名探偵と料理人
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番外編2 金田一少年の事件簿:天草財宝伝説殺人事件
前書き
こちらのお話は番外編第二弾です。
二回連続で本編が進みまなくて申し訳ありません。
もう一人の死神との邂逅です。
「おはよう、父さん母さん。そして、改めて明けましておめでとう」
「おはよう、たっくん。明けましておめでとう!」
「おはよう龍斗。明けましておめでとう」
新しい年を迎えた。今日ばっかりはいつも飛び回っている両親も帰ってきていた。逆に紅葉達は京都の方へと帰っていていない。年越しそばを食べてから日付が変わるまで起きていたのですでに新年のあいさつをしていたがまあ、こういうのは言っても問題ないだろう。
ちなみに夏さんは一昨日から旅行に出ていた。一緒に新年を迎えましょうと言ったのだが「家族水入らずで過ごしてください」と、気を遣わせてしまったようだ。
「それじゃあお節を食べようか」
「その後は初詣に行くわよ~」
そう言って父さんが食卓に持ってきたのは立派なお重に入ったお節料理。俺も手伝うと言ったのだが今回は遠慮してと言われたので渋々不参加だ……うん美味しい。
「そういえば龍斗。もう大会まで十日を切ったがどうだい?調整の方は」
「ん?そっちの方は全然大丈夫。4年前みたいにいきなり大会に出るってわけでもないし。次郎吉おじさんが張り切って滞在先を確保してくれたしね」
「そういえば将来的にはどうするのよ?紅葉ちゃんの所に婿入りするのか彼女が緋勇家に嫁入りするのかはまだ何も聞いてないけど、今のマネジメントは鈴木財閥にお世話になっているんでしょう?大岡家も結構な家柄よ?不義理は出来ないわ」
昆布巻きをつまみながら母さんは言う。
今の俺は個人の依頼を鈴木財閥傘下の会社を通してもらっている。というのも俺が有名になってから依頼の処理が中学生活に支障が出るくらいに追いつかなくなって、困っていた時期があった。何をするにしても中学生という身分が引っかかったのだ。愚痴ったことは無かったがそこは10年来の幼馴染み、困っていることにすぐに気づいたそうだ。そして俺の状況をその中でも一番正確に知っていた園子ちゃんが家族との団欒の際にぽろっとこぼしてしまったそうなのだ。
更に重なってそこにいたのは相談役となっていた次郎吉おじさん。とんとん拍子で依頼の選別、法律関係、依頼料などなど雑事になりうることを全て請け負ってくれる会社を作ってしまったのだ。俺がその話を聞いたのはすでに人員を配備し、会社を立てた後だったので恐縮したが甘えることにした。前世で色々経験しているといえ、その時の自分にはその方面ではうまく解決する力がなかったのだから。
「うーん。どうなるかな?でもどういう形になるにしろ、次郎吉おじさんは変わらず口出ししてくると思うけどね」
「あら?そういえば、貴方が今の形に落ち着いた話って詳しくは聞いたこと無かったわね」
「そういえばそうだな。そこら辺はどうなんだ龍斗?」
「あー、うん…」
俺はさっき思い出していた中学時代の話に加えて、次郎吉おじさんの真意を伝えた。その真意とはなんら難しい事ではなく、単純に依頼の内容を知っていればそこに行くことで俺の料理が食べられる。という事だった。今は相談役とは言え、長年財閥の屋台骨だった人だ。例え乱入しても依頼主のホストの人でノーと言える人は少ない。というか、ほとんどいないだろう。俺に「次の○○のパーティはワシも行くからのぅ!」と直接言ってきたこともあるし。それを聞いた父さんは苦笑いしながら、
「それは……あの人らしいというかなんというか。これは俺や葵にはなかったことだな」
「そうね…これはたっくんの、たっくんだけの縁の力ね。私達が最初の頃は緋勇家の力をお借りしたりしてたものね。若いころは苦労したわ」
「へぇ、そうなんだ。今の二人の見ていると全然想像つかないな」
今では引く手あまたの二人にもそう言う時期があったんだな。まあ見た目が20代の二人が若い頃って言っても全然違和感しかわかないけどね。
――
「あ、そうそう。龍斗に来ていた年賀状は仕分けしておいたぞ。ほら」
あ、そういえば元旦の風物詩と言えばそれがあったな。父さんから手渡されたそれは結構な量だった。お節を食べ終わり、家族でまったり去年あったことや他愛のない話をコタツで駅伝を流しながら語った。話の内容は尽きない。離れている時間の方が多かったし去年は何より紅葉が来たからね…あ、あとは良く殺人事件とかに巻き込まれるようになった、ね。そんな話をしている時にふと思い出したように呟いて渡されたのが年賀状だった。
俺はその年賀状に目を通した…うんうん、幼馴染みズとその両親からに中学の時の知人、ああこれは依頼人の中でも個人的に仲良くなった人だな…お。雪影村の若夫婦(まあ、まだ片方が結婚できない年齢じゃないけど)からも来てるな。うん、家族三人で健やかに過ごしているようだ。しかしまさかこの2人が彼の知り合いとはね…
「あら、可愛らしい赤ちゃんね。でも、ちょっと若すぎない?どういう知り合い?」
年賀状に目を通していた俺が彼らの年賀状でめくる手を止めたので父さんといちゃついていた母さんが覗いてきた。
「えーっと。あれだよ。とある港町に夜釣りに行ったら奥さんの方が、マタニティーブルーで自殺しそうな時に出会って。その悩みを解決してあげたんだ」
「なにそれ!?結構大変なことじゃないの!!」
父さんも言葉にしていないが驚いてこっちを見ている。目線で先を話せと言っているので事の顛末を語った…一個だけ。兄妹の判定に「匂い」を使ったこと以外は。
人にはそれぞれ体臭がある。そこから導き出せるものに科学では証明できない確かな遺伝、血のつながりがあるのだ。俺やトリコのようなあの世界でさえ異常と言える嗅覚の鋭さはそれを可能にしていた。多分、八王の1人だったギネスも分かるだろう。と言っても俺の精度は精々、6親等。それ以上は薄くなりすぎて感じる事は出来ない。最盛期のトリコなら10親等は軽く超えられるだろうから何とも言えないな。
まあ、島津夫婦にそんなこと言えるはずもなく、二人が姉妹でないことを確信していたので島津君の親をたたき起こして事の顛末を話して説得してもらったというわけだ。
「そっか…じゃあ、たっくんは母子二人の命を救ったことになるのね。それによく見て」
「母さん、頭撫でないでくれ。恥ずかしい…て。おいおいマジか」
俺の頭を撫でながら母さんは葉書のとある場所を指した。そこに書いてあったのは…
「龍斗(りゅうと)。読み方は違うけどあなたがある意味で名付け親よ」
前来た時の葉書は生まれたばかりで男の子が生まれた、とだけあった。そうか、俺の名前を……
「……それじゃあ、この子に恥じない生き方をしないといけないな」
「そうね」
「そうだな」
俺は中断していた年賀状の確認を続けた。年賀状から俺が去年どんな体験したかを聞けることが分かった両親も一緒に年賀状を見るようになった。ちょいちょい質問してくる両親に回答しながらまったり見ていくと、ああこの2人か。
「これはまた接点の無さそうな人と知り合いだね」
「そうね、年の頃はアラサ―ってところかしら?婚約報告って…でも小さな女の子も一緒よ?」
ああ、この2人一緒になったのか。何とも感慨深いな。何しろ彼らと出会ったのはもう一人の名探偵と出会った時なのだから……
「んー、ちょっと海風が強いけどいい天気だ。お、結構活きのいい魚もいるな。これは楽しみだ」
俺は久しぶりに一人で地方の食材&料理を堪能するために旅を来ていた。今いるのは熊本県天草市の本渡港に向かっているフェリーのデッキだ。おや?何やら団体さんがデッキに…ふむふむ。「伝説の天草財宝発掘同行ルポ?」へえ。面白そうなことやってるなあ。
まあ、謎かけの方はからっきしだし俺が参加すると貴金属の匂いで掘ることになるんだけども……っと。おおー、ありゃあ「いら」か?是非とも味わいたい…いや、今釣るか?いやでも…
「あのー…」
「ん?」
俺に話しかける声に振り返ると、団体さんからのメンバーの一人の…同世代だな。女の子が話しかけてきた。
「どうかしました?」
「あ、いえ。実は…」
彼女の話によると、どうやら団体さんのメンバーの自己紹介をしていたところ一人足らないことに主催者が気づいたそうだ。そこでデッキで一人海を見ていた俺に気付き話しかけてきたという事らしい。
「残念だけど、俺は参加者じゃないよ。食道楽の一般人だ」
「そ、そうだったんですか。すみませんいきなり話しかけてしまって…」
「いやいや。実は一人旅でね。人と話すのは嫌いじゃないし、もうしばらくはな…さないかって誘おうと思ったけど」
「??」
「後ろで君の彼氏がすごい目で見てきているから遠慮しようかな?」
「え?」
そう、彼女が俺に話しかけてきたすぐ後から分かりやすくこっちに意識を向ける男子高校生がいたのだ。俺の言葉に後ろを見て、
「も、もうはじめちゃんったら!初対面の人に失礼でしょ!え、えっとご、ごめんなさい!」
「大丈夫。彼氏は君の事大好きみたいだからね」
「か、彼氏じゃないです!」
俺の言葉に真っ赤になって否定をした彼女は「はじめちゃん」の方に歩いて行った。少し会話を盗み聞いたところ、長髪を適当に束ねた男の子は俺の風貌から怪しい男に絡んだことから警戒していたが俺の「君の彼氏」発言辺りから気をよくしたらしい。怪しい風貌って…そりゃあ、身バレ対策に帽子にマスク姿だけどさあ…
そんなこんなあって若干気落ちしているとフェリーは本渡港についた。本渡港に降り立った俺はなんとはなしに団体さんを目で追っていたが彼らはマイクロバスに乗ってどこかへ行ってしまった。
まあいいや。縁があればまた会えるだろう。さあて、天草名物の地鶏に魚介類に野菜に和牛!楽しみだ!!
――
「…ったく、なんなんだあのガサツな奴らは!っと失礼」
「あ、いえ。おかまいなく」
天草の名産を堪能した俺は宿泊先の温泉にやってきていた。なんでもそれなりな露天風呂があるらしい。
脱衣所にはフェリーで出会った団体さんの1人がぶちぶち文句を言いながら着替えている所だった。まあ向こうは俺の事なんか知っちゃあいないだろうけどね。
服を手早く脱いだ俺は、内湯で体を洗い露天風呂に向かった。
「おやま」
露天風呂にはフェリー参加者の方々が先に浸かっていた。へえ、案内人っぽい子も一緒か。
「(ちょっといつきさん。なんかすっげえムキムキの人が来たんだけど)」
「(みてえだな。ありゃあ、ちょっと普通の鍛え方じゃ身につかねえぞ。それに、だ)」
「「((でかい…))」」
小声で何やら話している参加者Aさんと男子高校生。いやまあ聞こえているんだけどね。
「こんばんは。財宝は見つかりました?」
「へ?な、なんで財宝の事知っとんのや?」
「いや、フェリーのデッキ話してたのを聞いていたんですよ」
「え?じゃ、じゃああんたあの時の怪しい男!?」
「怪しいって…ま、まあそう言われればそうなんだけどね」
「ん?ちょ、ちょっと待て。お前さん、よく見たら見たことある顔だぞ!?なあ和田さん!!?」
「え?…あああああ!ひ、緋勇龍斗!?」
まあ、風呂の中まで変装はしてないからね。
――
取りあえず興奮した大人二人を落ち着かせて、お互いの自己紹介をした。関西弁の小太りの男性が週刊ケンタイで編集をしているという「和田守男」さん。そして俺の正体に最初に気付いた男性がフリーライターの「いつき陽介」さん。そしてフェリーがついた港で彼らを出迎えいていた美少年が「天堂四郎」くん。ここまではいい。ここまでは、ね。しかしまさか彼もいるなんて思いもしなかったよ。
「な、なんだよ。俺の方をじっと見て…っは!?もしかしてそっちの気が!?」
そう言って体をくねらせて…隣に居たいつきさんにどつかれて風呂の湯に沈んだゲジ眉の長髪をざんばらに束ねた少年…
「金田一一……金田一耕助の孫、そして」
「金田一少年の事件簿」の主人公。新ちゃんと並んで「死神」と言われていた少年…って。なんでこいつまでいるんだ!?あれ?俺、確かにコナンの世界って言ったよな?…いや、まてよ?なーんか記憶の片隅に他出版社の垣根を越えてコラボをしていたような……まさか、まさか「名探偵コナン」とコラボのしたことある作品も内包している世界ってことなのか…?俺、他に何かとコラボしたのなんかルパンくらいしか知らないぞ…?そーいやニュースで「ルパン三世」って名前出てたな…なんで気づかなかったんだ俺。
俺が悶々と考えていると俺のつぶやきを拾ったのか、金田一少年が話しかけてきた。
「へえ、俺の事知ってるんだ?」
「へ!?あ、ああ。まあな」
「へっへー。どうよ、いつきさん!初対面の知られているって俺って結構有名人なんじゃね!?」
「ばっか、金田一!おめえなんかよりこっちの兄ちゃんの方が全然有名だぞ!?というか、なんでお前は知らねえんだよ!?緋勇龍斗だぞ?なあ?四郎君」
「え、ええ。四年前の世界大会の時は自分と同い年の日本人の男の子が優勝したってことで僕もよく覚えています。それに今年も出るってことで話題になっていますし」
「そ・の、四郎君や彼と同い年のお前が何で知らねえんだよ!?」
「痛い、痛いっていつきさん!」
あーあー、綺麗にヘッドロックが決まってらっしゃる。はあ、でもどうするかな。天草財宝発掘なんかに金田一君が参加してるなんてこれはもう絶対に起こるよな…湯につかっている人の雰囲気だとまだ何か起きたって感じはしないし。さーってどうすっかね…
――
「おー、いてて…いつきさん手加減しねえんだもの。それで?その有名人の緋勇は天草に何しに来たんだ?」
いつきさんのアームロックから逃れた金田一君は俺にそう聞いて来た。
「俺?俺は天草の農畜産物や海産物を食べにかな。東京だと見ないモノとかいっぱいあるし、今度の世界大会は料理部門で出場するから何か参考に出来るかな、と。そういう金田一君や天堂君はなんで宝探しなんか?和田さんやいつきさんは取材ってことでわかるけど」
「俺の事は一でいいぞ。俺はいつきさんに誘われたからかな。天草四郎が残した暗号を解いてくれってね」
「ボクも四郎でいいですよ。ボクは父の代理ですよ。足を怪我してしまって案内できなくなってしまったんです」
「なるほどね。あ、俺も龍斗でいいよ。それにしても財宝かぁ……」
「お?お?龍斗も財宝に興味があるのか?それなら一緒に探すか?ねえ、いつきさんいいだろ?」
「え?」
「おおー!有名人の緋勇龍斗が同行したルポか!!いつもの購買者以外もターゲットに出来そうだな!どうよ、和田ちゃん!」
「そら盛り上がりまんな!わてはかまへんよ…あ、でも宿泊先とかの問題もあるさかい龍斗はんには一時別行動してもらなあかん事になるんやけど…」
なんか妙な方向に話が流れてしまったな…まあ、いいか。ちょっと気になるし。
「そちらがいいなら是非とも。もし決まっていないのなら簡単な料理を振る舞いますよ」
「おお!そりゃあいい!!噂に聞く緋勇龍斗の料理か!!今回のルポはついてるな!」
「ほんまやな、いつきはん!!緋勇はんはむっきむきやし、頼りにしてよさそうや!!」
「そういえば、なんで天草の財宝伝説を題材にしたんです?お金に困ってるとか?」
「!!」
ん?和田さんの心音が跳ねた?それに微量な殺気?おいおい、いくら風呂場の狭い距離だからって今は能力開放してないぞ?いやまあ、この「緋勇」の身体のスペックなら素でも出来るけどさ……こりゃきな臭いな…
「いや龍斗。そりゃあオメーも高校生なら万年金欠のようなもんだろ?お金欲しいじゃん?」
「あ、いや。俺はもう自分で稼いでるし。管理は信頼できる人に任せているから自分じゃそう簡単に使えないけどね」
「へえ。そういえば料理人なんだってな。いくらぐらい貯金あるんだ?」
「えっと…高2に上がった時で…3億?」
出せないもので言えばトリコ世界の「黄金の沼」の砂金から精製した黄金がたんまりあるけどね。コナンで出せば脱税ってなっちゃうんだろうけど。
「「「ぶーー!」」」「!?」
あ、いつきさんと和田さんと一が吹いた。
「な、な、なな、んだとーー!?」
「いや、なんか国内だとそうでもないんだけどな。国外で呼ばれたりすると俺を雇うのにいくらいくら使った、みたいな金持ちの見栄?みたいなのがあったりするらしくて結構な額がもらえるんだよ。王族との専属契約とかを数億で持ちかけられたりしたこともあるしな」
「「「「…………」」」」
あ、唖然としてる。でも前世に比べたら本当にコツコツと少しずつ積み重ねて来たものだからなあ。前世じゃ「包丁一振り一億円」と呼ばれる人が居たり、俺も開いていた店の売り上げは「食材調達:俺」「調理:俺」でほぼ丸々利益だったし。途中からは普通に国が買える財力はあったかな…うん?一がものすごい胡散臭い、もとい疑惑の目を向けてきてるな。
俺は露天風呂の外縁に植えてある樹の葉っぱを二枚むしった。一枚には蘇生包丁の技術を応用した仕込みを行い、もう一枚はそのままだ。そういや前世の子供の頃に雑草を食べていた時に無意識にこれやってたなあ。あれも転生特典の「料理の才能とセンス」のおかげだな。今のこれはあの頃の比じゃないけどね。
「はい、これ」
「っ?なんだこれ」
「まあまあ食べてみてよ」
そう言われて、一は何もしていない葉を食べた。「まっず!?」と声を上げ、俺の方に避難の目を向けたが俺が無言でもう一枚食べるように促した。一は先ほど味わった青臭さが嫌なのか、恐る恐るほんの少しかじり…そして貪るように全てを口に入れた。
「お、おい金田一?」
「…うめえ、うめえ!なんだこれ!?こんなの俺生まれて初めて食ったぞ。今まで食ったもんの中で一番だ。なんでだ?ただの葉っぱなのに!?」
「まあそこは、ね。俺の腕の見せ所ってわけさ。そこらにあるものでも今の一が驚いているような調理を施す技術。これが俺の武器さ。一、俺の事を信じてなったろ?そういう時は口で言うより口に聴かせた方がはやいんだ」
「…いや、参った。これは普通に食材を使った料理は大金払っても食いたくなるわ」
「おいおいおい。ケチな金田一がそんなこと言うなんてよ。なんだよ、そんなにうまかったのかよ?」
「そら、もう!なんというかな、ただの葉っぱがだな…」
――
「はは、は。これは明日の料理が楽しみだぜ」
興奮した初めの言い分に少し疲れたようないつきさん。確かにガンガン来てたし、なんか申し訳ない。
「それはそうといつきさん、和田さん。なんで「天草財宝」なんですか?メジャーなのは徳川の埋蔵金とか秀吉の埋蔵金とかですよね?」
俺は今回のルポについて疑問に思っていたことを主催者っぽい二人にぶつけた。
「そう言えば金田一には言ったが財宝ルポは今回で二回目なんだ。一年前に立山の佐々成政の財宝を、今回参加している高校生組以外の面子で探したんだ。なんでこの二つかってーっと…」
「そらわてが説明しますがな。実はわてが題材にしとる財宝伝説は二つやなくて「三つ」なんや」
「三つ?」
「へえ、それは初耳だな」
「…」
四郎君は黙っているけど…知っているのかな?
「その三ついうのが「秋名山の由井正雪の軍資金」「佐々成政の立山財宝」そして「天草財宝」なんや!実はこの三つは蔵元一族っちゅうトレジャーハンターの一族が代々探しとる財宝でな。わてもそれにならったっちゅう訳や」
「そう言えば、四郎君のお父様はトレジャーハンターでその蔵元一族の1人、蔵元清正の孫弟子だったって?」
「…ええまあ。だからこのルポに同行を決めたそうです。でも昔の話ですよ」
「はあ、そうだったんだ」
「ただ、その三つのうちの1つ「由井正雪の軍資金」は蔵元清正ハンが見つけて結果時価20億の財を得たって話や。そやからわてらもその財宝の嗅覚にあやかろうとおもて残りの二つを焦点に当てたってわけや。有象無象の埋蔵金伝説より実績ある人が狙ってたものの方が信憑性がありまっしゃろ?」
なるほどね。確かに先人の知恵にあやかるのは言い手だ。四郎君は父親から聞いていたから知ってたのか…それにしても。
「蔵元…蔵元ってあの?」
「お?そか、緋勇ハンは上流階級に引っぱりだこだからそこに引っかかるんやな。そうや、蔵元清正の20億はその息子蔵元醍醐に全て継がれ、それを元に蔵元コンツェルンを創ったんや」
なーる。あの蔵元醍醐氏は蔵元一族の出身だったってわけか。
「はー、蔵元社長はそういう一族出身だったってわけだったんですね…でもここだけの話、蔵元一族の方には経営のほうの才能は余りなかったんでしょうね…今後はあそこも大変でしょうね」
今は確か脳出血で意識不明の重体で生死の境をさまよっているはずだ…それだけでなく数年前に関わったパーティで聞いた話によれば…
「ひ、緋勇ハン?どういうことや、今後も大変ってどういうことや!?」
「え、ちょちょっと…」
「どうしたんだよ和田ちゃん!落ち着けって!!」
俺の言葉に何を思ったのか、和田さんが猛然と詰め寄ってきた。お、俺には裸のおっさんのに詰め寄られて喜ぶ趣味はない!!それにしてもこの反応、やっぱり和田さん…
和田さんを何とか落ち着かせて、俺は話をすることにした。
「あれは…二年前でしたか、パーティで蔵元社長と邂逅したことがありまして。その時は別に何ともなかったのですがパーティに参加した別の方に聞いた話によると蔵元コンツェルンにはすでにその当時に1100億の負債を抱えていたそうなんですよ。パーティに参加したのもその負債を何とかするために他の資産家の方との渡りをつけるためだったとか。結局上手くいったという話も聞きませんし、二年前より負債が膨れ上がっている可能性が高い…和田さん?」
え、え。なんで泣き始める!?
「そ、そないな話が…嘘や、そんなん嘘に決まっている!!」
「和田ちゃんよぅ、緋勇君がそんな嘘つく必要ねえじゃねえか。多分、そう言った裏話はオレ達マスコミ筋より金の動きに敏感な資産家の方が信憑性あるだろうし。つうか和田ちゃんには蔵元コンツェルンなんて何の関係もねえじゃねえか」
「そ、そうだよ和田さん!和田さんと蔵元コンツェルンなんて何の関係もないだろ?」
「わては…わてには……そ、そや!緋勇ハンさっき貯金がたんまりある言うとったな!頼んます、頼んます、わてに一億貸してくれ…!!頼んます、頼んます!」
「お、おい!本当にどうしちまったんだよ和田さん!!」
「……和田さん、事情をまず説明してください。そのお金に困っていること…そしてその事に殺意が込められていたことを」
「!?」
「お、おいそりゃどういうこった龍斗。殺意って…」
「俺、感覚が鋭くてね。一瞬だけ漏れた和田さんの殺気…それは俺が「金に困っているのか」という言葉に対してだった…説明してもらえますか?」
「は、はは。こら参った。殺気なんてほんまにあるんかいな…いや、あるんやろうな……」
そして和田さんは語った。蔵元醍醐には五人の子供がいたこと。そしてその五人というのがルポに参加している「中田絹代」「赤峰藤子」「赤門秀明」「最上葉月」そして「和田明絵」。二年前に亡くなった和田さんの奥さんだと言う。
「そ、そんなバカな!」
「ど、どうしたんだよいつきさん」
「い、いやよ。その最上葉月の親は平凡なサラリーマンだし、葉月本人からだってそんな話一度だって聞いたことねえよ!」
「それはな、いつきはん…蔵元醍醐の出生が原因なんや…おかしいと思わへんか?昔の人間やのに蔵元醍醐が蔵元清正の遺産を一人で全て相続したって話…」
「そ、そりゃあ気にはなるけどよ…」
「醍醐にはな、他にも兄弟がおったんや。けども、清正の遺産に目がくらんだ兄弟はお互いに殺し合って全員が死んだんや。その事が醍醐にとってトラウマやったんやろな。自身の子供たちも同じ目に遭うて欲しくないってことでそれぞれの子供のいない家庭に生涯の援助も合わせて養子に出したっちゅうわけや」
「な、なるほどな」
「せやけど、蔵元一族に生まれたからには一族の悲願である三財宝のうちの残り二つ、「佐々成政の立山財宝」そして「天草財宝」を追い求めてもらわなあかんという事で幼いころから財宝を追い求めるように仕向けてほしいと、それが里親を引き受ける条件やったと明絵ハンの両親がいうとりました…」
「…そう言えば葉月も言ってたっけ。立山財宝や天草財宝は私の小さいころからの夢だ、って」
ふーむ、なるほど、今回集まった面子にはそんな裏があったのか。それでも。
「なんで金に困ってるんだ?今回の集まった、いや和田さんが集めた人達の共通点は分かったけど今の話じゃあ何の関係もないんじゃないか?」
そう、一の言う通り今の話には和田さんがお金に困っているという事に全く関わっていないのだ。
「明絵ハンとわての間には一人子供がおりまんねん。朋美っちゅう親のひいき目なしにしても可愛い娘や。その子がな、心臓と肺の病気でもう半年か一年の命やっちゅう話なんや」
「な!」「何だと!?」
「治療法がないわけやないんや。ただ、それができるんのがアメリカの偉い先生で治療費が最低でも8000万はかかるらしいんや。わてもかき集めたんやけど2700万が限界やった…しかも」
そうして続けた内容は…わらにもすがりたい彼には残酷な話だった。なんでも醍醐氏は生前に遺書を認めていて、その内容に「遺産相続人の特権は5人の子供本人に限定する。それ以外の者にはたとえ配偶者・子供であれ何人たりとも相続の権利を持たない」とあったそうだ。今意識不明の醍醐氏が死ねば(まあ俺の話で彼には財産なんて一銭もないだろうことが分かっただろうけど)普通なら孫の朋美ちゃんにも遺産相続権が発生しそれで治療できるかもだったが、遺書のせいでその可能性が消えた。そも、意識が戻れば直談判して治療費を出してもらえたかもしれない。全ての可能性が朋美ちゃんの「死」を決定し向けている中、和田さんの中で目覚めてはいけないものが目覚めてしまった。―他の実子を亡き者にすれば、遺書がどうであれ朋美ちゃんに全ての遺産は相続される―と。
「じゃ、じゃあ和田ちゃんもしかして…!て、てめえ。葉月を殺そうとしてたのかよ!!」
「わー、いつきさん!落ち着いて落ち着いてくれ!」
「いつきさん、冷静になって下さい!」
いつきさんにとって葉月さんは特別な存在なのかな?激高して和田さんに詰め寄るいつきさんを俺と一はなんとかなだめた。
「…はあ。和田ちゃんよぉ、俺も血のつながりはねえが自分の娘のように可愛いがっている子を養ってる。その子も病気にかかって命に係わる手術をしたこともあった。ましてやあんた自分の娘だもんな…でもよう。その選択肢はとっちゃならねえよ…」
「…ま、今回は龍斗のファインプレーってことだ。いつきさん、そんなになるくらいなのに葉月さんとは今日仲が悪かった見たいだけど?」
「あ、あれは、だな。ちょっとしたことがあってな…いや、もしかしたら緋勇君が居なきゃ和田ちゃんが凶行に走ってたんだ。Ifの話だが、ゾッとする話だった。…俺も素直になるか」
最後のセリフは消え入るような声だったので聞こえたのは俺だけだろう。
「…頼りにしてた醍醐の遺産はのうなってしもた…緋勇ハン。頼みます…元々なかった遺産の事を教えてくれたのは緋勇ハンや。それに蓄えも十分にある…お願いや、一生かかっても返します。せやからわてに金を…朋美を助けてください……!!」
そう言って露天風呂にもかかわらず土下座をする和田さん…肺と心臓か。俺が治す、という事もできるが…
「…龍斗?」
「緋勇ハン?」
「緋勇君?」
無言で立ちあがった俺を訝しる皆…俺はあえてそれを無視し、能力を開放した……鉄に混じって…これは金…か。
「和田さん…さっきも言ったように俺に自由に使える金はそう多くはありません「で、でも!」ですが!ここには皆さん何をしに来たんです?」
その言葉に皆は顔を見合わせた。
「「天草財宝」の探索、だろ?でもよう、あるかどうかわからないものにすがるってのは和田さんには酷なんじゃないか、龍斗?」
「そ、そうだぞ緋勇君。流石にそりゃあ…」
「いいや、あります。それにココに名探偵金田一耕助の孫がいるんです。もし、彼が財宝が見つからなければその時は貸しましょう。でも、」
「できる、だろう?一?」
「!!ああ、やってやろうじゃないか!名探偵と言われたじっちゃんの名に懸けて!」
「…ということです。それから他のメンバーにも事情を説明しましょう。自分たちの姪を助けるためと言えば、そして蔵元一族の骨肉の争いの呪いに抗うために助け合うと伝えれば協力してくれる人もいるはずですよ。彼らの親に連絡を取ればすぐにわかる事実ですしね」
「わ、わかった。緋勇ハンがそう言うなら…」
さーて、謎解きだと俺は門外漢だがどうにかしてあの場所につながるようなヒントを出さねえとな…
――
「今回の事はアリガトな、龍斗。お前に会っていなければ和田さんは罪を犯していたよ。
そう言えば「緋勇龍斗」って名前。俺もどっかで聞いた名前だなと思ってたんだが今思い出したよ…春菜の事、助けてくれてありがとう」
彼によるとどうやら雪影村で出会ったあの若夫婦とは中一の一時期、彼が雪影村に住んでいた際の友人同士だったらしい。その頃に埋めたタイムカプセルを五年ぶりに掘るという事でつい先日雪影村に出向き、俺の事を聞いたそうだ…そっか、じゃああそこで止めなかったらもしかしたら…
そうそう、財宝に関しては一部を発見することができた。事情を説明した所、最上さんは見つける事に情熱を燃やしていたのでそれを朋美ちゃんのために使う事に快諾してくれた。いつきさんが嬉しそうに話しかけて葉月さんが頬を赤らめ笑みを浮かべていた。あの様子だと葉月さんもいつきさんの事を…他にもトレジャーハンターの中田さんは難色を示していたが俺達が先に見つけられたのなら、という条件の元了承してくれた。赤門さんは完全拒否。結局、途中から別行動をしていたので後は知らん。赤峰さんはカメラマンという事で発見の瞬間を撮り、余ったお宝のいくばくかを貰えるのならということで了承を得た。もう一人、蔵元と全く関係ない美術商の矢木沢さんはそのお宝を捌くルートを担う事による利益と、競売の一割を貰うことを条件に譲ってもらえることに。お宝を出品するという事だけでも美術商界隈でお金で買えない価値があるそうだ…よく分からないが。
高校生組はまあそんな大金を得ても…という感じだった。俺?俺は……
――
「…ってことがあったんだ。その時の参加者だったいつきさん…樹村信介さんと和田さんのターゲットだった最上葉月さんは元々付き合ってて、でも一年前に些細な喧嘩で分かれたんだって。でも今回の天草ルポでよりを戻して…この様子だと上手くいったみたいだ」
因みに見つかった財宝の中で最も大物だったのは「天正菱大判」。これのおかげで朋美ちゃんの治療費は無事確保でき、さらにあった諸々の小判も中々の価値があって大人組はほくほく顔だった。
「……なんだろうな、龍斗」
「ん、なに?」
「うん、たっくん。なんか去年は妙に血なまぐさいことに巻き込まれ過ぎじゃない?この後お祓いに行こう?」
「……まあ「緋勇」の男子が人間にやられるなんてことは無いだろうけど…気を付けろよ?」
「あ、はは。父さんの言う通り俺は大丈夫だからそんな泣きそうな顔をしないで?母さん」
そんなこんなで騒がしい緋勇家の居間の様子を、壁に飾ってある慶長小判が見守っていた。
後書き
はい、まさかの裸で事件解決というね。和田さんは殺人計画のために蔵元一族については良く知っている、ということが結果いい方向に行ったという感じですね。
金田一少年の事件簿は基本連続殺人ばっかりなので誰かが亡くなってから動くとかなり文字数が増えてしまいそうです…まあ今回は起きませんでしたが。
個人的なことですが、起きなくても良かった殺人事件は極力原作ブレイクしていきたいというのが作者の姿勢です。その為の「原作改変」「独自設定」のタグです……金田一で介入したい事件がこれでいくつか分かってしまいますね(笑)
今回のお話、タイトルの「名探偵と料理人」から外れていないことに今更ながら気づきました。
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