれは母さんじゃないな。自然に立っているように見えるけど所々不自然な所作をしている…手を打ってるってあれかいな……しかも二人組にナンパされているし。
「なあ、いいじゃんいいじゃん?オレ達もヒマでおねーさんもヒマしてるんでしょう?なら決まり!オレら行きつけの楽しい店があるんだよ!」
「そうそう!他の女の子もいっぱいいるしぜってー楽しいぜ!あっという間に夜になっちまうくらい、時間を忘れてハイになれるんだ。な、な?はい、おひとり様ごあんなーいってね!」
「…だから。待ち合わせをしてるので」
「おー!待ち合わせの相手って女の子!?じゃあオレ達も一緒に待つよ。な?」
「もちもち!」
あー、なんだろう。どれだけ絡まれていたのか段々イラついてきてるな。変装用の記事のお蔭でまだ目立ってないが口角がひくついている…はあ、あの中に行きたくねえ。が。
「ごめんごめん。ちょっと待たせちゃったみたい?」
「ああ?」
「だれ、あんた?」
わー、なんでこうナンパ男ってワンパターンな反応なんだ…しかもこいつらの匂い…常習的に薬やってるやつかぁ…
「なになに?お兄さんが待ち合わせの相手?ダメだよー、こんな美人を待たせてちゃ。ここは早い者勝ちってことで今日は諦めてくれね?」
なんで待ち合わせ相手より初対面の奴が優先されるんだ?
「そうそう。またの機会ってことで…もうあんたの所には戻ってこないかもしれないけどねー?」
おうおう、中々危ないこと言ってくれるね。薬の匂いといいこの物言いと言いめんどくさい奴らに関わっちゃったな。うーん……うん?シャロンさん?
「もーう、たっくん!お母さんを置いてどこ行ってたの!?」
「え」
「「お、お母さん!?」」
あー、これは乗った方がいいのかな?
「全く…ちょっと目を離すとこうなるんだから。お兄さん方も流石に家族団欒の邪魔は勘弁してくれないですかね…?会うのは半年ぶりなんですよ…」
もうしわけ無さそうな顔をして、俺は鎮静作用のある香りを体から発した。若い女性をナンパしていると思えばこんな大きな子供を持った母親だったという事を知った驚愕による意識の空白に滑り込むように起きた精神の鎮火。大柄な人間が申し訳なさそうにしている表情と声。夜ならばもうちょい仕込まないと上手くいかなかっただろうけど今は昼前。これが合わされば……
「お、おう」
「しゃーないな。お袋さんを楽しませてやんな」
2人はそう言ってまた別の獲物を探し始めた。子供がいようがあの手の輩は追いすがってくるだろうが穏便に終わってよかったな。相手が…さて。
「どーいうことか教「さあ!いきましょ!」えって、ちょっと!!」
俺の腕はいつの間にかシャロンさんにつかまれ引っぱられていた。そして元々決めてあったのか、しばらく歩いた後こじゃれた雰囲気のイタリア国旗を掲げたお店に入った。
「いっらしゃいませ!お二人様ですか?」
「ええ。案内をお願い」
「それではあちらの席をどうぞ」
俺達は案内された席に座り、メニューを開く。へえ、結構おいしそう…じゃない!
「それで?事情を説明してください」
「ふふ、そんな怖い顔しないで。お母さん困っちゃうわ…」
「……とりあえずなぜ母さんに?」
「まあなんでこんなことをしたのと言われれば…色々事情はあるんだけど龍斗と一緒に遊んでみたかったってのが一番かしら。最近ストレスがたまってるのよね。でもほら。私たちって有名人じゃない?それにせっかくのデートなのにドクター新出の姿は使いたくないし。本当は貴方の彼女の大岡紅葉の姿を借りようかと思ったのだけど…」
そう言って自身の胸に手を当てるシャロンさん。
「初めてよ?胸にだけ詰め物をしなくちゃいけない変装相手なんて…まああの娘より貴方の母親の方が問題が少ないってことに気付いてこちらにしたのよ」
ふむ。とりあえずシャロンさんは嘘はついてないな。嘘をついたときの特有の生体反応はないし、ストレスを感じているって言う事も。そして母さんの姿ならもし誰かに見られても親子の買い物で誤魔化せる…か。後で父さんと母さんに説明しとかないとな。仲のいい親子なら買い物を「デート」っていったりするものなのかもしれないし。
うーむ、今までに結構なプレゼントも貰ってきたし今世で関わってきたシャロンさんにはなんら含む感情は抱いてないからな…こういう時は残っている原作知識を疎ましく感じてしまう。まあ二律背反、言っても詮無いことか。よし。
「…はあ。分かりました、分かりましたよ。今日は完全オフですし、しっかりエスコートさせていただきます」
「あら、嬉しいわ♪」
とはいっても急だからな。プランもへったくれもないし、紅葉とのデートや、蘭ちゃんたちに連れて行かれた経験を参考にしつつシャロンさんの意見を聞きながら組み立てますかね。
――
うん。あのお店の料理は中々いい感じだった。今度紅葉と来よう。
「さて、と。シャ…母さん。どこか行きたいところとかある?」
「うーん、そうね。取りあえず時間が時間だったからお昼をここで摂ること以外は決めてないわ。そもそも、余り私はここら辺の地理に詳しくないわ」
まあそうだよなあ。中身はアメリカを拠点とした大女優だし。なら、俺が知っている所を中心に回ってみるかな。
「それじゃあ俺がルート決めていいですか?」
「そうね…龍斗、私の事楽しませてくれるかしら?」
ちょっと挑発的な笑みを浮かべるシャロンさん。ほっほう?それは俺への宣戦布告と受け取った。
「精一杯頑張ります。それじゃあ行きましょうか?」
「ええ」
イタリアンのお店を出て、俺はこの場所から一番近い雑貨屋に向かった。
「へえ。色々おいてあるのね。雰囲気も木目のものを中心にシックな物が多いわ」
「母さんもそろそろ生活に慣れてきている頃だろうし、生活必需品だけでなくて生活を彩る小物を買ってもいいんじゃないかなってね。どう?趣味に合いそう?」
「そうね、私も部屋に置くのなら明るい色ばかりの物よりはこういう物の方が好みだわ」
「よかった。こういうのはどう?」
「あら、木製のお皿?これは…」
彼女が気に入りそうなものが目に入ればそれを手に取り意見を聞き、またとあるインテリアの最適な配置場所はどこかなどを話しながら店の中を回った。途中別行動を取った先に彼女に気付かれないように俺はとあるものを購入した。
次に向かったのは様々な服飾を扱った店が入っている大きなビルだ。和服洋服はては民族衣装まで取り扱っている店が入っている。価格帯も、子供の小遣いを貯めれば買える物からカードで支払わなければいけないほど高額なものと幅が広い。ここに来たときは俺と紅葉はここでお互いの服を選び合ったり、彼女のネイルに施す柄へと参考にするためにウィンドウショッピングをしたりしている。意外と民族衣装でいい刺繍が施されたりしているんだよな…んでもって。彼女がその中でも行きたいと言ったのはランジェリーショップ。まあ照れはするがこういうのは初めてではない。ええ、意趣返しも込めて純白のセットを勧めさせてもらいましたよ。子供っぽいのも捨てがたがったけどね…母さんの顔した相手に何してんだ俺。
「…なんで私のサイズが分かるのかしら?」
俺が手渡したものはシャロンさん本来のサイズぴったりの物だった。いや、母さんのサイズとか知らんし知りたくもないし。まあ、分かったのは…長年の経験で相手の肉体の情報を正確に見抜く術を持っているからかな。
――
夕食は俺のチョイスのお店で済ませ、俺達はヒトの少なくなったビル街のほうへ進んでいた。
「ねえ、龍斗?ここに何があるの?」
「まあまあ…っと。ついた」
「??」
俺が着いたと言ったのは何の変哲もない道の真ん中。さて。
「シャロンさん、目をつむって貰えます?」
「??ええ。」
目をつむったシャロンさんに近づき、彼女にノッキングを施した。これで彼女に空白の時間が出来た。さあ、後は俺達の事を熱心に見ていたファンの気が…それた!
その一瞬で俺はシャロンさんを抱きしめて地を蹴った。
「シャロンさん、目を開けてください」
「え?ええ……っ!!!」
目的の場所についた俺は彼女をビルの縁に立たせてノッキングを解いた。彼女的にはほんの数秒目を閉じていただけだが実際は5分ほど経っている。
「こ、れはすごいわね。綺麗…」
「でしょう?俺のお気に入りなんですよ、ココ」
ここはとあるビルの屋上だ。この辺りで唯一200mを超えていてあたりの風景を一望できる。ネオンや車のライトの川、街灯の光が素晴らしい風景を作り出している。
「…いいところに連れてきてくれてありがとう、龍斗。どうやってあの一瞬でここに連れてきたのかは気になるところだけど…」
「あはは。それは企業秘密という事で。帰りもです」
ココは立ち入り禁止場所だからね。そもそもこのビル自体に何ら関係を持たない俺は入ることもできないし。俺が立ち止った場所は街の至る所に設置されている監視カメラの死角になっている場所なのだ。って、なんで変装を?
「…シャロンさん?」
「…ふう。そういえばこの顔で貴女と話すのは初めての事ねタツト。ねえ、せっかくだから一緒に写真を撮らない?貴方も無粋な変装を取って」
…うーん。まあ、いいか。
「いいですよ…はい。カメラは…」
「私が持ってきているわ。はい」
そう言って手渡されたのは見たこともないデジカメだった。俺はそれを片手に持ち、彼女に寄り添った。
「それじゃあ撮りますよ?3,2,1…」
――chu!カシャ!
…chu?
「ちょ、ちょっとシャロンさん?」
「あらいいじゃない?頬へのキスなんて親愛の証よ?」
ああ、もう!びっくりした!!って、写真にばっちり残ってるし!
「もう、これを消して撮り直しま…って!!」
「あら、いいじゃない!私この写真気に行ったわ。A・RI・GA・TO、龍斗♪」
ああ、これはもう取り返せないか…
「あーもう分かりました分かりました。あまり人目に触れないようにしてくださいよ?」
「分かっているわ」
「ああ、そうだ…はいどうぞ」
「??これは?」
「最初のお店で買った手のひらサイズの植木鉢に時間が来たら自動的に水を差してくれる自動水やり機、それとスルポゼーフルールの種です。ストレスがたまっているって言ってたのでこの花の香りは癒しの効果があるので寝る前に嗅いでください。それと、水やりは一日一回100mlを欠かさずに。まあ一日開けてしまう事もあるかもしれないので無人でも水をやれる器具をセットにしました」
「…まあ、こんなものを貰えるなんてね。今日は無理やりにでもあなたを誘ってよかったわ」
「そう言ってもらえて俺も嬉しいですよ」
「ねえ龍斗。もし私が困ったことになったらまた相談や待ち合わせの場所であったいざこざみたいなことがあったら私の事守ってくれる?」
「そう、ですね。自分から危険に顔を突っ込まないのなら。もし、そういうことをしてなら…一回だけ、守ってあげますよ」
「…ふふふ。嬉しいわ」
そう言って夜景の方に体を向けたシャロンさん。表情を見る事は出来ないが、俺の答えは彼女にとってどういう意味があったのか今の俺には分からなかった。
――
夜景を満足するまで見て、また目をつむって貰って(ノッキングをして)今度は別のビルへ裏のチャンネルを通って出て、そこから路地裏に降りた。
「ねえ?ここはどこ?」
「さあどこでしょうね?」
「…なんだか、最後の最後でとても不思議な体験ができたわ」
そんな、いつもとは違う一日は過ぎて行った―――
後書き
はい、まさかのヒロインより先に別キャラとのデート回でした。主人公的にはただのお出かけなんですけどね。
ベルモットのストレスの原因は組織の指令を無視することによるせっつかれやFBIの監視のせいですね。
蘭と園子って結構女の子女の子してますよね。なのでそれに付き合っていた龍斗(新一はたまに)にはソコソコのお店の知識がありました。
オリジナルのトリコ素材
・スルポゼーフルール(フランス語で休息する花)
癒しの香りを発する花。日々の疲れをいやしてくれる。疲れている人が近くにいるとその人の疲れの種類を感じ取り、その解消に最適な香りを作り出す。寝る前にその香りを嗅ぐと次の日にはすっかり疲れがとれている。
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