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魔法科高校の劣等生 〜極炎の紅姫〜

作者:輝夜姫
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風紀委員会

模擬戦後、摩利に連れられて風紀委員室にやってきた深紅と達也の二人だったが、中に入るなり硬直した。
「ようこそ風紀委員室へ。少し散らかってるが……まぁ適当に掛けてくれ」
少しか?!と思わず突っ込みたくなるほど、風紀委員室は散らかっていた。
「渡辺風紀委員長。ここを片付けてもいいでしょうか」
先に硬直が解けたのは、達也。
「魔工師志望としては、CADがこうも乱雑に扱われているのは見るに耐えないんですよ」
「……わたしは魔工師志望じゃないですけど、綺麗に整頓された部屋の方が好きなので」
「それは構わないが……司波はあれだけの対人スキルがありながら、魔工師志望なのか?」
「はい。自分の技量では精々C級までのライセンスしか取れませんからね」
摩利の質問にそう答えながら、黙々と手を動かす達也。その横で、深紅も片付けを進める。
「そうか。
あぁ、私も手伝おう。話は手を動かしながら聞いてくれ」
そう言って、摩利も片付けを始める。
しかし、深紅たちの方がどんどん片付いて行くのに対して、摩利の方は一向に長机が見えてこない。
「すまん。こう言うのは苦手でな……」
そう、摩利は溜息をついた。
「二人をスカウトした理由だが、二つある。
一つは、君達は展開中の起動式を読み取ることができると言ったな?これで、今まで未遂に終わっていた問題事も、きちんと証明ができるはずだ。
もう一つは……二科生に対するイメージ対策だ」
「イメージ対策?」
あまり予想していなかった摩利の言葉に、思わず深紅が手を止めた。
「あぁ。君達も知っての通り、二科生には自分を諦めているような傾向がある。二科生である君達が風紀委員になれたとなると、いいイメージ対策になると思うんだ」
「一科生からはその倍の反感がありそうですが」
「昨日も一科の生徒に喧嘩を売られましたしね」
達也が少し顔を歪め、深紅は苦笑いを浮かべる。
「昨日というと、森崎のことか?……彼は教師推薦枠で風紀委員に入ることが決定している」
「えっ?!」
達也が持っていたCADを落としかけ、深紅は整理していた紙の本−−今時滅多に見ない魔法書だ−−を持ったまま硬直した。
「君たちでも、慌てることがあるんだな」
それを見た摩利が、愉快そうな声をあげる。
「昨日の騒ぎのことで推薦を取り消すこともできるが、君たちも無関係ではないだろう?」
「当事者ですよ」
再び声を揃えた二人に、摩利はますます面白そうに笑う。
「自称当事者の二人を推薦するのに、彼だけ外すわけにはいかないだろ?」
「……いっそ、両方の推薦を取り消すことはできませんか?」
「よっぽど風紀委員に入るのが嫌なようだな」
「正直、面倒事には関わりたくないですね」
「わたしもです。でも、既に引き下がれないこともわかっていますよ」
二人の溜息交じりの言葉に、摩利は一層人の悪い笑みを浮かべたのだった。
♦︎♢♦︎♢
「ハヨーッス」
「おはようございますッ!」
片付けも一段落しそろそろ引き上げようかという話になった時に、やけに威勢のいい声が風紀委員室に響いた。
「おっ、姐さんいらしてたんですかい?」
「本日の巡回、問題ありませんッ!」
摩利のことを姐さんと呼んだのはゴツい男。もう一人の男は見た目は普通なのだが、とにかく威勢がいい。
「この部屋……姐さんが片付けたんですかい?」
ゴツい男の方が、綺麗に整頓された部屋を見て驚いたようにそう言った瞬間、スパァンと小気味の良い音とともに、その男がうずくまった。
摩利の手には、いつの間にか固く丸められたノートが握られている。
「まったくいつもいつも……姐さんと呼ぶなと言っているだろうが!
鋼太郎、お前の耳と頭は飾り物か!!」
「イッテェ。そうぽんぽん叩かないでくだせぇよ、あ……いえ、委員長」
再び姐さんと言いそうになり、摩利に鋭く睨みつけられた鋼太郎は慌てて呼び名を訂正する。
「ところでそいつらは、新入りですかい?」
「こいつらはウチと生徒会の推薦枠で入ることになった司波達也と、不知火深紅だ」
「へぇ、文無しですかい」
「辰巳先輩、その言葉は禁止用語に抵触する恐れがあります!この場合は、ニ科生と呼ぶべきかと!」
「二人とも、そんな両県だと足元をすくわれるぞ?
ここだけの話だが、たった今服部が司波にすくわれたばかりだ」
摩利が面白そうな笑みとともに吐き出した言葉に、男二人の表情に真剣味が増した。
「それは、服部に勝ったということですかい?」
「あぁ。正式な試合でな」
恐る恐るというように訊ねて来た鋼太郎に、摩利が大きく頷く。
「なんと!入学以来負け知らずの服部が、新入生に敗れたと?!」
「声が大きいぞ沢木。ここだけの話と言っただろう。
それと、不知火は術式解体が使えるらしい」
「術式解体!?」
再び衝撃的なことをさらりと言い放った摩利に、さらに目を丸くする二人。
深紅と達也は驚いたような視線を二人から向けられ、どう反応すれば良いかに困る。
そして、
「それは心強え」
「逸材ですね、委員長」
二人は思わず拍子抜けするほどあっさりと、深紅たちを見る目を変えた。
「意外だろ?」
呆然としている深紅たちに、摩利からいきなり話しかけられ、咄嗟に何を言われたのかわからなかった。
「ここでは一科二科にかかわらず、きちんと実力で評価される。
風紀委員会は君たちにとって居心地の悪い場所でもないと思うよ」
摩利の言葉に、確かに意外感を覚えた深紅たちだが、摩利が上に立つ組織だったらこれは普通だろうと納得する。
「三ーCの辰巳 鋼太郎だ。
よろしくな司波、不知火。腕の立つ奴は大歓迎だ」
「二ーDの沢木 碧だ。
君たちを歓迎するよ、司波くん不知火くん」
そういうと沢木は達也の手を握った。達也も当然握り返す。しかし何故か、その後手が離れない。というより、離せない。
「それと、くれぐれも下の名前で呼ばないでくれ給えよ」
手を締め付けながら言うほどだから、よっぽど下の名前で呼ばれたくない理由があるのだろう。
そもそも達也には先輩を下の名前で呼ぶ習慣などない。
了解しました、と言ってから軽く手を捻り握られた手を解く。
それを見て驚いたような顔をしたのは、沢木本人ではなく鋼太郎の方だった。
「ほう。大したもんじゃねぇか。沢木の握力は百キロ近くあるってのに」
「魔法師の体力じゃありませんね……」
これに呆れたような声を出したのは、達也ではなく深紅の方だ。
「ははっ。違いねぇ」
深紅と達也は笑い声をあげる鋼太郎や、その隣で鋼太郎と同じく笑みを浮かべている沢木を見て、この人たちとはうまくやっていけそうだと思った。
♦︎♢♦︎♢
「なぜお前たちがここにいる?!」
再会の第一声はそれだった。
「森崎くん。いきなりそれは流石に非常識じゃないかな?この間言ったはずよ?精神面で成長しなさい、と」
「黙れ!!」
完全にバカにした口調の深紅に、さらにヒートアップしかけた−−というかもうほとんどしていた−−森崎が声を荒げた。
「喧しいぞ、新入り」
しかし摩利に人睨みされ、すくみあがる。
「ここは風紀委員会の本部だ。つまり、ここには風紀委員しかいない。その程度のことは弁えたまえ。
「も、申し訳ありません!」
森崎は可哀想なくらい真っ青になり席に着いた。
深紅も達也も、それに何か言うほど面倒な性格はしていない。この場はそれで収まった。
ちなみに、深紅と達也は隣り合って座り、その正面には森崎が座っている。
一年生である彼らが一番下っ端なのだから、当然の配置だろう。
その後何人か上級生が入ってきて、部屋の人数がちょうど十人になったところで摩利が立ち上がった。
「さて、そのままで聞いてくれ。またあの馬鹿騒ぎの時期が来た。昨年はその騒ぎを更に大きくさせるような輩もいたが、今年はそんなことがないように」
摩利のこの言葉に、ほんの数名が首をすくめた。身に覚えがあるのだろう。
「しかし今年は幸いなことに、新入りの補充が間に合った。紹介しよう……立て」
そう言われて、深紅と達也、森崎が立ち上がった。
「一年A組森崎 駿と一年E組司波達也、不知火深紅だ。今日から早速パトロールに加わってもらう」
「役に立つんですか」
一人の上級生から上がったこの声は、表向き三人に向けられたものだったが、目線は深紅と達也の方に向いていた。
「安心しろ。三人とも使えるやつだ。司波の腕前はこの目で見てるし、森崎のデバイス操作もなかなかのものだった。不知火はとっておきの技も使える」
とっておきの技、というのはもちろん術式解体のことだろう。
「それでも心配なら、お前が森崎についてやれ」
「……やめておきます」
「よろしい。では早速巡回を始めてくれ。レコーダーを忘れるなよ。
司波、不知火、森崎についてはあたしが説明する。
他のものは、出動!」
全員が一斉に立ち上がり、握り込んだ右手で左胸を叩いた。
どうやらこれは風紀委員の敬礼らしい。
その後三人は、摩利から腕章と薄型のビデオレコーダーを受け取り、風紀委員会の通信コードを携帯端末に受信した。
「報告の際は必ずこのコードを使用しろ。こちらからの連絡もこのコードを通して行う。
さて、CADについてだ。風紀委員はCADの学内携行が許可されている。しかし不正が発覚した場合は通常よりも厳重な罰則が課せられるから、甘く見ないことだ」
「質問があります」
「許可する」
「CADは委員会のを使用してもいいでしょうか」
達也のこの質問は、摩利にとって予想外のものだったらしく、答えが返ってくるまでに短い間があった。
「……それは構わないが、あれは旧式だぞ?」
「旧式ですがエキスパート仕様の高級品ですよ、あれは」
「そうだったのか……。まぁいい。どうせ今まで埃をかぶっていた代物だ。好きに使ってくれ」
「では、この二機をお借りします」
「二機?本当に面白いやつだな、君は」
ククッと笑う摩利、そして二機のCADを腕に巻く達也を見て、森崎は顔をしかめるのだった。
「おい」
部活連に行くという摩利と別れた後、深紅と達也は森崎に呼び止められた。
無視したいのを我慢して、振り返る。
「なんだ」
「なに?」
「なんのつもりだ、貴様。CADの二機同時操作なんて、二科生であるお前ごときにできるわけないだろう」
「アドバイスのつもりか?余裕だな森崎」
「……っ!はったりを利かせて風紀委員会に取り入ったんだろうが今回は失敗したな。
この前は油断したが、次は絶対に一科生と二科生の格の違いを見せつけてやる!」
森崎のこの言葉に、深紅はバカにするように鼻を鳴らした。
「なにがおかしい!!」
「あなたのガキっぽさが、よ」
「なにぃ!!」
顔を真っ赤にし、今にも掴みかかって来そうな森崎を冷笑し、深紅は言い放った。
「次がある、と思えるなんて幸せね。
戦場に次はないよ?油断、失敗イコール死。これを覚えておきなさい」
いつもは大体穏やかな深紅の口調が、冷たく、鋭くなっている。
その後達也に、行こうと促してその場を去った。
青いを通り越し、蒼白になった森崎を置いて。
「あースッキリしたっ」
「随分容赦のない言葉だったな」
晴れ晴れとした表情を浮かべる深紅に、達也が若干の呆れを含ませながら笑う。
「いちいち面倒なんだもん、あいつ」
「まぁ確かにな……。それより、一緒に回るか?」
「んーそうしたいけど、それじゃ巡回の意味ないよね。バラバラに色々なところを回らなきゃ。って事で、別れて行動しましょ」
「そうだな。じゃあまた後で」
「うん、また後でね」
♦︎♢♦︎♢
今日から、各クラブの新入部員勧誘週間が始まる。優秀な新入部員を手に入れようと、クラブ同士で熾烈を極めるためにお祭り騒ぎとなる一週間だ。
また、デモンストレーションのためにCADの携行が許される。その所為で、争いごとが魔法の打ち合いに発展してしまうこともあるのだ。
そのために、この一週間は風紀委員総出で取り締まることになっているのだ……。
 
 

 
後書き
森崎くんとの会話は思ったより書くのが楽しかったです(笑) 
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