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魔法科高校の劣等生 〜極炎の紅姫〜

作者:輝夜姫
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バカ騒ぎの始まり

「まるで縁日の露店ね」
誰にいうとでもなく、深紅はそう呟いた。
深紅は風紀委員の役割として巡回をしに来ていたのだが……三分ともたずに帰りたくなった。
−−−これ、十人やそこらの取り締まりじゃ足りないんじゃないかな。
校舎と校舎の間の通路まで埋め尽くすテントの群れに、思わずそんなことを考えてしまう。
もともと人混みの苦手な深紅は、ここに来てすでに何度目かのため息をついた。
その時、
「と、通してくださいっ」
「やめてください……」
女子生徒二人分の悲鳴が聞こえて来た。
声のする方を見ると、テントとテントの間に人垣が築かれている。
恐らく、各種のクラブが女子生徒の奪い合いをしているのだろう。
深紅はもう一度小さくため息をつき、微かに右手を挙げた。
その人差し指には、紅く煌めくやや幅広の指輪。
これが、彼女のCADだ。
ある出来事からトーラスシルバーの正体を知った深紅が、達也に頼み込み作ってもらっだのだった。
灼熱地獄(フラム・アンフェール)
そして、小さく呟いた。
それと同時に、彼女の固有魔法が発動する。
指定した一定の場所の温度を上昇させる魔法。
最高まで上げるととんでもない温度になるが、かなり低く調節する。
「きゃっ!」
「熱い?!」
人垣からいくつかの悲鳴が上がる。
熱いと言っても火傷もしないぐらいの温度だが、人垣を崩すには充分だったらしい。
その隙をついて、深紅は素早く人垣の中に身を躍らせた。
「風紀委員です。無理な勧誘は禁止されています。これ以上続けるようでしたら、風紀委員会本部への出頭をお願いしますよ」
魔法を解き、静かな口調でそう告げる。
人垣を作っていた上級生たちは、突然現れた深紅に驚きおし黙る。
しかしその沈黙も、ほんの一瞬だけだった。
「風紀委員……ニ科生じゃないか」
「ウィードが風紀委員?」
純粋な驚きの言葉。
バカにするような言葉。
これらがざわざわと聞こえてくる。
「もう一度言わせていただきますね。
風紀委員です。無理な勧誘は禁止されていますので、これ以上続けるようでしたら本部に出頭をお願いしますよ」
怯むこともなく、同じ言葉を再び告げた深紅に、上級生たちは文句を言いながらも立ち去っていった。
「あの、助けてくれてありがとうございました」
後ろから、女子生徒の声が聞こえ振り返る。
「あれ、ほのかに雫?」
そこにいたのは、つい先日知り合ったばかりの友達だった。
「えっ……深紅さん?」
ほのかも雫も、深紅と同じように驚きの表情を浮かべる。
「風紀委員なの……?」
こう訊いてきたのは雫の方。
「うん。風紀委員をやらされてるって感じだけどね」
若干投げやりな口調の深紅に、二人は小さく笑った。
「とにかく、助かった。……本当にありがとう」
「いいのいいの。これが仕事だから。
気をつけてね。二人とも可愛いし一科生なんだから……真っ先に勧誘されるわよ」
可愛い、と言い切った深紅に、ほのかが微かに頰を染める。
「わかった。気をつける」
一方の雫は神妙な顔−−彼女はこの表情をほとんど動かさないが−−で頷いた。
「うん。じゃあわたしは行くね」
そう言って深紅が手を振ると、頑張ってと声がかけられたのだった。
♦︎♢♦︎♢
−−−もういい加減にしてよ……!
深紅はついに心の中でそう叫んだ。
−−−たかが高校生の部活勧誘でしょ。どうしてこんなに揉め事が多いのよー!
そう。彼女が行く先々で、いちいち面倒な揉め事が起こるのだ。
巡回を初めて三、四十分ほどしか経っていないのだが、深紅は心身ともに疲れ切っていた。
−−−わざわざ、こんな勧誘テントの中心を回る方がいけないのよね。よし、この場を離れよう。
思い立ったが吉日。深紅は即座にその場を離れるのだった。
−−−やっと静かになった……。
校庭から遠く離れたところに来て、深紅はほっと一息ついた。
別に巡回をサボっているわけじゃないよね、と誰に言うでもなく言い訳を考える。
「……彼の力は我々に必要だ」
「必要……私たちに」
すると突然、男女のそんな会話が深紅の耳に飛び込んで来た。
素早く木の陰に隠れて、声のした方を伺う。
そこに立っていたのは、メガネをかけた男と、ポニーテールの美少女だった。
二人とも剣道の袴を着ている。
「そうだ。彼をしっかり勧誘しろ」
「わかりました……司主将」
それだけ言うと、二人はその場を去っていった。
−−−どう見ても恋人同士じゃないわね。
勧誘、は部活のことかしら。“彼”って一体……?
深紅はモヤモヤとした思いを抱えたまま、しばらく木にもたれかかっていたのだった。
♦︎♢♦︎♢
昇降口で、達也は見知った顔が並んでいるのを見つけた。
「お兄様」
「達也っ」
真っ先に声をかけたのは深雪で、真っ先に駆け寄ったのは深紅だ。
「お疲れ様、達也。聞いたわよ、大活躍だったってね」
「大したことはしていないさ。深紅もお疲れ」
ほとんど無意識に、達也の右手が深紅の頭に降りた。
長い髪を梳くように撫でると、深紅は一瞬顔を赤くしながらも、気持ちよさそうに目を細める。
その表情を見た達也の顔も、知らず知らずに緩んでいる。
「な、なぁ。こいつら付き合ってるわけじゃないんだよ、な?」
その甘ったるい雰囲気に耐えられず、レオが小声で深雪たちに尋ねる。
「いつ付き合ってもおかしくないんですが、お二人とも奥手なので……」
その美しい顔に苦笑を浮かべる深雪。
「見ていてもどかしいわよね」
半目にした両目を二人に向けるエリカ。
「……なんか、すごく絵になってますね」
顔を赤らめながらも、食い入るように二人を見つめる美月。
「なんか……微妙だな」
レオも、言葉通り微妙な顔をしている。
そんな四人の思いも知らず、達也は深紅の髪から手を離した。
「悪いなみんな。待っていてくれたのか」
申し訳なさそうに言う達也に、漂っていた微妙な雰囲気が払拭される。
「水くさいぜ達也。ここは謝るところじゃねえよ」
レオがカラッとしたような笑顔で言うと、達也もつられるように笑みを浮かべた。
「何処かで軽く食べていかないか?一人千円までなら奢るぞ」
達也のこの提案に、異を唱えるものはいなかった。
♦︎♢♦︎♢
五人はカフェで今日一日のことを色々話していたのだが、やはり一番みんなの興味を引いたのは、達也の捕り物劇だった。
深紅が細々と揉め事を解決している間に、達也は一つ大きな揉め事を解決していたらしい。
「その桐原って先輩、殺傷ランクBの魔法使ったんだろ?よく怪我しなかったな」
「高周波ブレードは有効範囲の狭い魔法だからな。よく切れる刀と大した違いはない」
「魔法の無効化は達也の十八番だしね」
カップに入ったミルクティーを一口飲んでから、深紅がさらりとそう言った。
「キャストジャミング使ったんでしょ、達也」
さらに加えられた深紅の言葉に、達也が苦笑を浮かべる。
「深紅には敵わないな」
「そうでもないけどね。これぐらいならわかるよ」
そうでもない、と言いながらも深紅は嬉しそうな笑みを浮かべる。
それを見た達也はまたしても無意識に頬を緩めながら、深紅の頭を撫でる。
再び発生した桃色のオーラに、エリカとレオの二人がややげんなりした表情を浮かべる。
付き合ってもいないはずなのに、この甘ーい雰囲気はなんなのだろう、と。
「キャストジャミングって特殊な石が必要なんじゃなかったっけ?アンティ……なんとか」
甘い雰囲気を吹き飛ばすように口を挟んだのは、当然と言うべきか、エリカだ。
達也も深紅の頭から手を離す。
「アンティナイトよ、エリカちゃん。
確かものすごく高価なものだったと思うんですけど……達也さん持っているんですか?」
驚いたような表情で問いかけてくる美月に、達也は首を横に振った。
「いや。アンティナイトは軍事物資だからね。一般人が手に入れられるものじゃないよ」
その答えを聞いてエリカ、レオ、美月の顔にじゃあ何故?という表情が浮かんだ。
「あー、この話はオフレコで頼みたいんだけど……」
テーブルに身を乗り出して声を潜めた達也に、他のみんなもつられるように神妙な表情で頷く。
「俺が使ったのは、特定魔法のジャミングなんだ……」
達也がそう始め、特定魔法のジャミングの説明を終えると、深紅と深雪以外の三人の顔は驚愕に染まっていた。
「……おおよその理屈はわかったぜ。でもよ、どうしてそれがオフレコなんだ。特許とったら儲かりそうな技術じゃねえか」
なんとか思考力を回復させたレオが、首を傾げる。
それに答える達也は、苦味の強い笑みを浮かべていた。
「一つは、この魔法が未完成であると言うこと。二つ目は、アンティナイトを使わずに魔法を妨害出来ると言う仕組みそのものだ」
「……それのどこに問題があるんだ」
腑に落ちないと言う表情のレオに、エリカが口を挟んだ。
「バカね。大ありじゃない。高い魔法力や高価なアンティナイトを必要とせずに魔法を妨害する力なんて、 下手したら、社会の基盤を揺るぎかねない」
その口調は、割と本気で叱っているように感じる。
「エリカの言う通りだと思うよ」
同意するように頷いた達也に、レオが感嘆のため息を漏らした。
「そこまで考えてるなんてな……。俺なら目先の名声に飛びつきそうだぜ」
「……お兄様は少し考えすぎだと思います。そもそも展開中の起動式を読み取ることも、CADの干渉波を投射することも、誰にでもできることではありませんし。……まぁ、それでこそお兄様と言うべきでしょうか」
「それはただ単に、俺が優柔不断なヘタレだと言いたいのか?」
妹の的確な指摘に、達也は心底情けなさそうな表情を作った。
「さぁ、エリカはどう思うかしら?」
素っ気なさを演じて、深雪がエリカに球を投げる。
「さぁねぇ。深紅はどうかしら?」
次に球を受け取ったのは、深紅。
「わたしに聞かれてもな〜。美月は、どう思うの?」
若干わざとらしい口調で、深紅が最後に美月に球を投げた。
「ええっ?私はその……えっと……」
「誰もフォローはしてくれないんだな」
達也が恨めしそうな目を向けると、深雪は朗らかな笑みを浮かべ、エリカはメニューで顔を隠し、深紅は完璧なアルカイックスマイルを保ち、美月はオロオロと視線を彷徨わせた。
が、助けはどこからも現れなかった。


 
 

 
後書き
深紅が使った魔法については何も言わないでくれると嬉しいです(-。-; 
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