提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・29
~青葉:エッグタルト~
「……今回は普通にスイーツなんだな」
「あはは……流石に前回のアレで懲りましたよ」
青葉は前回、俺から青葉へのお仕置きの意味を込めて確実に青葉の手に渡るようにスイーツチケットを仕込んだ。青葉の性格ならば俺が作れないようなゲテモノメニューをリクエストしてくるに違いない、と踏んで。実際、その通りに愛知県にある喫茶『マウンテン』に存在するメニューをリクエストしてきた時には笑いが止まらなくなった程だ。
※詳しくは、『艦娘と提督とスイーツと・EX』を読もう!
「しかし……なんでまたエッグタルト?」
エッグタルトというお菓子の原型はパステル・デ・ナタ……18世紀にポルトガルの首都・リスボンにある修道院の修道女達が開発し、発売したと言われているお菓子だ。小さいパイ生地の中にたっぷりカスタードクリームの入ったタルトで、ポルトガルでは定番のお茶のお供らしい。
「いや~、この間テレビで香港の旅行番組やってまして。その中で紹介されてたんですよ、エッグタルト」
「成る程、それでか」
ポルトガルで生まれたお菓子であるパステル・デ・ナタが何故香港名物となっているのか。それは、香港がまだイギリス領だった1980年代まで遡る。当時、マカオでパン屋を営んでいたイギリス人のアンドリュー・W・ストウがパステル・デ・ナタをベースに英国風クリームタルトのエッセンスを取り入れてレシピを改良。マカオにある自分の店で『ポルトガル風エッグタルト』として販売を開始した。これが大人気を呼び、ポルトガル風エッグタルトは一躍マカオの人気スイーツとなった。その人気に目を付けたのがケンタッキー・フライドチキンの香港支社。ケンタッキー香港支社はアンドリューの店と業務提携を果たし、香港中のケンタッキーでサイドメニューとしてエッグタルトの販売を開始。これによって一気にその知名度は高まった。
「テレビで見てて凄く美味しそうだったので、つい……」
「ま、いいんじゃねぇか?チケットのリクエストとしては正しい使い方だろ」
前回が特殊すぎたんだ。
「そういや青葉、エッグタルトってマカオ風と香港風でレシピが違うんだぞ?知ってたか?」
勿論、今回はマカオ風と香港風、両方作って準備してある。
「ふぇ?そうなんですか、てっきり片方は焦げ目が付いてないので、生焼けなのかと……」
「アホか、俺がそんな手抜きする訳ねぇだろが」
マカオ風エッグタルトは、英国風クリームタルトを参考にタルト生地はパイ生地で、バターをたっぷり練り込んである濃厚な味が特徴だ。こんがりと焼き目を付けたカスタードクリームと相俟って、香ばしさと濃厚なクリームの味のハーモニーが素晴らしい。
対して香港風エッグタルトは、店によって微妙に味が違う。なので今回は元祖エッグタルトの店と言えるアンドリュー・W・ストウの店『ロード・ストウズ・ベーカリー』のレシピを参考に作ってみた。生地はパイ生地とクッキー生地の2種類で、それぞれ特徴がある。
パイ生地はバターではなくラードを練り込んであり、バターよりも口当たりが軽くサクサクとした歯触りの良さがウリだ。クッキー生地の方は軽く塩が効いていて、濃厚なカスタードクリームの味を引き立てる。サクサク生地か、カスタードとの相性の良い生地か……甲乙付け難い。そしてカスタードもマカオ風とは違い、焦がさないように低温で焼き上げている為にカスタードの黄色が鮮やかで美しい。味としては焦がすとどうしても生じてしまう僅かな苦味を発生させずに、卵の優しい味わいと濃厚な甘味を堪能できるように気を付けられている。
「で?青葉としてはマカオ風と香港風、どっちが好みだった?」
「ん~……難しい所ですが、香港風のパイ生地の奴が好きですね。サクサク生地とねっとりカスタードの組み合わせが良い感じです!」
まぁ、楽しんでもらえてるなら何よりだ。
「そういや青葉、ミルクティーも違うのに気付いたか?」
「そう言えば、秘書艦やった時にたまに飲むミルクティーとは違うような……?」
「折角なんでな。香港名物のエッグタルト食うんなら、香港式ミルクティーの方が雰囲気出ると思ってな」
「香港式ミルクティー……そんなのもあるんですか!」
香港式ミルクティーというのは、複数の茶葉をブレンドして濃く淹れた紅茶にエバミルク(無糖練乳)を加えて出されるお茶の事だ。複数の紅茶葉に加えてプーアル茶等も加えて濃い目に淹れた紅茶を、ストッキングと呼ばれる木綿の濾し袋で濾し、そこにエバミルクを加えて溶かす。砂糖は飲む人の好みで加えるのだが、通常の紅茶と違ってスピーディーかつ濃い目に淹れる為に香り高く、渋味が強く出る。そこで牛乳よりも濃いエバミルクで渋味をカバーする事によって香りの強さだけを残し、渋味を濃厚な味わいへと変える。
「へぇ~……勉強になりますねぇ」
「金剛の奴には『こんなの紅茶じゃないデース!』と怒られたがな」
と苦笑いしてみせる。因みに俺が飲んでるのは鴛鴦茶(えんようちゃ)と言い、香港式ミルクティーとコーヒーを合わせた独特過ぎる飲み物だ。淹れ方も複数あって味わいもそれぞれ違うので、興味のある奴はチャレンジしてみると良いだろう。ただし、美味いかどうかは保証せんぞ?
「いやぁ~満足です!ちょっぴり香港旅行した気分ですぅ……」
「ハハハ、そりゃ良かったな」
「青葉、この戦いが終わったら世界中旅して歩きたいなぁ~……なんて思ってるんですよ!」
「いい夢じゃねぇか」
「ありがとうございます!目的も決めないでノープランでブラブラするのもいいかなぁ……って思ってましたけど、世界中の美味しいお菓子や料理を、このカメラに収めながら回って、帰ってきたら旅行記を描くのも面白いかな~、なんて」
青葉のグルメ旅行記か。良いじゃねぇか。
「勿論、1ページ目は司令のお店ですからね!」
「おいおい、海軍辞めたら店やるなんて決めてねぇぞ俺ぁ」
「えぇ!そうなんですか!?」
「老後に関してはノープランだ」
「皆さんショック受けますよ?それ聞いたら……」
「知らねぇよ。まぁ、気が向いたらやるかもな」
「そうですね、ノープランって事は可能性は0じゃないんですよね!」
「ま、そういうこった」
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