提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・30
前書き
今回の話はリクエストにない娘が出てきます。EX枠は読者の皆さんのリクエストから選びたかったので作者推薦枠、とでも思って頂ければm(_ _)m
~暁:フレンチトースト~
「もう、司令官のバカ!もう知らない!」
スイーツチケットが当たった!と大喜びで持ってきた暁が今、リクエストした菓子の前でプンスコ怒っている。リクエストされたメニューはフレンチトースト。俺としては会心の出来で、卵を吸ったバゲットはふんわりと焼き上がっており、とても美味そうだ。しかし、暁はそれが気に入らないらしい。
「おいおい、そんなに怒んなって」
「フンだ!」
俺が宥めても、暁は頬を膨らませたままそっぽを向いている。
「大体、何が気に入らないんだ?ホラ、美味そうだぞ~?」
「司令官、私が注文したのって『大人なレディが食べるフレンチトースト』よね?」
「あぁ、そうだな?」
「じゃあ、じゃあ…なんで……」プルプル
「周りにフルーツがたっぷり飾り付けてあるのっ!」バン!
「なんでたっぷりの生クリームとチョコソースと、トドメにバニラアイスまで乗ってるの!?」バンバン!
「なんでお皿の縁にチョコソースで可愛いクマさんの絵が描いてあるのよおおおぉぉぉぉぉぉっ!」バンバンバンバン!
あんまりテーブルをバンバン叩くんじゃない、傷むだろうが。
「あ~……悪い、何か…ノリでw」
ヘラヘラ笑って誤魔化してみた。
「どんなノリでやったらこんな事になるのよ~!!バカー!!!」
もっとプンスコされた。
「全くもう、暁はね……もっとこう、粉砂糖だけが掛かった感じの、金剛さんとか熊野さんみたいな大人なレディが食べそうな感じのフレンチトーストが食べたかったの!」
「ほうほう」
「それなのに、フルーツもクリームもチョコのイラストまで付いて……完っ全にお子様向けじゃない!」
「……そっか、じゃあ俺のと交換してやろう」
ちょうど今、俺のも焼き上がった所だ。こっちには粉砂糖だけをかけて、暁のフルーツ&クリームマシマシのフレンチトーストを取り上げ、焼き立ての俺の分と交換してやる。
「えっ?」
暁は今起きた事が理解できていないのか、目が点になっている。
「いや、暁が食いたいのはこういうシンプルな奴なんだろ?いやぁ済まんな、食いたく無い物出しちまって」
「ちょっ、あの」
「いや~、甘い物は嫌いじゃねぇが……ここまで子供っぽい物を食うのは久し振りで少し恥ずかしいなぁ……しかし、暁は食いたく無いって言うし、仕方ない仕方ない」
「てーとくさんてーとくさん」
「なんなら僕たちが食べるです?」
「おっそうか?いや~悪いなぁ妖精さん、残飯処理頼んでるみたいで」
「僕たちは美味しいお菓子が食べられれば、かわゆいデザインなど些末な問題ですゆえ」
「じゃあ妖精さんにお願いすっか。暁はどうしても食べたくないみたいだしなー」
「だっ……駄目えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
妖精さん達に差し出したフレンチトーストの皿を、暁が奪い取る。
「何すんだよ暁、お前の言う通りにしたのにまだ何か文句あんのか?」
「だから、そのぅ……て、提督がそんな可愛らしいのを食べたら威厳に関わるわ!だ、だから暁が……そう!我慢して食べてあげるのよ!」
ビシッ!と効果音が付きそうな感じで、指差しながらご高説を垂れる暁。だが、要するにこのフルーツもクリームもマシマシのフレンチトーストが食べたいと言う本音が駄々漏れで、威厳の欠片もない。それに、こんな弄り甲斐のあるシチュエーションを俺が逃す道理があろうか?いや、無い。
「いやいや、無理して食わなくていいぞ?暁。それに食うのは俺じゃねぇ……妖精さんだ」
「そーだそーだー」
「甘い物食わせろー」
「糖分じゃ~糖分じゃ~」
俺が暁をからかっているのを察したのか、妖精さん達も同調して来る……いや、目がマジで食いたいと物語ってるな。
「う、ううぅ……」
暁も食べたい欲求と自分が大人振ろうとしてやらかした恥ずかしさの板挟みで、顔を真っ赤にして涙目になっている。もう一押しってトコか?
「ほれ、何か言う事があるんじゃねぇのか?暁。ハッキリ言わないとこのフレンチトーストは妖精さん達にやるぞ?」
実際、乗せておいたバニラアイスが溶けて来ていて、フレンチトーストと絡んで絶妙な感じになっているのだ。……だが、これ以上放置するとフレンチトースト自体が冷めてしまって美味しさも半減。ならば美味い内に味わうのが礼儀ってモンだ。
「……べる」
「は?何だって?聞こえねぇよ」
「そのフレンチトーストは暁のなの!暁が食べるの!だからとっとと寄越しなさーい!」
うえええぇぇぇぇぇん!と泣き出した暁。やり過ぎたか?いや、素直に言えなくていつも空回りしてる暁にはいい薬だろ。
「……ったく、だったら最初っから素直に食えってんだ。ほらよ」
ヒック、グスッ……としゃくり上げながらも、ナイフとフォークでフレンチトーストを切り分けていく暁。アイスとクリームをたっぷりと絡めて口に放り込む。
「美味いか?」
黙ったまま、コクコクと頷く暁。
「だったら次からはもう少し、自分に素直になれや。な?」
『僕たちの分はまだです?』と妖精さん達に要求されたので、取り敢えず焼き上がっていた俺の分を妖精さん達に差し出し、追加を焼き始める。
「まったく……なんでそうお姉さんぶりたがるかねぇ?」
「だ……だってしょうがないじゃない!私雷と電よりも後で進水してるし、一番最初に沈んじゃったし」
「ちゃんとお姉ちゃん出来てるか心配だ、ってか?」
「う、うん……」
「ぷっ、小せぇ悩み」
「なっ、何よもう!?」
「いいか暁、兄弟ってのはどうやったって生まれる順番は選べねぇ。艦だろうが、人だろうがな」
「でも、兄弟の一番に生まれたからにゃ、弟や妹に人生の先輩として言葉じゃなく態度で見せてやるんだ。尊敬ってのは作るもんじゃなくて集めるモンだぜ?」
俺にも弟が2人、妹が1人いるからな。長男としての気持ちは解らなくもない。
「それに、暁は十分立派な姉ちゃんやってると思うぞ?」
「ほんとう?」
「あぁ。そうでなけりゃああいつらだって離れてくさ。本当に仲の悪い兄弟ってのは、自然と距離が離れるもんだ」
「だから、暁はそのままでいい」
ポフッ、と頭に右手を乗せ、優しく頭を撫でてやる。
「ちょ、ちょっと!頭をナデナデしないでよ!お子様じゃないんだからね!?」
「生意気言うな、食べたい物を食べたいとハッキリ言えないなんぞ、ガキと一緒だ!」
そう言って一層強くグリグリと頭を撫でてやる。
「やーめーてーよー!これ以上身長縮んだらどうすんのよ~!司令官のバカ!」
「……どっちもどっちだと思うです」
「それより俺たち腹ペコだー」
「甘い物はね~が~」
……妖精さん、忘れてた。
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